公共工事における工事成績評定は、建設業者の技術力や施工品質を示す重要な指標として位置づけられています。近年では脱炭素社会の実現に向けた取り組みが評価項目に組み込まれ、環境配慮型の施工が企業の競争力を左右する時代となりました。
本記事では、工事成績評定の仕組みや高得点獲得のポイント、脱炭素施策との関連性について解説します。また、新潟県・長野県・山梨県における独自の環境政策や工事評定成績ランキング上位企業の特徴も解説していますので、建設業に従事 されている方や公共工事の受注を目指す方は参照してみてください。
目次
工事成績評定実施基準とは

工事成績評定実施基準は、公共工事の品質担保や施工技術の向上を目的として設けられた評価制度の基本ルールです。工事成績評定の仕組みでは、施工体制や出来形、品質管理など複数の項目について点数化され、総合的な評価が行われます。
また、工事成績評定における高得点獲得のポイントを押さえることで、企業の技術力向上や次回の受注機会拡大につながります。ここでは、工事成績評定実施基準の概要について解説します。
工事成績評定の仕組み
工事成績評定の仕組みは、発注者が施工品質やプロセスを客観的に数値化する評価制度です。公共事業で採用されており、工事完了時に技術検査官・総括監督員・主任監督員の3名体制によって実施されます。
評価項目は施工体制・施工状況・出来形・出来栄えなどの基本的な要素に加え、工事特性・創意工夫・社会性・法令遵守など多角的な観点から評価されることが特徴です。統一された評価基準に基づいて100点満点で採点され、企業の技術力や施工管理能力が定量的に示されます。
地方整備局が発注する工事では、評定結果が入札参加資格や企業評価に直結するため、受注企業にとって極めて重要な指標です。
工事成績評における高得点獲得のポイント
工事成績評定における高得点獲得のポイントは、まず減点を避けることが最優先です。事前にクライアントである自治体から「考査項目別運用表」と「施工プロセスのチェックリスト」の2種類を入手し、評価基準を正確に把握しなければなりません。
特に工事着手前に提出する施工体制台帳は、安全管理に直結する書類として検査官が重点的に確認するため、不備のない状態で整備する必要があります。施工体制や安全管理など基本項目での減点を防ぐことが高得点への第一歩です。
さらに、新技術の導入や独自の工夫を積極的に取り入れることで創意工夫の項目において加点を狙えます。基礎を固めた上で付加価値を追求する戦略が、評定における高得点獲得のポイントです。
工事成績評定と脱炭素の関連性
国土交通省は脱炭素社会の実現に向けて、工事成績評定に環境負荷低減に取り組む企業へインセンティブを付与する仕組みを導入しました。このため、工事成績評定と脱炭素の関連性は、国土交通省が推進する環境配慮型の公共調達制度において重要な位置を占めています。
総合評価落札方式の入札において脱炭素への取り組みが加点評価され、工事成績評定で環境配慮の実績が評価項目として組み込まれています。脱炭素を推進する制度設計により、企業は入札での優位性担保と高評定獲得のメリットを得られるため、自主的な脱炭素活動への参加意欲が高まります。
民間企業による環境配慮行動を促進し、建設業界全体の脱炭素を加速させる効果が期待されており、今後は環境対応力が企業競争力を左右する重要な要素です。
甲信越地方における工事評定と脱炭素の特徴

甲信越地方における工事評定と脱炭素の特徴として、次の内容が挙げられます。
| 特徴 | |
| 新潟県 | 新潟県脱炭素社会の実現に関する条例
新潟カーボンゼロチャレンジ |
| 長野県 | 長野県ゼロカーボン戦略
長野県気候危機突破方針 |
| 山梨県 | やまなしCO2見える化トライアル
やまなしゼロカーボンシティ宣言 |
それぞれの特徴を詳しく解説します。
【新潟県】工事成績評定と脱炭素の特徴
新潟県では、新潟県脱炭素社会の実現に関する条例により、県全体でのCO2削減目標が明確化され、事業者への具体的な責務が定められました。また、新潟カーボンゼロチャレンジでは、県内企業の自主的な脱炭素活動を促進する支援制度が展開されています。
ここでは、新潟県における工事成績評定と脱炭素の特徴について解説します。
新潟県脱炭素社会の実現に関する条例
新潟県脱炭素社会の実現に関する条例は、気候変動による高温・水害・雪害といった県内への影響が顕在化する中で制定されました。県は2020年9月に2050年までの脱炭素社会実現を表明し、実現に向けた基本理念と県・県民・事業者それぞれの責務を明確化しています。
本条例では施策の基本事項を定めるとともに、県が脱炭素施策を総合的かつ計画的に推進するための計画策定を義務付けました。行政・住民・企業が一体となった環境対策の推進体制が整備され、実効性のある取り組みが期待されています。
新潟カーボンゼロチャレンジ
新潟カーボンゼロチャレンジは、2050年までのCO2排出実質ゼロを目指す県民運動です。県民・事業者・行政が一体となって地球温暖化対策に取り組む枠組みとして2020年に表明されました。
条例制定を契機として、県・新潟県地球温暖化防止活動推進センター・新潟日報社が中心となり、多様な主体と連携しながら事業を展開しています。県民や企業の脱炭素型ライフスタイルへの転換を加速させるため、身近な場所やさまざまな媒体を通じて情報発信や啓発活動が行われており、地域全体での環境意識向上が図られています。
新潟県の工事評定成績ランキング
新潟県の工事評定成績ランキングでは、長い歴史と確かな技術力を持つ地域に根ざした建設企業が上位に選出されています。
相村建設株式会社は、1971年に設立された相村グループの中核企業として、「創意と誠意」を経営理念に掲げています。日本海新時代の拠点である直江津港の開発に携わり、日本最大級の火力発電所建設などで高い実績を積み重ねてきました。
株式会社植木組は、2025年4月に創業140周年を迎えた県内有数の老舗企業です。長年培ったノウハウを活かした環境配慮型建築を提案し、再生可能エネルギーを活用した建物づくりにより持続可能な社会づくりに貢献しています。
株式会社大島組は、昭和13年創業以来、商業施設・生産施設・官公庁建築など幅広い分野で従事してきました。「確かな技術とまごころでお客様満足の追及」を理念とし、道路・河川・海岸などの社会資本整備において着実な実績を重ねています。
【長野県】工事成績評定と脱炭素の特徴
長野県では、豊かな自然環境を守りながら持続可能な地域社会を実現するため、独自の脱炭素施策を展開しています。長野県ゼロカーボン戦略では、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた具体的な行動計画が示され、県全体での取り組みが推進されています。
また、長野県気候危機突破方針により、気候変動への緊急対応として県民・事業者・行政が一体となった施策が加速していることが特徴です。ここでは、長野県における工事成績評定と脱炭素の特徴について解説します。
長野県ゼロカーボン戦略
長野県ゼロカーボン戦略は、既存技術の徹底普及と持続可能な脱炭素型ライフスタイルへの転換を軸とした実効性の高い取り組みです。2023年3月に作成された骨子を基礎として、県や国の施策効果、人口変動の影響などを定量的に分析し、効果が見込まれる施策と加速化が必要な分野を明確化しました。
詳細な検証結果を踏まえ、施策効果の高い重点施策を新たに設定し、2030年度目標達成に向けた具体的なロードマップが策定されています。既存技術の活用を重視することで実現可能性を高めつつ、県民・事業者の行動変容を促す仕組みが整備されており、段階的かつ着実な脱炭素の推進が図られています。
長野県の豊かな自然環境を次世代に継承するため、実行力のある戦略として展開されていることが特徴です。
出典:長野県/長野県ゼロカーボン戦略~第四次長野県地球温暖化防止県民計画、第一次長野県脱炭素社会づくり行動計画~
長野県気候危機突破方針
長野県気候危機突破方針は、将来世代の生命を守ることを最優先に、CO2排出量削減の緩和と気候変動影響への適応の両面から取り組む総合的な施策です。令和2年4月1日に策定された方針では、最終エネルギー消費量を7割削減するシナリオが示されています。
建物分野においては段階的な目標が設定されており、2030年までに全ての新築建築物でZEH・ZEB化を実現し、2050年には既築・新築の平均でゼロカーボンを達成することを掲げています。
長野県気候危機突破方針により、県内の建設業界では高断熱・高効率設備の導入や再生可能エネルギーの活用が加速しており、工事成績評定においても環境配慮型の施工技術が重視される傾向です。
長野県の工事評定成績ランキング
長野県の工事評定成績ランキングでは、明治・大正時代から続く伝統と技術力を持つ地域密着型の総合建設企業が上位に選出されています。
株式会社鹿熊組は、大正2年に創業した長い歴史を持つ企業です。ASJ長野スタジオに加盟し、全国で活躍する建築家と連携した住宅から医療施設・商業施設までさまざまな提案を行っています。
川瀬建設株式会社は、昭和35年より建設事業を展開し、数多くの土木・建築工事を手掛けてきました。長野県特有の山間部が多い地形において、地滑り・崖崩れ・洪水などの災害が発生しやすい厳しい自然環境の中で培われた高い技術力が、同社の確固たる基盤となっています。
飯島建設株式会社は、明治38年創業以来、長野の地で総合建設業を営んできた老舗企業です。「建設業はサービス業である」という理念を掲げ、真摯かつ誠実な施工を実施しています。
【山梨県】工事成績評定と脱炭素の特徴
山梨県では、企業や地域の脱炭素活動を見える化し、具体的な行動変容を促す独自の施策を展開しています。やまなしCO2見える化トライアルにより、事業者のCO2排出量を可視化し、削減に向けた実践的な取り組みが推進されています。また、やまなしゼロカーボンシティ宣言では、県と市町村が一体となって2050年の脱炭素社会実現を目指す姿勢が明確に示されていることが特徴です。
山梨県における工事成績評定と脱炭素の特徴について解説します。
やまなしCO2見える化トライアル
やまなしCO2見える化トライアルは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、県内中小企業の脱炭素を支援する実践的な取り組みです。県は事業者のエネルギー使用量やCO2排出量の把握を支援するとともに、排出削減に向けた専門的な助言を提供しています。
特筆すべきは、CO2排出量などを容易に可視化できるサービス「e-dash」の利用費用を令和7年2月末まで県が支援している点です。e-dashにより、中小企業でも容易に自社の環境負荷を数値化でき、具体的な削減目標の設定や効果測定が可能です。
見える化による現状把握と専門家による助言を組み合わせることで、企業の自主的な脱炭素活動を促進し、工事成績評定における環境配慮の評価向上にもつながる効果が期待できます。
やまなしゼロカーボンシティ宣言
やまなしゼロカーボンシティ宣言は、2009年3月に全国に先駆けて「2050年CO2ゼロやまなしの実現」を掲げた山梨県の先進的な取り組みです。全国有数の日照時間、豊富な水資源、豊かな森林という恵まれた自然エネルギー源を最大限に活用するとともに、省エネルギー対策や森林吸収源対策を推進してきました。
さらに2021年2月には、全国で初めて県内全ての市町村が共同で「やまなしゼロカーボンシティ宣言」を実施し、各自治体の特性を生かしながら全県一丸となって脱炭素に取り組む姿勢を明確にしています。県発注の公共工事においても環境配慮型の施工が強く求められるようになり、工事成績評定における脱炭素関連の評価項目の重要性が高まっています。
山梨県の工事評定成績ランキング
山梨県の工事評定成績ランキングでは、地域のインフラ整備に長年貢献し、自然災害対策や地域発展に尽力する企業が上位に選出されています。
株式会社芦沢組土木は、1977年創立の「芦沢組土木」を前身とし、1991年に法人化した企業です。公共工事を中心にあらゆる工事を手がけ、自治体からAランクの建設工事会社として認定されるまでに成長しました。
株式会社飯塚工業は、富士山や南アルプスなどの山々に囲まれた環境で、常に自然と向き合ってきた企業です。地域の小中学校を訪問する「出前授業」を実施し、建設機械の操縦体験を提供するなど、次世代育成にも積極的に取り組み、体験後には修了証を配布しています。
井上建設株式会社は、生活や産業・物流に欠かせないインフラ整備を通じて、地域住民が快適に暮らせる環境づくりに貢献しています。
まとめ

本記事では、工事成績評定の仕組みと脱炭素社会実現に向けた各県の取り組みについて解説しました。工事成績評定は、発注者が施工品質やプロセスを定量的に評価する制度であり、施工体制・出来栄え・創意工夫・法令遵守など多岐にわたる項目が100点満点で採点されます。
高得点獲得には、基礎項目での減点回避と新技術導入による加点が重要です。また、新潟県・長野県・山梨県では独自の脱炭素施策を展開しており、条例制定や具体的な数値目標の設定により、建設業界における環境配慮型の施工が強く求められています。
工事成績評定においても脱炭素への取り組みが評価項目として組み込まれ、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。建設業に従事 されている方は、各地域の脱炭素施策を理解し、工事成績評定での高評価獲得に向けて参考にしてみてください。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。

この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。







