本年4月からGXは新たなフェーズを迎えています。2026年度から、二酸化炭素の直接排出量が前年度までの3年度平均で年間10万トン以上の事業者を対象に、排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働しました。これに加えて、GX製品・サービスの需要創出も重要な政策テーマとして位置づけられています。
本レポートでは、これまでGX-ETSの試行や市場形成に関わってきたGXリーグの成果を振り返りつつ、2026年4月から始動したGXフューチャー・リーグの仕組み、GX製品・サービスの需要創出に向けた政策動向を整理します。
グリーンスティール・グリーンセメントの活用や水素・バイオ燃料等の利用を検討されている建設会社にとっては、政府の新しい需要喚起政策は今後の脱炭素に係る事業戦略をアップデートする材料となるものです。
GXリーグにおける成果
GXリーグは、菅政権時の「2050年カーボンニュートラル宣言」を踏まえ、2023年4月に活動を開始しました。その目的はカーボンニュートラルへの移行に向けて、企業自らが率先して対応することで、多くの建設会社を含む700社超の企業が参画しました。参画した企業は、野心的な排出量削減目標や実績を開示するほか、GX製品の市場投入やサプライチェーン上での削減の取組みを促進するためのルール作りなどに一体的に取り組んできました。
特に、毎年排出量実績を公表し、目標達成への進捗状況をGXダッシュボード上で開示しながら、目標達成に向けて取り組む排出量取引は、日本の排出量取引制度の稼働に道筋をつけました。また、GX推進法の下で脱炭素に資する研究開発への投資が行われることとなり、GXリーグを通じた官民の連携が進化しました。
一方で、GX-ETSの制度対象は、製造業や電力・ガスなどの多排出事業者が中心となるため、これまでの取組みはサプライチェーン上流側の排出削減や投資促進に重点が置かれてきました。今後は、脱炭素化に資するGX製品・サービスを、需要側がどのように調達・活用していくかが課題となります。
参考資料:「GXリーグにおけるサプライチェーンでの取組のあり方に関する研究会取りまとめ」
こうした課題認識のもと、次期GXリーグがスタートし、需要喚起についての検討が進められていますので、次項以降でその内容を説明します。
次期GXリーグの活動開始
こうした課題意識の下、本年4月から次期GXリーグであるGXフューチャー・リーグ(以下、「GXFリーグ」という)がスタートしています。ここでは、GXFリーグの参画要件と、建設会社にとっての活用メリットを整理します。
参画要件
GXFリーグの参画要件は、自社の排出量の算定に関する事項に加え、GX需要創出等に係る取組みの約束(コミットメント)が加わりました。参画企業は、こうしたコミットメントについて毎年取組状況の報告が求められることとなります。
◯ GXFの需要創出に係るコミットメントの類型と項目
| 類型 | 項目 |
|---|---|
| A) GX製品・サービスの需要創出 |
・GX率先実行宣言の実施 ・GX製品又はサービスの積極的な調達又は販売 ・調達に関するアライアンスの発起又は入会 |
| B) サプライヤーとの協業 |
・GXに係るコスト負担に関する合意 ・キャパシティ・ビルディング支援、人的支援、技術支援 ・設備投資支援 ・排出削減に取り組むサプライヤーの積極評価 ・CFPの算定、Scope3の算定又はScope3排出量の目標設定 |
| C) ファイナンス面の取組み |
・サステナブルファイナンス等の実施 ・金融機関等の支援機関によるエンゲージメントの実施 ・クライメート・トランジション利付国債の購入 |
注)参画企業は、上記項目のうち2つ以上を選択し、毎年度、取組状況を報告する必要があります。
なお、GX率先実行宣言を検討する場合、新たに宣言する場合には次項の見直しを踏まえる必要があります。
活動とメリット
GXFリーグ参画企業は、テーマ別に設置するワーキング・グループにおいて、官民でGX需要創出・資金供給に向けたルール形成や実証、国内外への発信等の活動を行うこととなります。参画のメリットは、こうした活動を通じたGX需要創出に向けた企業との連携やプラットフォームの確保のほか、GX関連予算の補助金や委託事業の応募要件になるなどの方針が示されています。
なお、GXリーグで試行的に実施されてきた排出量取引は、GXFリーグにおいては対象外となっています。
(注)GXFリーグの参画にはGXFコンソーシアムの会員となる必要があります。なお、GXリーグ及びTCFDコンソーシアム会員企業は、自動的にGXFコンソーシアムの会員に移行済みです。
需要創出の要となるGX率先実行宣言
次に、GXリーグの一つの柱である「GX率先実行宣言」の見直しに関する検討について説明します。
GX製品・サービスの需要を拡大させるためには、まずGX製品・サービスを整理し、こうした製品を積極的に調達する企業の取組みが不可欠です。こうした取組みを支援する枠組みとして、GX率先実行宣言があります。GX製品の定義やGX率先実行宣言は、GX需要創出を目標とするGXFリーグにとっても重要なものであり、今後のGX政策に反映させるための検討が経済産業省の「GX需要創出に向けた研究会」で進められています。
7月には、同研究会で中間取りまとめが示されました。本稿では、その内容をもとに、建設会社に関係するポイントを整理します。
見直しの方向性
これまでのGX率先実行宣言は64社が宣言済みで、電気自動車の採用や、建設会社等による次世代太陽光電池の採用、水素への燃料転換等が約半数を占め、需要創出に積極的な企業の姿勢を示してきました。
一方で、枠組みが自らの事業活動と関連性の薄い製品であっても宣言可能なものとなっているという課題がありました。
今回の見直しにおいては、GX率先実行宣言に係る課題を整理し見直すとともに、GX需要創出の取組みとGX予算との連携の強化について検討することになっています。
具体的な見直し内容は以下の通りとなります。要点は、対象となるGX製品・サービスを明確化・拡大し、企業の事業活動と関連性のある製品・サービスに取り組む企業を、より適切に評価する枠組みへ見直す点にあります。
◯ 課題と見直しの方針
| 課題 | 見直し方針 |
|---|---|
| 製品・サービスの明確化及びリスト化 | ・従来通り政府の中長期的な支援がある製品(産業競争力基盤強化商品、水素社会推進法に基づく低炭素水素等、GI基金支援対象技術による製品)としリスト化 |
| 対象製品の拡大 | ・投資によるGX製品供給の大幅拡大まで間の初期需要創出策と位置付けられる場合に限り、削減実績量を有する製品への対象拡大(例:GXスティール) |
| グレードの見直し | ・現行のグレード区分を廃止し、事業活動との関連や一定の閾値以上の取組をしているといった要件を満たした宣言を「プラチナグレード」とし、GX需要創出に特に野心的な目標を掲げている希少な企業群として認定 |
| 事業活動との紐つけ | ・プラチナグレードの取得に当たっては、事業関連性を要件化。 ・事業ごとに関連する対象製品・サービスを業種別の主な事業活動や主要排出源を踏まえて自社努力で削減可能なGX製品・サービスを抽出し、ポジティブリストとして公開 |
| フォローアップ | ・GX率先実行宣言の信頼性・透明性の担保のため、宣言提出後の取組状況について事務局において年に1回の頻度でフォローアップ ・プラチナグレード取得企業からの取組状況の回答をGX推進機構HPで開示 |
建設会社にとってのGX製品
それでは、建設会社にとって関連性のあるGX製品とは何でしょうか。
以下がポジティブリストとして研究会が示したものです。こ建設会社にとっては、これらの製品・サービスを調達・活用することが、GX需要創出への貢献につながります。
さらに、GX率先実行宣言を行い野心的な実績を達成することで、建設会社にとっての事業上のメリットを享受できることとなるでしょう。
◯ 建設業界のGX製品ポジティブリスト
| 建設業界 | 水素、合成燃料(バイオ燃料を含む)、合成メタン、グリーンスチール、CO2等を用いたプラスチック、グリーンセメント、グリーンコンクリート、高層建築物等の木造化に資する等方性大断面部材、ペロブスカイト型太陽電池、電気自動車等 |
GX予算との連携
GX予算とGX製品需要創出の連携をさらに強めていくため、従来の応募要件(中小企業を除く)に加えて、需要創出への貢献度合いを勘案し、GX率先実行宣言の活用やGX製品調達実績に基づく採択審査上の加点を行う仕組みを検討しています。
以下の図が研究会で示されたものです。GXFリーグ参加、GX率先実行宣言実施、調達実績達成と取組みが高度化することに合わせて、GX予算上のメリットを享受できる仕組みです。

出典:GX需要創出に向けた GX率先実行宣言の見直し方針(中間とりまとめ)5頁 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/gx_demand/pdf/20260710_1.pdf
今後のスケジュール
経済産業省は、本研究会での議論を9月までに取りまとめを行い、宣言に必要なマニュアルやシステム等の受け入れ体制を整備します。その後、今年度秋をめどに見直し後のGX率先実行宣言の募集・認定を開始する予定です。
GX需要者としての建設会社の役割
GX-ETSの制度対象に該当しない建設会社であっても、GX関連の取組が自社に関係しないわけではありません。GX-ETSの本格稼働やGX投資の拡大により、GX製品・サービスの供給面では整備が進みつつあります。
一方で、そうした製品・サービスを実際に調達・活用する需要側の取組が広がらなければ、市場形成は進みにくいのが実情です。
その意味で、今後は建設会社が需要側として果たす役割が大きくなります。グリーンスチール、グリーンセメント、低炭素燃料、ペロブスカイト型太陽電池など、建設業界に関連するGX製品・サービスをどのように調達・活用していくかは、各社の脱炭素戦略や調達方針を考えるうえで重要な論点になります。
政府の政策上も、GXFリーグは、業種・業態・排出量の多寡にかかわらず、GX需要創出に意欲的に取り組む企業を後押しする枠組みとして位置づけられています。建設会社にとっては、GXFリーグやGX率先実行宣言といった枠組みを活用しながら、GX製品・サービスの調達・活用を通じて、需要側から新たなGX市場の形成に関わることが重要になります。

この記事の監修
高島 浩
サステナビリティ・エキスパート。農林中金グループで、サステナビリティの調査・コンサルに従事。元TNFDタスクフォース・オルタネイト・メンバー。現在は、個人でサステナビリティ関連新規事業の支援等を行う









