CSRD(企業サステナビリティ報告指令:Corporate Sustainability Reporting Directive) は、EUが企業に対してサステナビリティ情報の開示を義務付ける制度です。対象となるのは、EU域内の大企業や上場企業に加え、一定条件を満たす非EU企業(日本企業を含む)です。このため、EU域内で事業を展開する日本の建設企業にも大きな影響を及ぼします。
本記事では、CSRDの目的と従来規制との違い、適用対象となる企業の条件と施行スケジュール、ダブルマテリアリティに基づく開示項目について解説します。また、建設業界に求められる具体的な対応策として、ロードマップ作成やデータ収集体制の構築方法も解説していますので、欧州市場での事業展開を検討している建設業の方は参照してください。
目次
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とは

CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、EU域内の企業に環境・社会面の情報開示を義務付ける新たな規制です。従来のNFRD(非財務情報開示指令)から大幅に適用範囲が拡大され、報告基準としてESRS(欧州サステナビリティ報告基準)が導入されました。
CSRDの目的、NFRDとの相違点、ESRSとの関係性について解説します。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の目的
CSRDの主な目的は、EU域内における環境・社会情報の開示基準を統一し、比較可能性と信頼性を向上させることです。従来、企業ごとに異なる基準で報告されていたサステナビリティ情報は、投資家や金融機関にとって比較が困難でした。この困難を改善し、投資家や金融機関へより詳細な報告を行うための報告システムがCSRDです。
CSRDは2023年1月に発効し、2024年会計年度から段階的に適用が開始されています。CSRDでは、金融機関や投資家だけでなく、取引先や一般市民も統一された基準で企業の持続可能性を評価できることが特徴です。結果、透明性の高い情報開示が実現し、責任ある投資判断や事業選定が促進されることが期待されています。
出典:金融庁/事務局説明資料②(サステナビリティに関する開示(1))
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とNFRDの違い
CSRDは、2018年から施行されているNFRDを強化した規制です。CSRDとNFRDの違いは適用対象の拡大にあります。
NFRDでは従業員500人以上の上場企業や金融機関など約1万社が対象でしたが、CSRDではEU域内の全ての大企業と上場企業に加え、EU域外企業でも一定規模以上の売上があり、EU域内に子会社や支店を有する場合は対象となり、約5万社へと拡大しました。
さらに、NFRDでは企業ごとに報告基準が異なり、企業間や時系列での比較が困難なことが課題とされています。一方、CSRDでは統一された開示基準が導入され、比較可能性が向上しています。このため、CSRDにより投資家や金融機関だけでなく、取引先企業もサステナビリティ対応を正確に評価できるため、より透明性の高い事業判断が可能です。
出典:環境省/バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)とESRSの違い
CSRDとESRSは、規制と報告基準の異なる役割を持つ関係にあります。CSRDは企業にサステナビリティ情報の開示を義務付けるEUの法規制であり、対象企業や適用時期を定めています。
一方、ESRSは、CSRD対象企業が実際に報告書を作成する際に準拠すべき具体的な開示基準です。CSRDが何を報告しなければならないかの枠組みを示すのに対し、ESRSはどのように報告すべきかを詳細に求めています。
ESRSはEUグリーンディールの一環として制度化され、環境・社会・ガバナンスの各分野で統一された開示項目を定めることで、企業間の比較可能性を担保しています。2つが一体となって機能することで、透明性の高いサステナビリティ報告が実現されます。
出典:European Commission/The Commission adopts the European Sustainability Reporting Standards
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の日本企業への影響
CSRDはEU域内企業だけでなく、一定の条件を満たす日本企業にも適用されます。EU市場で事業展開する日本企業は、適用対象の要件を正しく理解し、段階的な施行スケジュールに沿った準備が必要です。
ここでは、CSRDの適用対象となる企業の条件と、いつから適用が開始されるのかについて解説します。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の適用対象
CSRDの適用対象は段階的に拡大される仕組みとなっており、日本企業も対象となる可能性があります。CSRDの適用条件の流れは次の通りです。
| 時期 | 適用条件 |
| 2024年1月1日以降 | ● 総資産2000万ユーロ以上
● 売上高4000万ユーロ以上 ● 従業員数500人以上 ● 大規模な上場企業、金融機関、保険会社など |
| 2025年1月1日以降 | ● 総資産2000万ユーロ以上
● 売上高4000万ユーロ以上 ● 従業員数250人以上の大企業 |
| 2026年1月1日以降 | ● 総資産400万ユーロ以上
● 売上高800万ユーロ以上 ● 従業員数50人以上 ● 中小規模の企業 |
当初はEU域内の大企業や上場企業から適用が開始されましたが、2028年以降は、EU域内で一定規模以上の売上を持つEU域外企業も対象となります。従って、EU域内で一定規模以上の事業活動を行う日本企業や、EU域内に子会社や支店を持つ企業がCSRDの開示要請を受けます。
欧州でインフラプロジェクトに参画する日本のゼネコンや、EU市場に建設資材を供給する企業は、サステナビリティ情報の開示準備を進めなければなりません。このように、CSRDは建設業界においても重要な影響を及ぼします。
出典:European Commission/DIRECTIVE (EU) 2022/2464 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
いつから適用となるのか
CSRDの適用開始時期は企業の規模や形態によって段階的に設定されており、日本企業は自社の該当区分を確認する必要があります。最も早い適用となるのは、EU域内に大規模企業に該当する子会社を持つ場合で、2025年1月1日から適用が開始され、2026年に最初の報告が求められます。
次に、EU域内に上場中小企業に該当する子会社がある場合は、2026年1月1日から適用開始となり、2027年に報告義務が発生する点に注意が必要です。さらに、EU市場で大きな売上高を持つEU域外企業は、2028年1月1日以降に適用が開始され、2029年に報告が必要です。
ただし、最終的な判断はCSRDの内容を反映した各EU加盟国の国内法に基づいて行われるため、対象企業は該当国の法規制を継続的に確認することが重要です。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の開示項目

CSRDでは、ESRSによって規定された開示項目が定められています。特に重要なのがダブルマテリアリティの考え方で、企業活動が社会に与える影響と、社会変化が企業に与える影響の両面を評価します。
CSRDの主な開示項目
CSRDの開示項目は、従来のNFRDを改正する形で定められており、具体的な内容はESRSによって規定されています。主な開示項目は次の通りです。
- (a)ビジネスモデルと戦略
- (b)サステナビリティの課題に関連する目標と進捗
- (c)サステナビリティの関連課題に関する取締役会などの役割
- (d)サステナビリティの関連課題に関するポリシー
- (e)サステナビリティの関連課題に関連する取締役会などに提供されるインセンティブスキームの情報
- (f)サステナビリティの関連課題におけるデューデリジェンス
- (g)サステナビリティの関連課題に関連する主要なリスク
- (h)開示要求事項に関連する指標
建設業界では、特に環境分野におけるCO2排出量、廃棄物管理、生物多様性への影響などが重要な開示事項です。ESRSに基づく統一された開示基準により、企業間の比較可能性が担保され、投資家や取引先がサステナビリティ対応を適切に評価できる環境が整備されます。
出典:European Commission/DIRECTIVE (EU) 2022/2464 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
ダブルマテリアリティの考え方
ESRSで重視されるダブルマテリアリティは、企業のサステナビリティ対応を双方向から評価する考え方です。マテリアリティとは企業が優先的に取り組むべき重要課題を指しますが、ダブルマテリアリティでは2つの視点から評価します。
| 評価の観点 | 特徴 |
| 財務的マテリアリティ | 環境や社会の変化が企業に与える財務的影響を評価 |
| 環境・社会的マテリアリティ | 企業活動が環境や社会に与える影響を評価 |
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの従来のフレームワークでは、企業が社会・環境から受ける財務的影響のみを考慮するシングルマテリアリティが採用されていました。ダブルマテリアリティの導入により、企業は自社の利益だけでなく、社会全体への影響も考慮した経営が求められるようになり、より責任ある情報開示が実現されます。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に向けて建設業に求められること
CSRDへの対応には、計画的な準備と体制構築が不可欠です。建設業界では、複雑なサプライチェーンや多様なプロジェクトに対応した情報管理が求められます。
CSRD対応に向けたロードマップの作成方法と、必要なデータを効率的に収集するための仕組みづくりについて解説します。
ロードマップの作成
CSRD対応には、組織横断的なプロジェクトチームの結成と綿密なロードマップの作成が不可欠です。CSRDへの対応は1つの部門では完結せず、経営企画や財務、環境、調達、工事管理など複数部門にまたがる長期的かつ複雑なプロジェクトです。
建設業界では、現場レベルでのデータ収集から本社での統合管理まで、組織全体の協力体制が求められます。適用対象と判明した時点で、まずは各部門の責任者を含むプロジェクトチームを立ち上げ、適用開始時期から逆算したスケジュールを策定します。
重要なのは、単に規制に対応するだけでなく、サステナビリティ経営を強化する機会として捉えることです。中長期的な視点で、情報開示体制の構築、ESG投資への対応、取引先との連携強化など、将来を見据えた戦略的なロードマップを作成することが成功のポイントです。
データの収集
CSRD対応には、ESRSが求める広範囲なデータを正確に収集できる体制の構築が必要です。従来の環境報告では限定的な情報のみを扱っていた企業が多く、既存のデータ収集体制では不十分なケースがほとんどです。
建設業界では、複数の現場で同時進行するプロジェクトごとに、CO2排出量、廃棄物量など多岐にわたる情報を継続的に収集しなければなりません。さらに、CSRDでは第三者保証が義務化されている点が特徴です。
財務情報と同等の信頼性がサステナビリティ情報にも求められるため、データの収集から集計、保管まで、トレーサビリティが担保された管理プロセスを確立しなければなりません。このため、デジタルツールの活用や標準化されたフォーマットの導入など、効率的で信頼性の高いデータ管理システムの整備が急務です。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に関する建設業事例
CSRDはEU指令のため、日本の建設企業で完全準拠した報告事例はまだ多くありません。CSRDが求める開示内容と関連性の高い、「データ収集体制の構築」に焦点を当て、建設業界のサステナビリティ開示に関連する具体的な事例について紹介します。
株式会社大林組
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出典:データを活用したまちづくりを深化させる大林組独自のデータエコシステムを構築|2025.4.7|株式会社大林組
戸田建設株式会社
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出典:戸田建設によるESG情報開示支援クラウド「SmartESG」導入事例を公開|2024.3.7|PR TIMES
まとめ

本記事では、CSRDの概要、日本企業への影響、開示項目、建設業に求められる対応について解説しました。CSRDはEU域内だけでなく、一定規模以上のEU事業を展開する日本企業にも適用され、2025年から段階的に報告義務が発生します。
建設業界では、欧州でのインフラプロジェクト参画やEU域内拠点を持つ企業が対象となる可能性が高く、早期の準備が不可欠です。ダブルマテリアリティに基づく包括的なデータ収集体制の構築、組織横断的なプロジェクトチーム編成、第三者保証に耐えうる信頼性の高い管理プロセスの確立が求められます。
EU市場での事業展開を視野に入れている建設業の方は、CSRD対応に向けて参考にしてみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









