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西松建設の「カーボンニュートラル社会移行計画」の全容と注力施策(前編)

西松建設の「カーボンニュートラル社会移行計画」の全容と注力施策(前編)

はじめに

西松建設は2024年6月、2050年のカーボンニュートラル社会実現に向けたネットゼロ計画「ZERO50ロードマップ」と「気候関連リスクおよび機会の対応計画」から成る「2050年カーボンニュートラル(CN)社会移行計画」(以下、CN社会移行計画)を策定、公表しました。

計画策定の背景や目指すゴール像、具体的な施策などについて、安全環境本部副本部長の千田雅人氏、同本部地球環境部長の豊村勝氏、同本部地球環境部環境戦略課長の長谷川真也氏にお話しいただきました。

2050年をゴールとしたカーボンニュートラル社会実現計画

「『CN社会移行計画』は2050年のカーボンニュートラル(以下、CN)の実現を最終ゴールとして策定した計画です。CNは実現しなければならない世界共通の目標であり、当社も社会的責任のある企業として、環境方針として2050年CNの実現を掲げています。これまではCN実現に向けたマイルストーンとして2030年を年限とするCO₂排出量削減計画『ZERO30ロードマップ2021』その更新版の『同2023』を策定して、CO₂排出量削減活動に取り組んできました。現状で一定の成果が見えてきたということで、2050年を最終ゴールとするCN社会移行計画を策定するという判断に至ったところです」(千田氏)

西松建設

安全環境本部 副本部長 千田 雅人 氏

「『CN社会移行計画』は、『ZERO50ロードマップ』と『気候関連リスクおよび機会の対応計画』の2つの計画を含んでいます。当社は2021年の6月にTCFD提言に賛同を表明し、TCFD提言に則って『気候関連リスクおよび機会の対応計画』の検討も進めてきました。CN移行社会においても、当社が持続的かつレジリエンスを有する企業であることを社内外にしっかり見える化していきたいという意図で、『CN社会移行計画』というネーミングにしました。『ZERO50ロードマップ』のマイルストーンとなる『ZERO30ロードマップ2021』の策定は、2020年から全社横断的な取組みとして始まりました。各事業本部から選ばれた部長クラスのメンバーでワーキンググループを立ち上げ素案を策定、最終的にはTCFDが推奨するガバナンスリスク管理体制のもとで経営層の承認が下り、決定、公表されました。CO₂ネットゼロ達成というゴールは明確だったのですが、2030年にCO₂排出量削減のためにどのような活動ができるかを検討している段階では、いきなり2050年をゴールラインとして設定するのは現実的ではないという判断もあり、まずは当面10年間の活動にしっかりフォーカスしてやっていこうということで活動をしてきました。ただし、あくまでもゴールは2050年ですし、ここ数年間の活動で成果も上がってきたことから、最終ゴールに向けたロードマップを策定できる時期だという判断となりました」(千田氏)

CN社会実現のための実行計画
西松建設
出典:「Nishimatsu気候関連情報2024

再エネの積極導入とバイオディーゼル燃料への期待

西松建設がCO₂排出量削減の取組みとして、まず力を入れているのが、再生可能エネルギー(以下、再エネ)電力の利用。電気事業者の再エネメニューの活用や非化石証書の購入により、2030年度に国内施工で80%、国際事業で60%、オフィス等で100%、全社で77%の再エネ電力化を目指しています。

「再エネ電力は、現在非常に利用しやすい状況にあるので、積極的に導入しています。現在、国内施工では使用電力の50%以上が既に再エネ化されており、当初計画よりもかなり速いスピードで進んでいます。グループ全体としても、計画上は23年度で36%ぐらいを目標としていましたが、かなり順調に進んで実績としては46%くらいまで達成できていますので、目に見えて成果が出てきているなと思っています」(長谷川氏)

西松建設

安全環境本部 地球環境部 環境戦略課長 長谷川 真也 氏

建設現場でのCO₂排出量のなかで見逃せないのが、建設機械に使う燃料由来のもので、西松建設では軽油燃焼促進剤「K-S1」やバイオディーゼル燃料はもとより、新しい脱炭素燃料(従来燃料と比較してCO₂排出量が少ない代替燃料)の導入も始めているという。

「バイオディーゼル燃料に関しては以前から導入を図っていましたが、そもそも市場に出回っている量が少ないこともあり、中々進んでいませんでした。ただCO₂削減目標達成を目指す中、ほかに有効な手立ても少ないという事で、新たに『B30燃料』などのバイオディーゼル混合軽油をこれから徐々に試したり、新しい燃料であるRDやGTLも試行・展開ていくなど、燃料系のCO₂削減施策を色々と模索しているところです。『K-S1』の利用も含めてですが、我々は自社で建設機械を所有しているわけではないので、協力会社さんの協力が欠かせません。脱炭素燃料を使ってもらって、万が一建設機械が故障するといった事態にならないよう、燃料の安全性の担保をどうしていくかという課題もありますので、いろいろ模索しているところです。最終的には、安全性、経済合理性に見合う形になれば、カーボンニュートラルにつながる新しい燃料の導入もさらに促進していきたいと思います」(長谷川氏)

「K-S1」使用発電機
西松建設

出典:西松建設WEBサイト

バイオディーゼル燃料
西松建設
出典:西松建設WEBサイト

西松建設では燃料だけでなく、新型の建設機械導入も模索し、ディーゼルエンジンと電気モーターが連携して動作し、燃費向上による燃料消費削減が期待できる「ハイブリッドバックホー」や電動型の建機に対する関心は高いとのことです。

「従来はバッテリー式のものは稼働時間が短いとかパワーが出ないと言われていましたが、最近はバッテリーの持ちも良く、パワーに問題がないものが出てきています。実物を見てみると、排ガスも少なく、稼働時の騒音も少ないので、まず住宅密集地や狭小地などの騒音・臭気対策が必要な場所での使用が有効と考えます。我々の工事での導入においては、コスト面の課題がクリアできれば導入に向けて積極的に検討していきたいと思います」(豊村氏)

西松建設

安全環境本部 地球環境部長 豊村 勝 氏

省エネ建機「ハイブリッドバックホー」
西松建設
出典:西松建設WEBサイト

西松建設

安全環境本部 地球環境部長 豊村 勝(とよむら・まさる)氏【写真左】
安全環境本部 副本部長 千田 雅人(ちだ・まさと)氏【写真中】
安全環境本部 地球環境部 環境戦略課長 長谷川 真也(はせがわ・まさなり)氏【写真右】

前編では、「CN社会移行計画」策定の経緯、再生可能エネルギーの導入、建設現場におけるCO₂排出量削減に向けた各種取り組みなどについてお話しいただきました。
後編では、CO₂排出量削減に向けた社内機運の醸成、協力会社との連携、「気候関連リスクおよび機会の対応計画」などについてお聞きしていきます。

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年8月)のものです。

後編はこちら:西松建設の「カーボンニュートラル社会移行計画」の全容と注力施策(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

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