本レポートでは、建設会社の事業に影響を与えうるサステナビリティに関するイニシアティブや規制等について、四半期ごとに整理してお届けします。
2026年第2四半期は、SBTiネットゼロ基準改正、GX-ETS第二フェーズ始動、循環経済行動計画策定など、建設会社の経営・調達・施工・開示対応に関わる重要な動きが見られました。
特に、脱炭素対応は「目標設定」だけでなく、排出量データの精度向上や、建材・燃料・施工プロセスにおける炭素コストへの対応が求められる段階に入りつつあります。また、循環経済の政策化により、建設廃棄物や建材を「処理対象」ではなく、次の資源としてどう活用するかという視点も一層重要になっています。
本レポートでは、グローバル、金融関連、環境関連(気候・自然・循環等)、建設分野の動向について、その他の動向を含めお伝えします。
グローバルな動向
(1)欧米で継続する環境規制の緩和
欧米におけるサステナビリティ関連制度は引き続き緩和方向に向かっています。
欧州においては、欧州委員会からEU森林破壊規則(EUDR)の改正案とEU排出量取引制度(EU ETS)の無償排出枠の拡大が提案されています。EUDRについては、企業のコンプライアンスコストを大幅に削減できるよう制度対象商品の見直しなどが行われています。EU ETSの無償排出枠の拡大については、2026年から2030年までの排出分に対する無償排出枠の割り当てを計算する際のベンチマークを変更するものです。これは、エネルギー価格の高騰を背景に炭素コストの負担軽減を求める産業界や加盟国に対応したもので、無償枠の計算基礎を改正し無償排出枠を拡大しました。
米国では、SEC(米国証券取引委員会)が前政権時に制定された気候関連開示ルールの撤回を正式に提案しています。この提案により昨年1月のトランプ政権誕生以降反ESGの動きが加速する中、連邦政府における気候変動対応の無効化が大きく進んだこととなります。なお、カリフォルニア州など州の規制や民間のイニシアティブの高度化は継続しており、米国企業を中心にSECの規制撤廃に関わらず開示対応が必要になっています。
(2)高度化するイニシアティブ

出典:SBTi Corporate Net-Zero Standard V2.0
上記の通り、環境規制面での緩和が継続していますが、民間のイニシアティブは引き続き枠組みの高度化が進んでいます。
特に重要な高度化はSBTiのネットゼロ基準の改正です。主な改正点は、①更新サイクルの導入、②企業規模・地域による企業区分の導入、③事業に応じた削減アプローチの導入、④カテゴリーA企業への第三者検証の導入などです。なお、今回の改正は、目標設定だけでなく、実行・進捗報告・継続的改善を重視する仕組みとなり、2028年1月以降の目標更新にあたってはこの基準に基づいた対応が求められます。
また、②の企業区分の導入により、自社の企業区分(カテゴリー)を再確認することが求められます。SBTiの中小企業の定義は従業員500人未満からスタートしていますが、改正後の基準においては従業員250人未満となったほか、排出量、売上高および総資産の上限が定められています。この条件を満たさない場合、カテゴリーA企業として厳しい基準が適用となりますので、まずは自社のカテゴリーを確認するところから進めてください。
SBTiネットゼロ基準以外では、環境マネジメントシステム(EMS)の基準であるISO 14001:2026の発行がありました。今回の改正は2015年版の現行枠組みをベースとし、昨今の環境課題を踏まえたものとなっています。主な変更点は、生物多様性や汚染等の環境課題を考慮することや、サプライチェーンの管理を強化することのほか、ガバナンスの強化となります。現在、ISO14001認証を受けている企業は、今後3年間以内に新基準への移行審査を受ける必要があります。
(3)ソーシャルに係る新たな枠組み
すでに広く利用されている開示枠組みの気候変動:TCFD、自然:TNFDに次ぐ、ソーシャルに関連する開示枠組案がTISFD(不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース)から発表されました。枠組みは、TCFDの4つの柱に基づいたもので、労働環境・人権、ウェルビーイング、地域社会など、企業内部だけでなくサプライチェーンや地域社会まで「人」に関するリスクと機会を開示するものとなっています。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)においても、人的資本が自然資本に次ぐ優先テーマとされていることから、企業がTISFDの枠組みに基づく任意開示が主流化し、最終的にISSBの基準に吸収・統合されていく可能性が高いと言えます。また、今回の発表は、ドラフト案の段階ですが、2027年を目処に最終化を予定しています。今後、人的資本に係る開示がさらに高度化していくことが予想されます。
金融関連の動向
(1)ISSB 自然関連開示の今後の進め方合意
ISSBは4月の審議会において、自然関連開示に関する要求事項をIFRS実務記述書の形式で提案することに合意しています。実務記述書とは、財務報告に関する任意のガイダンス文書で準拠が強制されるものではありませんが、開示を行う際の有用な指針です。今後、10月までに公開草案を発表する予定です。
環境団体や投資家からは、気候変動基準(S2)に次ぐ個別基準(S3)として整備されることが期待されていましたが、現行S1・S2基準の導入・適用を加速させることを優先した形となり、将来的に基準化の道を残したものとなっています。
なお、自然関連のリスクと機会がマテリアルである場合、実務記述書の有無に関わらず、IFRS S1に基づくサステナビリティ関連リスク・機会の開示対象となり得る点には留意が必要です。日本企業においても、SSBJ基準への対応を検討するうえで、自然関連リスクの重要性評価が今後の論点になると考えられます。

(2)コーポレートガバナンスコード改正
金融庁は、コーポレートガバナンス・コードの改訂案を4月に公表しています。今回の改訂の目的は企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上で、主な改正点は①成長投資の促進、②取締役会の機能強化、及び③有価証券報告書の定時株主総会前の開示です。サステナビリティに関しては、前コードにおいて複数箇所に記載されていた内容を統合し、取締役会の役割として整理し、サステナビリティを事業の中心課題として捉えるよう促しています。
環境関連(気候・自然・循環等)
(1)GX-ETSの第二フェーズ(制度化フェーズ)始動

出典:ets__leaflet.pdf
日本政府がGXリーグ参加企業を対象に導入した排出量取引制度(GX-ETS)は、4月から自主参加のフェーズから排出量が10万トン以上の企業(300〜400社程度)を対象とした制度化フェーズに移行しています。このフェーズにおいては、政府が一定の基準のもと制度対象企業に排出枠を割り当て、対象企業は排出枠の過不足に応じて事業者間で排出枠を取引することとなります。制度化フェーズ初年度の今年は実績計測期間となり、実際のETS市場の形成は来年度以降となる予定です。
なお、制度上の対応として、関連するマニュアルの整備に加え、排出量取引管理システム(通称:ERMS〈アームス〉)の運用も進められています。制度対象企業は、2026年4月1日からCO₂の直接排出量等の算定を開始し、9月30日までに制度対象である旨等の届出を行う必要があります。また、ERMSでは、移行計画の提出、排出実績量の報告、排出枠管理などの手続を行うことができます。
建設会社への示唆
建設業界において本フェーズで直接の制度対象となる企業は限定的とみられます。一方で、GX-ETSの制度化や将来的な有償オークション、化石燃料賦課金等の制度進展により、燃料・電力・鋼材・セメントなどに炭素コストが徐々に反映される可能性があります。建設会社にとっては、直接排出の削減だけでなく、資材調達、施工計画、見積前提に炭素コストを織り込む視点が重要になります。
(2)気候変動に係る水資源評価のガイドライン(案)発表
国土交通省は、6月に「気候変動による水資源への影響評価のガイドライン(案)」を公表しています。ガイドラインは、将来の気候変動による水資源への影響について評価手法等をまとめたもので、評価結果が流域の関係者間で共有され、流域総合水管理における水資源の有効な利用に資する取組が推進されることを目的としています。
建設会社への示唆
このガイドラインにより、各河川流域の水資源リスクが可視化されることとなり、今後の公共事業の計画等に影響を与えることとなるでしょう。また、建設会社にとっても、水資源リスクの把握は、将来の施工案件に関するリスク管理や受託方針などに影響を与えることとなるでしょう。
(3)循環経済行動計画策定
4月に開催された循環経済に関する関係閣僚会議では、「循環経済行動計画」に基づき、再資源化拠点の構築や動静脈連携、重要鉱物リサイクルなどの取組を具体化・推進していく方針が示されました。循環経済は、従来のリサイクルを中心とした環境対策にとどまらず、再生資源を活用した経済安全保障や産業競争力の強化に関わる成長戦略として位置づけられつつあります。
具体的には、重要鉱物や金属資源等を確保するため、再生資源供給サプライチェーンの強靱化、再資源化拠点の構築、動静脈連携などの取組が進められています。
これは、廃棄物の分別・リサイクルという考え方から、使用期限を終了した製品から積極的に重要鉱物等を取り出し、それを今後の製品の主要部材として活用していくという考えに変更するもので、企業の設計・調達・製造にパラダイムシフトを求めるものとなっています。
建設会社への示唆
当面、政策上の対象は自動車・電子機器・蓄電池などの製品が中心となりますが、この循環経済の考え方は幅広い業界に適用可能なものです。建設業界においても、「建てる・使う・壊す」という一方向の考え方から、主要建材や建築物を次の資源として活用することを前提に、設計・施工・解体・再資源化をつなぐ視点が求められていくでしょう。
以上が、主な環境関連の動向ですが、前回レポートで紹介した次期気候変動適応計画も骨子の検討が進められています。現在、欧州において記録的な熱波による被害が拡大しています。気候変動による影響は日本にも無視できないものとなっていますので、ハード・ソフト両面で重要な施策が検討されることになるでしょう。
建設分野の動向
(1)建築物脱炭素化と中期ビジョンの具体化

出典:001977850.pdf
2026年第2四半期は、2026年1月に示された「建築物の脱炭素化に向けた政策の方向性のとりまとめ」および「建築分野の中長期的なビジョン検討に係る中間的なとりまとめ」を受け、建築物の脱炭素化や建築分野の将来像に関する具体的な検討・取組が進められました。
①建築物脱炭素化では脱炭素化に向けた政策の方向性が示されたことを受け、既存ビル改修に係る補助事業の公募やサステナブル建築物等先導事業(LCCO₂先導型)の提案募集といった制度上の取組みが開始されました。
②今後の建設行政や民間の事業展開の羅針盤となる中長期ビジョンについては、国土交通省において来年春までに最終的なビジョンを策定するための進め方が議論されました。これを受け、①既存建築ストックを検討するストック・ワーキンググループ(ストックWG)、②建築生産・行政の担い手の確保・育成を検討する担い手WG、③建築物の質/技術の向上を検討する質/技術WG、④建設DXの課題を検討するDX WG、および、⑤市街地の役割を検討する市街地WGの5つのワーキンググループを設置することになりました。なお、各WGは8月までに素案を「建築分野の中長期的なあり方に関する検討会」に提出することになっており、9月までには具体的な方向性が確認できるでしょう。
(2)地域の視点でのサステナビリティ対応
環境省は、5月には地域資源を活用したレジリエントなエネルギー・経済循環の実現に向けて、地方公共団体や事業者との勉強会や、全国知事会・全国市長会・全国町村会との意見交換を踏まえ、今後の施策の方向性を整理しています。内容は、「地域を守る」、「地域で回す」、「地域が稼ぐ」という3つの視点で、気候変動適応や循環経済の側面から支援し、地域経済を活性化していくというもので、建設会社の事例を含む各地での先行事例が示されています。
まとめ
2026年第2四半期の動向からは、サステナビリティが環境部門だけのテーマではなく、経営・調達・施工・開示を横断する事業継続の論点へ広がっていることが読み取れます。
SBTiやISSBなどの開示・目標設定の枠組みは高度化し、GX-ETSや循環経済政策は、炭素コストや再生資源の活用を事業判断に組み込む流れを後押ししています。
建設会社にとっては、脱炭素、資源循環、自然関連リスク、人的資本、地域との関係性を個別の対応テーマとして捉えるのではなく、受注・調達・施工・開示を支える経営基盤として位置づけることが重要になります。
今後も四半期ごとの政策動向を追いながら、自社の事業や現場実務にどのような影響があるかを継続的に確認していく必要があります。

この記事の監修
高島 浩
サステナビリティ・エキスパート。農林中金グループで、サステナビリティの調査・コンサルに従事。元TNFDタスクフォース・オルタネイト・メンバー。現在は、個人でサステナビリティ関連新規事業の支援等を行う









