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ピーエス・コンストラクションの脱炭素への取り組みと 「TansoMiru管理」導入によるCO2排出量可視化効果

ピーエス・コンストラクションの脱炭素への取り組みと 「TansoMiru管理」導入によるCO2排出量可視化効果

プレストレスト・コンクリート(PC)技術の日本における先駆者として知られるピーエス・コンストラクション株式会社は2025年度から、TansoMiruサービスを本格導入しました。同サービス導入の背景、導入に期待する効果、脱炭素社会実現に向けた取り組みや展望などについて、同社の宅野伸二氏、堀内達斗氏、羽生満広氏の御三方にお話を伺いました。

ひび割れを抑え長寿命化を実現するPC技術の先駆者

ピーエス・コンストラクション株式会社が手がけるプレストレスト・コンクリート(PC)技術は、圧縮には強いが引張には弱いというコンクリートの最大の弱点を克服することを可能にしました。

「土木分野では、日本で初めてPC橋を実用化し、橋梁を中心に鉄道、空港、港湾、発電所、防災施設、上下水道など幅広いインフラ整備に貢献。耐久性・安全性・環境配慮に優れた構造物を供給しています。最近では、NEXCOの高速道路リニューアルプロジェクトが主力事業になっています。建築分野では、プレキャスト(PCa)工法による高品質・高強度の部材供給を通じて、施工効率の向上と環境負荷の低減を実現。物流・生産・教育・医療施設など多様なニーズに対応しています」(宅野氏)

高速道路リニューアルプロジェクト床版取替工事

プレキャストPC床版架設状況


執行役員 管理本部副本部長 兼 総務部長 兼 サステナビリティ推進室長
宅野 伸二 氏

蒸気養生由来のCO2を削減したSLPC

コンクリート材料由来のCO2の削減策として、脱炭素コンクリートをはじめとする環境負荷低減材料の研究・技術開発にも積極的に取り組んでいます。

PCa部材製造時には、コンクリートの初期強度発現を促進するため、重油を燃料とするボイラーによる蒸気養生が必要で、これが工場におけるCO2排出量の大部分を占めていました。この問題を解決するために生まれたのが、蒸気養生を行わずに初期強度が得られる「スチームレスプレキャストコンクリート(SLPC)」です。堀内氏は「材料由来を含めた部材製造時のCO2排出量を約12%削減することが可能になりました。すでに、岡山県発注工事のプレテンション方式T桁橋で施工実績があり、今後は対応可能な工場の拡大を予定しています」と話します。

SLPC主桁の出荷前

SLPCによる完成橋梁

さらに、「コンクリートに使用するセメントを、高炉スラグ微粉末に置き換える超低炭素型(高炉スラグ高置換)コンクリートでは、コンクリート製造過程における材料由来のCO2排出量を大きく削減することが可能です。例えば、セメントの90%を高炉スラグ微粉末で置換した場合、材料由来のCO2排出量を約86%削減できる試算結果が得られています。」(堀内氏)

技術本部 技術研究所 所長
堀内 達斗氏

業務の標準化と可視化を可能に

同社では、環境負荷低減活動として「PS Construction Sustainable Action」を策定し、脱炭素社会実現に向けて、①再エネ電力の導入、②作業所連絡車へのエコカー導入、③バイオ燃料(B5)導入―などに取り組んでいます。その活動の一環として導入されたのが、建設業に特化したCO2算定ツール「TansoMiru管理」です。2025年4月にはDX推進室を設立し、建設プロセスのDXに向けた取り組みを強化。現在は、社内外のシステムと連携した統合プラットフォームの構築に取り組んでおり、その一環として、「Buildee」や「TansoMiru管理」を活用したデータの利活用、可視化を推進しています。

「TansoMiru管理」を導入した目的はどこにあるのでしょうか。羽生氏は「カーボンニュートラル実現に向けた排出量削減を進めるにあたり、まず必要なのは自社排出量の正確な把握。加えて、有価証券報告書での開示義務化を見据え、信頼性の高いデータの迅速な開示体制の構築が求められています」と話します。同社では、従来はエクセルによる手作業で算定を行っていましたが、現場ごとの収集や集計に多くの工数がかかり、属人化・精度のばらつきといった課題が顕在化していました。また、年1回の集計では進捗把握や対策への反映も難しい状況だったといいます。「こうした課題を解決するため、業務の標準化と可視化を可能にするシステム導入が必要と判断しました」(宅野氏)

「TansoMiru管理」の導入により、現場ごとのデータを月次で収集・可視化することで、排出量の傾向をタイムリーに把握し、削減対策への反映が可能になったといいます。「現場・支店・本社間での分担ができるため、属人化を防ぎながら全社的な算定体制を整備できます。こうした可視化と情報の信頼性向上は、サステナビリティ経営における基盤強化にもつながると考えています」(羽生氏)

建設業界に特化した仕様となっている点も評価されています。「これまで、他社の算定サービスも検討してきましたが、多くはオフィスや工場など、固定拠点での使用を前提とした設計になっているので、建設会社のように現場ごとに場所や担当者が毎年のように変わる業態にはなじまない点が課題でした。その点、「TansoMiru管理」は当社が導入済みの「Buildee」とアカウントや現場情報の連携が可能な上、建設機械の稼働による入力にも対応しており、実態に即した運用が可能でした」

サステナビリティ推進室 グループリーダー
羽生 満広 氏

CO2排出量可視化の重要性

「TansoMiru管理」の導入に際しては、サステナビリティ推進室が中心となってCO2算定業務における現行フローの課題整理を行い、まずは12現場による試行を実施しました。「従来の方法と比較して、算定精度や業務負荷の改善効果の検証をした結果、現場・支店・本社それぞれの業務負荷の軽減や算定精度の向上といった効果が確認されたことから、これらの成果を踏まえ、全社導入に向けた提案を行いました」(宅野氏)

同社では、2025年度から原則としてすべての調査対象現場に導入する方針としています。「今後は、自社の業務システムや他社のSaaSと柔軟に連携できるAPI機能の実装を通じて、排出量算定業務の一層の自動化・効率化が進むことを期待しています。特に、現場での燃料購入に関するデータがシステムと連携できることで、人的作業を削減し、データ精度向上にもつながると考えています」

CO2排出量を可視化することについて、宅野氏は「有価証券報告書での排出量の開示や、建築物のライフサイクルカーボンの算定といった観点からも重要性が高まっています」と強調します。「TansoMiru管理」を活用することで、施工現場はもちろん、将来的にはグループ会社の工場を含むプレキャストコンクリート製品の排出量も、タイムリーかつ精度高く把握・開示できると考えています。これにより、環境対応力を明確に示し、他社との差別化や企業価値の向上につなげていきたいと考えています」(宅野氏)

【写真中】ピーエス・コンストラクション株式会社 執行役員
管理本部副本部長 兼 総務部長 兼 サステナビリティ推進室長
宅野 伸二(たくの しんじ)氏

【写真左】技術本部 技術研究所 所長
堀内 達斗(ほりうち たつと)氏

【写真右】サステナビリティ推進室 グループリーダー
羽生 満広(はぶ みつひろ)氏

※組織名・役職などの情報は取材当時(2025年8月)のものです。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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