2025/10/8
2025/10/9
非化石証書の価格推移とは?建設業が知るべき基礎と活用ポイント

非化石証書は、CO2を排出しない環境価値を取引できる仕組みであり、自社設備の再エネ化が難しい場合にも代替手段として活用できる点が特徴です。非化石証書を導入することで建設業にとってもCO2排出量の可視化などさまざまなメリットがあります。
本記事では、非化石証書の仕組みや価格推移を解説しています。また、建設業としてのメリットや具体的な取得、運用ステップも紹介しているため非化石証書導入を検討している方は参照してみてください。
非化石証書とは
非化石証書とは、環境に配慮した電力利用を促進するための重要な制度です。最初に非化石証書の仕組みや目的、概要を解説します。
非化石証書の仕組みと目的
非化石証書の仕組みとして、まずは日本で使用される電源に対して化石燃料を使用する「化石電源」と、使用しない「非化石電源」に分類します。
非化石電源で発電された電気には、CO2を排出しない貴重な環境価値が含まれています。非化石証書は、CO2を排出しない環境価値を電気そのものから分離し、独立して取引できるようにした仕組みです。
発電事業者は国の指定機関から設備認定と発電電力量の認定を受けることで証書を発行でき、企業や個人が証書を購入することで、通常の電気を環境負荷のない電気として扱えます。
非化石証書の3つの価値とは
非化石証書の価値は次の3つの異なる側面から構成されています。
価値 | 内容 |
非化石価値 | エネルギー供給構造高度化法に基づく非化石電源として正式に計上できる価値 |
ゼロエミ価値 | 地球温暖化対策推進法におけるCO2排出係数をゼロにできる価値 |
環境表示価値 | 再生可能エネルギー利用などの環境配慮を対外的に表示・主張できる権利 |
非化石価値により、電力会社は非化石証書を法的な非化石電源比率目標の達成に活用できます。ゼロエミ価値は、企業の温室効果ガス排出量削減に直接貢献します。環境表示価値により、企業は自社の環境への取り組みを顧客や投資家に対してアピールできることがメリットです。
トラッキング情報とRE100への活用
非化石証書にはトラッキング情報と呼ばれる付加情報が含まれています。トラッキング情報とは、再生可能エネルギーの具体的な電源種類や発電所の所在地などの詳細な情報です。
非化石証書は、FIT非化石証書と非FIT非化石証書の2つに分類され、現在、FIT証書は全量でトラッキング化が完了しており、非FIT証書も段階的にトラッキング化が推進されています。
RE100などの国際的な環境イニシアティブへの参加においては、トラッキング情報が付与された証書が必須要件です。
非化石証書の種類と価格体系
非化石証書の種類と分類を解説します。また、それぞれの分類におけるこれまでの価格推移を解説するため、購入の際の情報として参照してみてください。
証書の種類と分類(FIT/非FIT)
非化石証書は3つの種類に分けられています。それぞれの特徴は次の通りです。
FIT非化石証書(再エネ指定) | 非FIT非化石証書(再エネ指定) | 非FIT非化石証書(指定なし) | |
対象電源 | FIT電源
(太陽光・風力・地熱など) |
非FIT再エネ電源
(大型水力・卒FITなど) |
非FIT非化石電源
(原子力など) |
売り手 | 電力広域的運営推進機関
(OCCTO) |
発電事業者 | 発電事業者 |
買い手 | 小売電気事業者
需要家 仲介事業者 |
小売電気事業者 | 小売電気事業者 |
FIT非化石証書(再エネ指定)は、太陽光、風力、小水力、バイオマス、地熱などの多様な再生可能エネルギー電源が含まれており、純粋な自然エネルギーとしての価値が明確に保証されています。
一方、非FIT非化石証書は、固定価格買取制度の対象外となる電源から発行される証書で、主に大型水力発電やFIT期間終了後の発電所の電力が対象です。さらに、原子力発電を対象とした証書は「非FIT非化石証書(指定なし)」として区別されています。
FIT非化石証書の価格推移
FIT非化石証書は近年、急速な成長と成熟を見せており、価格推移は日本の脱炭素への取り組みの活発化を如実に示しています。
これまでの価格推移は次の通りです。
約定日 | 約定量(kWh) | 約定量加重平均価格 (円/kWh) | 約定最高価格 (円/kWh) | 約定最安価格 (円/kWh) |
2022年8月31日 | 3,258,642,201 | 0.30 | 1.00 | 0.30 |
2023年2月28日 | 5,393,865,771 | 0.30 | 0.80 | 0.30 |
2023年8月31日 | 8,505,485,167 | 0.41 | 4.00 | 0.40 |
2023年11月30日 | 8,759,781,217 | 0.4 | 0.5 | 0.4 |
2022年から2023年にかけて、約定量が前年同月比で2倍以上に増加し、約87億キロワット時の大規模な取引が成立しています。急激な拡大は、企業の環境経営への意識向上、RE100などの国際的な環境イニシアティブへの参加拡大、投資家からのESG要求の高まりが背景にあります。
参考:JEPX/非化石価値取引
非FIT非化石証書の価格推移
非FIT非化石証書は、市場開始当初は、エネルギー供給構造高度化法の義務対象事業者を中心とした15社が積極的に買い入札を行い、制度への期待と法的義務への対応姿勢が明確に示されました。
これまでの価格推移は次の通りです。
非FIT非化石証書(再エネ指定あり)
約定日 | 約定量(kWh) | 約定価格 (円/kWh) |
2022年8月30日 | 315,031,034 | 0.60 |
2023年2月27日 | 1,836,103 | 1.30 |
2023年8月30日 | 628,498,120 | 0.60 |
2023年11月29日 | 76,441,539 | 0.60 |
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)
約定日 | 約定量(kWh) | 約定価格 (円/kWh) |
2022年8月29日 | 4,361,000 | 0.60 |
2023年2月24日 | 136,001,186 | 1.30 |
2023年8月29日 | 11,343,854,974 | 0.60 |
2023年11月28日 | 220,000 | 0.60 |
一方で、その後のオークションでは買い入札量が減少し、それに伴い約定量も低下する結果となりました。同時に売り入札量も緩やかな減少傾向を示し、市場全体の活動が一時的に停滞しています。
非化石価値取引市場の仕組みと注意点
非化石価値取引市場の仕組みと注意点として、次の内容を解説します。
- 取引市場の種類
- 入札スケジュールと価格決定の流れ
- 証書取引にかかる手数料と注意点
どのような市場があり、どのように価格が決定されているのかを、まずは理解する必要があります。
取引市場の種類(高度化義務達成/再エネ価値市場)
日本の非化石証書取引は、目的と参加者に応じて次の2つの市場があります。
- 再エネ価値取引市場
- 高度化法義務達成市場
再エネ価値取引市場は、幅広い参加者を対象とした市場です。売り手と買い手の合意に基づいて価格が決定されるマルチプライスオークション方式を採用しており、市場原理に基づいた価格形成が行われています。
一方、高度化法義務達成市場は、エネルギー供給構造高度化法の目標達成を支援する専門的な市場として設立されました。入札価格に関わらず全参加者が統一された約定価格で取引するシングルプライスオークション形式を採用しており、法的義務の履行を効率的に支援する仕組みが整備されています。
入札スケジュールと価格決定の流れ
非化石証書の入札は2月、5月、8月、11月の年4回実施されます。入札参加を検討する事業者は、各入札時期の2ヶ月前までに対象事業者への問い合わせを行うことが推奨されています。
入札は次の流れで行われます。
- 価格、数量、希望するトラッキング属性を提示
- トラッキング属性の希望をそれぞれ選択
- 希望がない場合はランダムに設備情報が付与
- 同一のトラッキング属性希望があった場合、入札価格の高い順に希望量を付与
1月から12月に発電された電力分の非化石証書は、需要家が同年4月から翌年6月までの期間に使用した電力に対して活用できます。
証書取引にかかる手数料と注意点
非化石証書取引への参加には、会員登録と各種手数料が必要であり、必要なコストを事前に把握して予算計画に組み込むことが重要です。取引を開始するためには、まず非化石価値取引の会員登録が必須です。
会員登録には年会費が発生し、年会費は60万円に設定されています。年会費は基本コストとして毎年発生するため、継続的な取引を行う企業にとっては固定費として予算に計上しなければなりません。
取引時には手数料も発生し、2024年度は0.001円/kWhという従量制の手数料が設定されています。
建設業における非化石証書の導入メリット
建設業における非化石証書の導入メリットとして、次の要素が挙げられます。
- CO2排出量の可視化と報告対応
- 脱炭素入札やESG評価の加点対象に
- 自社設備の再エネ化が難しい場合の代替手段
それぞれのメリットを自社の状況と合わせて確認し、非化石証書を購入するかどうかの判断材料として参照してみてください。
CO2排出量の可視化と報告対応
非化石証書の導入により、脱炭素関連の国際イニシアティブや地球温暖化対策推進法への報告が可能となり、法的義務の履行と国際基準への適合を同時に実現できます。
環境報告書作成、省エネ法対応、SBTi(Science Based Targets initiative)などの厳格な環境目標設定において、客観的で信頼性の高い証明手段として活用できることは、建設業界の環境責任を明確に示すうえで重要な要素です。
ただし、各イニシアティブで求められる条件は異なるため、注意が必要です。RE100への参加にはトラッキング情報付きの証書が必須要件となっている一方、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)への回答では、トラッキング情報は必須ではなく再生可能エネルギー由来であれば対応可能です。
脱炭素入札やESG評価の加点対象に
非化石証書の主体的な購入や、証書を取り扱う小売電気事業者からの電力調達により、企業は実質的なCO2排出量削減に貢献できます。非化石証書の取り組みは「ESG経営・環境経営・脱炭素経営」の具体的な実践として位置付けられ、企業の持続可能性への真摯な姿勢を明確に示せます。
特に建設業界において重要なのは、自治体や大手ゼネコンとの入札・提携時におけるESG評価での加点効果です。公共工事や大規模プロジェクトでは、環境配慮が評価基準として重視される傾向が強まっており、非化石証書の活用実績は具体的な環境貢献の証明として高く評価されます。
自社設備の再エネ化が難しい場合の代替手段
小売電力事業者の再生可能エネルギー供給メニューだけでは削減しきれないCO2排出量分に対して、非化石証書を追加購入することで、実質的な再生可能エネルギー利用を実現できます。
自社ビルを保有していない企業や、賃貸物件での事業運営により電力契約の変更が困難な場合でも、非化石証書の購入により環境価値を獲得できることがメリットです。既存の電力契約を変更する必要がなく、即座に環境対応を開始できます。
手軽さと効果性により、建設業界の多様な事業形態や制約条件下でも、確実な脱炭素への取り組みを実現し、環境経営の実践が可能です。
非化石証書の取得・運用ステップ
非化石証書の具体的な購入方法や運用ステップを解説します。また、補助金との併用についても詳しく解説します。
証書の購入方法(JEPX・仲介業者経由)
非化石証書の購入には複数の選択肢が用意されており、企業の規模や調達戦略、専門性に応じて最適な方法を選択できる柔軟な仕組みが整備されています。
それぞれの購入方法の特徴は次の通りです。
購入方法 | メリット | デメリット |
小売電気事業者から購入 | 電気契約とのセットのため購入しやすい | 電気料金の削減が難しい |
自社で直接購入 | 仲介手数料などが発生しない | 年会費やJEPXへの手数料はかかる |
仲介事業者から | 手続きの手間を削減できる | 仲介手数料がかかる |
多様な購入ルートにより、あらゆる事業者が自社の状況に適した環境価値調達を実現できます。
活用時の契約書・報告書での記載例
企業は事業活動で使用した電力使用量にCO2排出係数を乗じた数値を、事業活動に伴うCO2排出量として計上しなければなりません。非化石証書の活用により、CO2排出係数がゼロまたは大幅に削減された電力プランと紐づけることが可能となり、同じ電力使用量でも計算上のCO2排出量を削減できます。
契約書や報告書では、「非化石証書活用によりCO2排出係数○○から○○に変更」「実質再生可能エネルギー○○%達成」などの具体的な数値変化を明記することで、ステークホルダーに対して環境改善効果を明確に示せるほか、企業の環境経営実績の証明として活用できます。
助成金や補助金との併用可否
助成金や補助金との併用により、初期投資負担の軽減と環境価値の最大化を同時に達成することが可能です。
資源エネルギー庁をはじめとする各省庁や自治体では、太陽光発電設備などの再生可能エネルギー設備導入に対して、経費の一部を助成するさまざまな補助金制度を整備しています。補助金制度活用により、設備導入時の初期投資負担を軽減できるため、企業の再生可能エネルギー導入の促進に役立てられています。
再生可能エネルギー100%達成の手法として、物理的な設備導入に加えて、J-クレジットやグリーン電力証書、非化石証書などの環境価値購入も有効な選択肢です。
まとめ
本記事では、非化石証書の価格推移を解説しました。非化石証書とは、環境に配慮した電力利用を促進するための重要な制度です。非化石証書は、CO2を排出しない環境価値を電気そのものから分離し、独立して取引できるようにした仕組みです。
非化石証書は近年、急速な成長と成熟を見せており、価格推移は日本の脱炭素への取り組みの活発化を如実に示しています。購入する際には、購入方法によってメリット・デメリットがあるほか、年会費や手数料がかかる場合もあるため注意が必要です。
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この記事の監修

リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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