本サステナビリティ・インテリジェンス・レポートでは、建設会社の事業に影響を与えうるサステナビリティに関するイニシアティブや規制等について、四半期ごとに整理し、建設業界向けに報告します。
2026年の第一四半期は、SSBJ基準の導入時期確定、気候変動適応戦略、脱炭素に向けた政策の方向性と建設分野の中長期ビジョン中間とりまとめ等が公表されました。本レポートでは、グローバル、金融関連、環境関連(気候・自然・循環等)、建設分野の動向について、その他の動向を含めお伝えします。
目次
グローバルな動向

(1)環境関連のリスクは今後10年の最大の懸念材料
毎年恒例となった1月の世界経済フォーラム年次総会に向け「グローバルリスク報告書」が発表されました。前年同様に「異常気象」「生物多様性の喪失」「地球システムの危機的変化」といった環境関連のリスクが今後10年間における最大の懸念材料となっていると指摘されています。なお、短期的には、「地経学上の対立」「誤報と偽情報」が最大の懸念材料となっていますが、引き続き、世界のリーダーが環境関連のリスクを警戒していることが確認されました。
なお、建設会社を含む企業において本報告書を活用する場面は、経営リスク把握やサステナビリティ戦略検討の際に参考情報として利用する等が想定されます。
(2)世界の10,000社がSBT認証を設定
科学に基づく目標設定イニシアティブ(SBTi)は、1月に世界中で科学に基づく検証済み目標の設定している企業が10,000社に達したと発表しました。SBTiはこの達成について、企業における気候変動対策の勢いは引き続き高いことの証であると説明しています。なお、引き続き、欧州企業が大きなシェアを占めているが、日本を含むアジアにおける拡大は加速していることや、米国でも増加傾向であることが示されています。
なお、SBT認証取得はステークホルダーへのアピール材料となるため、大手建設会社を中心に進んでいますし、本発表の通り認証は増加すると想定されます。ライバル企業と差別化する意味からも、未認証企業においては早期の検討が必要です。建設会社のSBT認証の企業名や認証及びそのメリットについては、本CO2メディアの以下のレポートに詳しく記載されていますので、参考にして下さい。
【建設業】SBT認定企業一覧を紹介!SBT認定のメリットや取り組み事例を解説
この他では、国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定) の発効、EUにおけるサステナビリティ開示の簡素化(オムニバス法)等が最終合意されたこと等がグローバルでの主な動きです。
金融関連の動向
(1)サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備完了
本サイトでも何度か取り上げているIFRS S1,S2基準の国内版であるサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)について、2027年3月期からプライム上場企業に対し時価総額に応じて段階的に適用を義務づける内閣府令が2月に公布されました。これは、金融庁のを踏まえたものです。時価総額5千億円未満のプライム上場企業については義務化の時期が未定となりますが、適用時期が明確になったことで、各社の取り組みは加速するものと思われます。
なお、プライム上場の建設会社の大宗は、時価総額5千億円未満となりますが、投資家のニーズを踏まえると、SSBJ基準に準じて有価証券報告書に記載することが望まれるので、計画的に準備していく必要があるでしょう。
○東証プライム市場におけるSSBJ基準義務化ロードマップ

(出所)金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告書より作成
また、開示の別のテーマとして、昨年6月の「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクションプログラム 2025」を受け、10月からコーポレートガバナンス・コード改正についての議論が進められています。これは、企業と投資家の建設的な対話の促進を目指し、コードをシンプルにし、原則の記載を整理することが議論されています。令和7年行政年度内の対応となりますので、今後、確認・対応が必要になってくる内容です。
環境関連(気候・自然・循環等)

(1)気候変動に伴う次期適応計画の議論開始
気候変動関連では、2月に「第三次気候変動影響評価報告書」が発表されました。これを受け、次期適応計画の目標・基本戦略にかかる議論が開始されています。評価報告書において、気候変動が地域の社会や経済に危機的な影響を与える恐れがあり、適応策の推進が喫緊の課題であると整理されたことから、次期適応計画においては、国が行う適応施策の方向性を明確にし、優先的に対応すべき事項を整理していくこととなります。建築・土木関連では、治水計画等気候変動適応策やヒートアイランド・暑熱対策等が対象となります。
また、適応にかかる開示面の対応として、環境省が「気候変動の物理的リスク評価の手引き‐気候変動適応で企業価値を高める‐(2025年度版)」を公表しました。本手引きは、上述のSSBJ基準導入を踏まえ、物理的リスクの評価フローやツールを整理したものです。建設に関連する物理的リスクの内容や建設現場での暑熱に伴う作業可能時間減少率を見積もるツールが紹介されています。また、先行事例では戸田建設株式会社の事例が紹介されていますので、内容をご確認ください。
昨今の異常気象の頻度と強度の増加もあり、将来の気候上昇に対するインフラ等のレジリアンス(耐久力)が重要なテーマになっています。建設業界にとっては、土木・建築分野で技術力を活用し、補修・改修等メンテナンスビジネスを拡大する機会となる内容です。第三次気候変動影響報告書では、温度上昇の3つのシナリオについて環境面や健康面への影響評価のほか建設業を含む産業・経済分野での影響評価も実施されています。このシナリオや国土交通省等の方針は、自社の適応戦略を再検討する際に活用可能です。また、環境省が公表した物理的リスク評価の手引きを踏まえて開示することで、自社の取り組みをアピールする材料になるでしょう。
(2)ネイチャーポジティブ経済移行戦略に基づく対応継続
生物多様性やネイチャーポジティブに関しては、2024年に環境省・国土交通省を含む4省で策定されたネイチャーポジティブ経済移行戦略に基づき、3月に2つの施策が発表されています。
まず一つ目に、ネイチャーポジティブ経営の確立・浸透に当たっては、ネイチャーポジティブ経営と事業機会との関係やどのように企業価値向上につながっているかが不明瞭であるという課題に対応するための材料として、「ネイチャーポジティブ経済移行に向けた企業価値向上ストーリー集」の公表があります。先行事例をもとに、自然関連のリスク把握とそれに伴う対応が如何に企業価値の向上につながっているかを各社担当者のコメントとともに記載されています。建設業関連では、住友林業株式会社と積水ハウス株式会社の事例が掲載されています。
2つ目の施策は自然関連財務情報開示におけるリスク・機会の把握支援ツールの整備です。これは、TNFD(自然関連財務情報として開示タスクフォース)の対応を行う際に、自然関連のリスクと機会の洗い出しが難しいという実務者の声に応え、環境省が主催する研究会において検討し作成したものです。特に自然との関連が深い食料・農林水産関連分野、建設・インフラ関連分野、製造関連分野の3分野を優先業界とし、「優先対象分野別自然関連リスク・機会ロングリスト及びバリューチェーンマップ」が公表されています。リストはTNFDの評価プロセスを意識しつつ、バリューチェーンのどの段階で発生するかを明記して作成されています。また、環境省が運営するネイチャーポジティブ経営推進プラットフォームでは、セクター・区分等でソート・検索可能で、かつ、先行事例を含むツール(ロングリストNPEプラットフォーム版)が掲載されています。
建設業界は、自然との関連が深く、かつ、自然関連のビジネス機会が多い業界とされ、大手建設会社は積極的にTNFD開示を行なっています。今回、環境省から公表された支援施策は、TNFD未対応の建設会社にとっても、経営層・事業部門等の社内コミュニケーション、バリューチェーン上の取引先や金融機関・投資家との対話等にも活用が可能なものです。また、検討及び対応時間の削減に貢献しますので、積極的な活用が望まれます。
なお、2月にはIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)が「ビジネスと生物多様性評価報告書」を発表しています。このレポートに記載されている内容については、すでにTNFDを開示済みないしは開示を検討している企業にとっては目新しいものはありませんが、測定や対応策の参考資料となるでしょう。
(3)循環経済への移行行動計画策定へ
循環経済関連では、循環資源の獲得について、経済安全保障上の懸念もあり重要性が高まっていることから、4月までに行動計画を策定し、日本の成長戦略・骨太方針に繋げていく方向性が関係閣僚会議で示され、3月から検討が開始されています。今後、建設業界にも関連する鉄、アルミを含む再生材原料に関する国内資源循環に関しても議論される予定です。
以上が、気候変動・ネイチャーポジティブ・循環経済に関する主な動向です。続いて、グローバルないしは日本全体の動きを踏まえた、建設分野に直接影響を与える動向について説明いたします。
建設分野の動向

(1)脱炭素に向けた政策の方向性と建設分野の中長期ビジョン策定
1月の国土交通省社会資本整備審議会の分科会において、建築物の脱炭素化に向けた政策の方向性が議論され、建築分野の中長期的なビジョン検討にかかる中間的なとりまとめがなされました。
前者については、建築物が日本のCO2等排出量の約4割を占めると推測されることから、建築物分野において脱炭素が急務であることを念頭に、建築物のライフサイクル評価の促進と省エネルギー性能の一層の向上が必要であると整理されました。今後、国土交通省において必要な制度見直し等が行われることとなっています。
後者については、2012年の諮問「今後の建築基準制度のあり方」から13年が経過したことから、今後の個別課題への対応策の検討に先駆けて、建築分野における中長期的なあり方を検討したものです。なお、今回の検討に当たっては、建築物・市街地に直接関連する論点のほか、担い手や建築を支える市場環境整備の論点を整理したものとなっています。今後、来年春までにビジョンの最終化を行うため、作業部会において検討がなされます。この検討項目は、従来のビルド&スクラップから循環型への移行、担い手のあり方、技術・DX等です。従いまして、本ビジョンは今後の建設基準や担い手関連制度に関わるものですので、今後とも動向を注視する必要があるでしょう。
(2)国土交通省のグリーンインフラ戦略の改訂
国土交通省は、昨年6月に策定した「国土交通省行動計画」に係る実行計画として「グリーンインフラ推進戦略2030」を1月に公表しました。この戦略は、2023年に策定された「グリーンインフラ2023」を全面的に改定し、インフラ基盤作りの取組と環境問題ほか社会課題の解決に向けた国土交通省の施策を体系的に整理したものです。その目標は、「グリーンインフラの活用が当たり前の社会」を目指し、2050年に向けた「自然共生社会」の実現を目指すというもので、都市緑化等環境に配慮した取組の環境整備を行う等建設分野のネイチャーポジティブと直結した内容になっています。戦略の周知のために冊子も作成されており、建設会社の事業計画や開示ほか幅広い分野で参考になる資料になっていますのでご確認ください。
なお、国土交通省は上述の推進戦略に基づき、資金調達の円滑化を推進する観点から「グリーンインフラに関するファイナンスガイドライン(中間とりまとめ)」を策定しています。このガイドラインは、グリーンインフラには地域の基礎インフラを担う公的な事業以外に、グリーンインフラが持つ環境・社会・経済的な価値に基づく経済合理性がある事業もあり、それぞれの特性に応じた資金調達方法について考え方を整理する必要があるとの考えに基づいて作成されています。ただし、グリーンインフラの価値評価方法の検討・確立には課題があり、2030年に向けて整備されていくものとなっています。将来的には、建設業・不動産業者が主体となり整備したグリーンインフラを活用した街づくりにおいて、グリーンインフラの価値をベースとした資金調達が可能にすることを目標にしています。
大手建設会社においては、グリーンインフラの普及に向けた先進的な取り組みも進められています。本CO2メディアにおいても、徹底解説を行なっていますので、そちらを参考にして下さい。
グリーンインフラとは?グレーインフラとの違いや課題の解決策を解説!
まとめ
以上、第一四半期のサステナビリティ動向をとりまとめましたが、様々なテーマで、かつ、時間軸の異なる内容となります。
ほとんどの動向がどちらかというと中長期的なものとなっていますが、実務として今すぐ進める必要があるものは、やはりSSBJ基準対応になるかと思います。繰り返しになりますが、すでに対応時期が確定している企業はもちろんですが、プライム上場で時価総額5千億円未満の企業においても、ギャップ分析を早めに行うことが望まれます。
別のレポートでもご紹介しましたが、サステナビリティ基準委員会は昨年3月に「有価証券報告書の作成要領(サステナビリティ関連財務開示編)」を公表し、SSBJ基準に基づく開示の検討材料を提示しています。この作成要領をもとにギャップを把握し、できる部分から記述を合わせていくことで、有価証券報告書の質が向上することになるのではないでしょうか。
なお、3月にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がマテリアリティを重視したサステナビリティ開示についてレポートを公表しています。そのレポートの中で、優れた開示事例企業の紹介とともに、SSBJ開示導入にあたって投資家がギャップとして感じている事項についてのコメントが掲載されています。この資料もSSBJ対応の参考になるのではないかと思います。

この記事の監修
高島 浩
サステナビリティ・エキスパート。農林中金グループで、サステナビリティの調査・コンサルに従事。元TNFDタスクフォース・オルタネイト・メンバー。現在は、個人でサステナビリティ関連新規事業の支援等を行う








