2025/7/22
2025/10/8
炭素税とカーボンプライシングの違いとは?建設業者向けの情報を解説

炭素税とカーボンプライシングは、建設業界にとって対策が必要な課題です。コスト増加を避けるためにも、省エネルギー技術の導入や再生可能エネルギーへの転換を視野に入れて、炭素税とカーボンプライシングの仕組みを理解したうえで企業戦略を立てることが求められます。
本記事では、炭素税とカーボンプライシングの違いを解説しています。また、世界と日本の導入状況や、建設業界にとってのリスクも解説しているため、炭素税やカーボンプライシングが気になっている方は参照してみてください。
炭素税とカーボンプライシングの基本的な意味
炭素税とカーボンプライシングが建設業に与える影響を把握するためには、基本的な概念を理解しておくことが重要です。炭素税、カーボンプライシングそれぞれの特徴と違いを解説します。
炭素税とは
炭素税は、地球温暖化対策として導入された環境税制の一つで、化石燃料の使用に伴うCO2排出に対して課税する制度です。炭素税は、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を消費してCO2を排出する行為に対して税金を課すことで、排出抑制を促し、環境への負担を減らします。
炭素税はCO2排出に価格を付けるカーボンプライシングの一環で、排出量取引とセットで運用されます。工場での石炭燃焼によるエネルギー生産や、自動車のガソリン消費などが具体的な課税対象です。炭素税は「汚染者負担の原則」に基づいており、CO2排出による環境負荷に対して経済的な負担を求めることで、企業や個人の行動変容を促します。
カーボンプライシングとは
カーボンプライシングは、CO2排出に経済的なコストを課すことで、企業や個人の環境負荷削減行動を促進する政策手法です。カーボンプライシングは、従来無料で排出されていた炭素に価格を設定し、市場の動向を通じて脱炭素を推進します。
主要な手法として炭素税と排出量取引制度が挙げられますが、これらに加えて石油石炭税などの既存エネルギー課税や法的規制もカーボンプライシングに含まれます。
近年注目されているのが企業独自の取り組みであるインターナルカーボンプライシングです。インターナルカーボンプライシングは企業が自社のCO2排出に対して内部的に価格を設定し、投資判断や事業戦略の意思決定に活用する手法で、政府の制度に先駆けて自主的な脱炭素経営を実現する重要なツールとして見込まれています。
両者の関係性と違い
カーボンプライシングは炭素排出に価格付けをする政策手法の総称であり、炭素税はカーボンプライシングの具体的な実施手段の一つに位置づけられます。
カーボンプライシングには分類があり、分類の一つの明示的カーボンプライシングには、CO2排出に対して直接的に価格を設定する炭素税や排出量取引制度が含まれます。一方、別の分類の暗示的カーボンプライシングは、環境規制やガイドラインなど、直接的な価格表示はないものの、結果的に炭素排出にコストを課す仕組みです。
つまり、炭素税は明示的カーボンプライシングの代表例として、より大きな政策枠組みであるカーボンプライシングの構成要素を担っています。両者は脱炭素社会実現の共通目標に向けて、異なるアプローチで排出削減を促進する補完的な関係にあります。
カーボンプライシングの主な手法と炭素税の位置づけ
カーボンプライシングの主な手法や、炭素税がどのような位置づけとなっているのかを解説します。また、排出量取引やエネルギー課税など、カーボンプライシングを構成する要素も紹介します。
代表的なカーボンプライシング手法一覧
カーボンプライシングの手法は、政府主導の炭素排出に対するアプローチの違いによって2つの主要カテゴリーに分類されるほか、企業主導の手法として3つ目の分類が追加されています。
カーボンプライシングの主な手法は次の通りです。
カーボンプライシングの種類 | 主な手法 |
明示的カーボンプライシング |
|
暗示的カーボンプライシング |
|
インターナルカーボンプライシング | 自社で価格を設定 |
明示的カーボンプライシングは、CO2排出量に直接比例した金銭的負担を企業や消費者に課す直接的な手法です。
対照的に、暗示的カーボンプライシングは、環境規制や燃費基準などを通じて間接的にCO2削減を誘導する手法です。明確な価格表示はありませんが、規制遵守のための追加コストが実質的な炭素価格として機能します。
第3の手法であるインターナルカーボンプライシングは、企業が自主的に社内でCO2排出に価格を設定し、投資判断や事業計画に反映させる取り組みです。政府の制度に依存せず、企業独自の脱炭素戦略として注目されています。
炭素税と排出量取引の違いとは
炭素税は価格アプローチと呼ばれ、CO2排出量あたりの税率を政府が事前に固定する方式です。炭素税では価格が明確に設定される一方、実際の排出削減量は市場の反応に委ねられます。企業の長期投資計画が立てやすい利点があります。
対照的に、排出量取引は数量アプローチとして機能し、政府が総排出量の上限を設定し、その枠内で企業間が排出権を売買する仕組みです。市場メカニズムにより炭素価格は変動しますが、環境目標である総排出量は確実に管理されます。
エネルギー課税・インターナルカーボンプライシングもある
カーボンプライシングの手法は、エネルギー課税や企業独自の取り組みまで幅広く展開されています。
エネルギー課税は暗示的カーボンプライシングの一つで、日本では2012年から「地球温暖化対策のための税」が段階的に導入されています。日常的に利用する自動車のガソリンや家庭の電気使用に伴うCO2排出に対して税負担が発生し、エネルギー消費行動に影響を与えています。直接的な炭素税とは異なり、既存のエネルギー税制に環境配慮を組み込んだ仕組みです。
一方、インターナルカーボンプライシングは、企業が独自に炭素価格を設定することで、社内の環境意識向上と行動変容を促進するだけでなく、CO2排出量の可視化により新規設備投資やイノベーション創出の判断基準としても機能します。
関連記事:【図解入り】違いをわかりやすく解説!「カーボンプライシング」と「カーボンクレジット」
世界と日本の制度導入状況と違い
世界各国でカーボンプライシングの導入が進む中で、日本は後れをとっているのが現状です。欧州・中国・韓国などの導入例や日本の現状、建設業界への影響を解説します。
欧州・中国・韓国など世界での導入例
世界各国では、地域特性に応じた排出量取引制度が積極的に導入され、国際的な脱炭素の潮流を形成しています。
各国の導入状況は次の通りです。
国・地域 | 開始された年 | カバー率 |
EU | 2005年に世界で初めて開始 | EU域内のCO2排出量の4割強をカバー |
韓国 | 2015年から制度開始 | 年間排出量の約7割をカバー |
中国 | 2021年 | 年間排出量全体の約4割をカバー |
EUは2005年に世界初となる「EU排出量取引制度(EU-ETS)」を開始し、国際的なカーボンプライシング制度の先駆けとなりました。韓国では2015年から制度が本格稼働しています。直近3年間平均のCO2排出量が12.5万トン以上の大規模事業者約600社を対象とし、産業界全体での排出削減を推進しています。
中国は世界最大のCO2排出国として、2021年に全国規模の排出量取引制度を開始し、2025年までには石油化学、鉄鋼、製紙など対象業種の拡大が予定されています。
出典:資源エネルギー庁/脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?
日本の制度導入の現状と遅れ
日本のカーボンプライシング導入は、国際的な動向と比較して後れをとっている状況です。現在運用されている制度は、2012年に導入された「地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)」のみで、EUが2005年から排出量取引制度を開始していることを考慮すると、政策対応の遅れは顕著です。
2023年に成立した「GX推進法」により、日本の脱炭素政策は転換点を迎えています。同法には「炭素賦課金」と「排出権取引(GX-ETS)」の制度が盛り込まれており、本格的なカーボンプライシング体制の構築が予定されています。
炭素賦課金は2028年からの施行が予定されており、排出権取引は2023年から段階的な導入が開始される計画です。
今後建設業界にどのような影響があるのか
カーボンプライシング制度の導入により、建設業界は事業運営と戦略策定の両面で変革を迫られます。直接的な影響として、炭素価格の上昇に伴う建設資材や重機の使用コスト増加が予想されます。
また、セメントや鉄鋼などの高炭素排出材料、ディーゼル重機の燃料費などが価格上昇し、プロジェクト全体のコスト構造に大きな変化をもたらすことが懸念点です。一方で、再生可能エネルギー関連施設や省エネ建築への需要拡大の新たなビジネス機会も創出します。
建設企業には、変化するカーボンプライシング関連法制度の動向を継続的に把握し、規制対応を確実に行う体制構築が不可欠です。
建設業にとっての制度理解と対応の必要性
建設業にとっての制度理解と対応の必要性として、次の内容を解説します。
- 制度理解が進まないことのリスク
- 排出量の可視化と内部カーボンプライシングの活用
- 建設業の排出管理体制強化に向けた第一歩
建設業としてどのように向き合っていけば良いのか、参考にしてみてください。
制度理解が進まないことのリスク
建設業界におけるカーボンプライシング制度への理解不足は、企業の競争力や事業継続性にリスクをもたらす可能性があります。
炭素コストが考慮されていない事業計画は、将来的に大幅な収益悪化を招く恐れがあり、企業価値の評価でも重大な欠陥となりかねません。特に建設業界では大型プロジェクトの投資回収期間が長期にわたるため、制度変化への対応遅れは致命的です。
さらに深刻なのは、CO2排出コストの増大による生産活動への直接的影響です。高炭素排出の建設工法や資材に依存している企業は、競争力の低下に直面し、市場シェアの喪失や事業縮小を余儀なくされる可能性があります。
排出量の可視化と内部カーボンプライシングの活用
建設業界における排出量の可視化と内部カーボンプライシングの活用は、企業経営の効率化と競争力強化をもたらします。
企業が独自に炭素価格を設定することで、従来の財務指標だけでは判断が困難だった環境配慮型投資の意思決定がスムーズに行われます。建設プロジェクトにおける工法選択や設備投資の際、炭素コストを定量的に比較検討できるため、より合理的な経営判断が可能です。
また、脱炭素への取り組みが数値として可視化されることで、社内の環境意識向上と行動変容を促進するだけでなく、対外的な企業姿勢の明確な表明にもなり得ます。
建設業の排出管理体制強化に向けた第一歩
排出量管理の基盤となるのが、「Scope1」「Scope2」「Scope3」の分類体系です。
Scopeの対象は次の通りです。
Scope | 対象 |
Scope1 | 自社が直接排出するGHG |
Scope2 | 自社が間接的に排出するGHG |
Scope3 | 原材料仕入れや販売後に排出されるGHG |
建設業では特にScope3の占める割合が大きく、セメントや鉄鋼などの建設資材製造から建物の運用・解体まで、ライフサイクル全体での排出量把握が不可欠です。このため、サプライチェーンを構成する各社と共に排出削減を行う必要があります。
一方で、自社排出であるScope1及びScope2の排出削減も課題としてあげられます。この自社排出削減を促す目的で作られたのがJ-Credit制度です。J-Credit制度は、省エネルギー設備導入や再生可能エネルギー利用によるCO2削減量、適切な森林管理による吸収量を国が認証してクレジット化するものです。J-Credit制度は排出量データを基に、具体的な削減戦略を構築する際に重要な役割を果たしていますので、積極的に活用しましょう。
まとめ
本記事では、炭素税とカーボンプライシングの違いを解説しました。カーボンプライシングは炭素排出に価格付けをする政策手法の総称であり、炭素税はカーボンプライシングの具体的な実施手段の一つに位置づけられます。
炭素税は価格アプローチと呼ばれ、CO2排出量あたりの税率を政府が事前に固定する方式です。炭素税では価格が明確に設定される一方、実際の排出削減量は市場の反応に委ねられるため、企業の長期投資計画が立てやすい利点があります。
建設業界におけるカーボンプライシング制度への理解不足は、企業の競争力や事業継続性にリスクをもたらす可能性があります。制度を理解し、あらかじめ企業戦略に取り入れることで安定した経営につながるため、自社の事業状況の展望を検討する際に参照してみてください。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
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この記事の監修

リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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