「建築物LCA制度検討会」第5・6回の論点整理と建設実務者向けのポイント~中間とりまとめ骨子案が示される。5,000㎡以上のオフィスビルを制度導入第1段階の対象に~
建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)をめぐる制度づくりが本格化しています。国土交通省は2025年6月、「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会(建築物LCA制度検討会)」を設置し、2028年度頃の制度開始を見据えて全6回にわたって議論を重ねてきました。
※建築物LCAとは、建築物を構成する各部材・設備の製造・施工・使用・解体に至るまでの建築物のライフサイクル全体において発生するカーボン(CO2)を算定・評価するもの。Life Cycle Assessmentの略。
本連載では、各回の議事録・配布資料をもとに、検討会の内容・今後の課題・建設実務者向けのポイントを解説します。
連載第5回は、2025年9月8日開催の第5回検討会と、2025年9月30日開催の第6回検討会の内容を深掘りします。この2回では、「中間とりまとめ(骨子)」の作成に向けて、制度の全体像や考え方の整理が行われました。とくに注目したいのは、制度の初期段階における運用方針が見え始めた点です。これまで議論されてきた対象範囲・算定義務・ロードマップが具体的な数値とスケジュールを伴って示され、「誰が・どの建築物で・何をしなければならないのか」が明確になっています。特に重要なのは、第1段階の対象が「5,000㎡以上のオフィスビル」と具体化された点と、原単位データの整備スケジュール(2027年度)が示された点です。これは、制度対応の準備期間がすでにカウントダウンに入ったことを意味します。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ 第5回・第6回
前回までの振り返り
第1回〜第4回の検討会では、制度の3本柱である「実施ルール」「表示」「原単位(CO2排出係数)データ」について幅広い論点が議論されてきました。まずは、これまでのポイントをおさらいします。
実施ルール(LCCO2を算定しやすくする仕組み)
・算定の責任主体は建築主とし、着工前算定を制度の軸に据えつつ、「基本設計・着工前・竣工」の3段階で算定するイメージが整理された
・新築2,000㎡以上の事務所・学校・集合住宅等を対象とした着工前の算定報告義務が提案として挙がっていたが、第4回で大規模オフィスビル等に対象が絞られる方向性が示された
・まずはLCCO2算定の義務付けからスタートし、段階的に削減規制へと移行するロードマップの考え方が明確になった
・第1段階の政策指標としては削減量ではなく「算定件数」が設定される方向性が示された
表示(算定結果を社会に見せる仕組み)
・算定結果の表示については、義務としての表示は自己宣言型からスタートし、投資家・金融機関やテナントへの訴求を目的とした任意の第三者認証制度を別途整備するという考え方に整理された
・LCA特化型の新制度とするか既存制度(BELS等)に統合するかは未決
・ライフサイクル全体のCO2排出量と内訳(オペレーショナルカーボン・エンボディドカーボン・炭素貯蔵量等)を表示する方向性が示された
原単位データ(算定の根拠となるデータを整備する仕組み)
・カーボンフットプリント(CFP)や環境製品宣言(EPD)などの積上型データへの移行が求められており、「個社製品データ・業界代表データ・国のデフォルト値」の3層構造で整備する方向性が示された
・着工前算定の軸となる業界代表データの整備が急務とされており、国のデフォルト値は個社製品データより大きめに設定する方針が確認されている
・EPD・CFP取得費用の国による支援継続と、積極的に取り組む建築主・設計者・施工者を登録・公表する制度の創設が提案された
過去の検討会の内容については、別記事にて解説を行っておりますので、そちらも参考にしてください。
>第1回検討会の解説記事はこちら
>第2回検討会の解説記事はこちら
>第3回検討会の解説記事はこちら
>第4回検討会の解説記事はこちら
第5・6回検討会の議論のポイント
第5・6回検討会の重要なポイントは、「日本型ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」という制度の基本方針のもと、制度の具体的な姿が明文化されたことです。
算定・届出義務の対象が「5,000㎡以上のオフィスビル等」、建築士の説明義務の対象が「2,000㎡以上の住宅を除く建築物」と具体化され、主要建材の原単位データ整備の優先順位と2027年度完了という目標も明確になりました。これにより、実務者にとって「自社のプロジェクトが対象になるか」「いつまでにどのデータが揃うか」という2つの見通しが初めて立てられるようになりました。
ここからは「実施ルール」「表示」「原単位データ」の3本柱に沿って、第5・6回検討会で議論された内容をまとめます。
【実施ルール】第1段階の対象は「5,000㎡以上のオフィスビル」に
制度導入の第1段階における緩やかな規制的措置の対象として、「5,000㎡以上の大規模オフィスビルの新築・増築」を対象に、建築主の算定・届出を義務付けるという具体案が示されました。5,000㎡以上のオフィスビルに絞った場合、年間着工件数の0.03%(約200棟/年)に相当しますが、ライフサイクル全体のCO2排出量に占める割合としては約5.0%に当たるとされており、限られた対象でも政策効果が大きいことが根拠として示されています。
あわせて、「2,000㎡以上の住宅を除く建築物」については、建築主が不要と判断した場合を除き、建築士がLCCO2の算定・評価及び削減措置に係る説明を行うことを義務付ける案も示されました。これにより、大規模建築物全般において設計段階からLCCO2削減を意識した設計が促される仕組みが想定されています。
段階的な制度移行については「日本型ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」として明文化され、第1段階(算定・自主的削減)→第2段階(算定の一般化・削減策の措置)→第3段階(削減策の強化)という3段階のロードマップが示されました。第2段階への移行は制度開始後概ね5年以内に措置すること、第2段階の検討開始は制度開始後3年以内を目途とすることも明記されています。
また、第2回から議論されてきた「基本設計・着工前・竣工」の3段階算定については、着工前の届出制度とScope3開示のための竣工時算定が二度手間にならないよう、評価方法やロジックの整合性に配慮する必要性が明記されました。
なお、国土交通省は「建築GX・DX推進事業」として100億円の概算要求を行っており、LCA算定にかかる費用への補助(単体での補助も可能)が含まれています。環境省もLCA算定に加えて低炭素型建材を使用する場合に上乗せ補助を実施する予定で、今年度比約4倍の予算を要求しています。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ 第5回検討会06_資料4_中間とりまとめ骨子案 補足説明資料
出典:国土交通省 令和8年度建築GX・DX推進事業について
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ 第6回検討会03_資料3_令和8年度概算要求のうち建築物のライフサイクルカーボン関係について
【表示】定量的・定性的評価の組み合わせで表示へ
表示の記載事項としては、第4回検討会にて「ライフサイクル全体のCO2排出量と内訳を表示する」方向性が示されていましたが、第5・6回でその具体的な内容が整理されました。
表示は「定量的評価(国の算定ルールに沿って計算したLCCO2・アップフロントカーボン・炭素貯蔵量等の数値)」と「定性的評価(EPDやGX製品の採用など環境配慮のための取り組み内容を示すもの)」の2種類で構成される方向性です。投資家・金融機関が投融資判断に活用するためには数値が必要である一方、数値だけでは表せない環境配慮への取り組みや努力も評価される仕組みが必要という認識から、この2種類の組み合わせが採用されています。
【原単位データ】主要建材の整備優先順位と2027年度完了目標
原単位データの整備については、2028年度の制度開始までにすべての建材のデータを揃えることは現実的でないため、LCCO2排出量に占める割合が大きい建材から優先的に整備を進めるという考え方のもと、主要建材ごとの優先順位が3グループに分類されました。
第1グループ(2027年度までに整備完了を原則とする主要建材)
建築物LCCO2全体の概ね過半を占める躯体建材として、鉄骨・鉄筋・コンクリート・木材が対象とされています。
第2グループ(2027年度までに可能な範囲で整備)
大規模オフィスビルの外装・内装に用いられる主な建材として、アルミサッシ・ガラス・OAフロアなどが対象です。また、様々な建築物に共通して使用される頻度の高い建材も優先的な整備対象に加えられました。
第3グループ(2028年度以降も含め順次整備)
多様な製品で構成される建築設備(空調機器等を優先)や、LCCO2に占める割合が極めて小さい内装材等が対象です。
また、第4回検討会で提案された「優良事業者公表制度」は、当初LCCO2の算定・削減に積極的に取り組む建築主・設計者・施工者を対象としていましたが、第6回で建材・設備製造事業者等も対象に加える方向性が示され、より広い範囲の事業者が対象となりました。
さらに、国土交通省はLCA算定と一体的に行うCO2原単位作成費用への加算補助(上限400万円)を、林野庁は木材産業の中小企業を対象に品目別原単位の整備支援を概算要求に盛り込んでいます。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ 第6回検討会03_資料3_令和8年度概算要求のうち建築物のライフサイクルカーボン関係について
今後の課題
第5・6回の議論をもとに、今後の実務対応を考えるうえでのヒントになりそうな課題をまとめました。
算定ルール・評価基準・表示ルールの策定
2028年度の制度開始までに、国において統一的なLCCO2算定ルール・評価基準・表示ルールが策定される予定です。具体的な内容の確定状況を注視する必要があります。
着工前算定と竣工時算定の整合性確保
着工前の届出制度とScope3開示のための竣工時算定が二度手間にならないよう、評価方法やロジックの整合が求められています。制度開始までにどのような形で整理されるか、今後の動向を注視しておきましょう。
第2段階への移行条件の明確化
制度開始後概ね5年以内に対象建築物の拡充が予定されています。第1段階の実績・知見の蓄積状況を踏まえて第2段階への移行条件がどう設定されるかが、今後の重要な論点です。
建設実務に効くポイント
第5・6回検討会で明確になった内容を踏まえ、建設実務者が今知っておきたいポイントをまとめました。
5,000㎡以上のオフィスビルが算定・届出義務の対象となる見込み
第1段階の規制的措置として、5,000㎡以上のオフィスビル等を対象とした算定・届出義務が具体案として示されました。自社が関わるプロジェクトが対象となりうるか、今から確認しておくことが重要です。
2,000㎡以上の非住宅建築物では建築士の説明義務が課される見込み
2,000㎡以上の住宅を除く建築物を対象に、建築士が建築主に対してLCCO2の算定・評価及び削減措置に係る説明を行う義務が検討されています。設計者にとっては、建築主へのLCCO2説明に対応できる知識・体制の整備が求められます。
主要建材の原単位データは2027年度までに整備される予定
鉄骨・鉄筋・コンクリート・木材については、2027年度までに原単位データの整備完了が原則とされており、制度開始前には一定のデータが揃う見込みです。自社が扱う建材の整備スケジュールを業界団体の動向も含めて把握しておきましょう。
LCA算定費用への補助制度を活用する
国土交通省・環境省それぞれからLCA算定費用への補助が用意されています。早期にLCA算定に取り組む際の費用負担軽減策として、活用を検討する価値があります。
まとめ
第5・6回検討会では、中間とりまとめとして制度の具体的な姿が明文化されました。5,000㎡以上のオフィスビル等を制度の第1段階の対象とする算定・届出義務、建築士の説明義務、主要建材の原単位整備スケジュールなど、実務に直結する内容が相次いで示されており、2028年度の制度開始を見据えて、算定できる体制を今から整えておくとよさそうです。制度開始までの期間は限られており、この数年間が対応力の差を生む重要なタイミングになると考えられます。
次回の記事では、2026年1月28日に公表された中間とりまとめの内容を改めて整理し、建築物LCA制度の骨格をわかりやすく解説しますので、ぜひ続編もご参照ください。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ(中間とりまとめ 2026/1/28 公表、最終確認:2026/4/6)

この記事の監修
リバスタ編集部
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