2028年度から国土交通省が建築物LCAの算定・表示制度を導入する方針を固めたことで、建設業界では設計・施工の各段階におけるCO2排出量の可視化を含めたホールライフカーボンの算定が喫緊の経営課題となっています。発注者からの開示要請や国際基準への対応を求められる中、自社の実務にどう落とし込むかが論点です。
本記事では、ホールライフカーボンの定義と重要性、構成要素と計算範囲、BIMを活用した算定実務について解説します。さらに、低炭素コンクリートや電炉鋼材の調達、既存躯体のリユース、開口部の最適化といった削減に向けた設計・施工の具体策も解説していますので、自社のホールライフカーボン対応を本格化させたい建設業の方は参照してみてください。
目次
ホールライフカーボン(WLC)の定義と重要性

建築物のライフサイクル全体で発生するCO2排出量を評価する「ホールライフカーボン(WLC)」は、建設業界の脱炭素を進めるうえで欠かせない指標です。ホールライフカーボンの基礎概念と定義、2028年度の算定制度化の背景、国際基準とグローバルな潮流について解説します。
ホールライフカーボンの基礎概念と定義
ホールライフカーボンとは、建築物が竣工してから解体・廃棄に至るまでの全段階のCO2排出量を総合的に捉えた指標です。ホールライフカーボンが重視される理由は、従来主流だったZEBなど運用時の省エネ施策だけでは、建設業全体の脱炭素を達成できないと認識されてきたためです。
セメントや鉄骨の製造段階、現場への資材輸送、建設機械の稼働におけるエンボディードカーボンと、竣工後の空調・照明などで生じるオペレーショナルカーボンを合算して評価します。建材調達から運用、解体まで一貫して捉えるホールライフカーボンの視点は、建設業界が真の脱炭素を実現するうえで欠かせない評価軸です。
2028年度の算定制度化の背景
国土交通省が2028年度から建築物LCAの算定・表示制度を導入する方針を固めた背景には、国内の脱炭素規制の段階的強化があります。日本は2050年カーボンニュートラル達成を国家目標に掲げており、CO2排出量の約3〜4割を占める建築・建設分野での対策が不可欠と位置づけられています。
流れとして、2024年4月に省エネ表示制度が施行され、新築住宅・建築物の販売・賃貸時にエネルギー消費性能の表示が義務化されました。次の段階となる2028年度の制度では、運用時だけでなくセメントや鉄骨の製造、現場までの資材輸送、重機稼働など建設プロセス全体の排出量も評価対象に組み込まれる見込みです。
設計者・施工者・発注者が連携してホールライフカーボンを可視化する体制構築が、今後の建設プロジェクトでは標準要件になることが想定されます。
出典:国土交通省/建築物のライフサイクルカーボン削減に向けた施策の動向
国際基準とグローバルな潮流
建設業界においてホールライフカーボンへの対応が急務となっている理由は、欧州を中心とした国際的な潮流が日本のプロジェクトにも波及しているためです。フランスのRE2020など、欧州諸国では既にホールライフカーボンの算定が法制化または標準化されており、グローバル展開する日本企業や海外資本が関わる案件では国際基準との整合性が不可欠です。
不動産投資家がESG評価の一環として建設時の環境負荷を資産価値判断に組み込み始めており、LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)やBREEAM((Building Research Establishment Environmental Assessment Method))など環境認証制度でもホールライフカーボンの評価が高得点取得の要件となりつつあります。
鉄骨やコンクリートを多用する大規模建築ほど影響が大きく、設計初期段階からの排出量把握とサプライヤー選定が、プロジェクトの競争力を左右する時代に入っています。
出典:国土交通省/建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度のあり方について(中間とりまとめ骨子案)補足説明資料
ホールライフカーボンの構成要素と計算範囲
ホールライフカーボンは、建材の製造から建物の運用、解体に至るまで多様な要素で構成されています。建材や施工に伴うエンボディードカーボンの詳細、運用時に発生するオペレーショナルカーボンの範囲など、類似概念との違いについて解説します。
エンボディードカーボンの詳細
エンボディードカーボンとは、建材の原材料採掘から製造、輸送、施工、さらには将来の修繕や解体・廃棄に至るまで、建物の運用時を除く全工程のCO2排出量を指します。建設業においてエンボディードカーボンが重要視されるのは、主要な構造材が排出量全体の大きな割合を占めるためです。
セメント製造では石灰石の焼成過程で大量のCO2が発生し、鉄鋼の高炉プロセスもエネルギー集約型として知られています。注意すべきは、断熱材や高性能サッシで運用時の省エネを追求するほど、資材製造段階での排出量が増えるトレードオフが生じる点です。
ホールライフカーボンの観点では、建設時と運用時のバランスを設計初期から検討し、低炭素コンクリートやリサイクル鋼材の採用など具体的な選択肢を比較することが求められています。
オペレーショナルカーボンの範囲
オペレーショナルカーボンとは、建物の運用段階において、空調・照明・給湯・換気などの設備稼働や居住者の活動に伴うエネルギー消費から発生するCO2排出量を指します。電気・ガスなど購入エネルギーが主であり、建物の使用期間が数十年におよぶことから、ホールライフカーボン全体に占める比率も大きくなりがちです。
削減策として、高効率空調設備の導入、LED照明への切り替え、屋上太陽光発電による自家消費型再エネの活用などが代表的なアプローチです。一方で、ホールライフカーボン評価では設備の更新周期や使用パターンの変化を踏まえた長期運用シナリオの設定が欠かせません。
オフィスビルの空調機器は15〜20年で更新されるため、機器性能向上や電力系統の脱炭素も加味した精密な算定が、信頼性の高い評価につながります。
LCCO2(ライフサイクルカーボン)との違い
LCCO2とホールライフカーボンは、いずれも建物のライフサイクル全体のCO2排出量を捉える指標ですが、算定範囲の精度に違いがあります。
| 要素 | 特徴 |
| LCCO2 | 建物が原料調達から建設、運用、解体・廃棄に至るまでの一生におけるCO2排出量を指す
研究機関や設計事務所ごとに算定境界の解釈に幅がある点が課題 |
| ホールライフカーボン | EN15978などの国際規格に基づき、建材製造(A1-A3)、輸送・施工(A4-A5)、運用・修繕(B1-B7)、解体・廃棄(C1-C4)といったモジュール単位で算定範囲を明確化する |
建設会社が海外投資家にESGレポートを提出する際、LCCO2の数値だけでは比較対象にならず、ホールライフカーボン基準での再算定を求められるケースも増えています。用語の混同を避け、プロジェクトの目的や報告先に応じて適切な基準を選択することが、設計者・施工者の実務上の信頼性に直結する重要なポイントです。
関連記事:LCCO2とは?概要や具体的な取り組みについて解説
建設業が進めるべき算定の実務

建設業がホールライフカーボン算定を実務に組み込むうえで、BIM(Building Information Modeling)の活用が有力なアプローチとなり得ます。BIMモデル内の柱・梁・床といった部材数量情報を、IDEAやAIST-LCAなどのデータベースと連動させることで、設計進行に合わせたリアルタイム試算が可能です。
基本設計段階でフロントローディングを行えば、鉄骨造からハイブリッド構造への変更や、再生骨材コンクリートの採用といった削減効果の大きい仕様判断を早期に下せます。3Dモデル上で排出量を色分け表示すれば、発注者や設計チームとの合意形成も円滑に進み、算定の効率化と意思決定支援を同時に実現する業務基盤として機能します。
ホールライフカーボン削減に向けた設計・施工のポイント
建築物のCO2排出量を抑えるには、ホールライフカーボンの考え方に基づいた設計・施工段階での具体策が欠かせません。ホールライフカーボン削減に向けた設計・施工のポイントについて解説します。
低炭素資材の選定と調達
ホールライフカーボン削減において、低炭素資材の選定と調達は効果が大きい施策の一つです。建設時のCO2排出量は鉄鋼・コンクリートなど主要構造材に集中するため、資材の選択が全体の数値を大きく左右します。
例えば、ポルトランドセメントの55%以上を高炉スラグ等で置換した低炭素型コンクリートでは製造時のCO2排出量が約50%削減され、鉄スクラップを原料とする電炉鋼材は高炉鋼材と比べてCO2排出量が約4分の1に抑えられるとされています。また、CLT(直交集成板)などを活用した中大規模建築物の木造化・木質化は、樹木の成長過程で吸収したCO2を建材として固定する炭素貯蔵効果が期待できます。
ただし、選定には客観的根拠が不可欠であり、資材メーカーが第三者認証を受けて公表するEPD(環境製品宣言)を活用し、品目ごとの単位データに基づいた科学的な調達判断が必要です。
出典:国土交通省/低炭素型コンクリートの活用が全国的に拡大中!
建物の長寿命化とリユース
建物の長寿命化とリユースは、ホールライフカーボン削減において新築重視の従来発想を転換する重要な戦略です。建設時に発生する躯体由来のCO2排出量を、構造体の再利用によって大幅に圧縮できます。
将来の解体を前提とするDfD(Design for Deconstruction)の考え方を取り入れ、機械式継手やボルト接合を多用して部材を傷めずに分離・再資源化できる設計とすることも有効です。さらに、計画的なメンテナンスによって建物寿命を50年から80年へ延ばせば、1年あたりのCO2排出量は相対的に低減し、ホールライフカーボン評価において高い性能を示せます。
部位別(窓・外装)の最適化
部位別の最適化において、特に窓と外装はホールライフカーボン削減に寄与する重要な要素です。建物の熱損失の多くが開口部から発生するため、運用時のエネルギー消費を大きく左右します。
アルミサッシから樹脂サッシ、Low-E複層ガラスやトリプルガラスへの変更は、冬季の暖房負荷と夏季の冷房負荷を同時に低減します。一方で、樹脂や木製サッシは製造段階のCO2排出量がアルミより低い一方で、寒冷地と温暖地では運用時の削減効果が異なるため、地域特性を踏まえた仕様選定が欠かせません。
さらに、庇・ルーバー・外付けブラインドといった外部シェードや日射制御デバイスを組み合わせれば、空調設備への依存度を下げるパッシブデザインが実現できます。設計段階で部位ごとの建設時負荷と運用時削減効果を定量的に比較検討することが、ホールライフカーボン最適化の実務上のポイントです。
建設業界におけるホールライフカーボンに関する事例
国内の大手企業では、ホールライフカーボンの算定・評価を実務に組み込むための独自システム開発が活発化しています。大林組のCO2排出量予測システム「カーボンデザイナー®」による計画初期段階での即時予測、鹿島建設のAIを活用したライフサイクル全体のCO2排出量算定、竹中工務店が開発した評価プラットフォーム「Z-CARBO」について紹介します。
株式会社大林組
|
出典:CO2排出量予測システム「カーボンデザイナー®」、計画初期段階から建物のホールライフカーボンの即時予測が可能に|2025.9.24|株式会社大林組
鹿島建設株式会社
|
出典:AIを活用し建物のライフサイクル全体のCO2排出量を正確に算定|2024.8.29|鹿島建設株式会社
株式会社竹中工務店
| 竹中工務店(社長:佐々木正人)は、建物の「ホールライフカーボン(建物生涯CO2)」(※1)を可視化し、評価につなげるプラットフォーム「Z-CARBO(ジカーボ)」を開発しました(※2)。これにより、当社の見積システムと連携し、AIが分析したデータを活用して、建物の設計から施工、竣工後までのCO2排出量を定量的に評価する体制を構築しました。当社が有する業界トップのZEB認証実績と脱炭素を実現する技術力を活かして、お客様の事業活動におけるCO2排出量の削減と情報開示を総合的にサポートし、全ての建物でホールライフカーボンの削減を目指します。
※1資材製造から解体に至るまで、建築物の“生涯”を通じて排出される二酸化炭素(CO2)のこと |
出典:ホールライフカーボンを評価するプラットフォーム「Z-CARBO」を開発|2025.4.9|株式会社竹中工務店
まとめ

本記事では、ホールライフカーボンの基礎概念からBIM活用による算定実務、低炭素資材調達や躯体リユースなどの削減策まで解説しました。建設業として着手できることは、まずホールライフカーボン算定の社内プロセス整備とBIM環境の準備、次に低炭素コンクリート・電炉鋼材・木質材料といった低炭素資材のサプライヤー開拓、EPDなど客観的根拠に基づく仕様判断の標準化です。
さらに、既存建物の躯体再利用を含めた提案力強化や、開口部・外装の部位別最適化を設計初期に組み込む体制構築も有効です。ホールライフカーボン対応を競争力に変えていきたい建設業の方は参照してみてください。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。

この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









