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時計 2025/8/25 アップデート 2025/8/26

ISSBとSSBJの違いとは?開示基準・適用範囲・企業対応を徹底比較

ISSB(International Sustainability Standards Board)やSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)への基準適合が求められている中で、それぞれの違いが気になっている方は多いのではないでしょうか。

2027年からは一部義務化もはじまることから、任意対応が求められる現時点から対処していくことが必要です。

本記事では、ISSBとSSBJの違いをわかりやすく解説しています。また、建設業にとっての実務的影響も解説しているため、基準適合が必要となる方は参照してみてください。

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ISSBとSSBJの基本的な違い

ISSBは国際基準であること、SSBJは日本版開示基準であることの明確な違いがあります。SSBJはISSBの基準を踏襲しつつ、独自に追加されている要素もあることが特徴です。また、適用文書の構成も異なるため、それぞれの違いを解説します。

ISSBは国際基準、SSBJは日本版開示基準

ISSBは、IFRS財団によって設立された国際的な基準審議会であり、世界共通のサステナビリティ開示基準の構築を目指しています。グローバルな企業活動における環境・社会・ガバナンス情報の統一的な開示ルールを確立し、国際的な比較可能性を高めることが目的です。

一方、SSBJは日本国内のサステナビリティ開示基準の整備を専門とする組織で、財務会計基準機構(FASF)の傘下に位置しています。ISSBの国際基準を基盤としつつも、日本の法制度や企業文化、市場環境に適合した実用的な開示基準の開発を担当しています。

SSBJはISSBに整合しつつ独自項目を追加

SSBJは、基本的な枠組みではISSBの基準を踏襲することで国際的な整合性を保ちつつ、開示期間の設定や表示単位の扱い、既存の法令との整合性などの実務的な側面において、日本特有の取扱いを導入しています。独自の調整により、日本企業が実際に基準を適用する際の負担軽減と実効性の向上を図ることが目的です。

SSBJの開発方針は、日本の資本市場における信頼性の担保にあります。国際的な通用性を維持しながらも、日本市場の特性に適した高品質な基準の構築を目指しており、グローバルな投資家にとって理解しやすい形での情報開示を促進しています。

適用文書の構成も異なる

ISSBは「IFRS S1」と「IFRS S2」の2つの文書で構成されます。S1とS2の2構成により、国際的な統一性と理解しやすさを重視した設計です。

一方、SSBJは3文書構成で、より細分化されたアプローチを取っています。まず「適用基準」がユニバーサル基準として位置づけられ、サステナビリティ情報開示の基本的な作成ルールや他の基準に対する補足的な指針を提供しています。ユニバーサル基準は、開示作成における共通の土台となる重要な役割です。

加えて、SSBJはテーマ別基準として2つの専門的な基準を設けています。「一般開示基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第一号)」と「気候関連開示基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第二号)」がそれぞれ独立した文書として策定されており、各テーマの特性に応じた詳細な開示要求事項を定めています。

ISSBとSSBJの具体的な差異ポイント

ISSBとSSBJの具体的な違いとして次の内容が挙げられます。

  • 選択可能な開示方式が一部異なる
  • ファイナンスド・エミッションの扱い
  • 情報の記載場所・報告タイミング

それぞれの差異ポイントを解説します。

選択可能な開示方式が一部異なる

従来、Scope2の排出量算定にはマーケットベース手法とロケーションベース手法のいずれかのアプローチがありました。SSBJの気候関連基準は、単純にロケーションベース手法のみを採用するのではなく、マーケットベースの開示も求められるようになったことが特徴として挙げられます。

また、マーケットベース手法による開示に加えて、企業が再生可能エネルギー証書や電力購入契約などの契約証書を保有している場合、契約内容に関する情報開示も選択肢として採用できます。

企業は自社の実際の電力調達状況やエネルギー戦略をより詳細に説明しなければならず、投資家にとってもより実質的な環境対策の理解が可能です。契約証書の開示を通じて、企業の脱炭素に向けた具体的な取り組みと成果を透明性高く示せる点が、SSBJの特徴的な差異として挙げられます。

ファイナンスド・エミッションの扱い

ファイナンスド・エミッションは、金融機関が投融資活動を通じて間接的に関与するCO2排出量を指しており、投融資先企業の排出量を金融機関の責任範囲として捉える概念です。排出量の算定と開示は、金融機関の気候リスク管理において重要な要素です。

SSBJは、ファイナンスド・エミッションで金融機関向けの定義をより明確化し、実務的な適用除外条件を設けています。企業が活動する地域の法令でファイナンスド・エミッションに関する規制が存在しない場合、追加的な情報開示を求めない適用除外の規定を導入しています。

情報の記載場所・報告タイミング

ISSBとSSBJの差異点として、情報の記載場所と報告タイミングがあります。SSBJは、日本の法制度に深く根ざした開示体系を構築しており、特に有価証券報告書を主要な開示媒体として想定していることが特徴です。既存の財務報告制度との一体的な運用が可能となり、企業にとって効率的な情報開示体制の構築が期待されています。

一方で、現在の有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の記載方式は、SSBJが要求する4つのピラー構成と整合していないため、開示書類の構成見直しが必要な状況です。構成の調整により、統合的で理解しやすい開示形式の実現が求められています。

また、SSBJは法令の許容範囲内での柔軟な対応を認めており、同時開示義務に対する現実的な調整が可能です。

建設業にとっての実務的影響

建設業にとって、ISSBやSSBJ基準への適合がどのような実務的影響を与えるのか解説します。あらかじめ影響を想定して、適切な対応をとるためにも、ここで解説する内容を参照してみてください。

CSRから法定開示への移行で体制見直しが必須

従来のCSR活動として任意で実施してきたサステナビリティ報告が法定開示に移行することで、建設業の組織運営において抜本的な見直しが不可欠です。取締役会レベルでの戦略的関与と、財務部門との密接な連携体制の構築が求められるようになり、経営陣の責任範囲が拡大されます。

建設業界は国際的な競争環境に直面することになり、世界標準の基準に基づいた気候変動対策の取り組みが海外企業と直接比較される状況が生まれます。

東証プライム上場企業は、有価証券報告書における財務情報と同等の厳格さでサステナビリティ情報を開示する義務が課せられることも課題です。任意開示とは異なり、法的拘束力を持つ開示要求となるため、情報の正確性や完全性に対する責任が飛躍的に高まり、企業の開示体制強化が求められています。

Scope3の把握が特に難所

Scope3は、企業のサプライチェーン全体で発生する間接的なCO2排出量のうち、自社の直接的な排出やエネルギー使用による排出を除いた、上流・下流の両方向にわたる排出量が対象です。

建設業界においては、資材調達から施工、建物の使用・廃棄に至るまでの長期にわたるサプライチェーンが関与するため、データ収集の複雑性が格段に高まります。特に困難な点は、多層にわたる協力会社や資材メーカーとの連携によるデータ収集体制の構築です。

SSBJ基準では、温室効果ガスプロトコルの企業算定基準に従い、15のカテゴリーに分類した詳細な開示が義務付けられています。建設業界では、購入した製品・サービス、輸送・流通、建設した建物の使用段階など、多岐にわたるカテゴリーでの排出量算定が必要です。

既存制度との整合に注意

建設業法や環境報告制度といった業界固有の法的枠組みとの矛盾を回避しつつ、新たな開示要求に対応する設計が求められています。既存制度は長年にわたって構築されてきた報告体系であるため、サステナビリティ開示制度との調和を図りながら、重複や矛盾を避けた効率的な開示体制の構築が必要です。

内部統制基盤の整備は、既存の財務報告に関する規程や文書化、整備・運用・評価の枠組みを最大限活用することが効率的なアプローチです。一方で、サステナビリティ情報は財務情報とは異なる特有の論点や不確実性を含むため、これらの特性を考慮した追加的な統制手続きの導入が欠かせません。

サステナビリティ情報の信頼性を担保するため、データ収集から検証、承認に至るまでの一連のプロセスについて、外部監査に対応可能な水準の統制環境を整備する必要があり、建設業界にとって新たな経営管理体制の構築が求められています。

義務化スケジュールと準備の進め方

義務化スケジュールとしては、2025年は任意、2027年に一部義務化へとつながる流れで進められています。義務化に向けた準備の進め方を解説します。

2025年は任意、2027年に一部義務化へ

2025年3月にSSBJがサステナビリティ情報開示基準を公表したことを受け、各企業では実際の開示に向けた具体的な対応が本格化しています。現在は任意適用期間ですが、任意の期間を活用して開示体制の構築や試行的な運用を進める必要があります。

義務化は企業規模に応じた段階的な導入が予定されており、2027年3月期から時価総額3兆円以上の大手企業が対象です。その後、2028年3月期には時価総額1兆円以上の企業へと対象が拡大され、翌年には5,000億円以上の企業まで範囲が広がります。

最終的には2030年代にかけて、東証プライム市場上場企業全体への適用が予定されており、建設業界も企業規模に関わらず準備が必要です。

初年度はScope3や比較情報に猶予あり

現在、SSBJ事務局では「有価証券報告書の作成要領(サステナビリティ関連財務開示編)」の策定が進められており、具体的な開示方法や様式に関する詳細なガイダンスが今後公開される予定です。

義務化初年度の負担軽減策として、Scope3排出量や比較情報など、長期的な準備を要する項目は猶予期間が設けられる見込みです。定量情報の収集・算定には相当な期間を要するため、二段階での開示導入が検討されており、企業の実務対応能力に配慮した現実的なアプローチが採用されることも見込まれます。

経過措置の詳細は、金融庁のワーキング・グループでの議論を経て最終決定される予定です。一方で、S2基準に続くS3やS4基準の検討も並行して進められており、将来的にはサステナビリティ情報開示の範囲や検討要素がさらに拡大することが予想されます。

準備段階でのチェックリスト整備を

SSBJ基準の内容が法定開示に組み込まれることから、企業は情報開示の対象範囲、報告時期、開示項目などを整理し、チェックリストなどを活用して自社の状況に応じた優先順位付けを行わなければなりません。

準備段階では、マテリアリティ分析の実施を通じて企業の戦略的重点領域を特定することが重要です。建設業界は、気候変動対策や資源循環、労働安全、地域社会への貢献など、多様な課題が存在するため、自社の事業特性や利害関係者の関心に基づいた重要度評価が必要です。

実務的な準備としては、PwCをはじめとする専門的な支援企業によるアセスメントサービスの活用も効果が見込めます。外部専門家による客観的な評価と助言により、現状の開示体制の課題把握と改善計画の策定が効率的に進められ、義務化への確実な対応が可能です。

まとめ

本記事では、ISSBとSSBJの違いを解説しました。ISSBは国際基準であること、SSBJは日本版開示基準であることの明確な違いがあります。SSBJはISSBの基準を踏襲しつつ、独自に追加されている要素もあることが特徴です。

SSBJは、基本的な枠組みではISSBの基準を踏襲することで国際的な整合性を保ちつつ、開示期間の設定や表示単位の扱い、既存の法令との整合性などの実務的な側面において、日本特有の取扱いを導入しています。

従来のCSR活動として任意で実施してきたサステナビリティ報告が法定開示に移行することで、建設業の組織運営において抜本的な見直しが不可欠です。専門家のアセスメントを受けることも効果が見込めるため、対応に悩んでいる方は参照してみてください。

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この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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