企業の環境負荷を正確に把握するには、サプライチェーン全体でのCO2排出量の算定が不可欠です。特に建設業界では、解体廃材や残土など多様な廃棄物が発生するため、廃棄物処理に伴う排出量を可視化することが重要です。
本記事では、Scope3のカテゴリ5における算定方法、必要な情報、実務上の課題と解決策を解説します。また建設業の事例も紹介していますので、脱炭素に取り組む建設事業者の方は参照してみてください。
目次
Scope3のカテゴリ5とは

企業のCO2排出量を正確に把握するには、自社の直接排出だけでなくサプライチェーン全体を見渡す視点が欠かせません。特に建設業界では、廃棄物処理に伴う排出量が事業活動全体の環境負荷を左右する重要な要素です。
そもそもScope3とは何か、なぜ重要視されるのか、そしてカテゴリ5が持つ意味について解説します。
そもそもScope3とは
Scope3とは、企業活動に関連する間接的なCO2排出量のうち、電気や熱などのScope2を除いた排出量を指す概念です。GHGプロトコルでは排出量をScope1から3までの3つに区分しており、自社が直接管理する燃料使用などがScope1、購入した電気や熱の使用に伴う間接的な排出量がScope2と定義されています。
一方で、Scope3は原材料の調達から製品の廃棄まで、サプライチェーン全体で発生する排出を包括的に捉えるものです。例えば取引先の製造工程や従業員の通勤、顧客による製品使用など、直接的な管理が及ばない領域も含まれます。
企業の真の環境負荷を測定するには、自社の事業活動だけでなく関連する全ての排出源を可視化することが不可欠であり、Scope3の把握が重要な意味を持ちます。
Scope3が重要な理由
Scope3の把握が重要視される理由は、Scope3が企業活動全体における排出量の大半を占めるためです。業種によっては総排出量の70%から90%以上がScope3に該当するケースもあり、自社の直接排出のみを管理しても環境負荷の実態を捉えきれません。
建設業界では、資材調達から施工、廃棄物処理まで多様な工程が連鎖するため、Scope3が占める割合が多くなる傾向が顕著に表れます。Scope3を算定することで企業活動が環境へ及ぼす影響を包括的に可視化でき、真に効果的な削減対策の立案が可能です。
さらにサステナビリティ経営を推進する企業にとって、取引先からSBT認証の取得を求められる場面も増えています。SBT認証では総排出量の40%以上をScope3が占める場合、その算定と削減目標設定が必須条件となるため、ビジネス継続の観点からも重要性が高まっています。
Scope3のカテゴリ5
Scope3のカテゴリ5は、事業活動から発生する廃棄物の処理に伴う排出量を対象とする区分です。ただし算定範囲には明確な線引きがあり、第三者が所有または管理する施設で処理される廃棄物のみが該当します。
自社の施設内で処理を行う場合は直接的な管理下にあるため、Scope1またはScope2として計上します。対象となる廃棄物は固形物に限らず、廃水なども含まれる点が特徴で、算定対象年に発生した廃棄物が将来的に排出するガスも計算に織り込まなければなりません。
建設業では廃棄物量が多く、カテゴリ5がScope3全体の中でも大きな割合を占めるケースが多く見られます。建設現場では解体廃材や残土、汚泥など多様な廃棄物が発生し、多くを外部の処理業者へ委託するため、カテゴリ5の排出量が大きな割合を占めます。正確な算定を行うことで、廃棄物削減や再資源化など具体的な環境対策の効果を測定し、サプライチェーン全体での脱炭素を推進できます。
Scope3のカテゴリ5に必要な情報
カテゴリ5の排出量を正確に算定するには、廃棄物に関する複数の要素を体系的に把握する必要があります。Scope3のカテゴリ5に必要な情報として次の要素が挙げられます。
- 廃棄物の種類と量の詳細な記録
- 処理方法の特定
- 各処理方法に対応した排出係数
- 情報を社内外から継続的に収集する仕組み
まず欠かせないのが廃棄物の種類と量の詳細な記録です。事業活動から生じる廃棄物を種類ごとに分類し、それぞれの重量を測定することで算定の基礎データが整います。次に重要となるのが処理方法の特定で、焼却・埋立・リサイクルなど処理手段によってCO2排出量は大きく異なるため、委託先でどのように処理されるかを正確に把握しなければなりません。
各処理方法に対応した排出係数を用いることで、実際の排出量を数値化できます。また、必要な情報を社内外から継続的に収集する仕組みを構築することが、正確な算定と効果的な削減策の立案につながります。
Scope3のカテゴリ5の算定方法

CO2排出量の削減目標を設定するには、現状を数値で正確に把握することが必要です。特に廃棄物処理に伴う排出量は、適切な計算手法を用いなければ実態を捉えられません。
Scope3の基本的な計算式を理解した上で、カテゴリ5に特化した算定方法について解説します。
Scope3の基本的な計算式
Scope3の排出量は、次に示す基本的な計算式で算定されます。
| Scope3の排出量 = 活動量 × 排出原単位 |
Scope3は15のカテゴリと任意項目で構成されており、各カテゴリで同じ計算の枠組みが適用されます。活動量とは事業活動の規模を示す数値で、社内の各種データや文献資料、業界平均値、製品設計値などから収集します。
一方の排出原単位は、活動量1単位あたりが排出するCO2を表す係数です。通常は既存のデータベースから該当する数値を選択して使用しますが、より精度を高めたい場合は実測による方法や、取引先から直接排出量情報の提供を受ける手段も選択肢の1つです。
計算式を正確に適用するには、自社の事業実態に即した活動量データの整備と、適切な排出原単位の選定が欠かせません。
Scope3のカテゴリ5の算定方法
カテゴリ5の算定では、廃棄物種別ごとの処理委託量を活動量とし、それぞれの処理時排出原単位を乗じて計算します。基本的な計算構造はScope3全体と共通していますが、カテゴリ5では廃棄物の種類による分類が重要な意味を持ちます。
建設現場から発生するコンクリート殻、木くず、汚泥などは種類によって処理方法が異なり、処理方法に応じた排出原単位を適用しなければなりません。活動量となる廃棄物処理委託量は、環境報告書用の集計値など既存の社内データから収集できるケースが多く、新たな測定体制を構築せずとも算定を開始できる利点があります。
一方で、精度を高めるには、種別ごとの重量を正確に把握し、委託先での実際の処理方法を確認することが求められます。丁寧なデータ管理によって、廃棄物削減施策の効果測定や環境目標の進捗管理が可能です。
Scope3のカテゴリ5算定における注意点
カテゴリ5の排出量算定は、実務で様々な課題に直面します。データ収集の困難さや有価物の取り扱い、排出量の変動、処理費用の把握など、正確な算定を妨げる要素が存在するのです。注意点を理解し適切に対処する方法について解説します。
データ収集が困難
Scope3におけるカテゴリ5の算定で大きな障壁となるのが、廃棄物処理に関する正確なデータの収集です。算定に必要な情報は外部の処理業者や自治体が管理しているケースが多く、企業側から直接把握することが難しい構造です。
処理方法ごとの詳細なデータが開示されない場合、焼却・埋立・リサイクルなどの処理手段の内訳が不明なまま算定を進めざるを得ず、結果として精度が大きく損なわれかねません。建設業界では複数の現場から多様な廃棄物が発生し、それぞれ異なる処理業者へ委託することも珍しくないため、データ収集の難易度はさらに高まります。
課題に対応するには、委託契約時に処理方法の詳細報告を条件として盛り込む、定期的な情報提供の仕組みを構築するなど、取引先との協力体制を整えることが不可欠です。
有価物はカテゴリ5の廃棄物から外れる
Scope3におけるカテゴリ5の算定で注意すべき点として、有価物は「廃棄物」ではなく「資源」として扱われるため廃棄物の範囲から除外される原則があります。このため、カテゴリ5の算定対象には含まれません。有価物とはリサイクルや再利用が可能で市場価値を持つ不要物を指し、有償で買い取られる場合だけでなく、無償で引き取られるケースも含まれます。
金属くずやプラスチック、紙、ガラスなどが代表的な例です。有価物は処理費用を支払って委託する廃棄物とは性質が異なり、資源として流通するため算定対象には含めません。建設現場では鉄筋や銅線などの金属類、木材チップなど有価物として扱われる物が多く発生するため、廃棄物との区別を明確にすることが重要です。
適切な算定を行うには、引き取り条件や対価の有無を定期的に確認し、正確に分類する管理体制が求められます。
排出量が変動する
Scope3におけるカテゴリ5の算定では、廃棄物の種類や処理方法によって排出量が変動するため、安定した予測が困難な課題があります。同じ廃棄物であっても、リサイクルされるか焼却されるかによってCO2排出量は大きく異なるのが現状です。木材を例にとると、チップ化して燃料や原料として再利用する場合と、単純焼却する場合では環境負荷に明確な差が生じます。
建設現場では発生する廃棄物の種類や量が工事の内容や進捗状況によって変化し、さらに処理業者の受入状況や市場動向によっても処理方法が変化するため、排出量の変動幅はより大きくなりがちです。
変動性に対応するには、過去の実績データを蓄積して傾向を分析するとともに、処理業者との綿密な情報共有によって実際の処理方法を把握し続けることが重要です。
正確な処理代金が分からない
Scope3におけるカテゴリ5の算定で実務上の困難となるのが、廃棄物処理代金の正確な把握です。特に複数の協力会社が出入りする建設現場では、処理費用が現場管理費に一括計上されており、自社工事分を明確に切り分けられないケースも見られます。
元請業者や現場管理者から現場全体の処理費用を聞き取り、施工面積や工期の割合によって自社分を推定するなどの対応が必要です。厳密な数値ではありませんが、廃棄物にかかる概算料金を把握することで算定を前進させられます。
完璧なデータがそろわない状況でも、合理的な推定方法を用いて継続的に算定を行い、データの精度を段階的に高めていく姿勢が重要です。実態に即した算定を積み重ねることで、削減目標の設定や進捗管理が可能です。
Scope3のカテゴリ5算定における課題の解決策
Scope3におけるカテゴリ5の算定で、課題を克服するには、データ収集の効率化と廃棄物削減の両面からアプローチすることが有効です。まずデジタル技術を活用して廃棄物処理業者と連携し、処理データをリアルタイムで収集する仕組みを構築すれば、算定精度が飛躍的に向上します。
デジタル化によって廃棄物処理プロセスの透明性が担保され、データ改ざんのリスクも低減できます。また、取引先と協力して製品パッケージの削減や再利用可能な素材の採用を推進するなど、そもそもの廃棄物発生量を抑制する取り組みも重要です。
算定方法標準化の観点では、GHGプロトコルやIPCCガイドラインを参照し、標準的な排出係数を採用することで、恣意性を排除した客観的な算定が可能です。正確性と継続性を兼ね備えた算定体制を整えることで、実効性のある環境負荷削減につながります。
出典:環境省/GHGプロトコル
出典:IPCC/2019 Refinement to the2006 IPCC Guidelines forNational Greenhouse Gas Inventories
Scope3のカテゴリ5における建設業界事例
理論的な算定方法を理解しても、実際の現場でどう運用するかは別の課題です。建設業界の先進企業は、Scope3のカテゴリ5算定を実践し、廃棄物削減に向けた具体的な成果を上げています。鹿島建設株式会社と三井住友建設株式会社の取り組み事例について紹介します。
鹿島建設株式会社
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出典:「建設現場から排出される廃プラのケミカルリサイクル実証事業」に着手|2025.11.13|鹿島建設株式会社
三井住友建設株式会社
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出典:サスティナブルな地盤改良材「サスティンGeo®」を掘削土の処理に初適用|2025.5.21|三井住友建設株式会社
まとめ

本記事では、Scope3のカテゴリ5における算定方法と建設業界での実践事例について解説しました。Scope3は企業活動全体の排出量の大半を占め、中でもカテゴリ5は事業から発生する廃棄物処理に伴う排出を対象とします。
算定には廃棄物の種類・量、処理方法、排出係数などの情報が必要ですが、実務ではデータ収集の困難さや有価物の取り扱い、排出量の変動など様々な課題に直面します。建設業界では解体廃材や残土など多様な廃棄物が発生するため、処理業者との連携によるデータの透明化や、デジタル技術を活用したリアルタイム収集が効果的です。
正確な算定を通じて削減目標を設定し、サプライチェーン全体での脱炭素を推進することが、持続可能な建設業の実現につながります。環境負荷の可視化と削減に取り組む建設事業者の方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









