建設業界では、改正省エネ法による規制強化があるなかで、施主から求められるサプライチェーン排出量(Scope3)への対応、2024年問題に伴う深刻な人手不足が同時に押し寄せており、脱炭素とデジタル化を両立する環境DXは、建設業界において避けて通れない経営課題となっているのが現状です。
本記事では、環境DXの基本概念や建設業界が直面する背景に加え、ZEB/ZEHでは建物運用エネルギーの可視化、LCAでは設計段階での資材比較、ICT施工ではBIM/CIMによる建機の自動制御、サーキュラーエコノミーでは廃棄物の電子マニフェスト管理など、テーマごとに実務で着手できるアプローチを解説します。
また、各社の最新事例も紹介していますので、自社の脱炭素対応を具体的に前へ進めたい方は参照してみてください。
目次
環境DXとは?建設業界が直面する新常識

環境DXとは、建設業におけるCO2排出量の算定、建機稼働の効率化、廃棄物管理、建物運用エネルギーの可視化などを、デジタル技術によって高度化する取り組みです。環境DXが推進されている理由は、規制遵守やコスト増など守り中心だった環境対応が、デジタル技術の活用によって業務効率化と付加価値向上を同時に実現する攻めの戦略へと進化しているためです。
GX(グリーントランスフォーメーション)達成の推進エンジンとして環境DXが機能し、CO2排出量のリアルタイムな可視化や建機稼働の最適化、工期短縮を支える役割を担います。さらに施主側がサプライチェーン全体の排出量、すなわちセメント・鉄骨の調達から輸送・廃棄物処理までを含むScope3を重視する潮流が強まり、対応できない企業は入札や見積もり競争から外れる新常識が定着しつつあります。
脱炭素とDXを一体で推進する姿勢は、深刻な人手不足の解消とESG投資による評価獲得を同時にかなえる、避けて通れない経営課題です。
なぜ今、建設業に脱炭素とDXが求められるのか
建設業界では今、環境DXによる脱炭素と生産性向上の両立が経営課題となっています。改正省エネ法や建築物省エネ法による規制強化、施主から求められるサプライチェーン排出量(Scope3)への対応、さらに2024年問題や2025年の崖が重なり、対応の遅れは競争力を直接揺るがしかねません。建設業に脱炭素とDXが求められる背景について解説します。
背景1:改正省エネ法や建築物省エネ法などの規制強化
建設業を取り巻く法規制の強化は、環境DXへの取り組みを待ったなしの経営課題へと押し上げています。2050年脱炭素実現を国全体で目指す流れの中、改正省エネ法や建築物省エネ法によって、企業には具体的なCO2削減目標の設定と進捗報告が法的に課されているのが現状です。
建設分野では、建物自体の断熱・高効率設備による省エネ性能の担保に加え、竣工後の運用段階におけるエネルギー消費のデジタル可視化や最適制御も重点事項として位置づけられています。設計から施工、引き渡し後の運用までデータで管理する仕組みが欠かせません。
規制への不適合は単なる罰則問題にとどまらず、公共事業の入札や民間案件の受注において機会損失を招く重大なリスクとなるため、環境DXによる対応力の構築が急務といえます。
背景2:サプライチェーン排出量(Scope3)への対応要求(施主からの圧力)
施主や投資家からの要求水準が高まる中、Scope3への対応は建設業の受注競争を左右する条件となりつつあります。なぜなら、自社の直接排出(Scope1:建設機械や社有車の燃料)や購入電力の排出(Scope2:現場事務所・仮設電力)だけでなく、資材調達から施工、廃棄物処理に至るサプライチェーン全体の排出量把握が強く求められているためです。
セメントや鉄骨などの調達、運搬車両による輸送、解体・廃棄段階までを網羅したScope3の算定には膨大なデータが必要であり、エクセルや紙ベースの集計では精度・スピードともに限界があります。
このため、サプライチェーン全体のデータ統合と可視化を実現する環境DXのプラットフォームが不可欠です。可視化ができていない企業は、大手ゼネコンや発注者のサプライチェーンから除外されるリスクが高く、早期の体制整備が経営判断として求められます。
背景3:2024年問題・2025年の崖による生産性向上の急務
建設業界における環境DXの推進は、労働力担保の観点からも必要とされている状況にあります。2024年4月から適用された時間外労働の上限規制、いわゆる2024年問題によって現場の人手不足が一層深刻化しており、従来の紙の日報や属人的な工程管理などアナログな体制では事業継続が難しくなっているのが現状です。
また、経済産業省が警鐘を鳴らす2025年の崖、すなわち既存基幹システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化を放置すれば、データ駆動型の経営転換が進まず、無駄な現場往復や重機の待機時間など非効率な状態を回避できません。
重要なことは、ITツールの導入を目的化せず、生産性向上で生み出した時間を脱炭素戦略やScope3算定などの高付加価値業務に振り向ける体質改善です。環境DXは、人手不足対策と脱炭素対応を同時にかなえる現実解といえます。
出典:厚生労働省/建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)
環境DXを加速させる4つの重点領域

建設業界が環境DXを実践面で進めるには、取り組むべき領域を明確化することが欠かせません。次の4つがポイントとなる重点領域です。
- ZEB/ZEHの推進
- 低炭素資材とLCA(ライフサイクルアセスメント)
- ICT施工の導入
- サーキュラーエコノミー
具体的な内容について解説します。
ZEB/ZEHの推進: 建物の運用エネルギー削減とデジタル制御
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及は、建物の運用エネルギーをデジタル制御で最小化する環境DXの中核となる施策です。断熱や高効率設備などハード面の対策だけでは限界があり、AIを用いた電力需要予測や空調・照明の最適化制御によって初めて、エネルギー収支をネットゼロに近づけられます。
IoTセンサーで建物全体の消費電力をリアルタイムに可視化し、ピーク時の無駄な電力消費を自動でカットする仕組みが運用面のポイントです。例えば、竣工後のオフィスビルにおいて、テレワーク普及による在席率の変動に合わせて空調・照明をエリア単位で柔軟に制御する事例も増えています。
設計段階から運用データを前提とした制御ロジックを組み込み、引き渡し後も継続的にチューニングしていく姿勢が、次世代建物の標準として求められます。
出典:経済産業省/ZEHの普及促進に向けた政策動向と令和2年度の関連予算案
低炭素資材とLCA(ライフサイクルアセスメント): LCA算定ツール等を活用した排出量「見える化」
低炭素資材の選定と環境DXによるLCA(ライフサイクルアセスメント)の活用は、建設プロジェクトの脱炭素を左右する要素です。LCAとは、資材の原材料調達から製造、輸送、施工、解体・廃棄までの全工程における環境負荷を定量的に評価する手法を指し、建設業ではセメントや鉄骨、アルミサッシなどの調達段階から排出量を把握することが不可欠です。
LCA算定ツールなどを活用すれば、設計段階で複数の資材・工法を比較シミュレーションし、コストと環境負荷のバランスから最適な選択を行えます。普通ポルトランドセメントを高炉セメントへ置き換えた場合の削減効果を瞬時に算出し、設計判断に反映できる点などがメリットです。
さらに算定データの透明性を担保することで、ESG投資を呼び込みやすくなり、企業ブランドの向上にもつながるメリットが期待できます。
ICT施工の導入: 建機の自動化・最適稼働による燃料消費の削減
ICT施工の導入は、建機における燃料由来のCO2を削減する環境DXの実践的な手段として大きな効果を発揮します。BIM/CIMの3Dモデルをもとに油圧ショベルやブルドーザーなどICT建機を自動制御することで、丁張り設置や手戻り作業が大幅に減り、施工精度と稼働効率が同時に高まるためです。
AIによる画像解析を取り入れれば、現場調査や進捗管理の自動化が進み、現場監督の巡回や測量の負担を軽減できます。また、ドローン空撮データから出来形を自動算出する仕組みを導入すれば、人手による測量回数を抑えつつ、進捗の把握も可能です。
VRやゲームエンジンを用いた景観シミュレーションでは、完成後の建物や構造物の見え方を発注者や近隣住民が事前に体感できるため、設計変更や工事差し止めなどのトラブルを未然に防ぎ、合意形成を円滑に進められます。
結果として工期長期化に伴う重機稼働の延長や環境負荷の増大を抑制でき、生産性向上と脱炭素を両立する有効なアプローチとなり得ます。
サーキュラーエコノミー: 廃棄物削減と資材リサイクル管理のデジタル化
サーキュラーエコノミーの実現には、廃棄物処理と資材循環をデジタルで一元管理する環境DXの取り組みが欠かせません。サーキュラーエコノミーとは、資源を使い捨てにせず循環利用し続ける経済モデルを指し、建設業ではコンクリートがらや木くず、廃プラスチックといった産業廃棄物の流れを電子マニフェストなどで透明化することが対象です。
廃棄物の収集運搬ルートをGPSやAIで最適化し、スマート回収システムと連携させれば、輸送時のCO2排出量を抑えながら不法投棄リスクも減らせます。さらに重要なのは、単なる処理で終わらせず、再生骨材や再資源化された鉄スクラップなどの需給をICTプラットフォームでマッチングさせる仕組みです。
発生現場と利用現場をデータでつなぐことで、業界全体での資源循環が加速し、調達コストの抑制と環境負荷低減を両立する循環型建設プロセスが実現できます。
建設業における環境DXの取り組み事例
建設業界では、環境DXを実装して成果につなげる取り組みが各社で進められています。濁水処理装置への薬品添加を自動化するシステムの開発・導入や、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」への3年連続選定、さらにIoTを活用した次世代PCa(プレキャストコンクリート)生産管理システム「PATRAC」の開発着手など、現場改善から経営評価まで幅広い領域で具体例が生まれています。
鹿島建設株式会社
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出典:濁水処理装置に最適な薬品量を自動添加するシステムを開発・導入|2026.1.26|鹿島建設株式会社
清水建設株式会社
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出典:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に3年連続で選定|2023.6.1|清水建設株式会社
三井住友建設株式会社
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出典:IoTを活用した次世代PCa生産管理システム「PATRAC」の開発に着手|2018.12.18|三井住友建設株式会社
まとめ:環境DXは、選ばれる企業になるための『差別化戦略』となる

本記事では、建設業界における環境DXの全体像と、規制強化・Scope3対応・2024年問題による3つの背景、ZEB/ZEH推進、低炭素資材とLCA、ICT施工、サーキュラーエコノミーの4つの重点領域について解説しました。
実務面では、ZEB/ZEHならBEMSを活用した運用エネルギー消費の可視化、LCA算定ツールによる資材・工法比較、ICT施工ならBIM/CIM連動の建機自動制御、サーキュラーエコノミーなら電子マニフェストの導入が、現場で着手しやすい領域です。
環境DXを競争力の源泉に変え、脱炭素対応と人手不足解消を同時に実現したい方は、参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









