建設業界では、環境負荷の低減や人手不足への対応が経営上の重要課題となるなか、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)への注目が高まっています。SXとは、社会課題への対応をコストではなく成長機会と捉え、企業価値の向上と持続可能な社会の実現を同時に目指す経営変革を指します。
本記事では、SXの定義や建設業で求められる背景、大手ゼネコンの最新事例、成功に導くための具体的なステップを解説します。また、サプライチェーン全体でのCO2削減手法や建設テックを活用した省力化についても解説していますので、建設業でSXの導入を検討されている方は参照してみてください。
建設業界におけるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは

SXとは持続可能性を軸に企業活動を変革する考え方ですが、建設業では環境負荷の大きさや人手不足といった業界特有の課題から、必要性が一層強まっているのが現状です。
ここでは、SXの定義や建設業で求められる背景、DX・GX・SDGsとの違いや相互関係について解説します。
SXの定義
SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの2つを両立させ、同期させるための経営・事業変革のことです。
将来の社会の姿から逆算して、自社のありたい姿や目指すべき方向性を定め、企業の稼ぐ力と社会への貢献を共に向上させていく手法を指します。建設業では、脱炭素、人手不足、災害対応といった課題への対応を、受注競争力や新規事業の強化につなげる取り組みとして位置付けられます。
単なる社会貢献活動ではなく、長期的な視点で企業の強みを社会課題の解決に結びつけ、持続的な成長原資を生み出す力を高める経営のあり方です。
なぜ今、建設業でSXが求められるのか
建設業にSXが求められる最大の理由は、次に挙げる複合的な課題を経営レベルで根本から見直す必要があるためです。
| 建設業が抱える課題 | 詳細 |
| 環境 | 資材の製造から施工、建物の運用に至るまでCO2排出量の多い産業であり、脱炭素の実現に向けた抜本的な対策が急がれている |
| 人材 | 就労者の高齢化や慢性的な人材不足、現場での安全担保などの問題も年々深刻さを増している |
| リスク | 自然災害や国際情勢の変化など予測困難なリスクが増加 |
建設業は環境負荷の大きさに加え、担い手不足や災害対応、など複数の経営課題が同時進行しています。このため、資材調達、施工、建物運用、解体まで裾野が広く、サプライチェーン全体での対応が企業価値に直結しやすい業種です。
自然災害や国際情勢の変化など予測困難なリスクが増加する時代においては、不測の事態にも対応できる経営体制を整えることが不可欠です。環境・人材・リスクの観点から、建設業ではSXを通じて事業構造そのものを持続可能な形へと転換していくことが、今まさに求められています。
SXとDX・GX・SDGsとの違いと相互関係
SXは、環境・社会・経済・ガバナンスなど幅広い領域を包括的にカバーする経営変革の枠組みであり、類似する概念とは範囲や目的が異なります。それぞれの違いは次の通りです。
| 要素 | 違い |
| DX | SXを推進するうえでの有力な手段であり、デジタル技術の導入によって変革のスピードと精度を飛躍的に高める |
| GX | 脱炭素や環境分野に焦点を絞った変革であるのに対し、SXはGXを含みつつも企業経営全体の持続可能性を追求する点が特徴 |
| SDGs | 2030年を期限とする国際的な達成目標、SXは社会課題の解決をビジネス機会として取り込み、企業価値を中長期的に高め続ける経営そのものの仕組み |
建設業では、SXを経営の目的、GXを脱炭素の実行領域、DXを実装手段として整理すると理解しやすくなります。SDGsは社会全体の目標であり、SXはそれを自社の競争力向上に接続する経営アプローチといえます。
建設業においては、概念を個別に捉えるのではなく、SXの大きな枠組みのもとでDXやGXを有機的に連携させることが、持続的な競争力の担保につながります。
ゼネコン各社が進めるSXの最新取り組み事例
建設業界では、大手ゼネコンを中心にSXへの取り組みが加速しています。各社は脱炭素戦略を経営の柱に据えるとともに、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減にも着手しています。
さらに建設テックの導入による省力化と持続可能な施工の実現も進んでおり、建設業のSXは具体的な実行段階に入っています。
大手ゼネコン(大林組・鹿島建設・大成建設)の脱炭素戦略
建設業の脱炭素を牽引しているのが、大手ゼネコン各社による先進的なSXの取り組みです。大林組は建物のライフサイクル全体における環境負荷を可視化する独自の算定システムを構築し、設計段階からCO2削減を織り込む仕組みを整えています。
鹿島建設はCO2を吸収する特殊なコンクリートの研究開発や、建物の消費エネルギーを実質ゼロにするZEBの展開に力を注ぎ、技術面から脱炭素を推し進めています。一方、大成建設は人と環境の共生を掲げ、ESG経営の深化と非財務情報の積極的な公開を通じて、ステークホルダーからの信頼獲得と企業価値の向上を両立させていることが特徴です。
各社がそれぞれ異なるアプローチでSXを実践していることは、建設業界全体の脱炭素を多角的に前進させる原動力となっています。
サプライチェーン全体でのCO2排出量削減(スコープ3の管理)
建設業におけるSXを実効性のあるものにするには、自社の直接排出だけでなく、原材料の調達から廃棄までを含むスコープ3の管理が欠かせません。建設業はサプライチェーンが広範にわたるため、協力会社やサプライヤーと連携しながら排出量削減の連鎖を生み出していくことが、業界全体の脱炭素を進めるうえで大きな意味を持ちます。
実際に、施工現場ごとの排出量をデジタル技術によってリアルタイムに把握し、改善につなげる取り組みがすでに始まっています。加えて、TCFDの枠組みに沿って気候変動が自社の事業にもたらすリスクと機会を分析し、対応方針を外部に公表する企業も増えつつあります。サプライチェーン全体を視野に入れた管理体制の構築は、建設業がSXを推進するうえでの重要な基盤です。
出典:環境省/気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
建設テックを活用した省力化と持続可能な施工
建設業がSXを推進するうえで、建設テックの活用は現場の変革を支える中核的な役割を果たしています。次世代の圧入機のように、人と機械、現場の情報をデジタルで連携させ、作業の自動化と省力化を同時に達成する技術がすでに実用段階に入っています。
また、3Dプリンターを用いた住宅建築は、工期の大幅な短縮や建設廃棄物の抑制に寄与するだけでなく、コスト面や耐震性能、法規制への適合など建設業特有の課題を乗り越える新たな選択肢として注目を集めていることがポイントです。
さらにIoTやAIの現場導入が進んだことで、かつて「きつい・汚い・危険」と評された労働環境は改善されつつあり、安全で快適な職場づくりが現実のものとなっているのが現状です。テクノロジーの活用は、建設業におけるSXの推進力を高めると同時に、業界の担い手確保にも好影響を与えています。
建設業がSXを成功させるための3ステップ

建設業がSXを成功に導くためには、段階的かつ戦略的なアプローチが重要です。まず長期ビジョンの策定とKPIの設定により目指す方向を明確にし、デジタルツールの導入で変革を加速させます。
さらに地域課題の解決を新たなビジネス機会へとつなげることで、持続的な成長が実現します。
長期ビジョンの策定とKPIの設定
建設業がSXを推進する第一歩は、経営トップ自らが変革の目的と方向性を明示することです。社会の持続可能性を見据えたうえで、自社が将来どのような姿を目指すのかを定義し、自社の方向性をステークホルダーに対して明確に発信することが出発点です。
掲げたビジョンを実行に移すための具体的なKPIを策定し、進捗を管理できるガバナンス体制を整えることで、投資家をはじめとする外部との建設的な対話が可能です。また、経済産業省が選定するSX銘柄の審査基準などを活用すれば、自社の取り組みが現在どの水準にあるのかを客観的に評価でき、次に注力すべき領域を特定できます。
段階的なアプローチを踏むことが、建設業におけるSXを形だけの宣言に終わらせず、実質的な経営変革へと昇華させるポイントです。
出典:経済産業省/SX銘柄 ~持続的な企業価値向上のための経営・事業変革を目指して~
デジタルツール導入
SXを着実に前進させるには、デジタルツールの活用による業務変革が不可欠です。例えば、Web受発注システムを取り入れることで、紙ベースのやり取りが解消され、環境負荷の低減と事務工程の効率化を一度に達成できます。
また、CO2排出量などのデータ収集や算定を自動化するサービスを利用すれば、限られた人員と時間のなかでも、客観的な根拠に基づいたサステナビリティ報告が可能です。さらに、現場の労務状況や原価をリアルタイムに把握できるITツールを導入することで、働き方の改善と収益管理の精度向上を同時に実現できます。
建設業では現場と事務所の情報連携に課題を抱えるケースが一般的なため、デジタルツールの段階的な導入がSX推進の実行力を大きく左右します。
地域課題の解決を新ビジネスにつなげる
建設業におけるSXの価値は、地域が抱える課題をビジネス機会へと転換できる点にあります。地方の中小建設企業にとって、増加する空き家への対応や老朽化したインフラの維持管理など地域特有の問題に関与することは、社会貢献と新たな収益基盤の担保を両立させる有効な手段です。
取り組みを始める際は、自社が持つ技術や知見を活かせる小さな領域から着手し、実績を積みながら段階的に事業範囲を広げていくことが成功への近道です。加えて、地方創生や東京一極集中の是正に資する事業を展開し、地域に根差した企業文化を育てることは、若い世代の採用や定着にも好影響をもたらします。
建設業がSXを通じて地域社会との共生を深めることは、業界全体の持続可能な発展を支える重要な柱となり得ます。
建設業界におけるSXに関する事例
建設業界では、SXの考え方を経営に取り入れ、具体的な成果を上げている企業が増えています。ここでは、建設業におけるSXの実践事例について紹介します。
清水建設株式会社
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出典:油圧ショベルによる土砂掘削・ダンプ積載作業を自動化|2025.6.6|清水建設株式会社
株式会社竹中工務店
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出典:構造設計をクリエイティブに 「構造設計AIシステム」を開発|2023.9.19|株式会社竹中工務店
株式会社フジタ
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出典:IoT で重機土工の「全工程見える化」を実現|2017.9.5|株式会社フジタ
まとめ

本記事では、建設業におけるSXの定義やDX・GX・SDGsとの違い、大手ゼネコンの脱炭素戦略やサプライチェーン全体でのCO2削減について解説しました。建設業は環境負荷の大きさや人手不足など業界特有の課題を抱えており、SXによる経営変革は今後ますます重要性を増していきます。
長期ビジョンの策定からデジタルツールの導入、地域課題をビジネスに転換する取り組みまで、自社の状況に合った段階的なアプローチが成功のポイントです。建設業でSXの推進を検討されている方は、参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









