本レポートでは、建設会社の事業に影響を与えうるサステナビリティに関するイニシアティブや規制等について、四半期ごとに整理してお届けします。
2026年第3四半期は、中東情勢の悪化を踏まえサステナビリティ対策を経済安全保障の側面から強化する制度作りが進みました。また、今秋に開催される気候変動・ネイチャーポジティブに関連するCOP31/COP17に向けた対応や論点整理が進んでいます。
本レポートでは、グローバル、金融関連、環境関連(気候・自然・循環等)、建設分野の動向について、その他の動向を含めお伝えします。
グローバルな動向
(1)COP31/COP17に向けた動き
第3四半期は例年、秋の気候変動のCOP(国連の条約締約国会議)開催に向けて官民の様々な議論やイベントが開催されます。今年は、隔年で開催される生物多様性のCOP関連の会合も開催されました。
◯ 表1:COPの主要議題と建設会社との関係
| 項目 | COP31(期間:11/9〜20日) | COP17(期間:10/19〜30日) |
|---|---|---|
| 正式名称 | 第31回 国連気候変動枠組条約締約国会議 | 第17回 国連生物多様性条約締約国会議 |
| 目標 | パリ協定(国連気候変動枠組条約に基づく協定) | 昆明・モントリオール生物多様性枠組(2030年目標):GBF |
| 領域 | 気候変動・脱炭素 (ネットゼロ) |
自然資本・生物多様性 (ネイチャーポジティブ) |
| 主要議題 | 2035/40年国家目標(NDC)の進捗と引き上げ等 | GBFのグローバルレビュー(国家目標の評価) |
| 建設会社との関係 | ・SSBJ・TCFD開示の実施 ・省エネ調達・ZEB推進等 |
・TNFD開示の実施 ・認証材調達推進 |
注)リオ3条約のうち、砂漠化対処条約のCOPは省略
政府間の協議は上記に示した主要課題の最終調整が中心ですが、民間の会合はサステナビリティの機運醸成や情報交換が中心となっています。以下は、主な会合の内容です。
気候変動
まず、気候変動に関しては、個別会合や9月の国連総会の場などで政府間の最終調整が図られました。一方、民間は国連総会に合わせて民間最大の気候変動対応のイベントであるニューヨーク・クライメート・ウィークを開催し、多くのイベントが開催され、様々な主張が展開されることになりました。主なテーマは、COPの主要議題に加え、AIと気候変動の関係、エネルギー対策などとなっていました。
生物多様性
生物多様性に関しては、7月に熊本でグローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026が開催されました。会合は自然関連のイニシアティブ等が主催したものですが、日本政府や経済団体の協賛や後援を受け、COP17に向け日本発で機運を盛り上げています。
(2)TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)開示の進展
TNFDはニューヨーク・クライメートウィークにおいて、2026年のステータスレポート(日本語訳あり)を発表しました。内容は、TNFDを活用した開示が急増していることや、調査した7割の企業が自然関連の開示が義務化されることを望んでいるというものでした。
日本企業・組織によるTNFD対応も進んでいます。TNFDの公表情報では、自然関連開示に取り組む企業・金融機関が世界的に拡大していることが示されており、日本でも大手企業を中心にTNFD提言に沿った開示の動きが広がっています。
なお、環境省は8月に生物多様性ビジネス推進室を新設し、TNFD開示を含む企業の取組みを後押しする姿勢を明らかにしていますので、大手だけでなく、中堅企業においても自然関連の取組みが進むこととなるでしょう。
(3)GHGプロトコルとISO14064-1の統合発表
GHGプロトコル(温室効果ガスプロトコル)は、ISO(国際標準化機構)は、温室効果ガス排出量の算定・報告基準を調和させるための取組を進めています。GHG Protocolは、Scope 1、Scope 2、Scope 3、Actions and Market Instruments(AMI)と、ISO 14064-1を統合した共同企業基準の開発を進めており、2027年第2四半期に統合基準案の公開協議、2028年第4四半期に共同企業基準の公表を予定しています。
建設会社としては、現時点で実務上の影響を見定めることは難しいものの、これまで算定・検証に用いてきた活動量データ、排出係数、算定根拠、第三者検証資料などの証跡を整理し、将来の基準変更に備えることが重要になります。
金融関連の動向
(1)金融庁が「風水害リスクに関する金融機関の取組の動向や課題」公表
近年の豪雨災害でも明らかなように、風水害は大規模な自然災害を引き起こすことになり、金融機関の気候変動対応においても重大なリスクとして認識されています。金融庁はこうした背景から、金融機関の取組みを調査し、その結果を公表しています。その内容は、すでに気候変動対策としてリスク分析などが進んでいるが、更なる詳細な分析が求められている点と、顧客の風水害リスクへの対策を支援する取組みの強化が求められているとの課題が示されています。
建設会社への示唆
建設会社にとっては、金融機関と連携する一つのトピックとなる可能性があります。金融機関には、顧客に対して風水害リスクの対応策を提案するニーズがありますので、建設会社が保有する土地利用や住宅・建築物関連の知見は有益なものになるでしょう。
環境関連(GX・気候・自然・循環等)
(1)パワーGXによるGX戦略の強化
政府は、GX実行会議における議論を踏まえ、8月に「エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(パワーGX/POWERR GX)」を取りまとめました。背景にあるのは、中東情勢の緊迫化に伴うエネルギー供給リスクの高まりと、AI普及に伴う電力需要の増加です。
パワーGXは、GXを単なる脱炭素政策としてではなく、エネルギー安全保障、産業競争力、危機管理投資、成長投資を含む政策パッケージとして位置づけるものです。柱となるのは、①化石燃料の調達先多角化・リスク低減による調達安定性の抜本向上、②投資拡大を通じたエネルギー転換・供給力増強・効率向上によるGXの加速・強化です。
具体的には、原油・ナフサの調達先多角化、石油関連製品の供給体制強化、安全性を大前提とした原子力の活用、再エネの国内産業基盤構築、水素・アンモニア・バイオ燃料・SAFなどの化石代替燃料の供給拡大、AI時代の電力需要増に対応する電力供給力の確保などが論点となっています。
なお、第3四半期後の動きとして、2026年10月5日の第222回国会における所信表明演説でも、GXは「化石燃料の調達先多角化とリスク低減によるエネルギー安全保障の強化」と、「エネルギー転換・供給力増強・効率向上に向けた投資拡大」の2つの柱で加速する方針として説明されました。さらに、エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(POWERR GX)として、年内に制度・予算を一体的に盛り込んだ新たな戦略を取りまとめる方針も示されています。
建設会社への示唆
パワーGXは、建設会社にとっても無関係な政策ではありません。データセンター、半導体工場、次世代エネルギー関連施設、送電網、再エネ設備、公共施設へのペロブスカイト太陽電池導入、建築物の省エネ改修など、今後の建設需要や投資テーマと接続する可能性があります。
また、グリーン鉄、グリーンセメント、化石代替燃料、再生材、GXケミカルなど、建材・燃料・資材調達の領域でもGX製品の活用が広がる可能性があります。建設会社にとっては、脱炭素を「排出量削減」だけで捉えるのではなく、調達・施工・エネルギー利用・事業機会を含めたGX対応として整理することが重要になります。
(2)排出量削減から製品の需要創造へ
経済産業省のGX需要創出に向けた研究会が中間取りまとめを発表しました。内容は、GX投資によって供給が拡大するGX製品・サービスについて、需要側の調達・活用をどのように促すかを整理したものです。
内容は、これまでGXリーグに参加していた企業が需要者として率先的にGX製品の利用を進める宣言を行い、政府がこうした企業の取組みを制度面で後押しするものです。
GX製品・サービスの需要創出や、GX率先実行宣言の見直しについては、以下の記事で詳しく解説しています。こちらもご参照ください。
■関連記事:GXは新たなフェーズへ|建設会社が担うGX需要創出 排出量削減から、GX製品の調達・活用が市場形成のカギに
なお、環境省も同様の目的で脱炭素製品等の需要喚起に向けた検討会を継続的に実施しています。対象は脱炭素製品等と対象範囲が広く、取組みとしては排出削減価値を評価する新しい仕組みや表示制度を整備しようというものです。昨年度から検討を重ね、本年度はその制度設計・運用体制を整備し、来年度優先度の高い分野で実証を進めていく方向です。
いずれの取組みも、企業の排出量の削減という供給者の対応から、削減貢献効果のある製品の市場拡大に軸足が移ったことを示すものとなっています。
建設会社への示唆
この政策動向も、建設業界の需要者サイドとして脱炭素化の取組みを後押しするものです。上記のGX対応と合わせて取り組みを加速することが求められます。
(3)プラスチック資源循環戦略に係るタスクフォース設置
経済産業省及び環境省は、これまでのプラスチック資源循環戦略の進捗状況を踏まえ、プラスチックの更なる循環性を高めるために、「設計」「排出・回収・処理」「需要・価値創出」の3つのタスクフォースを設置することを審議会で確認し、9月から始動しています。
再生材・バイオプラとして利用拡大ができる設計やリサイクルのサプライチェーンの検討や再生材等の価値創造(見える化を含む)がテーマとなっており、来年3月までに成果を取りまとめる予定にしています。
建設会社への示唆
建設会社では、養生材、梱包材、配管・設備材、内装材、断熱材など、多様なプラスチック製品が使用されています。今後、プラスチック資源循環政策が強化されれば、現場での廃プラスチック分別、再生材・バイオプラスチックを含む建材の利用、調達時の環境価値の見える化がより重要になるでしょう。
建設分野の動向
(1)国土交通省が「モビリティ・エネリンク構想」を発表
国土交通省は、日本成長戦略にモビリティ・インフラを活用したGX推進が明記されたことを受け、「陸海空や地域・まちの移動体とインフラを活用したエネルギーの自律性向上」を目指した「モビリティ・エネリンク構想」を打ち立てました。
コンセプトは、モビリティとインフラを活用してエネルギー安全保障に貢献するというもので、具体的な内容は新たに設置される「エネルギー・経済安全保障小委員会」で検討することになっています。合同会議には、経済産業省や環境省のほか、経団連や日本商工会議所がオブザーバー参加し、今年11月に同構想の基本方針と具体的な施策内容、ロードマップ等を策定し、予算獲得を目指しています。
具体的な内容はこれからですが、「多様なインフラ空間を活かしてエネルギーをつくる」「再エネ・新エネの需要地と供給地をつなぐ」「交通で再エネ・新エネをつかう、住宅・建築物でエネルギーを効率的につかう」の〝3C〟=Create、 Connect、Consume(つくる、つなぐ、つかう)を具体化することになっています。
建設会社への示唆
3Cの具体的な施策として、公共施設でのペロブスカイト太陽電池の利用、住宅・建築物分野の脱炭素化投資、建設施工分野の脱炭素化推進が示されており、建設会社の事業を後押しする具体的な施策が打ち出される可能性があります。
まとめ
2026年第3四半期は、サステナビリティ政策が「環境対応」だけでなく、エネルギー安全保障、産業競争力、危機管理投資、成長投資と結びつきながら再整理された時期でした。特にパワーGXは、GXを脱炭素政策にとどめず、エネルギー需給構造を強靱化し、国内投資と海外展開を促す政策として位置づける動きといえます。
建設会社にとっても、これはエネルギー・インフラ・建築物・建材・燃料調達に関わるテーマです。データセンターや半導体工場、再エネ・送電網、公共施設、建築物の省エネ改修、GX製品の調達など、今後の建設需要や調達戦略に影響する可能性があります。
今後は、脱炭素、資源循環、自然共生を個別の環境対応として捉えるだけでなく、事業機会やサプライチェーン強靱化の観点から整理することが重要になるでしょう。
以上が本四半期の主な動向です。過去の四半期レポートもご覧ください。
【2026第1四半期】建設分野サステナビリティ政策動向レポート
【2026第2四半期】建設分野サステナビリティ政策動向レポート

この記事の監修
高島 浩
サステナビリティ・エキスパート。農林中金グループで、サステナビリティの調査・コンサルに従事。元TNFDタスクフォース・オルタネイト・メンバー。現在は、個人でサステナビリティ関連新規事業の支援等を行う









