建設業界では脱炭素経営への対応や自社保有リソースの新たな収益化が経営課題となっており、再生可能エネルギーと蓄電池を束ねて活用する特定卸供給事業への関心が高まっています。
2022年に届出制度が始まった特定卸供給事業の仕組みは、アグリゲーターが分散型電源を統合制御して電力市場へ供給するものであり、オフサイトPPAの実現やZEB物件の価値向上、余剰電力の収益化など建設業の実務にも直結するテーマです。
本記事では、特定卸供給事業の基礎知識とアグリゲーターの役割、建設業が導入するメリットと活用シーンについて解説します。また分散型エネルギーの展望や届出と実務上の注意点も解説していますので、脱炭素経営と新規事業を推進する建設業の方は参照してみてください。
特定卸供給事業の基礎知識とアグリゲーターの役割

エネルギー供給強靱化法の改正により新たに創設された特定卸供給事業は、分散型電源を束ねて電力市場へ供給する新しい仕組みとして注目を集めています。再生可能エネルギーの導入拡大を支える重要な枠組みとしての制度の定義と届出義務、アグリゲーターの役割、小売電気事業者との違いについて解説します。
制度の定義と届出義務
特定卸供給事業を営もうとする事業者は、経済産業大臣への事前届出が法律で義務づけられています。届出制度は2022年4月1日にスタートしたもので、再生可能エネルギーや分散型電源の活用推進、電力需給の柔軟な調整を目的として創設された新しい枠組みです。
発電設備などの発電要素と蓄電池といった需要要素を組み合わせて制御し、集約した電気を卸電力取引市場や小売電気事業者へ販売する事業が対象です。
出典:資源エネルギー庁/特定卸供給事業にかかる届出義務について
アグリゲーターの役割
アグリゲーターとは、需要家側に点在する分散型エネルギーリソースを束ね、仮想的にひとつの発電所として機能させる重要な役割を担う事業者です。太陽光発電や蓄電池、電気自動車といった小規模なリソースを遠隔で統合制御することで、電力の需給バランスを柔軟に調整し、系統全体の安定供給に貢献する仕組みです。
建設業界においても、現場事務所の屋根に設置した太陽光パネルや重機用蓄電池などがリソースとして活用される可能性があり、ゼロエネルギービル(ZEB)推進の観点からも注目されています。
特定卸供給事業の制度化により、電気事業法上に明確な位置づけがなかったアグリゲーターと呼ばれる担い手が正式に法的な根拠を得ています。
小売電気事業者との違い
特定卸供給事業者と小売電気事業者は、どちらも電力に関わる事業者ですが、役割と取引相手が明確に異なります。
事業者役割と取引相手特定卸供給事業者
| ● 分散する太陽光発電や蓄電池などを集約し仮想的な発電所として運用する存在
● 電気を卸す先は卸電力取引市場や小売電気事業者 |
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| 小売電気事業者 | 一般家庭や企業といった需要家へ直接電気を販売する立場 |
特定卸供給事業者は需要家への小売は行わず、法人が保有する蓄電池などのリソースを提供して対価を得る新しい協力関係を生み出す担い手です。両者は電力供給の流れの中で異なる階層を担っています。
建設業が特定卸供給事業を導入するメリットと活用シーン
建設業界では脱炭素への対応が急務となる中、特定卸供給事業の仕組みを活用することで、新たな価値創出と経営課題の解決につなげられます。
建設業が特定卸供給事業を導入するメリットと活用シーンについて解説します。
オフサイトPPAの実現
オフサイトPPAは、離れた場所にある再生可能エネルギー電源から需要家へ電気を供給する契約形態であり、特定卸供給事業の制度活用によって実現の幅が広がります。アグリゲーターが中小規模の再エネ電源を集約してバーチャルパワープラント(VPP)として管理することで、単独では供給力が不足していた太陽光発電所なども、まとまった電源として需要家に電気を届けられるためです。
建設会社が手がけた複数の太陽光発電所をアグリゲーターが束ね、オフィスビルや工場へ再エネ電力を供給する仕組みが構築できます。特定卸供給事業の枠組みは再エネの主力電源化を後押しし、分散型電源を有効活用する法的基盤として期待されており、建設業界にとっても脱炭素経営を推進する有力な選択肢です。
関連記事:オンサイトPPAとは|オフサイトPPAとの違いやメリット・デメリット、建設業との関連について
物件の脱炭素価値の向上
特定卸供給事業の枠組みを取り入れることで、建設会社が手がける物件の脱炭素価値を高められます。アグリゲーターとして再生可能エネルギーを束ねて需給バランスを調整する仕組みは、分散型電源を効率的に運用し環境価値を最大化する手段となるためです。
建物の屋上に設置した太陽光発電や蓄電池などをアグリゲーターが統合制御することで、ZEBやネット・ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)としての価値を裏付ける再エネ電力を安定的に供給できます。
テナントや購入者が求める脱炭素対応の要件を満たしやすくなり、物件の資産価値や競争力の向上に直結します。脱炭素社会の実現に貢献しながら、顧客企業の環境経営を支援できる点は建設業にとって大きな強みです。
余剰電力の有効活用
特定卸供給事業は、再生可能エネルギー由来の余剰電力を無駄なく活用する有効な手段として注目されています。なぜなら、特定の発電所で生み出された電気を定められた期間に特定の供給先へ卸す仕組みは、FIT制度の買取期間を終えた電源や自家消費しきれない再エネ電力の受け皿となり、電源価値を最大限に引き出せるためです。
県営の水力発電所や公共施設に設置された太陽光発電の余剰分を地域新電力会社へ特定卸供給事業として提供することで、地産地消型のエネルギー循環の実現も期待できます。建設会社が保有する遊休地に設置したメガソーラーや現場事務所の屋根上太陽光なども同様に活用できます。
余剰電力を地域還元することで再エネの付加価値を地域内で循環させることは、企業のESG評価向上にもつながる取り組みです。
特定卸供給事業の届出と実務上の注意点

特定卸供給事業を開始するには、制度が定める所定の手続きを踏む必要があり、実務面でもいくつかの注意点を押さえておくことが重要です。アグリゲーターとして電力供給に関わる以上、適切な体制整備と継続的な対応が求められます。
ライセンス取得の要件
特定卸供給事業のライセンスを取得するには、経済産業大臣への届出手続きが必須です。届出制度では、事業者が適切に分散型エネルギーリソースを管理・運用できる体制を備えているかを確認するため、所定の書類提出と要件の充足が求められます。
事業の名称や住所、供給に用いる発電要素や需要要素の概要などを記載した書類を記載要領に従って準備し、チェックリストで内容を確認したうえで提出しなければなりません。建設会社が自社保有の太陽光発電所や蓄電池を活用してアグリゲーター事業に参入する場合も、同様の手順を踏む必要があります。
届出が完了した事業者は資源エネルギー庁のWebサイトで公開されているため、事前に同業者の動向を確認しておくと実務に参照できます。
供給計画の作成と提出
特定卸供給事業者には、年度ごとに電力広域的運営推進機関(広域機関)へ今後10年間の供給計画を提出する義務が課されています。供給計画制度は、電力の安定供給と需給バランスの担保を目的として設けられており、事業者側の見通しを広域的に把握することで電力システム全体の運用に役立てる狙いがあります。
提出にあたっては、所定の届出様式に従って電気の供給見通しや発電設備・蓄電池などの設備計画を具体的に記載し、案を送付したうえで広域機関システムを通じて本届出を行う二段階の手続きが必要です。
提出期日は法令で定められているため、特定卸供給事業を営む事業者は年間スケジュールに組み込んで計画的に準備を進めることが求められます。期日超過は是正指導の対象となる可能性もあるため、社内体制の整備が欠かせません。
出典:電力広域的運営推進機関/2026年度供給計画の提出(特定卸供給事業者)
サイバーセキュリティ対策
特定卸供給事業を営むうえで、サイバーセキュリティ対策は避けて通れない重要な実務課題です。アグリゲーターは分散型エネルギーリソースを遠隔で統合制御するため、電力制御システムが攻撃を受けると広範囲の需給調整に支障をきたしかねません。ライセンス申請時にも、セキュリティ対策の実施状況を報告することが義務づけられています。
電力制御システム全般に関する一般要件に加え、アグリゲーション事業固有の対策についても遵守状況を示さなければなりません。建設業界でも現場事務所のIoT機器や施工管理システムを通じた情報漏えいリスクが高まっており、同様の視点での備えが求められる場面が増えています。
電力事業とサイバーセキュリティ双方への専門的知見が求められる難しい領域であり、関係各所との連携体制を構築しながら継続的に対応していく姿勢が欠かせません。
特定卸供給事業を活用した分散型エネルギーの展望
特定卸供給事業の制度創設により、個別に点在していた分散型エネルギーリソースを統合的に活用する道筋が整いつつあります。再生可能エネルギーの主力電源化と電力需給の柔軟な調整を両立させる新たなビジネスモデルとして、今後さらなる広がりが期待される分野です。
VPPによる収益化、蓄電池との相乗効果について解説します。
VPPによる収益化
バーチャルパワープラント(VPP)は、特定卸供給事業の枠組みを活用することで収益化の道が開かれつつあります。分散する多数の小規模エネルギーリソースをアグリゲーターが集約し、あたかもひとつの大きな発電所のように機能させることで、需給調整市場や卸電力取引市場での売買対象として価値を生み出せるためです。
ディマンドリスポンス(DR)の仕組みと組み合わせて需要側の電力使用を調整したり、発電側リソースの出力を制御したりすることで調整力として市場取引に充てられます。建設会社が保有する自家消費型太陽光発電や現場用の蓄電池なども、特定卸供給事業者と連携すればVPPの構成リソースとして収益を得る対象です。
蓄電池との相乗効果
蓄電池と特定卸供給事業を組み合わせることで、再生可能エネルギーの変動性を克服する相乗効果が生まれます。太陽光発電や風力発電は天候に左右されて出力が不安定ですが、蓄電池を需要要素として組み込み充放電を制御すれば、余剰時に蓄えて不足時に放電することで出力変動を吸収し、系統全体の安定化に貢献できます。
建設現場の仮設電力用に設置された産業用蓄電池や、完成した建物に備え付けられた定置型蓄電池などをアグリゲーターが遠隔制御し、VPPの調整リソースとして活用する仕組みがポイントです。蓄電池オーナーは容量提供の対価を得られるほか、新たな電力メニューの実現や効率的なエネルギーマネジメントの提供にもつながります。
特定卸供給事業と蓄電池の組み合わせは、分散型エネルギー社会を支える中核的な仕組みです。
建設業界における特定卸供給事業に関する事例
建設業界でも脱炭素経営やエネルギーマネジメントへの関心が高まる中、特定卸供給事業への参画や再生可能エネルギー活用に取り組む企業が増えています。
自社保有のリソースを生かした新たな事業展開として、業界全体に波及効果をもたらす動きを紹介します。
株式会社大林組
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出典:自社開発の物流施設屋根上を活用したフィジカルPPAに着手|2026.2.26|株式会社大林組
戸田建設株式会社
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出典:五島洋上ウィンドファームの再エネ電気を活用した「地産地消モデル」の運用を開始|2026.1.5|戸田建設株式会社
まとめ

本記事では、特定卸供給事業の基礎知識とアグリゲーターの役割、建設業が導入するメリットと活用シーンについて解説しました。建設業界においては、保有する自家消費型太陽光発電や現場用蓄電池などをアグリゲーターと連携させることで、VPPの構成リソースとしての収益化や、ZEB・ZEH物件の脱炭素価値向上につなげられます。
まずは自社リソースの棚卸しを行い、オフサイトPPAの契約機会や供給計画の整備、サイバーセキュリティ体制の構築から着手することが実務上の第一歩です。脱炭素経営と新たな収益源の担保を目指す方は、ぜひ参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









