業界事例

「木造建築と脱炭素」―グループシナジーを活かしながら、三井ホームが取り組むCO2排出量削減策と、サーキュラーエコノミーへの目線(前編)

「木造建築と脱炭素」―グループシナジーを活かしながら、三井ホームが取り組むCO2排出量削減策と、サーキュラーエコノミーへの目線(前編)

はじめに

ツーバイフォー工法で日本の戸建て住宅業界をリードしてきた三井ホームは、2021年に木造マンションMOCXION(モクシオン)」を発表。

2023年7月には木造SDGs戦略としてMOCX GREEN PROJECT(モクス・グリーン・プロジェクト)」を開始して、脱炭素への取り組み姿勢を明らかにしています。

サステナビリティ推進室長である執行役員の太田啓明氏に、本プロジェクトの背景や具体的な取り組み、成果、また企業のCO2排出量削減の考え方などについて、お話を伺いました。

脱炭素への取り組み姿勢を示す3つの柱

「MOCX GREEN PROJECT」を立ち上げた背景を教えてください。

まず「MOCX」とは、「Mitsui Home Original Construction method:三井ホームオリジナルの建築構法」を用いた「木造建築」と「Transformation:トランスフォーメーション」を象徴する符号語です。

先行して展開していた木造マンションシリーズにも、この「MOCX」にマイナスイオンを想起させる「ION」を加えた名称を冠しています。
このように当社オリジナルの建築構法で街の木造化を推し進め、変革していこうという宣言が「MOCX GREEN PROJECT」なのです。

 

本プロジェクトの内容はどのようなものでしょうか。

取り組みの柱は「木造による脱炭素の可視化」「使用木材の国産化」「中大規模建築物の木造化」で、まずはこの3つでさまざまな施策を行っています。

そうして具体的な活動を進めながら、引き続き第4、第5と新たな取り組みの柱を打ち立てていく予定です。期限のあるプロジェクトではなく、脱炭素への取り組み姿勢を社外に示し、社内でも意識を高めていくことを目的としています。

「木造マンション」の呼称を可能にした住宅性能

三井ホームオリジナルの建築構法とはどういうものですか。

マンション、病院、商業施設など、これまで鉄骨やRC造だった街の建物を木造化していくために最適解を提供できるような、要素技術の集合体です。

木造マンションブランドMOCXIONで見ると、当社の木造技術が分かりやすいでしょう。まず、賃貸住宅の分類として「木造マンション」というカテゴリ自体が、高強度・高性能を実現した表れといえます。

従来木造賃貸住宅はアパートとされましたが、2021年11月に完成した第1 号物件である東京都稲城市の「MOCXION INAGI」(5階建:1階RC、2~5階木造)では住宅性能が評価され、翌月に大手不動産ポータルサイトが共同で掲載ルールを改定してマンションとしての募集を可能にしました。

【MOCXION INAGI】

木は「経年優化」を実現できる、最先端の素材

脱炭素の観点で、MOCXIONが優れている点を教えてください。

構造躯体のパネル化や建物軽量化により工期短縮を実現しています。また、同規模の鉄骨やRCマンションに比べ、CO2排出量を約40%削減可能です。

炭素貯蔵量は「MOCXION INAGI」で約736.4トンと、スギの木換算で2,953本分に相当し、住宅の寿命といえる最大90年間この炭素を貯蔵します。

そのほか、建材をつくる、建物を建てる、リサイクルするなど、全ての過程で環境負荷を低減させます。

また、「MOCXION INAGI」は外壁の高い気密・断熱性能により、省エネルギー集合住宅「ZEH-M Oriented」と省エネルギー対策等級4を取得しました。

さらに、劣化対策等級でも最高ランクの3を取得し、75~90年の耐久性を認められています。中層階の木造住宅は断熱性能が低く、劣化しやすいイメージが持たれやすいですが、実はそうではないと証明できたといえるでしょう。

この頑丈で長持ちする木造建築というのは、創業以来、三井ホームが大事にしてきたことです。改めて、木は最先端の素材であり、日本の気候風土に合って「経年優化」が可能なのだと広く伝えていきたいですね。

【浜田山モデルハウス】

消費者も、環境への配慮を強く意識する時代

木造マンションMOCXIONはまさに「MOCX GREEN PROJECT」の「中大規模建築物の木造化」への取り組みに当たるものですが、普及の現状や反響を教えてください。

現在、都内で2棟が木造賃貸マンションとして稼動しており、ほぼ満室状態と好評で、さらに東京、大阪、横浜など大都市圏を中心に続々着工しています。

また、賃貸入居者アンケートでは90%以上が満足と回答されており、選択理由として「環境への配慮」が多く挙がったのも特徴的でした。消費者目線でも脱炭素や環境負荷低減が浸透している時代なのだと改めて感じさせられました。

また、三井ホームでは東京都足立区にツーバイフォー工法で国内最大級となる木造5階建ての介護施設も建設していますが、木のやさしさから利用者のストレスが軽減されているとの感想が寄せられています。

木造建築物における今後の目標としては、木造分譲マンションや、ホテルなどの商業施設で、より評価を得て大規模化を目指していきたいですね。

三井ホーム株式会社

執行役員 サステナビリティ推進室長

太田啓明(おおた ひろあき)氏

  • 1990年4月 三井ホーム入社
  • 2016年4月 技術研究所 技術開発グループ長
  • 2019年4月 生産工事部 生産技術改善グループ長
  • 2020年7月 技術研究所長
  • 2023年4月 サステナビリティ推進室長 兼 技術研究所長

前編では、「MOCX GREEN PROJECT」の概要と、同社オリジナルの建築構法を用いた木造建築に関して、木造マンションの優れた点や脱炭素に貢献するポイント、中大規模木造建築の現在地などについてお話しいただきました。

後編では、「MOCX GREEN PROJECT」の取り組みにおける「木造による脱炭素の可視化」と「使用木材の国産化」に関する詳細をふまえ、本プロジェクトの成果や今後の目標、そしてサーキュラーエコノミーへの貢献などについて伺います。

後編はこちら:「木造建築と脱炭素」―グループシナジーを活かしながら、三井ホームが取り組むCO2排出量削減策と、サーキュラーエコノミーへの目線(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

建設業界向けの脱炭素対策資料はこちら!

お役立ち資料

注目記事

循環型社会形成に貢献していくことが使命 大栄環境グループ共同土木が目指す これからの廃棄物処理のあり方とは—
業界事例

循環型社会形成に貢献していくことが使命 大栄環境グループ共同土木が目指す これからの廃棄物処理のあり方とは—

ピーエス・コンストラクションの脱炭素への取り組みと 「TansoMiru管理」導入によるCO2排出量可視化効果
業界事例

ピーエス・コンストラクションの脱炭素への取り組みと 「TansoMiru管理」導入によるCO2排出量可視化効果

AI活用で工事費・建物のCO2排出量を算定 新ツールがもたらす木内建設のDXと脱炭素戦略
業界事例

AI活用で工事費・建物のCO2排出量を算定 新ツールがもたらす木内建設のDXと脱炭素戦略

みらい建設工業 CO2排出量の可視化で脱炭素施策を推進 「TansoMiruサービス」導入エピソード
業界事例

みらい建設工業 CO2排出量の可視化で脱炭素施策を推進 「TansoMiruサービス」導入エピソード

全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会が目指す 建設現場における脱炭素への貢献
業界事例

全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会が目指す 建設現場における脱炭素への貢献

記事の一覧はこちら

本ウェブサイトを利用される方は、必ず下記に規定する免責事項をご確認ください。
本サイトご利用の場合には、本免責事項に同意されたものとみなさせていただきます。当社は、当サイトに情報を掲載するにあたり、その内容につき細心の注意を払っておりますが、情報の内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。
また、当サイト並びに当サイトからのリンク等で移動したサイトのご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、当社は何らの責任を負うものではありません。

目次