建設業界では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、新築・既存建築物双方での再エネ導入が大きな論点となっています。しかし、都市部ビル屋上スペースの限界や、耐荷重の小さい既存屋根への設置制約など、従来のシリコン系太陽電池では解決が難しい課題も多く存在します。そこで注目を集めているのが、軽量・柔軟で建材一体化が可能な次世代技術「ペロブスカイト太陽電池」です。
本記事では、ペロブスカイト太陽電池が建設業界にもたらす革新や、メリットと建設現場での利点、実用化時期と今後の動向を解説します。また、導入に向けた現在の課題や建設業界における具体的な事例も紹介していますので、活用を検討している方は参照してみてください。
目次
ペロブスカイト太陽電池が建設業界にもたらす革新

ペロブスカイト太陽電池は、建設業界の脱炭素を加速させる次世代技術として注目されています。軽量で柔軟な特性により、窓や外壁を発電装置に変える建材一体型(BIPV)への活用、耐荷重制限のある既存屋根への設置、さらに都市部ビルにおけるZEB達成に向けた新たな選択肢として、建設現場に革新をもたらす可能性を秘めている電池です。
ペロブスカイト太陽電池が建設業界にもたらす革新について解説します。
建材一体型(BIPV)への活用
建材一体型(BIPV)は、ペロブスカイト太陽電池の特性を最大限に活かせる活用方法として、建設業界で期待を集めています。なぜなら、従来のシリコン系太陽電池では実現が難しかった、発電機能と意匠性の両立が可能になるためです。
窓ガラスにそのまま組み込んで採光と発電を同時に実現したり、外壁パネルやマンションのバルコニーに透過性のある発電層を配置したりと、建物のデザインを損なわずに創エネが行えます。
サイズや透過度、色味の自由度が高く、業界トップクラスの変換効率を持つガラス建材として、都市部のビルやマンションへの設置拡大も視野に入ります。さらに、環境省は政府部門への率先導入を方針化しており、建材一体型ペロブスカイト太陽電池は今後の公共建築物にも広く採用される見通しです。
出典:環境省/政府部門におけるペロブスカイト太陽電池の率先導入について
荷重制限のある既存屋根への設置
ペロブスカイト太陽電池は、荷重制限のある既存屋根への設置という難題を解決する切り札として、建設業界で実用化が進んでいます。フィルム状に加工することでシリコン系太陽電池の約10分の1の圧倒的な軽さを実現でき、構造補強なしで設置できる可能性が広がることが特徴です。
築年数の経った工場や物流倉庫の屋根など、構造計算上シリコン型では設置が認められなかった建物にも、補強工事を伴わずに導入できるケースが想定されます。建設現場でも軽量化は施工時間の短縮や作業員の安全性担保に直結する重要な要素です。
さらに厚さがシリコン型の100分の1程度のため、屋根だけでなく壁面や曲面、窓周りなど多様な部位にも適用できます。ペロブスカイト太陽電池は既存建築物のストック活用と再エネ導入を両立する、実用性の高い技術です。
ZEB達成に向けた新たな選択肢
ペロブスカイト太陽電池は、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)達成に向けた新たな選択肢として、建設業界で注目を集めています。ビルの壁面や窓ガラスなど従来は活用が難しかった部位を発電面に変えられるため、屋上スペースが限られる都市部の建物でも創エネ量を担保できます。また、窓ガラスにシースルータイプを採用すれば、採光性を維持しながら発電も可能です。
さらに、高層ビルの外壁全面にフィルム型を貼り付けることで、ZEB Ready以上の基準達成が現実的な選択肢となることも特徴です。建設業界では新築のみならず、既存ストックの省エネ改修が大きなテーマであり、外壁への後付けが容易なペロブスカイト太陽電池はリノベーション工事との相性も抜群です。
ペロブスカイト太陽電池のメリットと建設現場での利点
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系では実現できなかった革新的な特性を備え、建設現場に多くの利点をもたらす次世代技術として期待されています。ペロブスカイト太陽電池のメリットと建設現場での利点について解説します。
軽量・柔軟な形状
ペロブスカイト太陽電池の特徴は、軽量・柔軟な形状です。プラスチック基板などを用いることで薄くしなやかに加工でき、シリコン系では設置が困難だった曲面屋根やドーム型構造の建築物にも適用できます。
アーチ型の体育館屋根、円筒形のタンク壁面、複雑な意匠を持つランドマークビルなど、太陽光発電を諦めていた現場でも導入が可能です。建設現場の視点で見ると、軽量化は資材運搬の負担軽減や高所作業時のリスク低減にも直結し、施工コストや工期の短縮にも寄与する重要な要素です。
フィルム状であるため、ロール状で持ち込んで現場でカット・貼り付けるなど柔軟な施工方法も実現できます。ペロブスカイト太陽電池は形状の自由度と施工の簡便さを兼ね備え、建設業界における再エネ導入の幅を大きく広げる革新的な技術です。
微弱な光での発電効率
ペロブスカイト太陽電池は、微弱な光での発電効率に優れている点も魅力です。なぜなら、低照度環境下でも電子の移動損失が少なく、曇天や夕方の弱い光、さらには室内のLED照明下でも安定した発電性能を発揮できるからです。
シリコン系太陽電池では発電量が大きく落ち込む雨天や朝夕の時間帯でも、ペロブスカイト太陽電池は一定の出力を維持できる特性を持ちます。隣接ビルの影になる北側壁面や、日射条件が不利とされてきた低層階の外壁にも設置できるため、従来は諦めていた発電スペースを有効活用できます。
都市部の高密度な建築環境では特にメリットが大きく、年間を通した発電量の積み上げに貢献できることもメリットの一つです。ペロブスカイト太陽電池は天候や設置方位の制約を緩和し、都市建築における再エネ導入効率を飛躍的に向上させる技術です。
主原料の国内調達
ペロブスカイト太陽電池は、主原料の国内調達が可能である点で、シリコン系太陽電池とは一線を画す優位性を持ちます。発電層の主原料となるヨウ素について、日本は世界シェア約3割を占める世界第2位の産出国であり、自国内で担保できる体制が整っているからです。
シリコン型では原材料を特定の輸入先に依存せざるを得ず、国際情勢や為替の影響を受けやすい構造でした。一方で、ペロブスカイト太陽電池は経済安全保障の観点からも国産化のメリットが大きいといえます。
近年、サプライチェーン途絶による資材価格の高騰や納期遅延が深刻な課題となっており、国内資源を活用できる発電材料は長期的なコスト安定や工程管理の予見性向上にもつながります。国内サプライチェーンが堅牢化すれば、産業競争力の強化にもなることがメリットです。
出典:資源エネルギー庁/日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?
ペロブスカイト太陽電池の実用化時期と今後の動向

ペロブスカイト太陽電池の実用化は、政府主導で具体的なロードマップが描かれており、社会実装の段階に着実に近づいています。環境省は2025年度から自治体や民間事業者向けの導入支援補助金事業を開始しており、経済産業省も2030年までにGW(ギガワット)級の生産体制を構築するための大規模な投資支援を計画しているのが現状です。
約1,600億円規模の補助金が見込まれており、2040年までに補助金に依存しない普及水準を達成する長期目標も「次世代型太陽電池戦略」として明文化されています。建設業界にとっては、国策の動きが事業計画に与える影響は大きく、ZEB案件や脱炭素改修プロジェクトを受注する際の競争力にも直結しかねません。
早い段階で施工ノウハウや製品知識を蓄積した企業が、将来的な市場拡大の波に乗ることが見込まれます。ペロブスカイト太陽電池は政策と産業界が一体となって普及を加速させる、極めて戦略的な再エネ技術といえます。
出典:経済産業省/次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会 次世代型太陽電池戦略
ペロブスカイト太陽電池導入に向けた現在の課題
ペロブスカイト太陽電池は大きな可能性を秘めている一方で、本格的な社会実装には乗り越えるべき技術的な壁も残されています。ペロブスカイト太陽電池導入に向けた現在の課題について解説します。
耐久性と寿命の向上
ペロブスカイト太陽電池の課題は、耐久性と寿命の向上です。発電層に用いるペロブスカイト結晶は水分や酸素、熱に弱く、屋外環境で長期間使用するためには高度な封止技術の確立が不可欠です。
シリコン系太陽電池が20〜30年の使用実績を持つのに対し、現在のペロブスカイト太陽電池は同等レベルの長期耐久性をまだ実証できていません。太陽電池を建材として扱う場合、建物の耐用年数に近い長期保証が求められるため、信頼性の向上は採用判断の決定的な要素です。
国内メーカーでは積水化学工業が独自の封止技術により10年相当の屋外耐久性をすでに達成し、シリコン系と同等の20年相当の実現を目指す方針を打ち出すなど、実用化に向けた研究開発が加速しています。
出典:積水化学工業株式会社/ペロブスカイト太陽電池事業説明会
大面積化と発電効率の両立
ペロブスカイト太陽電池のもう一つの課題は、大面積化と発電効率の両立です。実験室レベルの小面積セルでは20%を超える高い変換効率が記録されている一方、実用的な大型モジュールに拡大すると効率が大きく低下してしまう傾向があるからです。
ペロブスカイト結晶を広範囲にわたって均一な薄膜として形成することが技術的に難しく、ムラや欠陥が発生すると発電性能が落ちます。工場屋根やビル外壁など広い面積に展開する以上、量産規模での性能維持は避けて通れない条件です。
インクジェット印刷やロール・ツー・ロール製法など、広範囲に均一な膜を形成できる革新的な製造プロセスの研究開発が進んでいます。大面積化と効率維持を同時に達成できれば、製造コストの低減と一気通貫の普及が現実化します。
安全性への配慮(鉛フリー化)
ペロブスカイト太陽電池の本格普及にあたっては、安全性への配慮、特に鉛フリー化が重要な論点です。発電層に微量の鉛が含まれているため、パネル破損時の溶出防止策や使用済み製品のリサイクル体制の構築が、建材として広く採用される前提条件です。
京都大学の研究グループがスズを代替材料とした鉛フリー型ペロブスカイト太陽電池で世界最高水準となる23.6%の変換効率を達成するなど、環境負荷を抑えた次世代材料の開発が急速に進展しています。
建設業界では、建材として施工する以上、建物の解体・改修時に発生する廃棄物の適正処理が事業者責任として問われるため、ライフサイクル全体での安全管理体制が不可欠です。さらにRoHS指令などの国際的な環境規制への適合を見据えた材料開発も並行して進んでおり、今後の制度設計が注目されます。
ペロブスカイト太陽電池の安全性向上は、社会受容性を左右する重要なテーマといえます。
出典:京都大学/スズを含むペロブスカイト太陽電池:23.6%の世界最高効率を達成―ペロブスカイト薄膜の上下表面構造修飾法を開発―
建設業界におけるペロブスカイト太陽電池に関する事例
建設業界では、ペロブスカイト太陽電池の実装に向けた先進事例が動き出しています。株式会社大林組と株式会社アイシンのペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実証実験を開始する取り組みや、三井住友不動産株式会社が推進し、株式会社竹中工務店が設計施工を担当する国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル着工と連動した先進プロジェクトなど、注目すべき動きが加速中です。
建設業界におけるペロブスカイト太陽電池に関する事例について紹介します。
株式会社大林組
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出典:大林組とアイシン、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実証実験を開始|2025.6.13|株式会社大林組
株式会社竹中工務店
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出典:国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル着工|2024.1.11|株式会社竹中工務店
まとめ

本記事では、ペロブスカイト太陽電池が建設業界にもたらす革新、メリットと建設現場での利点、実用化時期と今後の動向、導入に向けた現在の課題について解説しました。設計部門はBIPVやZEB対応を見据え、建材一体型製品の情報収集から着手できます。
施工部門は軽量・柔軟性を活かした既存屋根や曲面構造への試験導入の検証が現実的な第一歩です。また、経営層は経済産業省の2040年20GW導入目標や補助金制度を踏まえ、中長期の脱炭素ロードマップへの組み込みを検討すべきです。ペロブスカイト太陽電池の建設業界での活用を検討している方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









