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不動産デベロッパーとして脱炭素に取り組む 大和ハウスグループの「脱炭素への挑戦」(前編)

不動産デベロッパーとして脱炭素に取り組む 大和ハウスグループの「脱炭素への挑戦」(前編)

はじめに

大和ハウスグループは環境長期ビジョンを公表し、まちづくり、事業活動、サプライチェーンそれぞれにおける「CO2排出量ゼロ」を目標として掲げています。その中で大和ハウス工業は、不動産デベロッパーとして脱炭素社会実現に向けた取り組みが注目されています。今回は、大和ハウス工業 経営戦略本部 サステナビリティ統括部長の小山 勝弘氏に、サステナブル社会実現に向けた各施策についてお話を伺いました。

※1:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ばれています。

創業100周年に向けたパーパス

「人・街・暮らしの価値共創グループ」を標榜し、サステナブルな社会の実現を目指す大和ハウスグループ。2022年5月には、創業100周年に当たる2055年に向けた「大和ハウスグループの“将来の夢”(パーパス)」を策定しました。

小山氏は「我々のパーパス、私たちは“将来の夢”と呼んでいますが、『生きる歓びを分かち合える世界の実現に向けて、再生と循環の社会インフラと生活文化を創造する。』というものです。生きる歓びを分かち合える世界というのは、我々が作り出したい世界で、再生と循環の社会インフラと生活文化の創造は、我々が成し遂げるべき役割、果たすべき役割と位置づけています」と語ります。

大和ハウス工業株式会社
経営戦略本部 サステナビリティ統括部長
小山 勝弘 氏

脱炭素(カーボンニュートラル)への挑戦

大和ハウスグループでは、2022年度を初年度とする5ヵ年の中期経営計画「第7次中期経営計画」を策定しました。当計画では、8つの重点テーマに取り組み、その中の1つが「すべての建物の脱炭素化によるカーボンニュートラルの実現」です。なお、具体的な環境行動計画として「エンドレス グリーン プログラム 2026」も策定しています。

「社会インフラの観点でいうと、建物はつくってから数十年使われ続けるものです。そうすると、開発段階からしっかりと脱炭素に取り組むことは非常に重要な意味があるし、意義があると思っています。もう一つの生活文化という観点からいえば、人は一生のうちの多くの時間を建物の中で過ごします。生活の基盤となる住宅があって、オフィスで働き、休みの日は商業施設やホテルで過ごす。それぞれについてしっかりと脱炭素化に取り組むことが、あらゆる人のライフスタイルやワークスタイルを脱炭素化につなげていくことに貢献できると考えています。近年の地球温暖化や気象災害の状況から見ても、脱炭素化への取り組みとは、将来の世代の「生きる」を支えていく取り組みだと認識しています」(小山氏)

*上図内 「CN」=カーボンニュートラルのこと
出典:大和ハウス工業Webサイト

脱炭素と快適性の両立を目指す

「エンドレス グリーン プログラム2026」においては、環境負荷ゼロとともに「環境と事業収益の両立」を目指すといいます。小山氏は「建物のエネルギー消費を抑える工夫が第一だと思いますが、その建物を使う人が我慢して省エネするという話ではなく、快適性や生産性などを向上させながら、いかに脱炭素を実現していくかの観点が重要」と話します。

「利用者に脱炭素の必要性だけを正面から訴えても響かない。それよりもハード面を整備する段階で、エネルギーの使いすぎに気づけるような仕組み作りの方が有用だと考えます。例えば、エネルギーの使用量の増加に応じて、室内に設置したインジケーターがリアルタイムで青から黄色、黄色から赤に変わることで、使用量を見える化したマンションもあります。黄色になったから少し使用を控えようという意識が、利用者の行動変容にもつながるのではないかと思います」

計画段階から脱炭素の視点を取り込む

小山氏は、戸建住宅から街づくりまでの事業の幅の広さも、脱炭素社会への取り組みを進める上で強みになると言います。「住宅でしたら、一軒一軒の戸建住宅から高層マンションまで、そして一般の建物ですと、オフィス、店舗、街の中核となるような商業施設まで、さまざまな建物の開発を担っているのが大和ハウスグループです。脱炭素に向けては建築的な観点と設備的な観点、さらには再生可能エネルギーやエネルギーマネジメントという観点からの取り組みもありますが、大きな枠組みは共通しているところが多々あります。幅広い用途の建物を手がけているからこそ、それぞれの取り組みで得た技術や知見を連携させ、情報を共有することで、お互いにブラッシュアップしていくことが可能になっています。地域の特性を踏まえて、蓄積したノウハウを上手く組み合わせた複合型の街づくりが提案できるのも当社の強みです」(小山氏)

泉北ニュータウン内の「スマ・エコタウン 晴美台」(大阪府堺市)は、大和ハウスグループが初めて手がけたネット・ゼロ・エネルギー・タウン(街全体で創り出されるエネルギーと消費されるエネルギーの1次エネルギー換算値で、創り出される方が多い街)です。戸建住宅全棟に太陽光発電システムとリチウムイオン蓄電池を導入し、再生可能エネルギーを活用しています。

住宅、街づくりの計画段階から脱炭素、エネルギー消費削減の視点を入れていくことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

小山氏は「計画段階から考えることで、建築的な工夫が可能になります」とその意義を語ります。「建物の向きによって日射の影響を受けにくい工夫もできますし、建物の中に風を取り込みやすい設計も可能になります。太陽光発電を搭載する場合も、発電効率の高い屋根の形状や向きもあります。そういうことは計画段階から考えておくと、選択肢も広がります。省エネやCO2排出量の削減というと、どうしても設備に注目しがちですが、建物全体で考えた方が結果としてコストを抑えられるため、メリットがあります」

2021年3月には「再生可能エネルギー100%のまちづくり」というテーマに挑んだ大規模複合開発プロジェクト「船橋グランオアシス」が完成しました。東武アーバンパークライン塚田駅近くの東京ドーム約1.2個分の事業面積内に、分譲マンション、賃貸住宅、戸建住宅、商業施設が建っています。

戸建住宅と分譲マンションには、太陽光発電システムや家庭用リチウムイオン蓄電池などを整備。さらに住宅エリアの住民が使う電気をはじめ、共用部や街灯に使う電気にも、大和ハウスグループが管理する菅沼水力発電所(岐阜県飛騨市)の非化石証書(再エネ指定)を使うことで、再エネ電気100%を実現しています。非化石証書(再エネ指定)は開発工事の電力にも利用され、工事も再エネ電気100%で行われました。

 

大和ハウス工業株式会社
経営戦略本部 サステナビリティ統括部長
小山 勝弘(こやま・かつひろ)氏

1970年滋賀県生まれ、京都大学工学部にてシステム工学を学んだ後、1992年大和ハウス工業入社。入社後、大阪工業大学で建築を学び、2006年まで本社設計部門にて、「大和ハウス大阪ビル」「石橋信夫記念館」など、大型建築プロジェクトの設計・デザインを担当。2006年より本社環境部門にて、大和ハウスグループ全体の環境マネジメントを統括。環境経営戦略の立案、気候変動対策の推進等に従事。2015年から環境部長、2024年より現職。一級建築士、CASBEE評価員(戸建・建築・不動産)

前編では、創業100周年に向けたパーパス、環境負荷ゼロへの挑戦、エネルギー消費や脱炭素の視点から見た街づくりなどについてお話しいただきました。

後編では、新築建物の原則全棟ZEH・ZEB化推進や、全棟太陽光発電搭載への取り組み、ICP制度導入の背景、脱炭素社会実現に向けた今後の展望などについてお聞きしていきます。

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年3月)のものです。

 

後編はこちら:
不動産デベロッパーとして脱炭素に取り組む大和ハウスグループの「脱炭素への挑戦」の概要(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

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