脱炭素社会への移行が加速する建設業界では、構造材のCO2排出量削減や国産材の活用拡大が大きな論点となっており、解決策としてCLT建築が存在感を高めています。一方で、坪単価や施工ノウハウ、補助金活用など、実務で直面する判断材料は少なくありません。
本記事では、CLT建築の基本構造と特徴、建設業が採用する実務的メリットと課題、コスト構造と活用可能な補助金制度について解説します。また、設計・施工のポイントも解説していますので、CLT建築の導入を検討している建設会社の方は参照してみてください。
目次
CLT建築とは?脱炭素社会で注目される基本構造と特徴

脱炭素社会の実現に向け、建設業界では木材活用への期待が高まっており、なかでもCLT建築は低環境負荷と高い構造性能を両立する工法として注目されています。
集成材との違いを踏まえたCLTの定義、脱炭素への貢献度、公共建築物等木材利用促進法との関連性について解説します。
CLTの定義と集成材との違い
CLT建築で用いられるCLTは、ひき板(ラミナ)の繊維方向を層ごとに直交させて接着した大判の木質パネル建材です。ラミナを並行に積層する一般的な集成材とは異なり、直交積層構造を採用することで高い強度と寸法安定性を同時に担保できる点が異なります。
厚みのある大型パネルへ加工できるため、壁体としての耐力に加え、従来の木材にはない断熱性や耐火性も備えており、多機能な構造用建材として位置づけられています。
脱炭素への貢献度
CLT建築は、脱炭素社会の実現に向けて極めて高い貢献度を持つ工法です。木材は成長過程でCO2を吸収・固定する性質があり、CLTを構造材として採用した建築物は炭素を長期間貯蔵する都市の森林としての機能を果たします。
建設業における具体例では、RC造や鉄骨造と比べて、セメント製造や鉄鋼加工に伴うCO2排出量を大幅に削減できる点が特徴として挙げられます。さらに、国産材の活用を通じて「植える・育てる・使う」の森林資源の循環利用を促進するため、林業の再生とSDGs達成の両面に直結する取り組みです。
出典:林野庁/CLTをめぐる情勢~ 地方創生と林業の成長産業化に向けて ~
公共建築物等木材利用促進法の関連性
CLT建築の普及において、公共建築物における木材利用促進法が追い風となっています。2021年の法改正によって対象範囲が公共建築物から民間建築物へ拡大され、国を挙げた「都市の木造化」が推進されるようになりました。
結果として、オフィスビルや商業施設など中大規模建築物へのCLT採用が後押しされています。さらに、本法は国産材の積極活用を促す仕組みであるため、日本の豊富な森林資源を有効活用し、林業や木材産業の活性化、地方創生の鍵としての役割も期待されています。
出典:林野庁/公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律 概要
CLT建築を建設業が採用する実務的メリットと課題
建設業界では人手不足や工期遅延が深刻化するなか、CLT建築は生産性向上と品質担保を両立する有力な選択肢として注目を集めています。建設業がCLT建築を採用する実務的メリットと課題について解説します。
施工期間の短縮と現場省人化
CLT建築の実務的メリットは、施工期間の短縮と現場省人化を同時に実現できる点です。工場で高精度にプレカットされたパネルを現場に搬入し金物接合していく方式を採るため、型枠設置や鉄筋組立、コンクリート打設などRC造特有の工程が不要になり、現場作業を大幅に簡略化できます。
また、コンクリートの養生期間を必要としない乾式工法であることから、標準的な工期の2〜3割程度の短縮が可能です。熟練技能者不足への有効な対策となるうえ、現場依存度の低下により施工品質の均一化も図れます。
軽量化による基礎工事の合理化
CLT建築は軽量性に優れ、基礎工事の合理化に直結します。CLTの重量はコンクリートの約5分の1と非常に軽く、建物自重を軽減できる点が特徴です。軽量化によって地震時に建物へ作用する地震力が抑制されるため、耐震設計上も有利に働きます。
建設業の実務では、軟弱地盤で本来必要となる杭打ちや地盤改良の規模を縮小できるケースも多く、基礎工事の簡素化と工事コストの削減につながります。従来RC造では採算が合わなかった敷地条件でも計画が成立しやすくなり、建築の可能性を広げる工法です。
耐火・断熱性能の技術的根拠
CLT建築が実務で採用される技術的根拠の一つが、耐火性能と断熱性能の高さです。厚みのあるCLTパネルは、火災時に表面が炭化しても内部まで燃え進みにくい「燃え止まり効果」を発揮し、構造材として必要な耐火性能を担保できます。
また、木材本来の熱伝導率の低さはコンクリートの約10倍の断熱性をもたらすとされ、CLTパネル自体が優れた断熱層として機能します。CLTの高い断熱性能は、冷暖房負荷の低減による省エネルギー効果に加え、壁体内結露の抑制にもつながるため、構造体の劣化を防ぎ建物の長寿命化を支える根拠となることもメリットの一つです。
出典:国土交通省/CLTを用いた建築物の一般的な設計法等の策定について
CLT建築のコスト構造と活用可能な補助金制度

CLT建築は多くのメリットを持つ一方で、導入を検討する際にはコスト面の実態把握と活用可能な支援制度の理解が不可欠です。CLT建築のコスト構造と活用可能な補助金制度について解説します。
坪単価の現状とコストダウンの秘訣
CLT建築のコスト構造を理解するうえで重要なのは、パネル単体の価格とトータルコストを分けて考える視点です。現状、CLTパネルの製品価格はコンクリートや鉄骨といった汎用資材と比較して高額になりやすい傾向があります。
一方で、乾式工法による工期短縮で仮設足場や現場管理費などの仮設費を削減でき、木肌を活かした「現し仕上げ」を採用すれば、石膏ボードや仕上げ材など内装工事費も大幅に圧縮可能です。
加えて、設計の初期段階からCLTの規格寸法を踏まえたモジュール設計を行えば、パネルの歩留まりが向上し、端材の発生を抑えてコストダウンを実現できます。
最新の補助金・助成金情報
CLT建築の導入にあたっては、国や関係省庁が展開する複数の補助金・助成金制度を効果的に活用することが重要です。林野庁が所管する「CLT活用建築物等実証事業」では、先導的な取り組みを対象に設計費や資材費への支援が行われており、普及拡大を後押ししています。
また、「JAS構造材実証支援事業」では国産JAS材の利用に対し一定の助成が受けられるため、調達コストの負担軽減に直結します。さらに、ZEBなど脱炭素建築としての認証を取得すれば、環境省が所管する補助金と併用できるケースも多く、建設業の実務においては複数制度の組み合わせが採用判断のポイントです。
関連記事:建設業に助成金・補助金はある?申請方法や必要書類も解説
LCC(ライフサイクルコスト)の視点
CLT建築の経済性を正しく評価するには、建設時の初期費用だけでなく、LCC(ライフサイクルコスト)の視点が欠かせません。LCCとは、建設・運用・修繕・解体までの全期間に発生するコストを合算した指標で、建設業ではRC造の大規模修繕費や解体時の産業廃棄物処理費なども含めて総合判断することが求められます。
CLT建築は高い断熱性能による運用時の省エネ効果、木質材料ならではの解体・リサイクル容易性により、LCCを抑制しやすい工法です。さらに、脱炭素建築の特性はESG経営に取り組む企業の資産価値向上や投資呼び込みの武器となり、適切なメンテナンスを行えばRC造に劣らない耐久性を長期的に維持できます。
CLT建築の設計・施工のポイント
CLT建築を成功させるためには、設計段階から施工・維持管理まで次に挙げる視点で計画を進めることが不可欠です。
- 設計における構造と性能の最適化
- 施工計画と現場管理の効率化
- 耐久性を高めるメンテナンス・防水対策
3つの観点から、CLT建築の設計・施工のポイントについて解説します。
1. 設計における構造と性能の最適化
CLT建築の設計では、構造性能と意匠性、環境性能を同時に最適化する総合的な視点が求められます。CLTパネルはラミナを直交積層した大判材であるため、壁・床・屋根の各部位に合わせて厚みや層構成を選定することで、耐震性や遮音性を効率的に担保できます。
建設業の実務では、規格寸法を踏まえたモジュール設計を行い、開口部や接合部の位置をあらかじめ調整することで、歩留まりの向上と構造的な合理性を両立させることが重要です。さらに、RC造や鉄骨造との混構造を採用すれば、高層化や大スパン空間の実現にもつながり、用途に応じた柔軟な設計が可能です。
2. 施工計画と現場管理の効率化
CLT建築における施工計画と現場管理の効率化は、工期短縮とコスト抑制を実現するポイントです。CLTは工場で高精度にプレカットされたパネルを現場で金物接合していく乾式工法であるため、搬入タイミングや揚重計画を事前に綿密に組み立てることが重要です。
クレーンの配置計画や搬入車両の動線確保、パネル仮置きスペースの確保といった事前検討が工程の円滑化に直結します。また、BIMを活用した施工シミュレーションを取り入れれば、取り合い部の干渉チェックや手戻り防止にも有効です。
3. 耐久性を高めるメンテナンス・防水対策
CLT建築の耐久性を担保するには、施工中から竣工後まで一貫した防水対策とメンテナンス計画が不可欠です。施工段階では、雨に濡れることでカビやシミ、強度低下の原因となるため、シート養生やルーフィングによる迅速な防水管理を最優先に行わなければなりません。
次に、金物接合部は熱橋となりやすく内部結露から腐食に至るリスクがあるため、建設業の現場では気密テープや断熱処理を確実に施し、湿気の侵入経路を徹底的に遮断することが重要です。さらに、竣工後を見据え、点検口の適切な配置や外装の塗り替え時期を明記した維持管理計画書を策定しておけば、木材の状態を定期的に視認でき、長期にわたり構造性能を維持できます。
建設業界におけるCLT建築に関する事例
CLT建築は多様な用途で実用化が加速しています。木造化・木質化技術で先行する清水建設株式会社、大成建設株式会社、株式会社竹中工務店の取り組みを通じて、建設業界におけるCLT建築の実装状況と今後の展望について紹介します。
清水建設株式会社
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出典:CLTパネル工法で国内最大級・スパン18mの無柱大空間を構築|2022.9.28|清水建設株式会社
大成建設株式会社
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出典:CLT構造による国内最大級の建築空間「T-WOOD® SPACE」を構築|2019.4.15|大成建設株式会社
株式会社竹中工務店
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出典:CLTを活用した大規模・高層建物に適用可能な耐震壁技術「KiPLUS WAVY」を開発|2024.11.5|株式会社竹中工務店
まとめ

本記事では、CLT建築の基本構造や脱炭素社会における意義、建設業が採用する実務的メリットと課題、コスト構造と活用可能な補助金制度、設計・施工のポイントについて解説しました。
建設業の実務においては、自社プロジェクトでのCLT適用可能性の検証、乾式工法を前提とした工期短縮や基礎工事合理化の試算、補助金制度を組み込んだ事業計画の立案、モジュール設計やBIM活用、防水・メンテナンス計画を盛り込んだ施工体制の構築などが、着手できる具体的な取り組みです。CLT建築の導入を検討している方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









