企業の環境活動を評価するCDP(Carbon Disclosure Project)は、建設業界においても投資家からの注目が高まる重要な評価指標の一つです。建設業は社会インフラの構築を担う一方で、環境負荷の大きい産業として持続可能な事業運営への転換が求められています。このCDP回答を活用して持続可能な事業運営を目指すことは企業価値向上の重要な手段として位置づけられています。
本記事では、CDPの基本概念から回答方法のポイント、企業が得られるメリットとデメリットについて解説します。また、実際の回答状況や日本企業の取り組み状況も解説していますので、環境戦略の強化を図る建設関連企業の方は参照してみてください。
目次
CDPとは

CDPは、企業の環境取り組みを評価する国際的な非営利団体として、ESG投資などにおいて重要な役割を果たしています。世界的にその影響力が拡大し、企業の持続可能な経営戦略策定において欠かせない存在です。
CDPの主要な活動は、投資家に代わって世界の主要企業に環境関連の質問書を送付し、回答を分析・評価して結果を開示することです。2000年に英国で設立されたCDPは、投資家からの指名を受けた企業や時価総額を基準に選定された企業に対して、気候変動、水セキュリティ、森林保護などのテーマで毎年質問書を送付しています。
企業側の参加意識も年々高まっており、日本では2023年度の気候変動質問書に1,244社が回答するなど、回答率の向上が顕著に現れています。収集されたデータはスコアリングシステムによって評価され、主にESG投資を行う機関投資家のデータベースとして活用されているのが現状です。
出典:CDP/CDP 気候変動 レポート 2023: 日本版
CDP回答方法に関するポイント

CDP回答方法を理解することは、企業の環境戦略を効果的に伝え、高いスコアを獲得するために欠かせません。CDP回答の年間スケジュール、回答に掛かる費用、具体的な方法を把握することで、計画的かつ効率的な回答準備が可能です。
CDP回答方法に関するポイントについて解説します。
CDP回答の年間スケジュール(2025年)
2025年のCDP回答スケジュールにおいて、11月19日の週に最終的な回答または修正の提出期限が設定されており、企業は回答期限に向けて準備を進める必要があります。
これまでは、下記の日程で進められてきました。
| 日程 | 内容 |
| 4月28日の週 | 回答要請機関(署名金融機関、サプライチェーンメンバー等)のポータルオープン |
| 6月18日の週 | 2025年回答ポータルオープン(回答開始) |
| 9月17日の週 | CDPスコアリング対象となる回答提出期限 |
CDPの質問への回答は、年間を通じて継続的に取り組まなければなりません。特に初めて回答する企業や複数分野での回答を予定している企業にとって、早期からの準備開始が成功のポイントです。
11月19日の週に定められている最終提出期限を逃すことなく、効果的な回答を提出するためには、逆算したスケジュール設計と組織内での役割分担が不可欠です。
CDP回答に掛かる費用
CDP回答における費用体系は、企業の回答準備において重要な検討要素の一つです。CDP回答の事務費用は従来3つのオプションで構成されていましたが、2024年度から日本企業向けの料金体系に変更が生じています。
以前提供されていたEssential Level Feeは2024年度以降、日本企業には適用されなくなり、現在は2つの主要オプションが日本向けに提供されている状況です。
回答費用ごとの違いは次の通りです。
| レベル | 回答費用(税別) | 特徴 |
| Foundation level fee | 310,000 円 | CDPイベントの優先的参加権限 |
| Enhanced level fee | 740,000 円 | さまざまな特典 |
費用を支払うことで、専用のダッシュボードを通じた回答入力システムの利用が可能となり、回答作成ツールや進捗管理機能など、質の高い回答作成を支援する各種機能へのアクセスが提供されます。
CDP回答の具体的な方法
CDP回答の具体的な方法は次の通りです。
- 質問書への回答を作成
- CDPホームページの配点や採点基準を参考に模擬採点を実施
- 模擬採点の結果に基づき回答の修正
- CDPポータル上で回答を提出
回答作成の第一段階では、自社が既に作成しているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)レポートやサステナビリティレポートなどの既存資料を基盤として活用します。これらの文書には環境関連の重要な情報が体系化されているため、CDP質問書への効率的な回答作成が可能です。
質問内容の詳細については、CDPホームページから過去の気候変動質問書を確認でき、事前の準備段階で回答要件を十分に把握できます。
回答品質の向上には、CDPが提供する採点基準の活用が重要です。CDPホームページでは、各項目や質問の配点、採点基準が公開されており、これを参考にした模擬採点を実施することで回答の質を客観的に評価できます。
出典:CDP/CDP Full CorporateScoring Methodology2025 – Climate change
CDP質問書に回答するメリット

CDP質問書への回答は、企業に次のメリットをもたらします。
- ESG投資など資金調達
- TCFDの情報開示
- 企業ブランディング向上
CDP質問書に回答するメリットについて解説します。
ESG投資など資金調達
ESG投資における資金調達は、CDP回答によって得られるメリットの一つです。機関投資家のニーズに基づいて設計された質問内容において高スコアを獲得することで、企業は資本市場での評価向上と資金調達機会の拡大を実現できます。
ESG投資を重視する機関投資家からの資金調達が容易になることにより、企業の成長戦略に必要な資本が改善されます。特に、持続可能性を重視する投資ファンドからの投資機会が増加する傾向がみられます。
CDPスコアは、ブルームバーグやQUICKなどの主要な株価情報サービスでスコアが閲覧可能であり、MSCIやSTOXXなどの投資指数でも活用されています。さらに近年では、Googleファイナンスでも銘柄情報にCDP気候変動スコアが表示されるようになり、機関投資家だけでなく個人投資家からの関心も急速に高まっています。
TCFDの情報開示
CDPはTCFDとの整合性を保ちながら、企業が気候変動に関わるリスクと機会を把握できるよう支援しています。TCFD同様に、CDP質問書への回答を通じて企業は気候関連リスクの分析、評価、対策を体系的に整理でき、結果を自社の経営戦略策定に直接活用できます。
従来のTCFDや国連グローバルコンパクトとの整合に加えて、新たにIFRS S2(国際サステナビリティ開示基準)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)との整合性も図られており、設問の変更・追加が行われているのが現状です。
企業はCDP回答を通じて国際的な情報開示基準に対する多面的な対応が可能となり、投資家やステークホルダーからの多様な情報開示要求に効率的に応えられます。
企業ブランディング向上
CDP回答による企業ブランディング効果は、特に消費者行動の変化との関連で顕著に現れています。近年、主にZ世代を中心としてエシカル消費と呼ばれる倫理的な消費行動が増加しており、消費者は企業の環境への取り組みを重要な判断基準として商品やサービスを選択する傾向が強まっています。
優れたCDPスコアは、エシカル消費のような価値観を持つ消費者に対して企業の環境責任を明確に示す客観的な証拠の一つです。特に欧州などの環境意識が高い市場では、商品やサービスの選定基準として提供元企業の環境経営情報を参考にする動きが活発化しています。
CDPスコアの向上は短期的なブランドイメージ改善にとどまらず、長期的な顧客ロイヤリティの構築と市場シェアの拡大につながるブランディングへの投資として位置づけられます。
CDP質問書に回答するデメリット

CDP質問書に回答するうえでの直接的なデメリットは、企業が負担しなければならない回答費用です。費用は単発的な支出ではなく、継続的な参加を前提とした投資として捉える必要があり、特に中小企業にとっては予算計画上の課題となる場合があります。企業は回答の品質向上とコスト効率のバランスを慎重に検討しなければなりません。
回答作成プロセスにおける時間と労力の負担もデメリットです。CDP質問書への回答では、各質問項目に対応した自社状況の詳細な把握と文章化が求められるため、特に初めて回答を行う企業では膨大な手間と時間を要します。
社内の環境データ収集体制が整備されていない場合、複数部署との調整や専門知識の習得も必要となり、相当な人的リソースの投入が避けられません。
現在は全プライム企業が回答対象となっており、市場からの期待と要求が高まっている状況を考慮すると、企業は早期からの準備開始と計画的な取り組み体制の構築が必要不可欠です。
回答が必要なCDP質問書の内容

CDP質問書は、企業の環境活動を評価するため、気候変動、水セキュリティ、フォレストなど複数の重要な環境分野をカバーしています。
回答が必要なCDP質問書の内容について解説します。
気候変動
CDP気候変動質問書は、企業の気候変動対応における評価項目として位置づけられており、企業のガバナンス体制から具体的な削減目標まで幅広い領域をカバーしています。
CDP質問書の気候変動分野で重要視される取り組みとして、まずガバナンス体制の確立が挙げられます。具体的には、自社内のガバナンスにおいて取締役が気候変動の監督と責任を適切に果たしているか、組織的な対応力が評価の対象です。
定量的な取り組みでは、Scope1・2の排出量算定・検証の実施が基本要件として求められます。また、科学的根拠に基づいた気候移行計画の策定やGHG削減目標の設定が評価対象となり、企業の具体的なコミットメントと実行力が問われます。
水セキュリティ
CDP質問書の水セキュリティは「生活、人間の福利、社会経済的発展を維持し、水を媒介とする汚染や水関連の災害からの保護を確保したうえで、平和で政治的安定性のある気候の中で生態系を保全するため、適切な量の良質な水への持続可能なアクセスがあること」と定義されています。
CDPによる定義は、企業が水資源を単なる生産要素として捉えるのではなく、社会全体の持続可能性に寄与する責任ある利用者として行動することの重要性を示しています。
企業活動における水の役割は極めて重要で、水の汚染や不足は事業継続に深刻な影響を与えかねません。製造業では生産プロセスに不可欠な要素であり、サービス業においても施設運営や従業員の健康維持に必要な社会基盤です。
フォレスト
CDPフォレストは、森林減少を防ぐために森林減少の主な要因とされる7つの農林畜産物類の生産に関連した企業の取り組みを把握することを目指しています。CDPフォレストにおいて、森林減少の要因となる主な森林リスク・コモディティは次の7種類です。
- 畜牛品
- パーム油
- 大豆
- 木材
- 天然ゴム
- カカオ
- コーヒー
質問書への回答を通じて、企業は自社の森林への影響を正確に把握し、改善に向けた具体的なアクションプランの策定が可能です。
森林減少を根本的に止めるためには、企業活動に関連する森林伐採および土地・生態系転換をなくすことが求められています。環境保護活動だけではなく、企業の長期的な事業継続性にとって不可欠な取り組みです。
森林は気候変動の緩和、生物多様性の保全、水資源の確保など、企業活動の基盤となる生態系サービスを提供しており、森林破壊は結果的に企業の事業リスクの増大につながります。
CDP質問書の回答状況

2023年におけるCDP回答状況は、世界的な環境意識の高まりを反映した数値を示しています。CDPの回答要請を受けた企業のうち、全世界で約23,000社が情報開示に取り組み、前年比で約24%の大幅な増加を記録しました。
ESG投資の拡大と企業に対する環境責任への社会的期待の高まりが主要な要因となっており、CDP回答が企業の必須要件として認識されていることを物語っています。
日本企業の参加状況も活発で、情報開示に取り組んだ企業数は1,985社です。特に注目すべきは、最高評価であるスコアAを獲得した日本企業の分布です。気候変動分野では111社、水セキュリティ分野では36社、フォレスト分野では7社がA評価を受けており、各分野における日本企業の取り組み水準の高さが明確に示されています。
花王株式会社と積水ハウス株式会社の2社が、気候変動・水セキュリティ・フォレストの全プログラムでスコアAの評価を受けています。
出典:花王株式会社/花王、4年連続でCDPから「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の分野で最高評価を獲得
出典:積水ハウス株式会社/CDP「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」全分野最高の「Aリスト」国内住宅・建設業界初のトリプルAに選定、先駆的な取り組みと情報開示が評価
まとめ

本記事では、CDPの概要から回答方法、メリット・デメリット、質問書の具体的内容、そして実際の回答状況まで、CDP質問書に関する情報について解説しました。
CDPは企業の環境活動を評価する国際的な非営利団体として、投資家や社会に対して企業の環境取り組み状況を開示する重要な役割を担っています。回答することでESG投資の機会拡大、TCFD情報開示による透明性向上、企業ブランディング向上といった多面的なメリットを享受できる一方で、回答事務費用や時間・労力の投入といったデメリットも存在します。
気候変動、水セキュリティ、フォレストの3つの主要分野では、それぞれ異なる視点から企業の持続可能性への取り組みが評価の対象です。
建設業界においても、環境負荷の大きい産業として社会からの環境負荷軽減の期待が高まっていますので、持続可能な事業運営を目指す建設関連企業の方は本記事を参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
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