建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)をめぐる制度づくりが本格化しています。国土交通省は2025年6月、「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会(建築物LCA制度検討会)」を設置し、2028年度頃の制度開始を見据えて全6回にわたって議論を重ねてきました。
※建築物LCAとは、建築物を構成する各部材・設備の製造・施工・使用・解体に至るまでの建築物のライフサイクル全体において発生するカーボン(CO2)を算定・評価するもの。Life Cycle Assessmentの略。
本連載では、各回の議事録・配布資料をもとに、検討会の内容・今後の課題・建設実務者向けのポイントを解説します。
連載第2回は、2025年6月19日に開催された「第2回建築物LCA制度検討会」の内容を深掘りします。第1回では制度の全体像が議論されたのに対し、第2回ではより具体的な制度設計(対象範囲・算定方法・運用)が議論されています。つまり、「制度がどうあるべきか」から「どう運用するか」へと議論が進んだ回と言えます。今回の第二回は、制度の3本柱(実施ルール・表示・原単位(CO2排出係数)データ)のなかでも、「実施ルール」と「表示」に関する議論が進み、算定実施のタイミングが見えてきた点に注目です。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」
目次
前回(第1回)の振り返り
第1回検討会(2025年6月4日)では、建築物LCA制度を設計するにあたり、「実施ルール」「表示」「原単位データ」の3つを主要な検討項目として位置づける方向性が示されました。まずは、第1回でまとまった主なポイントをおさらいします。
実施ルール(LCCO2を算定しやすくする仕組み)
・まずは大規模建築物を対象に段階的な拡充を検討
・算定の責任主体は建築主とし、着工前算定が現実的との見方が共有された
表示(算定結果を社会に見せる仕組み)
・ライフサイクル全体のCO2排出内訳を可視化する仕組みが望ましいとされた
・LCA特化型の新制度を設けるか既存制度(BELS等)に統合するかは未決
原単位データ(算定の根拠となるデータを整備する仕組み)
・整備の優先順位・第三者認証の公平性・リサイクルの算定ルール統一などが課題として提示された
過去の検討会の内容については、別記事にて解説を行っておりますので、そちらも参考にしてください。
>第1回検討会の解説記事はこちら
第2回検討会の議論のポイント
第2回検討会での重要なポイントは、算定のタイミングを「基本設計・着工前・竣工」の3段階に整理し、着工前算定を制度の軸として位置づける方向性が示されたことです。これにより、制度対応の最低ライン(着工前)が見えてきたと言えそうです。
ここからは、「実施ルール」「表示」の2テーマに沿って、第2回検討会で議論された内容をまとめます。
【実施ルール】算定タイミングの3段階整理と対象規模の具体案
実施ルールについては、LCCO2の算定に使えるデータの精度がタイミングによって異なるという問題に対応するため、「基本設計」「着工前(実施設計完了段階)」「竣工」の3段階で算定を実施する方向性が示されました。
着工前の段階では、業界平均値や国のデフォルト値を用いた算定が現実的とされ、投資家・金融機関への開示や、テナントの物件選定の判断材料としての活用が想定されています。一方、竣工段階では個社製品データを活用したより詳細な算定が可能となり、建材の製造・調達から施工に至るまでの一連の流れで生じるCO2排出量(Scope3)開示などの場面での活用が期待されています。
制度として義務付けるタイミングとしては着工前が最も現実的との見方が共有されており、対象規模の具体的な提案として新築2,000㎡以上の事務所・学校・集合住宅等を対象とした着工前の算定報告義務を設けることが考えられるとの意見も出ました。3段階整理はあくまで実務上の推奨として位置づけられています。
また、算定に過度な負担が生じないよう、簡易・標準・詳細の3段階の算定方法を使い分ける算定ツール「Japan Carbon Assessment Tool for Building Lifecycle(J-CAT)」の活用も紹介されています。
【表示】誰に、何を、どう見せるか
表示については、金融機関・デベロッパー・設計者・施工者それぞれの立場からの情報提供が行われ、ニーズのばらつきが浮き彫りになりました。
金融機関の視点からは、投融資判断の材料として活用するためには、第三者認証を経た信頼性の高いデータが必要との意見が出されました。また、国際的な開示基準(TCFD等)との整合性を意識した制度設計を求める声も強くあがりました。
デベロッパーの視点からは、算定結果を物件の環境価値として訴求できる仕組みへの期待が示された一方、算定・開示に伴うコストや手間の増大を懸念する意見もありました。
設計者・施工者の立場からは、実務フローへの組み込みやすさが重要との指摘があり、算定義務のタイミングや提出先・提出方法の明確化が求められました。
また、削減に取り組んだ事業者の努力が適切に評価される仕組みの必要性も指摘されており、単なる数値開示にとどまらず、積極的な取り組みを促す制度設計が求められています。
今後の課題
第2回検討会で深掘りされた論点をもとに、今後の実務対応を考えるうえでのヒントになりそうな課題をまとめました。いずれも第3回以降の検討会で議論が予定されており、動向を追っておく価値がありそうです。
対象規模・用途の絞り込み
どの規模・用途から制度を適用するかの議論が本格化する見込みです。東京都は2025年度から延床2,000㎡以上の新築建物にLCA算定・表示を義務化し先行運用していることは、議論の参照点の一つとなっています。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ(第2回04_資料4-1_松岡委員からの情報提供資料)
算定タイミングと義務の設計
着工前算定を軸としつつ、基本設計段階や竣工段階での算定をどう位置づけるか。任意か義務かを含め、実務負担とのバランスを踏まえた制度設計が求められます。
表示制度の形式と認証のあり方
自己宣言型にとどめるか、第三者認証を要件とするか。既存制度との統合か新設かも含め、表示制度の具体的な設計が今後の焦点となります。
建設実務に効くポイント
第2回検討会で挙がった論点を踏まえ、建設実務者が今知っておきたいポイントをまとめました。
「着工前算定」を実務フローに組み込む準備を
着工前(実施設計完了段階)での算定が制度の軸として浮上しています。設計プロセスのどの段階で算定を実施するかを、今から社内で検討しておくことが重要です。また、LCA算定ツールの導入や、設計データの整理方法の見直しを検討しておく必要があります。
東京都の先行制度を参照する
東京都がすでに延床2,000㎡以上で先行運用していることは、国の制度設計に影響を与える可能性があります。対象規模感や算定方法の参考として、都の制度内容を把握しておく価値がありそうです。
金融機関・投資家の視点を意識する
算定結果は投融資判断や物件選定の材料として活用される方向性が示されています。第三者認証の有無が信頼性に直結するとの指摘もあり、将来的な認証取得を見据えた体制整備を検討しておくと安心です。
J-CATの3段階算定方法を把握する
算定ツールJ-CATには「簡易・標準・詳細」の3段階の算定方法があります。設計初期段階では簡易算定、着工前・竣工段階では標準算定が想定されており、自社の実務フローに合った活用方法を確認しておきましょう。
まとめ
第2回検討会では、「実施ルール」と「表示」について、多様な立場から意見が出されました。着工前算定を軸とした制度の方向性が徐々に見えてきた一方、表示制度の形式や認証のあり方については引き続き議論が必要な状況であることは、引き続き注視したいポイントです。特に、設計段階でのCO2算定や対象範囲の設定は、建設実務に直接影響する重要な論点です。今後の制度詳細を注視しつつ、対象プロジェクトの整理や算定体制の検討など、段階的な準備を進めることが求められます。
第3回検討会(2025年7月3日開催)では、算定の根拠となる「原単位データ」の整備についての議論が行われ、「個社製品データ・業界代表データ・国のデフォルト値」の3層構造で整備する方針が示されました。これらの内容については次回の記事で改めて整理しますので、ぜひ続編もご参照ください。
出典:国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」ページ(中間とりまとめ 2026/1/28 公表、最終確認:2026/4/6)

この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









