基礎情報

設計の仕様が建物運用時のCO2を決める!建設業が握る脱炭素社会の未来

設計の仕様が建物運用時のCO2を決める!建設業が握る脱炭素社会の未来

東京都では、産業部門、業務部門、家庭部門、運輸部門、廃棄物部門といった部門別にCO2排出量を集計しています。部門別のCO2排出量の中で、建設関連が全体の70%を占めています。

建築関連のCO2排出量は、施工時、運用時、解体時の3つに分けられます。建築関連のCO2排出量のうち、運用時のCO2排出量は全体の70%を占めていますが、建物を長く運用すると80%にも上昇します。

建築設計の仕様によって運用時のCO2排出量が決まるため、設計段階で運用時の排出量を抑えれば、建物を長く使うことによりCO2削減が可能です。この記事では、建築業界がCO2排出に貢献している現状を理解し、脱炭素社会を実現するための建築設計の観点から考えてみました。

建設工事におけるCO2削減の必要性

2015年のパリ協定を契機に世界的にも脱炭素が求められる中で、建設工事におけるCO2削減の必要性は増してきています。建設業者としてもCO2削減を目指す中でさまざまな課題と向き合わなければなりません。

建設業者がCO2削減に奔走すべき理由と、向き合うべきCO2削減の課題を解説します。

建設業者がCO2削減に奔走すべき理由

建設業者がCO2削減に取り組むべき理由は、国際的な気候変動対策の一環として重要なためです。2015年のパリ協定では、各国が5年ごとに目標を提出・更新する義務が課され、地球の平均気温上昇を産業革命前と比べて抑えるべく、世界的な努力が求められています。

日本でも、2030年度までに2013年度比で26%、2005年度比で25.4%の温室効果ガス削減を目指す目標が掲げられており、各産業界で削減目標に向けた取り組みが求められています。

特に建設業界では、建築物省エネ法によって、新築や増改築する建築物の省エネ性能が義務として定められた省エネ基準を上回るよう努力することなどが定められました。建設業はエネルギー消費量が多く、建物のライフサイクルを通じてCO2排出に大きく関わるため、省エネ設計や環境配慮型の建材使用、再生可能エネルギーの導入など、積極的な対策が求められています。

出典:外務省/日本の排出削減目標
出典:国土交通省/令和4年度改正建築物省エネ法の概要

建設業者が向き合うべきCO2削減の課題

建設業界が向き合うべきCO2削減の課題として、効果が目に見えにくい点が挙げられます。各工事現場でのCO2排出量や日々の取り組みによる削減量を具体的に測定することは技術的に難しく、数値化して成果を示すことが容易ではありません。効果を実感しにくいため、現場で脱炭素に取り組む従事者のモチベーション維持が困難です。

また、環境負荷の低い車両や建機、省エネタイプの空調などの導入には相当なコスト増が伴うことも課題として挙げられます。特に中小企業にとっては、初期投資の負担が大きな壁となりかねません。

一方で、長期的には消費エネルギーを抑えることでランニングコストを削減できたり、環境保護への積極的な姿勢が企業イメージの向上につながったりと、導入コストを上回る効果も見込めます。

関連記事:サーキュラーエコノミーとは?必要な3つの理由と建設業界の取り組み事例を紹介

CO2は建設業が圧倒的に排出している

建設に関わるCO2排出量がどれくらいかをご存じでしょうか。

世界の産業別のCO2排出量の割合では、建設業関連のCO2排出量は37%です。産業の中でも大きな割合を占めていることがわかります。

一方、部門別で東京都のCO2排出量を見てみると、図のとおり、なんと建設関連のCO2排出量が70%を占めています。世界の産業別のCO2排出量の割合では、建設業関連のCO2排出量は37%です。産業の中でも大きな割合を占めていることがわかります。

(画像出典:Global Alliance for Buildings and Construction 2021(英文)、住友林業「LCA」)

CO2を出している割合は建物が約70%

東京都では産業部門、業務部門、家庭部門などの分野別に、CO2排出量を把握するために分類している点が特徴です。

例えば産業部門では工場が物を作るため、CO2を多く排出していると思われます。また運輸部門ではガソリンを使用して物を運ぶため、排気ガスから多くのCO2が排出されると考えられます。

しかし、イメージに囚われずに実態を把握することが重要です。

そこで正しい対策を取るため、部門別にCO2排出量を集計したところ、建物に関連する業務部門と家庭部門の割合が全体の70%を占めていたことがわかりました。

画像出典:東京都環境局「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速2022

建物運用時のCO2排出量

建物の建設時に排出するCO2は、全体の30%ほどです。建物運用時のCO2排出量の中で大きな割合を占めるのが建築材料です。

また新築時のCO2のうち80%程度が、材料の生産によって排出されています。したがって、新築時に設計者がCO2排出量の少ない材料を選ぶといった対策が有効です。一方、建物運用時のCO2排出量は全体の70%程度と、非常に大きな割合であることが特徴です。

そのため、カーボンニュートラルの設備を導入することや、通常の設備機器を入れるなどの対策を行う必要があります。よって、設計者自身が脱炭素の意識を持たなければ、運用時のCO2削減は難しいのが現状です。

(画像出典:Global Alliance for Buildings and Construction 2021(英文)、住友林業「LCA」)

建物は長く使うから、CO2排出量を考慮した設計へ

建物は、数十年間にわたって利用することが一般的です。そのため、建物の運用期間によるCO2排出量を考慮し、長期的な目線で設計を行うことが大切です。

建物は、昔に比べて長寿命化してきています。日本の建物の平均寿命は32年ですが、アメリカやイギリスでは60年を超えて使うのが当たり前です。日本でも最近は築古のマンションをリノベーションして住む人も増えています。昔に比べて、建物を長く使う人が増えています。

建物を長く使うからこそ、運用時のCO2排出量は大きな影響を及ぼします。

(画像出典:国土交通省「平成28年度住宅経済関連データ 滅失住宅の平均築年数の国際比較 」)

対策方法の事例

設計者が脱炭素を踏まえた行動をしないと、運用時のCO2排出量は変わりません。CO2排出量の削減に向けた設計が重要となります。

省エネ設計をする

たとえば、省エネ設計です。基本に立ち戻って省エネ設計を確実に取り入れることから始めましょう。ライトシェルフを用いた設計にしたり、高断熱の設計にしたりと、できることはたくさんあります。

省エネ設計を取り入れた計画が大切です。

太陽光発電を取り入れる

東京都では、太陽光発電を取り入れることに積極的です。運用時に使う電力を、1年を通してトータル0にできれば、運用時のCO2排出量を格段に減らせます。太陽光発電でなくても、地中熱を利用して発電したり、河川水で発電したり、なにかしらで発電して電力をまかなうことができれば、ZEB化することも可能です。

>ZEBについては「ZEBとは? ZEBの種類と定義・基準などの基礎知識を解説」の記事で詳しく解説しています。

長寿命化対策をする

また、せっかく省エネ設計をしても、すぐに解体して別の建物を作ってしまったら意味がありません。長寿命化対策をして、長く使うことを考えましょう。長く使うことで、新築や解体時に排出されるCO2を抑えることができます。

低炭素材料を仕様に入れる

新築時の材料を低炭素材料に変えるのも効果的です。低炭素コンクリートを使えば、新築時のCO2排出量を減らすことができます。コンクリートに炭素を固定する技術も登場しました。低炭素、カーボンニュートラルな材料を設計仕様に入れることで、脱炭素の取り組みとなるでしょう。

当たり前のことを当たり前に取り入れることが大切

ここまで上げてきた省エネの知識は、昔から言われているものばかりです。新しい技術もいくつかありますが、昔から言われている省エネを徹底すれば、かなりのCO2削減となります。

脱炭素とデザインを両立する

大切なのは、コストやデザインを優先して省エネや脱炭素を置き去りにしないことです。デザイン性が高い建物は魅力的ですし、安く建物が作れるならそれにこしたことはありません。ですが、省エネや脱炭素を置き去りにした建物は、設計能力が無いと疑われかねない時代が迫っています。脱炭素とデザイン、コストをすべて満たすデザインを新しく考えることが必要です。

高効率の設備を積極的に取り入れる

そのためには、高効率の設備を積極的に取り入れることも必要です。技術の進歩は目覚ましく、最新の高効率設備を取り入れれば、運用時のCO2排出量は大きく減ります。初期費用が高いことはデメリットとして挙げられますが、長い目で見ればCO2を減らすことには大きな意義があります。

初期費用が高い設備は、施主が嫌がることもあるでしょう。ですが、施主を納得させることも設計者には必要です。脱炭素の対策をするメリットを施主に説明して、未来を見据えた話し合いができる関係を築きましょう。

ライフサイクルCO2を計算する

そして大切なのが、ちゃんとライフサイクルCO2(出典:経済産業省資源エネルギー庁「CO2排出量を考える上で押さえておきたい2つの視点」)を計算することです。なんとなく設計してCO2を削減した気になっていては意味がありません。しっかりと計算をして、環境への影響を可視化できれば、社会的意義を数値で示せます。これは施主にとっても大きなメリットとなるでしょう。

関連記事:ゼロエミッションとはなにかわかりやすく解説!具体的な取り組み事例について

まとめ

この記事では、建設業がCO2を排出している現状を理解し、どうすれば脱炭素社会を実現できるのか、建築設計の観点から考えてみました。

東京都における部門別のCO2排出量は建物関連が7割を占めています。その多くのCO2を設計の仕様で減らすことができます。

脱炭素の意義を理解し、設計から脱炭素社会の未来を実現していきましょう。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

建設業界向けの脱炭素対策資料はこちら!

お役立ち資料

注目記事

循環型社会形成に貢献していくことが使命 大栄環境グループ共同土木が目指す これからの廃棄物処理のあり方とは—
業界事例

循環型社会形成に貢献していくことが使命 大栄環境グループ共同土木が目指す これからの廃棄物処理のあり方とは—

ピーエス・コンストラクションの脱炭素への取り組みと 「TansoMiru管理」導入によるCO2排出量可視化効果
業界事例

ピーエス・コンストラクションの脱炭素への取り組みと 「TansoMiru管理」導入によるCO2排出量可視化効果

AI活用で工事費・建物のCO2排出量を算定 新ツールがもたらす木内建設のDXと脱炭素戦略
業界事例

AI活用で工事費・建物のCO2排出量を算定 新ツールがもたらす木内建設のDXと脱炭素戦略

みらい建設工業 CO2排出量の可視化で脱炭素施策を推進 「TansoMiruサービス」導入エピソード
業界事例

みらい建設工業 CO2排出量の可視化で脱炭素施策を推進 「TansoMiruサービス」導入エピソード

全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会が目指す 建設現場における脱炭素への貢献
業界事例

全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会が目指す 建設現場における脱炭素への貢献

記事の一覧はこちら

本ウェブサイトを利用される方は、必ず下記に規定する免責事項をご確認ください。
本サイトご利用の場合には、本免責事項に同意されたものとみなさせていただきます。当社は、当サイトに情報を掲載するにあたり、その内容につき細心の注意を払っておりますが、情報の内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。
また、当サイト並びに当サイトからのリンク等で移動したサイトのご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、当社は何らの責任を負うものではありません。

目次