業界事例

建設現場で使えるB5燃料寿バイオが示す、廃食油由来BDFの地産地消モデル

建設現場で使えるB5燃料寿バイオが示す、廃食油由来BDFの地産地消モデル

寿バイオがつくるBDFの地産地消モデル

建設現場の脱炭素が業界共通の課題となるなか、既存のディーゼル車両や重機をそのまま使いながらCO₂排出削減に取り組める燃料として、バイオディーゼル燃料(BDF)への注目が高まっています。長野県塩尻市の株式会社寿バイオ(以下、寿バイオ)は、県内の飲食店や学校給食センターなどから使用済み天ぷら油(廃食油)を回収し、BDFへ精製、軽油に5%混合した「B5燃料」として製造・販売まで一貫して手掛けています。

寿バイオは「地域の資源を、地域で活かし、地域に還元する」を基本理念に、約18年にわたり地域循環型のエネルギーモデルを築いてきました。廃食油回収の仕組みづくりから建設現場での活用、自治体との連携、そして今後の展望まで、地域に根差した資源循環の取り組みについて、同社の皆さまにお話を伺いました。

運送会社が始めたBDF事業

寿バイオは有限会社寿昇運(以下、寿昇運)という運送会社の環境事業部から生まれました。創業者が軽トラック一台から始めた運送会社です。仲間が増え、トラックが増え、地域のインフラを支える存在へと成長していくなかで、創業者はある矛盾を感じていました。

「運送業はインフラを支える大事な仕事で、今の生活を支えている。しかし、トラックが増えるということは、その分軽油を使い、CO₂を排出しているということです。今は支えているが、未来の人たちには何も貢献できていないのではないか」その矛盾をどうにか解決できないかと考えていたとき、テレビで目にしたのが、天ぷら油を燃料として再利用する取り組みでした。「『天ぷら油で車が走り、CO₂も削減できる』という取り組みを知り、弊社でも信州の美しい自然を未来へ残すために取り組んでみようと考えたのが、BDF事業を始めたきっかけです」(丸山氏)


専務取締役 丸山氏

BDF事業の開始は約18年前。今期で19年目を迎えます。当初は認知度も低く手探りのスタートでしたが、地域に支えられながら一歩ずつ信頼を積み重ねてきました。

BDFは、使用済み天ぷら油を再利用した再生可能な燃料です。電動化などさまざまな脱炭素の選択肢があるなかで、BDFを軽油に5%混合した「B5燃料」の強みについて、丸山氏は次のように話します。

「電動化では設備の導入や車両の入れ替えが必要になります。また、BDF100%のB100燃料は、車両によっては専門的な知識に加え、適合確認や改造が必要になる場合があります。一方、B5燃料であれば、対象となる車両や使用条件を確認したうえで、既存のディーゼル車両を活かしながら脱炭素の取り組みを始めることができます。新たな設備投資を抑えながら導入しやすいことが大きな利点です」(丸山氏)

回収から燃料化までを地域で完結する仕組み

 寿バイオの回収体制でユニークなのは、営業の専任担当ではなく、社員自らが回収先を開拓していることです。同社では事業開始当初から、グループ全社員55名がチームを組み、1カ月間かけて飲食店などを訪問し、環境保全のために廃食油の回収への協力をお願いする社内イベント「油田王」を毎年開催してきました。

「運送業の社員の中には営業をした経験がない者も多いので、全体会議で名刺交換のやり取りや、飲食店様へのご案内のロールプレイングを行ったうえで、チーム対抗のゲーム感覚で新規の回収先を増やしていきます。私たちは廃食油の回収先を地域の『油田』と呼んでいて、その油田をみんなで増やしていこうという意味を込めて『油田王』と名付けています。こうした活動を通じて、社員自身が地域の資源循環に関わる機会を増やし、環境貢献への意欲を高めることにもつながっています。おかげさまで現在、長野県内で約1,250件から廃食油を回収させていただいています」(丸山氏)

回収体制にも、運送会社を母体とする同社ならではの工夫があります。BDF事業の目的はCO₂削減。しかし、廃食油を回収するためだけにトラックを走らせては本末転倒です。そこで同社は、荷物を届けた後の空荷トラックを活用し、会社へ戻る途中で廃食油を回収する仕組みを構築しました。

「各車両にiPadを載せ、1カ月単位の回収予定をスプレッドシートで共有しています。配送が終わったドライバーが『帰り道にここがあるから回収していこう』と、自ら判断し、主体的に回収してくれています。できるだけ回収のためだけに車両を走らせないことも、私たちが大切にしていることの一つです」(丸山氏)

回収先との関係づくりで大切にしているのは、廃食油を「ごみ」ではなく「資源」として捉える環境意識の共有です。

「契約時には、廃食油をごみではなく地域の資源として活かし、環境に良い燃料を作るという目的と、当社の想いをしっかりお伝えしています。ご協力いただく飲食店様は、単に油を提供していただく回収先ではなく、環境への取り組みを一緒に進めていく大切なパートナーです。そこで、回収にご協力いただくお店には『環境に優しいお店』であることを示すオリジナルシールをお渡しし、店頭に貼っていただいています。廃食油をただ捨てるのではなく、地域の燃料としてリサイクルしていることをお客様にも知っていただき、お店と私たち、そして地域の皆さまで環境意識を高めていければと考えています。『寿バイオが信州にあって良かった』と地域の皆さまに思っていただける会社を目指しています」(丸山氏)

▼「環境に優しいお店」認定シール

回収した廃食油は自社でBDFへ精製し、軽油に5%混合した「B5燃料」として製造。敷地内の給油所での販売やタンクローリーによる配送を行っています。回収先の開拓から回収、精製、B5燃料の製造・販売、そして自らもB5燃料を運送業で使用する。廃食油という地域の資源を、地域で燃料へと生まれ変わらせ、再び地域で活用する。この一貫した循環をグループで完結させている点は、寿バイオならではの大きな特徴です。

松本市・塩尻市と連携する地産地消

同社の循環モデルの特徴のひとつが、自治体との連携です。きっかけは十数年前、隣接する松本市で家庭系廃食油のリサイクル事業が継続困難になったこと。市民が支所や公民館に持ち寄った油の受け皿として、地元で環境に取り組む寿バイオに声が掛かり、給食センターや保育園の廃食油回収も担うことになりました。

その後、B5燃料製造施設の整備を経て、現在は松本市が所有する車両でもB5燃料が使用されるなど、自治体と連携した地産地消の取り組みが広がっています。また、塩尻市における廃食油回収にも関わるなど、地域で発生した廃食油を地域の燃料として活用する循環が着実に広がっています。

地域で発生した廃食油を自治体とともに回収し、その廃食油から生まれた燃料を地域の車両に活用する。そんな「資源とエネルギーの地産地消」が、少しずつ地域の中に根付いています。

ここまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。事業を始めた当初は、BDFそのものを知っていただき、ご理解いただくことからのスタートでした。廃食油を資源として取り扱うための許可取得や製造施設の整備など、さまざまな課題にも一つひとつ向き合ってきました。

そうした中で、地域の皆さまをはじめ、行政や関係する多くの方々に支えていただき、少しずつ事業を形にしていくことができました。「地域の皆さまの理解と協力があったからこそ、今の取り組みがある」と丸山氏は振り返ります。

▼廃食油からBDFを精製

出典:寿バイオWEBサイト

トンネル工事現場で使われるB5燃料

建設現場では、トラックや油圧ショベルなどの重機はもちろん、現場の発電機までディーゼルエンジンが幅広く使われています。B5燃料は、既存のディーゼル車両や重機で導入しやすい燃料として期待されています。対象機種や使用条件、燃料管理方法を確認したうえで活用することで、既存の車両や設備を活かしながら、現場単位でCO₂削減に取り組む選択肢になります。

実際に同社は現在、長野県内のトンネル工事現場へタンクローリーでB5燃料を配送し、現場で稼働する重機へ直接給油しています。大手ゼネコンの現場での採用も進んでおり、導入は一つの現場での実績をきっかけに、別の現場へと広がっているといいます。

「最初に1件、ある現場でやらせていただくと、県内の別の現場の所長さん同士のつながりで『B5燃料を使いたいが、長野県ではどこに頼めばいいのか』と、ご連絡をいただけるようになります。まず1現場でも実績をつくることで、導入のハードルが一気に下がると感じています」(樋口氏)


株式会社寿バイオ 樋口氏

導入面での大きなメリットは、既存の車両や設備を活用しやすいことです。軽油と同様の設備・運用で使用できるため、新たな設備投資を抑えながら切り替えることができます。実際の利用者からは「今までと変わらず安心して使用できる」「軽油から切り替えても違和感がない」といった声が寄せられているほか、「CO₂削減を具体的な行動として示せる」「社員の環境意識向上にもつながった」という評価もあるといいます。

一方で課題となるのが、現場で導入への関心が高まっても、燃料の採用には本社の決裁が必要となるケースが多いことです。環境効果や導入効果、コスト面を分かりやすく示し、社内承認を後押しする情報提供が、普及の鍵になると同社は考えています。

こうした場面で役立つのが、リバスタの「TansoMiru(タンソミル)燃料」です。建設現場で場内給油される燃料について、燃料配送会社からのデータ連携を通じて購買燃料量を把握し、CO₂排出量の算定・可視化を行うことができます。

B5燃料の使用量やCO₂削減効果をデータとして整理し、本社や取引先に説明できる形で示すことは、社内承認や横展開を進めるうえでも重要です。


https://www.tansomiru.jp/spec/energy/

「使ってほしい」から「使いたい」へ。地域循環型エネルギーの可能性

寿バイオが考える「地域循環型エネルギー」とは、地域で発生した廃食油を地域内で回収・精製し、BDFとして再び地域で利用する仕組みです。本来は廃棄される資源を地域のエネルギーとして有効活用する、資源とエネルギーの地産地消です。

▼バイオディーゼル燃料によるCO₂循環の考え方

※植物由来資源を燃料として再利用する循環の概念図。実際のCO₂削減効果を算定する際は、原料回収、燃料製造、配送、使用時の条件なども踏まえて確認する必要があります。
出典:寿バイオWEBサイト

「飲食店さんが『環境のために使ってほしい』と託してくださる油を、社員が一生懸命集めています。その想いを、実際に燃料として使っていただくところまでつなげなければ、そこで循環が途絶えてしまいます。託していただいた想いを地域のエネルギーという価値に変え、今度は企業の皆さまから『この燃料を使いたい』と思っていただけるようにしていきたい。そして、私たちの『信州の美しい自然を未来の子どもたちにつなげる』という想いに共感してくださる企業さまと、パートナーとして一緒に環境貢献に取り組んでいきたいと思っています」(青栁氏)


株式会社寿バイオ 青栁氏

今後はSNSなどを活用した情報発信を強化し、BDFやB5燃料の環境価値や利便性の認知を広げるとともに、地域のガソリンスタンドでもB5燃料を気軽に購入できる環境づくりを目指し、地域企業や関係機関との連携をさらに進めていく考えです。

最後に、建設業界の読者へのメッセージを寿バイオの皆さまに伺いました。

「B5燃料は、既存のディーゼル車両を活かしながら導入することができます。大きな設備変更をせずに始めやすい、脱炭素への第一歩です。ぜひ現場で使っていただきたい。そして、一社一社の企業さまがB5燃料を使うことで、地域で生まれた廃食油がもう一度燃料として活用され、CO₂削減につながっていく。そんな取り組みが地域に広がり、環境を守りながら資源を地域で循環させていく未来を、皆さまと一緒につくっていきたいと思っています」

建設現場では、多くの車両や重機が日々燃料を使用しています。

だからこそ、一つひとつの現場でB5燃料を選ぶことが、着実なCO₂排出量の削減と、地域資源の循環につながります。

「軽油を選ぶ際の新たな選択肢」としてのB5燃料。その背景には、廃食油を託す飲食店、回収する社員、そして地域の自治体まで巻き込んだ、信州発の「地産地消の循環モデル」がありました。地域で生まれた資源を、地域で活かし、地域に還元する。寿バイオの挑戦は、これからも信州の未来へと続いていきます。


株式会社寿バイオの皆さま専務取締役 丸山氏(写真中央)、樋口氏(写真左)、青栁氏(写真右)

※組織名・役職などの情報は取材当時(2026年7月)のものです。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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