サステナビリティ 2025→2026:建設業が“今”整える制度・開示・現場実装
国際・国内のルールや基準が相次いで見直され、企業が向き合うべきサステナビリティ課題も変化の局面に入っています。本レポートでは、2025年の主要トピックを整理し、2026年に備えるべき建設業の注目点を示し、次のアクションに直結する示唆を提示します。
目次
1.国際:2025年の主な出来事

サステナビリティをめぐる国際交渉は、2025年1月の米国トランプ大統領就任以降大きく変化してきます。特に、就任当日に署名した大統領令「国際環境協定においてアメリカを第一に考える」により、気候変動等の国際的な会合から実質的に撤退することとなっています。これによりパリ協定から10年となるCOP 30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)は、米国の代表団が参加しない形で開催されることとなりました。
これによりパリ協定から10年となるCOP 30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)は、米国の代表団が参加しない形で開催されることとなりました。
また欧州においても、米国の動きなどを踏まえEUの経済的な競争力低下の懸念から、これまでのサステナビリティ政策を見直す動きになっています。これは、2024年9月に発表されたドラギレポート「欧州の競争力の未来」の分析と提言を踏まえたもので、欧州委員会は2025年1月に今後5年間の戦略的ロードマップ「競争力コンパス」を発表しています。
この中には、脱炭素化と競争力を両立させるため規制の簡素化が含まれており、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)の適用範囲や要件の緩和する方向性が示されました。具体的な法案は、オムニバス法案して提案されましたが、12月16日に欧州議会で正式に承認となりました。さらに、17日には、欧州への木材輸出を含む森林破壊防止規則(EUDR)の1年延期が議会で承認されました。
以上のように、米欧においてサステナビリティ政策を見直す動きがある中、11月ブラジルで開催されたCOP 30は今後の方向性を示すものとなっています。会議自体の最終合意文書は課題を残す形ではあるが、決定いくつかの点で合意が成立したという意味で評価されるものになっていると評価されています。
また、会合がアマゾン川河口のベレン市で開催されたこともあり、自然保護や先住民保護に関する関連会合の開催や発表がなされています。中でも、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、来年の生物多様性のCOP 17までに、TNFD(自然関連情報開示タスクフォース)をベースとした追加の基準策定を行うと発表しています。基準の変更内容は不明ですが、企業の開示において、気候だけでなく自然も対応する姿勢を示す必要性がさらに高まったと言えます。
さらに、気候変動・自然関連の開示の枠組みに加えて、新たな開示の枠組みも整備されつつあります。一つは、日本が主導するグローバル循環プロトコル(GCP)で、初版がCOP30において公表されています。これは、循環経済に関連する指標等について国際的な合意を目指すものです。さらに、不平等や社会といった分野にも開示の枠組みを作るという動きもあります。
なお、2023年に最終化された国際サステナビリティ基準(IFRS S1/S2)の国内基準としての採用が各国で進んでおり、日本においてもSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に国内において適用されるサステナビリティ基準を公表しています。この基準は2027年3月期より大手企業から適用が義務化される予定になっています。
2.国内:2025年の主な出来事
次に、国際情勢等を踏まえた日本国内の政策について、気候変動、ネイチャーポジティブ(以下、NP)、循環経済に分けて説明した上で、建設業界に直接関連する内容をご説明します。

(1)気候変動対応
2025年の主な政策の柱は、2023年に策定した脱炭素成長型経済構造移行推進戦略を改訂し、「GX2040ビジョン」として戦略を整備した点です。ウクライナ等の地政学上の変化や経済安全保障を踏まえたサプライチェーンの再構築などカーボン・ニュートラルを巡る動向が目まぐるしく変化する中、政策上の予見可能性を高めるための取り組みといえます。また、GXに関しては、5月に2026年から始動する排出権取引(GX-ETS)にかかる法的根拠となる改正GX推進法・改正資源有効利用法が成立しています。2026年からは、GXリーグに参加する企業間で排出権取引が行われることとなります。
目標面では、同じ2月に地域温暖化対策計画が改定され、2035年の60%削減、2040年73%削減することが決定しています。これは、先に述べたGXビジョンと別途策定されたエネルギー基本計画と一体的に進めていく方向が示されたものです。
建設関連では、こうした政府全体の流れや2024年に改正された公共工事の品質確保の促進に関する法律を踏まえ、国土交通省土木工事の脱炭素アクションプラン(~建設現場のカーボンニュートラルに向けて~)が4月に発表されました。これは、特に強化が必要な建設段階の脱炭素化を目指して、建設機械や資材の脱炭素化を進める方向性を示したものとなっています。
さらに、6月には、気候変動に加え、NPへの機運や循環経済の重要性の高まりを受け、国土交通省のグリーン社会実現推進本部で「国土交通省環境行動計画」が改定されました。建設関連の気候変動対策としては、建設現場に加えて、建設物のライフサイクルを通じた脱炭素化の方針が示されています。これは、2024年に基本構想として関係省庁で整理した2028年までに建築物LCA(建築物のライフサイクル全体におけるCO2を含む環境負荷を算定・評価)の実施を促す制度を策定することを踏まえたものです。
その後、国土交通省が主導する検討会において検討が行われ、10月には「建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた制度のあり方中間報告(案)」として整理されました。2028年に制度化すると、設計時、施工主に対して建築物のライフサイクルカーボンの説明や評価結果の表示が必要となることになります。
また、現場段階では、改正建築物省エネ法が4月以降着工の新築で全面的な適用が義務となりました。 ますます、設計段階での一次エネ計算や仕様選定の前倒しが重要となっています。
(2)ネイチャーポジティブ
NPに関しては、日本企業のTNFDへの賛同企業数がCOP30時点で210社と世界的にも圧倒的な賛同社数となっています。こうした状況もあり、環境省に加え林野庁が「森林に関するTNFD情報開示の手引き」を発表するなど、各省庁での支援ツールが充実してきています。
また、環境省は、2024年に環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の4省庁連名で取りまとめた「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」をより具体化させるために、2030年までのロードマップを策定し、さらなるNP戦略の推進を行なっているところです。
建設・土木関連では、国土交通省が国土交通省環境行動計画やNPへの機運の高まりを受け、グリーンインフラの活用が当たり前の社会を目指した「グリーンインフラ推進戦略2030(案)」を現在検討中です。2030年に向け環境整備やグリーンインフラ評価手法などを検討する予定となっています。
(3)循環経済
2025年は、資源有効利用促進法(資源法)がGXを進める上で必要な制度基盤として脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)と一体で成立しています。この改正により、生産量が一定規模以上の製造事業者等に対し再生資源の利用の義務化、環境配慮設計の促進やGXに必要な原材料等の再資源化などを促進することとなっています。
建設関連では、2020年に策定した「建設リサイクル推進計画2020~「質」を重視するリサイクルへ~」を見直しの検討が進められています。特に、建設リサイクルの高度化として、「建設発生土の有効利用の促進」や「建設廃棄物のリサイクル推進」が必要となってきていると認識し、国土交通省の建設リサイクル推進施策検討小委員会で議論され、「グリーン社会の実現に向けた建設リサイクルの推進〜提言中間とりまとめ(素案)〜」として進むべき方策の方向性が示されています。
3.2026年のトレンドと建設業の注目点

次に、こうした2025年の動向を踏まえつつ、2026年のトレンドと建設業の注目点について紹介したいと思います。
(1)国際:主な注目点
現在の米国および欧州の政治情勢を踏まえると、サステナビリティに関する世界的な合意は想定できない状況です。また、米国では連邦政府がサステナビリティを推進する可能性は低く、引き続き州単位での対応、もしくは、企業自体の対応となります。欧州は先に述べたオムニバス法に基づき、開示ルールを適用する企業数が減少する見込みです。
加えて、オムニバス法において、森林破壊防止規則(EUDR)の適用も1年延期されていますので、2026年末からスタートとなる予定です。ただし、欧州大手企業を中心に、欧州規制の適用が開始され、サプライヤーへの情報提供要請が強まることが予想されますので、この点には注意が必要となります。
さらに、欧州への鉄鋼・セメントなど特定品目の輸出に関して、2026年から炭素国境調整措置(CBAM)の適用が開始されます。これは、輸入される製品の炭素量がEUで製造された製品と同等になるように炭素価格が調整されるという仕組みです。EU内で事業を展開する建設会社にとっては、欧州へ輸入する建設資材のコストや事務負担が上昇することになります。
企業の開示関連では、10月にアルメニアで生物多様性COP17(生物多様性条約第17回締約国会議)が開催されることもあり、生物多様性・自然関連の情報の取り扱いが注目されます。先に述べたISSBの自然関連財務情報の追加基準発表や、CDPのスコアリングにおいてプラスチックと生物多様性を対象とするかどうかが注目点です。
(2)国内:建設業の注目点
気候変動対応では、2025年のGX推進法に基づく排出権取引が4月に開始されることもあり、CO2のプライシングを通じ、市場原理を活用した実践フェーズに移行することとなります。建設業界においては、クレジットの価格が明確になることから、低炭素の建設資材が求められることとなります。公共調達における低炭素資材の利用が民間の建築物にも広がってくることになるでしょう。また、中間取りまとめを踏まえた建築物LCAに関しては、建設資材製造業者、建設業者、施工主の建設物のライフサイクルカーボンへの関心をますます高めることとなり、見積書への反映を含め建設の様々な実務に影響を与えるものとなると思われます。
ネイチャーポジティブに関しては、引き続き民間における取り組みが継続し、大手建設会社においてTNFD開示が当たり前化していくものと思われます。また、2026年が、パリ協定の生物多様性版である昆明・モントリオール生物多様性枠組の中間見直しの年となります。環境省を中心にCOP17に向け生物多様性国家戦略等の中間評価が行われています。その中では、企業による取り組みが進展している点が評価されているほか、定量化に向けデータが不足している点が指摘されています。
建設業界にとっては、自然関連の評価・測定技術など建設会社の技術の活用範囲が拡大する可能性が増えてくるでしょう。さらに、国土交通省のグリーンインフラ推進にかかる施策や、2027年3月に横浜市で開催される国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)でのグリーンインフラ実装などが注目されることとなりますので、建設業界にとって自然を活用した建設などの実務が充実してくると思われます。
循環経済に関しては、2025年の資源法改正が4月より施行開始となります。これにより、特定製品の再生資源利用の義務化、環境配慮設計の促進、原材料の再資源化の促進などが推進され、循環経済が社会実装されるステージに入ります。循環経済への取り組みがますます気候変動対策と一体化していくことになり、単なる省エネからシステム全体の環境負荷削減が注目されることになります。建設業界では、低炭素建設資材を用いた環境配慮型設計や再利用可能性が重要になります。建設リサイクルに関しては、建設リサイクル法の運用が細分化・高度化することから、日常的に各自治体の要件を確認するなどのきめ細かい対応が求められます。
サステナビリティ開示に関しては先に述べたとおりですが、SSBJ基準で開示を進めるにあたっての検討を進める必要があります。各社とも、先行事例や優良事例を参考に自社の開示方法の検討や、データの堅確性を高める手法などが注目されるものと考えられます。
以上が、2026年の注目点です。2025年はパリ協定から10年目の年でしたが、目標だけでなく実践が重要であると改めて強調されることが多かったようです。実際に、案件への入札、資金調達、採用など様々な分野で自社の気候変動対応が話題になるケースが増加していると思います。これからは実務でどこまでできているかがますます重要になると思います。

この記事の監修
高島 浩
サステナビリティ・エキスポート。農林中金グループで、サステナビリティの調査・コンサルに従事。元TNFDタスクフォース・オルタネイト・メンバー。現在は、個人でサステナビリティ関連新規事業の支援等を行う








