施工段階のCO2排出量を削減するため、バイオディーゼル燃料(BDF)の使用を推進する鴻池組。BDFの使用のみならず、その原料となる廃食油を家庭などから回収するプロジェクトにも取り組んでいます。鴻池組が展開する「廃食油回収プロジェクト」について、同社 執行役員 管理本部副本部長 兼 環境推進部長の青柳吉広氏、環境推進部の井上真彩氏にお話をお聞きしました。
廃食油回収を全社で展開
バイオディーゼル燃料(BDF)の原料となる廃食油は近年、十分な量の確保が難しく、安定供給が課題となっています。そこで23年度に発足したのが「廃食油回収プロジェクト」です。鴻池組だけでなく協力会社の社員・家族なども対象として、家庭などから出た廃食油を回収し、BDFへと再生します。
鴻池組では従前より、重機由来のCO2排出量削減策として、BDF使用への取り組みを進めていました。青柳氏はプロジェクト発足のきっかけについて「熊本のある会社が廃食油回収に取り組んでいるのを知りました。BDFの原料を確保したいということもあり、当社でもやろうという声が高まり、プロジェクトに至りました」と話します。初年度は大阪から始め、2024年度には、東京、広島、山陰、九州の本支店にも展開を開始しました。「せっかくやるなら全国展開しようということで徐々に広げていき、2025年度は東北・名古屋の支店にも展開しやっと全国で回収できる体制ができました」(青柳氏)
▼廃食油回収によるBDF確保スキーム

出典: 鴻池組WEBサイト
社員の声かけで飲食店も参加
飲食店とも積極的に提携することで取り組みを加速しています。廃棄に際してコストが発生する廃食油を、鴻池組が手配した燃料供給会社が回収を行う仕組みです。「これまでは飲食店が産業廃棄物としてお金を払って処理していたものを我々が無償で回収するので、Win-Winの関係となり、想定以上に協力していただける飲食店が多いです」(青柳氏)24年10月からは、積水ハウスの協力のもと、同社オフィスのある大阪・梅田スカイビルの一部飲食店からも廃食油回収を開始しました。
社員が、常連の店や外食で訪れた店に声をかけてプロジェクトに参加した例もあるといいます。青柳氏は「個人レベルでの働きかけが、飲食店や周囲の人を少しずつ巻き込んでいって、いい効果を生んでいます」と話します。
本社で廃食油の回収を担当する環境推進部の井上氏は「家庭の調理で使った油を社員がペットボトルなどにためて持ち込んできます。持ち込んでくれたときは、普段仕事をしているときには分からない家庭での顔を垣間見ることができるような気がします。「週末に唐揚げを作ったんだ」「ずっとコツコツためていたんだよ」といった家庭のエピソードと一緒に持ってくる方も多く、社員同士のコミュニケーションにもなっています」と笑顔を見せます。
▼社員から回収した廃食油

本社 環境推進部 井上真彩(いのうえ・まあや) 氏 |
精製したB100を万博工事に使用
2024年度に本プロジェクトを通して収集した廃食油は3,656ℓ以上となりました。回収した廃食油は専門業者により約2,376ℓの高純度バイオディーゼル燃料へと精製され、CO2排出量削減効果は約6.1t-CO2と試算されています。
精製された100%バイオディーゼル燃料(B100)は、大阪・関西万博の工事に使用するクローラークレーンや発電機用の燃料としても使用されました。
B100の使用に当たっては、同社の機材センターに使用する機械を持ち込み、不具合が起きないかを検証。万が一の故障に備えた保険も、保険会社の協力を得て備えました。こうした取り組みが協力会社の不安を払拭し、スムーズな導入につながったといいます。
▼B100燃料

脱炭素分野で業界にも貢献を
全社を挙げて取り組む「廃食油プロジェクト」。今後どのような進化をとげていくのでしょうか。青柳氏は「大阪・関西万博での試みもそうですが、やはり協力会社の方にも軽油代替燃料への転換に対して理解を深めてもらうことが大事だと思っています。廃食油回収を進めることはさることながら、サプライチェーンも巻き込んでどうやって意識を高めていくか、もっとうまく循環させていくかが今後の課題です」と話し、意識向上が、軽油代替燃料の使用促進、さらにはCO2排出量削減へとつながっていくことを期待します。
井上氏も「廃食油プロジェクトは、社員の意識向上にとっても非常に有意義なことだなと私も感じております。こうした活動を通じて、ゆくゆくは協力会社が軽油代替燃料を積極的に導入してくださるところにつながっていくとうれしいです。私どもの取り組みはもしかしたら小さなものかもしれませんが、将来的には業界に少しでも貢献できたらいいなと考えております」と期待を込めて語っていました。
本社 執行役員 管理本部副本部長 兼 環境推進部長 |
※組織名・役職などの情報は取材当時(2025年7月)のものです。

この記事の監修
リバスタ編集部
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