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CDP気候変動部門Aリストに選定された鉄建建設 迅速なAリスト入りを支えたサステナビリティ経営(前編)

CDP気候変動部門Aリストに選定された鉄建建設 迅速なAリスト入りを支えたサステナビリティ経営(前編)

はじめに

鉄道工事のトップランナーとして鉄道関連プロジェクトをはじめとした交通網の整備や地域の街づくりを推進する鉄建建設。2024年2月にCDP※1気候変動部門でAリストに選定されました。スピーディーなAリスト入りの背景にはどのような取り組みがあったのか。同社のサステナビリティ経営の旗振り役を務めるサステナビリティ推進室から、副室長の白石浩三氏、サステナビリティ企画部長の奥田大輔氏、サステナビリティ企画部課長の中村紗矢香氏の3人にお話を伺いました。

※1:CDP(Carbon Disclosure Project)は気候変動に関する国際的なNGOです。CDPは「人々と地球にとって、健全で豊かな経済を保つ」ことを活動目的とし、投資家や企業、自治体に対して温室効果ガス排出削減への取り組みなどに関する情報開示を促しています。

鉄道工事のトップランナー

鉄建建設は、第二次世界大戦中の1944年に日本の陸上運輸の輸送力確保と増強のため、鉄道建設専門の国策会社「鐡道建設興業株式会社」として創立されました。戦後は日本の復興とともに、鉄道や高速道路などの全国の交通網の構築、地域振興、まちづくりに貢献しながら日本の高度経済成長を支えつつ、事業を拡大してきました。最近では、JR上野駅公園口、原宿駅、新橋駅等の駅舎をはじめ、ホテルや医療福祉施設、学校、高速道路などさまざまなジャンルの施工を手がけています。

JR上野駅 改築後

改築後のJR上野駅(JR東日本撮影協力)

JR原宿駅 改築後
改築後のJR原宿駅(JR東日本撮影協力)
出典:鉄建建設Webサイト

社是は『信用と技術』。白石氏は「社名の通り、鉄道工事のトップランナーとして技術力に磨きをかけるとともに、地域や社会、そしてステークホルダーの皆さま方のニーズに応え、新たな価値を創造し続ける企業グループを目指しています」と話します。
鉄建建設が会社設立後に初めて受注した工事は、JR東日本が所有する信濃川発電所の延長2㎞の水路トンネル工事でした。
「あまり知られていないのですが、JR東日本全社の使用電力量の約6割は自営の発電所で担っているそうです。そのうちの約4割を信濃川の水力発電所が担っていて、実は鉄道を動かすための水力発電所の工事が当社グループの礎となっているのです。結果的に鉄道は蒸気機関車から電車へと変革し、当社もその一役を担ったことになります」(白石氏)

信濃川水力発電所 第3期隧道(トンネル)

信濃川水力発電所 第3期隧道(トンネル)
出典:鉄建建設Webサイト

サステナビリティ推進室 副室長 兼 鉄道統括室 副室長 白石 浩三 氏

鉄建建設株式会社
サステナビリティ推進室 副室長 兼 鉄道統括室 副室長
白石 浩三 氏

お客さま以上のスコアを目指す

鉄建建設は2024年2月にCDP気候変動部門でAリストに選定され、サプライチェーンを含むサプライヤーとの協働を評価する『サプライヤー・エンゲージメント・リーダー』にも選定されました。気候関連財務情報タスクフォースであるTCFD※2の提言に賛同し、情報開示を行ったのが2022年4月。その1カ月後の5月にCDPから質問書が届き、12月に発表されたCDPスコアは『B』のマネジメントレベルでした。
そこから約1年でAリスト入りを果たすまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

「そもそもTCFDの情報開示は、東証において2022年4月に、プライム、スタンダード、グロースの3つの市場区分がスタートするのに対応するためでもありました」と説明します。「TCFDにきちんと対応していればCDPへの回答も可能なはずだと取り組み、スコアBを取得しました。その段階で重要なお客さまである鉄道会社のCDPスコアを調べてみると、各社業態は多岐にわたるものの運輸業が主体のため、どの会社もマネジメントレベル以上。中には、リーダーシップレベルを保持している会社もあることがわかりました。やはりお客さまのレベル以上は確保していないと信頼は得られにくいと考え、2023年度はお客さまのCDPスコア以上、かつ、2022年度スコア以上を目標として定めました。正直Aリストを目指そうという目標ではなく、お客さま以上になろう、前年度以上にはなろうと取り組んだ結果、Aリストに入ったというのが実態です」(白石氏)

企業の温暖化対策を評価する世界的な標準としては、TCFD、CDPに加えてSBT(科学と整合した目標設定)の認定も重要です。鉄建建設は、この3点を特に重要な指標と位置づけ、2023年4月にはSBTコミットメントを行い、認定取得に向けた取り組みを始めました。2024年2月にCDPスコア『A』を取得するとともに、同月にはSBT(1.5℃)も認定されました。

サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画部長 環境マネジメント部長 奥田 大輔 氏

鉄建建設株式会社
サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画部長
環境マネジメント部長 奥田 大輔 氏

※2:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、金融安定理事会(FSB)が設置した組織であり、企業に対して気候変動によるリスクや機会を認識し、経営戦略に盛り込むことを提言しています。ここで言う機会とは、気候変動によるビジネスチャンスのことを指しています。

CO2排出量データの地道な収集が鍵

奥田氏は、スピーディーなAリスト入りを実現できた背景には3つの要素があると分析します。
第一は、排出量データを長年、地道に取り続けていたことです。鉄建建設では、2003年度よりCO2排出量の全社調査を開始し、翌年の“2004年度 環境報告書”からCO2排出量を公表しています。Scope1,2については、2022年8月に国内単体の第三者保証を監査法人から取得し、Scope3および海外連結を含めたものについては、2023年7月に第三者保証を取得しています。「約20年以上にわたり、各作業所において施工機械や稼働日数、電力量や軽油、灯油の使用量を把握してきました。これらのきちんとした排出量の把握ができたことにより、今後の削減計画も立てることができます。スピーディーにAリスト選定が実現できたのは、長年の当社の作業所を含めた全社員の努力によるものと思います」

第二は、グループのサステナビリティ推進を把握するために、社内のガバナンス体制を構築した点が挙げられます。2021年9月1日、社長直轄の組織として『サステナビリティ推進室』を新設しました。サステナビリティ推進室が事務局となって、全社組織横断的に、リスクと機会を把握。社長をはじめとした経営会議メンバーで構成するサステナビリティ委員会の環境戦略委員会において、環境戦略に関わる具体的な方針、計画策定、啓発や研修に関する事項、実施状況の検証等の審議決定を行い、重要な事項は取締役会に付議して社内決定するという流れが構築できました。「TCFD提言に基づく情報開示においても、事業への影響と対応策の策定に際しては、移行および物理的リスク・機会のシナリオ分析を行う際、当初は理解に苦しみましたが、何度も役員勉強会を開催し、情報開示にこぎ着けることができました。これらの取り組みのおかげで、CDP質問書におけるリスクとその影響に関する回答にも対応することができました。SBTも1.5℃認証を取得しましたが、これについても、CO2排出量の分析をしっかりと行うとともに、シナリオ分析をきちんと行った結果であると思います」(中村氏)

鉄建建設株式会社
サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画部 課長
中村 紗矢香 氏

第三は、カーボンニュートラルに関する施策として、経営企画本部内に新事業推進室を設置し、小水力発電事業や早成桐育成など環境に関連する事業の立ち上げ、土木、建築の各本部において、低炭素に向けた技術開発に地道に取り組んでいた点です。2022年度は技術開発投資額のうち、約3割が環境関連のものでした。

早成桐(植樹後約1年半の例)
早成桐(植樹後約1年半の例)
出典:鉄建建設WEBサイト https://www.tekken.co.jp/business/new-business.html

白石氏は「CDPのA評価やサプライヤー・エンゲージメント・リーダーに選定されることは非常に光栄ですが、一朝一夕にそれらを求めても簡単に達成できるものではないと思われます。当社の特長である信用と技術を大切にした誠実な社員の一人ひとりの取り組みが実を結んだものと考えています」と力を込めます。

サステナビリティ推進室 集合写真

鉄建建設株式会社
サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画部長 兼 環境マネジメント部長
奥田 大輔(おくだ・だいすけ)氏【写真左】
サステナビリティ推進室 副室長 兼 鉄道統括室 副室長
白石 浩三(しらいし・こうぞう)氏【写真中央】
サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画部 課長
中村 紗矢香(なかむら・さやか)氏【写真右】

前編では、CDP気候変動部門Aリスト選定までの経緯、Aリスト入りを果たせた要因、背景などについてお話しいただきました。
後編では、Aリスト入りを事務局として支えた「サステナビリティ推進室」の具体的な取り組み、サステナビリティ経営を推進する上での組織づくりなどについてお聞きしていきます。

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年5月)のものです。

後編はこちら:
CDP気候変動部門Aリストに選定された鉄建建設 迅速なAリスト入りを支えたサステナビリティ経営(後編)

 

この記事の監修

リバスタ編集部

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