建設業界の脱炭素は、もはや個別建築物の省エネだけでは到達できない段階に入っています。街区全体のエネルギー最適化、デジタルツインを活用した施工管理、データ連携基盤の構築などスマートシティの取り組みが、業界の長期戦略を左右する課題です。
本記事では、スマートシティが建設業の脱炭素に不可欠な理由から、デジタルツインやスマートグリッドなど最新技術、ファイナンス手法や都市OS構築などの課題までを解説します。自社のスマートシティ戦略を描きたい方は参照してみてください。
スマートシティが建設業界の脱炭素に不可欠な理由

建設業界の脱炭素は、もはや単体の建物だけで完結する時代ではありません。街区単位で取り組むスマートシティの文脈では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)による省エネ建築、エネルギーマネジメントを軸としたCO2排出量の可視化、サーキュラーエコノミーによる資材循環が三位一体で機能します。
スマートシティが脱炭素に不可欠な理由について解説します。
都市開発とZEBの親和性
スマートシティと建物単位のZEBは、エネルギーを街区全体で最適化する思想で深く結びついています。AIやIoT、自動運転やドローンを駆使した都市インフラと、太陽光発電や高断熱建材で創エネ・省エネを実現する建築技術が、互いを補強し合う関係です。
スマートHEMSを街区に張り巡らせれば、戸建分譲やマンションの一棟ごとの電力を融通し合い、エネルギーの自産自消を実現できます。経済産業省が2015年12月に公表し2025年5月にも検討方向性を更新した「ZEBロードマップ」は、こうした建設業界の動きを政策的に後押ししています。この建物単体の省エネを街全体に広げる発想こそ、両者の親和性の本質です。
エネルギーマネジメントによるCO2排出量の可視化
エネルギーマネジメントを通じてCO2排出量を可視化することは、スマートシティが脱炭素を達成するための中核となる機能です。ICTで集めたリアルタイムデータを基に予測し、エビデンスに基づいて施策を立案できれば、都市運営から無駄を削ぎ落とせます。
建設業の視点では、施工フェーズで重機の燃料消費や仮設電力を可視化して施工時の排出量を抑え、竣工後はBEMSやCEMSで街区全体の電力を一元管理する設計が求められます。設計段階から運用後の見える化基盤を組み込めば、施主はライフサイクル全体でCO2を最適化できることがメリットです。
可視化されたCO2こそ、建設業がスマートシティの脱炭素を主導するための共通言語となり得ます。
循環型社会を実現するサーキュラーエコノミーの視点
循環型社会を実現するうえで、サーキュラーエコノミーの視点はスマートシティの脱炭素戦略における要素の一つです。建物のライフサイクル全体で資材とエネルギーを巡らせる枠組みがなければ、創エネや省エネだけではサーキュラーエコノミーは実現できません。
解体時のコンクリート骨材や鉄筋スクラップを、データマネジメントの枠組みで一品ごとにトレーサビリティ管理すれば、リサイクル状況を可視化できます。インフラを長く使う長寿命化設計と、街区の再エネ電源・廃材リサイクル計画の一体設計も欠かせません。街全体の物質循環を設計する発想こそ、スマートシティが目指す循環型社会の核心です。
建設業が主導するスマートシティ・ビルディングの最新技術
スマートシティの実装が現実味を帯びるなか、建設業が担う技術的役割は急速に大きくなっています。デジタルツインで建設プロセスを最適化し、スマートグリッドと連携した次世代型インフラを整備し、業界横断の共創機構との連携で官民の知見を結集することなど、建設業が主導するスマートシティ・ビルディングの最新技術について解説します。
デジタルツインによる建設プロセスの最適化
デジタルツインによる建設プロセスの最適化は、スマートシティ時代の建設業を支える基幹技術です。デジタルツインとは仮想空間に現実の街や建物を再現することで、施工前にあらゆる工程をリハーサルでき、手戻りによる資材やエネルギーの浪費を未然に防げます。
現場に設置したIoTセンサーで取得した重機稼働データや進捗状況を、AIとビッグデータで解析すれば、現場の生産性向上と工程短縮を同時に達成できます。さらにBIMモデルと連動させた4D施工シミュレーションを活用すれば、複雑な大規模再開発でも安全性と工期精度の両立が可能です。
デジタルツインを軸に建設プロセスを再設計することこそ、スマートシティ実装の出発点です。
スマートグリッドと連携した次世代型インフラ整備
スマートグリッドと連携した次世代型インフラ整備こそ、建設業がスマートシティ実装で主導権を握る要です。なぜなら、電力・通信・施工管理を統合制御することで、都市インフラを根底から進化させられるからです。
スマートグリッドは街区開発時にPV発電やEV充電設備を組み込み、再エネの安定供給を実現します。さらに5G通信を活用すれば、建物とインフラがリアルタイムにデータをやり取りでき、重機の遠隔操縦も可能です。
建設とエンジニアリング両面からプロジェクト管理をカスタマイズすれば、効率的なインフラ整備にもつながります。建設業が電力会社や通信キャリアと協働してこそ、スマートシティの基盤は完成します。
スマートシティ・ビルディング共創機構との連携
スマートシティ・ビルディング共創機構との連携は、建設業が単独では到達できない領域を切り拓く決定打です。誰一人取り残されないデジタル社会を築くには、都市OSと呼ばれるエリアデータ連携基盤を業界横断で構築しなければなりません。
民間ベンダーが提供するソリューションと、ゼネコンが持つBIMモデルや施設稼働データを結合させれば、街区全体のリアルタイム最適化が可能です。Society 5.0の実践事例のように、民間企業と自治体が座談会で連携を深めれば、現場ニーズと行政課題のズレも解消できます。建設業が共創機構の中核に立つことで、スマートシティの基盤が動き出します。
建設業とデベロッパーの新たな共創の形については、こちらの記事もあわせてご確認ください。
関連記事:建設の未来を創る 「スマートビルディング共創機構」が目指すものとは?
スマートシティ実現に向けた建設業界の課題と展望

スマートシティ実装の機運が高まる一方、建設業界には課題も残されています。導入・維持コストを支えるファイナンス手法の確立、都市OSの構築とセキュリティの担保、2050年カーボンニュートラルへ向かうロードマップの策定が急務です。
スマートシティ実現に向けた建設業界の課題と展望について解説します。
導入・維持コストの壁とファイナンス手法
導入・維持コストの壁を乗り越えるには、新たなファイナンス手法と地域合意形成の両輪を回す必要があります。スマートシティ整備は初期投資が膨大であり、行政や民間単独では持続可能なビジネスモデルを描けません。
グリーンボンドの発行やPFI(Private Finance Initiative )、PPA(Power Purchase Agreement )といった官民連携の資金調達手段を組み合わせれば、ゼネコンや不動産デベロッパーにとっては新たなビジネス機会の創出にもつながります。一方で、住民説明会を通じてコスト負担への賛同を得る合意形成プロセスも欠かせません。
建設業者がファイナンス組成と住民調整の両面に踏み込んでこそ、スマートシティの導入は実現フェーズに進めます。
データ連携基盤(都市OS)の構築とセキュリティ
データ連携基盤(都市OS)の構築とセキュリティ担保は、スマートシティ成功のポイントです。技術ありきのテクノロジードリブン型ではなく、住民課題から逆算する課題ドリブン型でガバナンス設計を進めなければ、持続可能な事業モデルが築けません。
海外の先進都市では、官民が連携して強固なデータ連携基盤を整備し、ガバナンスとデータ活用を両立しています。建設業の視点でも、BIMモデルや建物管理データを都市OSに接続する以上、サイバー攻撃や情報漏洩への対策は不可欠です。
日本の都市の未来を再創造するには、構築とセキュリティを両輪で進める設計思想が、スマートシティの基盤を支える要素です。
2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ
2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップは、建設業界が長期戦略を描く上での羅針盤です。国土交通省の「カーボンニュートラル行動計画」や政府の「GX推進戦略」が主軸となり、建物・インフラのライフサイクル排出量を段階的に削減する道筋が示されています。
並走する形で、内閣府のスマートシティ施策も2025年・2030年・2030年以降と区切られ、都市全体のスマート化を進めているのが現状です。「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」と「KPI設定指針」は、Well-beingや防災力など多角的な評価軸を整備しつつあります。
建設業界は自社事業のScope 1〜3削減と街区のスマート化の両軸から脱炭素に挑むべきです。
出典:内閣府/スマートシティ施策のロードマップの公開について
建設業界におけるスマートシティに関する事例
理論やロードマップだけでは、スマートシティの全体像は見えてきません。九州大学箱崎キャンパス跡地のまちづくり、大成建設株式会社と岡崎市が手がける共創事業、株式会社竹中工務店によるオフィスビルストック再生など、すでに動き出しているプロジェクトを通じて、建設業界におけるスマートシティに関する事例について紹介します。
清水建設株式会社
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出典:九州大学箱崎キャンパス跡地地区におけるまちづくり土地利用事業者に正式決定|2026.3.26|清水建設株式会社
大成建設株式会社
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出典:大成建設と岡崎市が先進技術を活用した共創事業第二弾を実施|2023.10.30|大成建設株式会社
株式会社竹中工務店
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出典:オフィスビルストック再生のモデルケース「竹中セントラルビル サウス」開業|2022.10.12|株式会社竹中工務店
まとめ

本記事では、スマートシティが建設業界の脱炭素に不可欠な理由から、最新技術、課題と展望を解説しました。ZEBやエネルギーマネジメントは、まず自社施工物件で街区単位の電力融通を試算するところから始められます。
デジタルツインやスマートグリッドの活用は、BIMモデルの段階で5G通信や太陽光発電設備を組み込む設計に転換することが第一歩です。さらに、ファイナンス手法や都市OSへの接続は、グリーンボンドの活用検討や、自社のBIMデータを共創機構経由で連携させる体制づくりから着手できます。
スマートシティ時代の建設業を主導する戦略を描きたい方は、参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









