2024/9/29
2025/6/23
サステナブル建築とは?メリットや事例を紹介

建設業界では、持続可能な社会に適合する建物を造り出す「サステナブル建築」に注目が集まっています。サステナブル建築は自然環境に配慮し、人々の生活を維持していく上で注目されている建築手法です。
建設業界では、持続可能な社会の実現を目指して多くの企業がさまざまな施策を実行していますが、その解決策の一つとしてサステナブル建築は期待されています。
本記事ではサステナブル建築の概要やメリット・デメリット、具体例について解説します。
サステナブル建築の概要
建設業界がサステナブルな社会の実現に貢献する際には、「サステナブル建築」による方法が考えられます。サステナブル建築だからこそ実現できるメリットが多数あるため、今後も業界独自の手法として注目を集めるでしょう。
以下では、サステナブル建築の基本について解説します。
そもそもサステナブルとは
サステナブルには「持続可能な」「継続していける」といった意味があります。持続可能な開発目標であるSDGsをはじめとした数々の目標を実現することで、サステナブル社会を構築し、現在の地球が抱える環境問題や社会問題の解決を目指します。
サステナブル建築とは自然環境に配慮して人の生活を持続して支える建築物のこと
持続可能な社会を実現するためのサステナブルを意識した建築方法、および建築物のことをサステナブル建築と呼びます。
サステナブル建築では、必要なエネルギーを最小限に抑えつつ、資源を無駄にしないことが求められます。基準を守ることで、環境に優しい建築物の構築が可能となります。
サステナブルに関する問題は、あらゆる業界に影響をおよぼしており、それは建設業界も例外ではありません。建築業界ではサステナブルを考慮した新しい建築方法や考え方が取り入れられつつあります。
サステナブル建築の導入によって、機能性やデザイン性のみではなく「自然と調和・共存できる建築物」が評価され始めています。建設業界に属する企業は、この機会にサステナブル建築への理解を深めて、具体的な施策に着手するのがおすすめです。
サステナブル建築の基本について
サステナブル建築は、前提として自然に配慮した建築物である必要があります。環境問題への配慮をしたうえで人々の生活を維持し向上させられる建築物こそが、サステナブル建築として認められます。
長期利用が可能で、かつ安全性の高い建築物を造ることにもなるため、多くのメリットを得られます。また、長期的に存在し続ける建築物の存在は、周辺の文化や伝統の継承や、災害時への備えにもなります。
このサステナブル建築の導入によってさまざまな課題が解決し、より充実した社会の実現につながるでしょう。
関連記事:サステナブルマテリアルとは?メリット・デメリットについて
サステナブル建築の基準
サステナブル建築への理解を深めるには、建築基準を把握することも大切です。ここではサステナブル建築を実現するための、3つの視点に基づく基準について解説します。
・地球の視点
・地域の視点
・生活の視点
それぞれの視点による基準を理解し、どのような要件を満たすべきなのかしっかり把握してください。
地球の視点での環境設計に配慮する
サステナブル建築では、まず「地球の視点」で環境設計に配慮する必要があります。
この視点では、建築物のライフサイクル全体で、環境への影響を最小限に抑えることを目指しています。このように地球視点に対して配慮することは、地球の有限性と環境の許容限界を意識し、持続可能な開発を目指すことに直結しています。
以下に、具体的な配慮項目について紹介します。
- 省CO2、節電 :化石エネルギー消費を抑える 省CO2と節電・ピークカットの両立
- 再生可能エネルギー :再生可能エネルギーを積極的に行う設計・運用
- 建物長寿命化 :長く使い続けられる建物の設計・運用
- エコマテリアル :環境負荷の少ないリサイクル材等の利用を推進
- ライフサイクル :設計・施工・運用・改修・廃棄プロセスを通じ、一貫したライフサイクル・マネジメントを可能にする
- グローバル基準 :グローバルな性能評価基準への対応(ex LEED、Energy Star 他)
サステナブル建築に取り組む建設業者にとっては、LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)やEnergy Starなどの国際的な性能評価基準を取り入れることが非常に重要です。LEEDは、持続可能な建物を作るための戦略を示す認証プログラムであり、Energy Starはオフィス機器や建物全体の省エネルギー性能を評価する制度です。
LEEDやEnergy Starの基準を取り入れることで、建物の環境負荷を減らし、地球環境の改善に貢献しつつ、長期的に経済的な利益をもたらすことができます。
※LEED(リード):米国グリーンビルディング協会が運営する建築物の環境性能評価制度。省エネ・資源効率・室内環境などを評価し、建物の持続可能性を認証する国際的な基準
※Energy Star(エナジースター):アメリカ環境保護庁(EPA)が策定した省エネ性能を示す認証制度。家電や建築物のエネルギー効率の高さを示し、環境負荷の低減を促進
地域の視点での環境設計に配慮する
サステナブル建築は「地域での視点」を考慮した環境設計も重要です。
地域の視点とは、地域固有の気候や生態系に対応する建築設計を意味します。地域の自然環境に適応した建材の使用や、エネルギー効率の高い設計を用いることで、LEEDやBREEAM(Building Research Establishment Environmental Assessment Method)などの地域に基づいた環境設計基準を実現します。
LEEDやBREEAMでは、地域固有の気候や環境に応じた建物の設計や資材選定が評価されます。具体的には、地域で採れる再生可能な素材やエネルギー効率の高い建材の使用、または自然エネルギー(太陽光や風力など)の活用が促進されます。
また自然環境のみでなく、地域社会との調和、文化的背景や歴史に敬意を表し、維持する姿勢も求められます。自然・文化の両側面へ配慮し、地域環境への影響を最小限に抑える設計が不可欠です。
以下に、具体的な配慮項目について紹介します。
- 都市のヒートアイランド抑制 :外構・屋上・壁面の緑化、保水床、散水・打水など
- 生物多様性への配慮 :地域既存の動植物に対する生態系への配慮
- 自然・歴史・文化への配慮 :景観配慮、歴史・文化配慮、地域コミュニティ配慮
- 地域や近隣への環境影響配慮 :土壌汚染・大気汚染・水質汚染・交通量・日影・騒音・振動・臭気・廃棄物などへの配慮
- エネルギーネットワーク化 :CEMS・スマートグリッド等の地域に最適なエネルギーネットワーク化への配慮
- 地域防災・地域BCP :自然災害の防災およびライフライン確保等、事業継続性計画(BCP)への配慮
この視点は、サステナブルな地域社会の発展を支援し、長期的に住民の生活品質を向上させるために効果的です。サステナブル建築に携わる建設業者は、地球のみでなく地域規模の環境にも配慮して建設を行わなければなりません。
※BREEAM(ブリーム):英国発の建物の環境性能評価制度。設計・施工・運用における環境負荷を評価し、建築物の持続可能性を示す国際的な認証基準の一つ
生活の視点での環境設計に配慮する
「生活の視点」で環境設計を実施することも、サステナブル建築における基準の1つとなり、環境に配慮した設計基準であるBREEAMやWell Building Standard(ウェル・ビルディング・スタンダード)を取り入れることが含まれます。BREEAMやWell Building Standardは、建物の快適性や健康性、安全性を高めつつ、省エネルギー性能や環境負荷の低減を実現するための指針となります。
従来のように我慢することで省エネを実現するのではなく、快適さを追求しつつ省エネにつなげることが、サステナブル建築の基本です。環境に優しく、かつ居住者が快適に暮らせるような配慮が必要になります。
また、非常時・災害時の安全性や、感染症や化学物質汚染などを考慮した健康への配慮も重要です。そのほか、音や温熱、利便性など、生活者の視点に立った建設計画をしなければなりません。
以下に、具体的な配慮項目について紹介します。
- 安全性:平常時安全性(防犯・事故防止・弱者安全など)非常時安全性(地震安全・BCP・火災安全など)
- 健康性:CO2濃度・化学汚染物質・感染症対策・清浄度・臭いなど
- 快適性:温熱環境・光環境・音環境など(ex 輻射空調等)
- 利便性:ELV待ち時間・モジュール・動線・オフィススタンダード・IT環境他など
- 空間性:眺望・広さ・色彩・触感・コミュニティ・緑化・アメニティなど
- 更新性:可変性・拡張性・冗長性・回遊性。収納性など
具体的な項目の視点は、環境への配慮と同時に、生活空間を豊かにし、日常の利便性を高めることとなります。サステナブル建築に取り組む建設業者にとって「生活者に我慢をさせない設計をする」ことは、持続可能な建築の実現に不可欠です。
サステナブル建築における設計指針
サステナブル建築を実現するためには、明確な設計指針を持つことも大切です。建設業者はその指針に基づいた「設計責任」と「説明責任」を担わなければなりません。
- 建物に対する設計指針
- 事業に対する設計指針
- 人に対する設計指針
- 社会に対する設計指針
- 造り方に対する設計指針
以下にそれぞれの設計指針の設計責任と説明責任について解説いたします。
建物に対する設計指針
設計責任
建築は設計・施工・運用・更新・改修・解体といった、さまざまな段階によって構成されています。すべての段階に対し「建物ライフサイクル・マネジメントの視点」に基づいた一貫した指針を持つ必要があります。
説明責任
サステナブル建築の設計者は、設計性能や施工性、メンテナンス性などの性能面についての「説明責任」も担います。「なぜこのような設計にしたのか?」という疑問に対し、指針に基づいた明確な説明ができなければなりません。
事業に対する設計指針
設計責任
サステナブル建築では事業という面からも、設計指針への責任を担います。
たとえば「省エネを実現したい」という事業目的に対し、設計者は「最大事業価値」をもたらす努力をしなければなりません。事業が目指すものに沿い、その目的に最大限応えるよう配慮し、設計を行う必要があります。
説明責任
設計者は、自身の設計が事業目的に沿うものかを説明できなければなりません。その際は「可能な限りの数値化・指標化」を行えるようにします。
人に対する設計指針
設計責任
設計者は、当然ながらその建築物の居住者・利用者に対しても責任を負います。
その際は「最低限生きていくことは可能」という最低基準を軸にするのではなく、より快適で豊かな利用ができるよう「最適基準」を想定する必要があります。環境への配慮と同時に、人が「住み続けたい」と思えるような建物を設計します。
説明責任
こちらもまた、「可能な限りの数値化・指標化」が必要になります。設計したサステナブル建築が人に優しいものであると、説明できるようにします。
社会に対する設計指針
設計責任
建築は私的財産であると同時に、その社会に属する社会的財産の側面も持ちます。そのため周辺の歴史や文化を壊さず、社会的に認められ続ける建築物を設計することも、設計者の責任の1つです。
説明責任
社会の価値基準は変化し続けます。そういった多様な価値観や基準に対し、設計者は建築物を「社会財産である」という視点を持って説明責任を担わなければなりません。
造り方に対する設計指針
設計責任
造り方に対する設計指針も、サステナブル建築においては重要な要素です。
「建てる時」はもちろんのこと、「建てた後」においても、環境や生活に配慮した設計でなくてはなりません。
説明責任
設計・施工・運用・更新・改修・解体の、「建物ライフサイクル」各段階にわたり、設計者は造り方について「なぜこのようにしたのか」を説明できなければなりません。
関連記事:建築業がSDGsの目標に向けてできる取り組みを解説
サステナブル建築のメリットについて
サステナブル建築の実現には、さまざまなメリットがあります。以下では、サステナブル建築における基本的なメリットを解説します。
地球の環境改善に貢献できる
サステナブル建築の実現は、地球環境の改善に貢献できる点で大きなメリットがあります。たとえば建物を建てる際には多くのエネルギーが必要とされ、大量のCO2を排出しています。これは環境を悪化させ、地球の将来に影響を与えてしまいます。
サステナブル建築の導入は、そういった地球環境への影響を最小限に抑え、持続可能な社会の実現への大きな貢献になります。省エネや再生可能エネルギーの活用は、生態系の保護や気候変動のリスクを抑えるなど、これからの地球を考える社会に貢献します。
社会的な信用を得られる
サステナブル建築の実施は、建築関係の事業者として社会的な信用を得られるメリットがあります。
先に解説した通り、サステナブル建築は地球環境の改善につながります。そのためサステナブル建築で環境問題に取り組んでいるという姿勢が、ステークホルダーから高い評価を得るきっかけになります。
昨今はサステナブルを意識した取り組みをしているかを指標とする「ESG投資」の市場規模も広がっているため、サステナブル建築による社会的な信用の獲得には大きなメリットがあります。資金調達の手段としても、サステナブル建築が施策の軸になり得えます。
ランニングコストの削減につながる
サステナブル建築は結果的に、ランニングコストの削減につながります。地球環境への貢献において、必要なエネルギーの削減は重要なプロセスです。それは建築時にかかる電力などの削減にもなり、省エネを実現するきっかけになります。
また、サステナブル建築によって自然環境を利用した最新の建物を構築することで、自然採光や熱効率の向上などを実現でき、建築後のランニングコストも抑えられます。
サステナブル建築のデメリットについて
サステナブル建築には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットもあります。デメリットを把握し、対処法を考えることも重要です。以下では、サステナブル建築におけるデメリットを解説します。
建築にかかるコストが増大する
サステナブル建築を実行する場合、従来よりも建築にかかるコストが増大すると予想されます。従来の材料よりも高価なものが必要になる、設備投資により費用がかさむなどのケースも多く、結果的にコストが割高となる可能性があります。
コストが増えればそれだけ利益も減るため、企業経営に影響する可能性も否定できません。
建築の手間・時間もかかる
サステナブル建築の実行には、手間や時間が従来よりも必要になることが予想されます。過去に使用事例の少ない材料を導入する場合、設計書や図面を見直す必要に迫られる可能性もあります。
また、施工時にも予期せぬトラブルが発生し、対処方法に苦心するケースも想定されます。時間的なコストも増える点が問題視されます。
サステナブル建築の事例
サステナブル建築として公開されている建物は、すでに多数あります。過去の事例を参考にすることで、サステナブル建築をイメージしやすくなるでしょう。以下では、サステナブル建築の事例を2件紹介します。
箱根ラリック美術館|鹿島建設株式会社
ガラス工芸の美に邂逅する場
アール・ヌーボーからアール・デコまで活躍したジャポニズムのガラス工芸作家ルネ・ラリックが作品のモチーフとした自然と建物が一体になった環境と人にやさしい庭園型リゾートミュージアムである。中央に小川の流れる森を挟む広大な敷地に、既存の樹木群と調和しながら、レストラン棟・ショップ棟・美術館棟を配置した。建物の形姿として、自然でありながら強さを持つ建築の祖型である「家型」を選び、日本的な母屋・下屋を彷彿とさせる構成とし、外装はラリック作品に連なる手の痕跡を残す表情とした。これらの形や素材が箱根の自然と相俟って、ゆったりと気持ちの良い佇まいとなっている。
みなとみらいセンタービル|大成建設株式会社
横浜・みなとみらいの中心に立地する超高層複合業務ビルです。
設計施工一貫ならではの知恵と経験を駆使して、当社の技術を一般的・普遍的なテナントオフィスビルに最適化すること経済的で価値のあるオフィスビルの実現を目指しました。
敷地に都市軸と建築を貫通する賑わい軸を導入し、街区中央に賑わいをもたらす配置計画、アクティビティを呼び起こす低層部へのしかけなどで、横浜市環境設計(総合設計)制度において上限となる約250%の容積割増を獲得しています。
まとめ
サステナブル建築は建設業界において、今後多くの注目を集めます。SDGsをはじめとした具体的な目標が立てられている昨今、建築部門も積極的に新しい技術や考え方を導入し、サステナブルな社会の実現に貢献していく必要があります。
この機会にサステナブル建築に対する理解を深め、具体的な施策に乗り出してみてはいかがでしょうか。
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この記事の監修

リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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