業界事例

前田製作所が進める建機の脱炭素化 EV建機普及の現在地点と課題

前田製作所が進める建機の脱炭素化 EV建機普及の現在地点と課題

狭い建物の内部や段差のある現場で活躍する「かにクレーン」などの製造で知られる建機メーカー「前田製作所」。脱炭素社会の到来に向け、「かにクレーン」など主力商品のEV化を加速しています。建機のEV化の現状、海外市場での需要、国内展開を進める上での課題などについて、産業機械本部 総合管理部 竹林氏、技術部 徳留氏、海外事業部 深瀬氏の御三方にお話を伺いました。

クレーン3機種の電動化を実現

「良い仕事をして顧客の信頼を得る」を創業理念とする前田製作所は「誠実・意欲・技術」を社是としています。インフロニアグループの一員として、『INFRONEER Medium-term Vision 2027 中期経営計画』(2025年3月策定)のスローガンである「未来創造メイカーNo.1」をモットーとして掲げています。このスローガンには、全ての社員が創造⼒を発揮し、未来を切り開いていく集団を⽬指すという決意が込められています。

建設機械・産業機械のメーカーとして、脱炭素社会の到来に向けて、建機のEV化に取り組んでいます。2020年には、主力商品である「かにクレーン」シリーズで初となるバッテリ電動モデルを発売。リチウムイオン電池を搭載し、1回の充電で約9時間30分のクレーン作業が可能なモデルで、ディーゼルエンジン仕様と同等の動作速度を実現しました。電源を確保できる現場では充電しながらのクレーン作業も可能になっています。

EV化に当たっては、リチウムイオン電池の扱いに苦労したと言います。「リチウムイオン電池は発熱や発火の危険性もあるので、その安全性の担保というところに一番力を入れました」(徳留氏)

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欧州市場で進む建機のEV化

現在、前田製作所の製造するEV建機の需要は海外が中心となっています。「当社の場合、欧州市場が海外販売の6割程度を占めています。欧州には元々、ハイブリッドといわれるディーゼルエンジンと交流の電源を使った電動併用仕様があり、欧州販売の95%は電動併用仕様です。従来から日本国内に比べて環境に対する取り組みは進んでいる印象です。」

スパイダークレーンの海外販売のうち、EV機(リチウムイオンバッテリ仕様)は現在3割以上に上っています。「屋内でも多用されるスパイダークレーンの特徴や助成金制度等の後押しもあって、バッテリ仕様発売以来バッテリ化が進んでいます。天井等の高さに制約がある屋内作業で特に力を発揮できるナックルブームMK3053Cは65%以上がバッテリ仕様となっています」(深瀬氏)

ヨーロッパでのEV機の使用現場

バッテリ仕様を基本に新機種開発

前田製作所のEV建機の強みは、使い勝手の良さとアフターサービスの充実にあります。「品質はもちろんですが、使い勝手が非常にいいという点、アフターサービスが充実している点について好評をいただいています。さらに、我々の使っている日本製のリチウムイオンバッテリーは繰り返し充電できる回数が多く、途中でバッテリー交換する必要がない点も評価されています」(徳留氏)

脱炭素社会への取り組みは欧州のみならず全世界で加速しています。深瀬氏は「欧州以外でもEV自動車の急速拡大が進むアジア地域でバッテリ仕様の需要は高まっています。半導体工場などの狭い屋内でも使用できる建機の需要が見込まれるため、当社の主力商品についても、バッテリ仕様のラインナップは増やす方向にあり、新機種開発もバッテリ仕様をメインで進めています。まずはこの2〜3年を目途に、クローラークレーンの海外販売に占めるバッテリ仕様比率5割を目指しています」と目標を話します。

技術革新でEV建機普及を

国内で建機のEV化を進めるのに当たって課題となっている部分はどこにあるのでしょうか。「技術的な目線で言えば、稼働時間がネックのひとつになってきます。電池自体のエネルギー効率を上げたり、建機自体の省エネ運転で稼働時間を伸ばしたりといった技術革新が必要だと感じています。さらに、大型の建機の場合に課題になるが、給電方法です。自動車の急速充電のような設備が必要になってきますので、工事現場のインフラ整備が必要になってきます。欧州のような補助金制度の充実が望まれるところです」(竹林氏)

深瀬氏は世界の流れを踏まえた上で、「国内でも脱炭素社会への関心、取り組みは高まっていますので、弊社もEV製品の展開を通じて脱炭素社会の実現に向けその一翼を担っていきたいと考えています」と意気込みを語りました。

産業機械本部 

【写真左】海外事業部 深瀬 茂樹(ふかせ・しげき)氏
【写真中央】総合管理部 竹林 宏幸(たけばやし・ひろゆき)氏
【写真】技術部 徳留 慎哉(とくとめ・しんや)氏

※組織名・役職などの情報は取材当時(2025年7月)のものです。

この記事の監修

リバスタ編集部

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