EUDRは、EU市場における森林破壊関連製品の流通を規制する新たな法的枠組みであり、建設業界を含む幅広い産業に影響を及ぼすことが見込まれています。本記事では、EUDRの概要や対象となる7つの産品、企業に課されるデューデリジェンス義務の詳細について解説します。
またEUDRが建設業界や日本企業に与える影響と具体的な対策、第三者認証の活用方法や実務で着手すべきステップについても解説していますので、EUDRへの対応を検討されている方は参照してみてください。
目次
EUDR(欧州森林破壊防止規則)の概要と背景

EUDRは、世界的な森林減少を食い止めるためにEUが導入した規制です。ここでは、EUDRが掲げる規制の目的と基本原則をはじめ、対象となる7つの産品の範囲や、最新のスケジュールと延期動向を踏まえたEUDRの概要と背景について解説します。
規制の目的と基本原則
EUDRは、対象製品が2020年12月31日以降に森林破壊や森林劣化に関与していないことを証明することを求める規制です。この規制により、EU域内で流通・輸出される特定の製品が森林の減少や劣化を引き起こしていないことを担保します。EUDRの根幹にあるのは、森林保全を通じてCO2排出量の削減と生物多様性の維持を同時に実現する考え方です。
EUDRに適合しない製品のEU市場への流通を制限することで、消費者が意図せず森林破壊に加担する事態を防ぐ仕組みが整えられています。つまりEUDRは、サプライチェーン全体の透明性を高め、企業と消費者の双方に環境配慮を促す法的枠組みとして機能する規制です。
対象となる7つの産品
EUDRが規制の対象としているのは、次の7品目です。
- 牛
- カカオ
- コーヒー
- パーム油
- ゴム
- 大豆
- 木材
いずれも生産過程で大規模な森林伐採を伴うリスクが高いとされており、EUDRにおいて重点的に管理すべき産品と位置づけられています。さらにEUDRでは、原材料そのものだけでなく、チョコレートやタイヤ、合板など加工後の派生製品も幅広く規制範囲に含まれている点が特徴です。
対象品目の詳細はEUDR附属書において、HSコードと呼ばれる国際的な品目分類番号で厳密に規定されています。EUDRに対応するうえでは、企業が自社の取り扱う製品や原材料がEUDRの対象に該当するかどうかを正確に確認し、サプライチェーン全体で管理体制を整えることが不可欠です。
出典:農林水産省/EU向け牛肉輸出における森林減少防止に関する規則(EUDR)対応
最新のスケジュールと延期動向
EUDRの適用時期については、当初の予定から見直しが行われています。欧州委員会は2024年10月に開始時期を12か月先送りする方針を示し、次に示す時期で適用が見込まれています。
| 企業規模 | 適用時期 |
| 大企業・中堅企業 | 2025年12月30日 |
| 中小企業 | 2026年6月30日 |
EUDRの延期が決まった背景には、各国の監督機関や事業者が求められるデューデリジェンスへの準備に十分な時間を要する現実的な課題がありました。建設業界では、木材を主要資材として大量に調達するケースが一般的なため、EUDRへの対応として産地証明の取得やサプライチェーンの追跡体制を構築するには相応の準備期間が欠かせません。
スケジュールの動向を的確に把握し、EUDRの施行に先立って社内体制を整備しておくことが重要です。
出典:農林水産省/EUの森林減少防止に関する規則への対応について
EUDRにおける企業に課されるデューデリジェンス(DD)義務

EUDRでは、①森林破壊フリーであること、②生産国の法令を遵守していること、③デューデリジェンス声明(DDS)を提出することの3要件を満たす必要があります。ここでは、情報の収集と地理座標の特定から、リスク評価の基準と方法、さらにリスク低減措置とDDSの提出に至るまで、EUDRにおける企業に課されるデューデリジェンス(DD)義務について解説します。
情報の収集と地理座標の特定
EUDRにおけるデューデリジェンスの第一歩は、対象製品の生産地に関する詳細な情報を正確に把握することです。EUDRのもとで企業は、製品が生産されたすべての区画について緯度・経度による地理座標を特定し、記録しなければなりません。
加えてEUDRでは、生産が行われた時期や森林破壊に関与していないことを示す根拠、さらに生産国における関連法規への適合状況などの情報もあわせて収集する必要があります。取り組みの根底にあるのは、対象製品がいつ・どこで生産されたかをサプライチェーン全体で追跡できる体制を構築するトレーサビリティの考え方です。
EUDRに対応するためには、調達段階から一貫した情報管理の仕組みを整えることが不可欠といえます。
リスク評価の基準と方法
EUDRのもとで企業が行うリスク評価では、対象製品の生産国における森林減少の発生状況や先住民族の権利が適切に守られているか、さらに現地の法律がどの程度機能しているかなど多角的な視点からの分析が求められます。
EUDRでは評価を効率的に進めるため、欧州委員会が各国のリスク水準を「高リスク」「標準リスク」「低リスク」の3段階に分類する仕組みを設けています。低リスクに該当する国から調達された製品については、EUDRに基づくデューデリジェンス手続きが簡略化される一方、評価の結果として看過できないリスクが認められた場合には、速やかにリスクを低減するための具体的な対策を講じなければなりません。
EUDRへの適切な対応には、リスク分類を踏まえた判断が重要です。
リスク低減措置とDDSの提出
EUDRに基づくリスク評価の結果、看過できないリスクが確認された場合、企業はリスクを許容可能な水準まで引き下げるための措置を講じなければなりません。EUDRが求める具体的な対応としては、追加的な情報の収集や第三者機関による独立した監査の実施、取引先への改善支援などが挙げられます。
建設業界では、木材の調達先が多岐にわたるため、産地ごとに低減措置を個別に実施する必要が生じる可能性があります。リスクが十分に軽減されたことを確認したうえで、企業はEUの電子システムを通じてデューデリジェンス声明(DDS)の提出が必要です。
EUDRでは提出されたDDSに固有の参照番号が割り振られ、番号をサプライチェーンの川下へ受け渡すことでEUDRへの対応が完了していることを証明する仕組みです。
出典:農畜産業振興機構/森林減少フリー製品規則の国別リスク分類が公表、日本は「低リスク国」に(EU)
EUDRが建設業界・日本企業へ与える影響と対策
EUDRは、木材をはじめとする資材を多く扱う建設業界や日本企業にも影響を及ぼします。ここでは、サプライチェーン上のリスクへの理解を深めるとともに、FSCやPEFCといった第三者認証の活用方法、さらに実務で着手すべき3つのステップを通じて、EUDRが建設業界・日本企業へ与える影響と対策について解説します。
サプライチェーン上のリスク
EUDRは、EU域内に直接製品を出荷しない日本企業にとっても無関係ではありません。EUに拠点を持つ取引先へ資材や製品を供給している場合、EUDRに基づくデューデリジェンス情報の提供を求められる可能性があるためです。
建設業界においては、木材や天然ゴムを原料とするタイヤなど、EUDRの対象品目を多く調達しており、供給経路が多層的かつ複雑であることから、生産地までの情報を正確に遡及することが難しいケースも少なくありません。
サプライチェーンの不透明さは、EUDRへの対応において大きなリスク要因です。加えてEUDRの義務に違反した場合には、EU域内における年間売上高の4%以上に相当する罰金や、製品の差し押さえ、公共調達からの排除など厳格な制裁が課されるため、EUDRへの早期かつ確実な対応が求められます。
第三者認証(FSC/PEFC)の活用
EUDRへの対応を進めるうえで、FSCやPEFCなどの第三者認証制度は有効な補完手段となり得ます。森林認証は、調達先の持続可能性を客観的に裏付けるものであり、EUDRが求めるリスク評価やリスク低減のプロセスにおいて活用できる点がメリットです。
一方で注意すべきなのは、認証を取得しているだけではEUDRの義務を完全に満たしたことにはならない点です。EUDRでは地理座標の提供をはじめとする独自の追加要件が設けられているため、認証の有無にかかわらず、追加条件を個別に充足しなければなりません。
各認証団体もEUDRの要件との整合を図るための基準見直しを進めているほか、企業のデューデリジェンスを支援する新たなデジタルツールの提供も始まっています。
出典:資源エネルギー庁/輸⼊⽊質バイオマスの持続可能性について(持続可能性基準等の整理に向けた検討)
実務で着手すべき3つのステップ
EUDRへの対応を着実に進めるには、段階的なアプローチで実務に落とし込むことが重要です。必要なのは次に示す3つのステップです。
| ステップ | 内容 |
| ステップ1 | 自社で取り扱う製品のHSコードを精査し、EUDRの対象品目に該当するものを正確に洗い出す作業 |
| ステップ2 | 調達先に対してEUDRが求める地理座標や現地法令の遵守状況といった情報の提供が可能かどうかを確認し、対応に向けたロードマップを作成 |
| ステップ3 | 社内の調達規定や取引契約を見直し、デューデリジェンス関連情報の提供を義務づける条項を盛り込むなど、EUDRに適合した管理体制を整備 |
建設業界であれば、構造材として使用する木材だけでなく、天然ゴム由来の部材なども含めて幅広く確認する必要があります。3つのステップを順に実行することで、EUDRへの対応を実効性のあるものにできます。
建設業界におけるEUDR(欧州森林破壊防止規則)に関する事例
EUDRへの対応が求められるなか、建設業界では木材利用や森林保全に関する先進的な取り組みが進んでいます。ここでは、農林水産省や経済産業省、環境省と大林グループが締結した建築物木材利用促進協定の事例をはじめ、デジタル技術を活用した森林づくりの総合支援や、ボルネオ島における木材調達トレーサビリティ調査など、EUDRに関連する建設業界の具体的な事例について紹介します。
株式会社大林組
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出典:農林水産省、経済産業省、環境省と大林グループ3社で「建築物木材利用促進協定」を締結|2023.2.3|株式会社大林組
鹿島建設株式会社
| 鹿島(社長:天野裕正)は、森林内の自律飛行が可能なドローンを活用して取得した森林上空と森林内のデータを解析することで、森林を構成する樹種毎のボリュームや樹々毎の位置・樹高などを点群データ化し、評価する技術を開発しました。森林内自律飛行ドローンによるレーザー計測データの実利用は国内初となります。当社はこのたび、本技術を用いて、自治体や企業などの森林所有者が行う森林づくり計画の提案から森林経営、活用支援までをトータルにサポートするサービス「Forest AssetTM」(フォレストアセット)の提供を開始しました。
本年5月には、第一弾として、森林業の活性化に取り組んでいる三井住友銀行(頭取CEO:福留 朗裕)が神奈川県伊勢原市日向地区での認証を目指しているOECM※1の事前調査に「Forest Asset」の一部技術を採用し、その有用性を確認しました。 当社は今後、自治体や企業などの森林所有者の森林づくりをサポートすべく、「Forest Asset」を広く提案してまいります。 ※1 効果的な自然保全が行われている地域を示す国際的な認定制度 |
出典:デジタルで森林づくりを総合支援!|2024.7.1|鹿島建設株式会社
大成建設株式会社
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出典:森林資源・森林環境の課題解決に向けボルネオ島における木材調達トレーサビリティを調査|2023.11.28|大成建設株式会社
まとめ

本記事では、EUDRの概要や対象となる7つの産品、企業に課されるデューデリジェンス義務の具体的な内容について解説しました。EUDRは、EU域内に製品を直接輸出しない企業であっても、サプライチェーンを通じて対応を迫られる可能性がある広範な規制です。
建設業界では、木材や天然ゴムといったEUDR対象品目の調達量が多く、供給経路も複雑であるため、早い段階から自社製品の棚卸しや調達先への情報確認に着手することが重要です。EUDRへの対応としてFSC・PEFCなどの第三者認証の活用や社内管理体制の整備を検討されている方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。









