業界事例

時計 2025/7/18 アップデート 2025/7/17

『サステナブルな解体を、あたりまえに』 ベステラが目指すカーボンニュートラルの未来

大型プラントなどの解体工事をてがけるベステラは「サステナブルな解体を、あたりまえに」をスローガンに、業界に先駆けて脱炭素型の解体事業を推進しています。環境に配慮したユニークな工法や産業廃棄物のリサイクル推進などカーボンニュートラル実現に向けたさまざまな取り組みについて、同社の脱炭素事業推進部の皆様にお聞きしました。

解体を通じて地球環境に貢献

ベステラは製鉄所、石油精製プラント、発電所、化学製品製造プラントなど、CO2排出量の多い産業分野の施設解体を主な事業としています。「BESTERRA」という社名の由来は「BestなTerra(最良の地球)」。「そもそも当社の創業者・吉野が、解体事業を通じて地球環境に貢献する企業を志して、創造しました」(金光氏)。
こうした理念を背景に持つベステラでは、脱炭素社会への移行が本格化する中、2023年の社長交代を機に、本田豊社長(当時)の発案により、環境に配慮した解体工事を提供する姿勢を顧客に対して明確に伝えるため、新たなスローガン『サステナブルな解体を、あたりまえに』を掲げました。

 金光氏は「当社にとってサステナブルという言葉は、単なる流行語ではなく、解体事業を通じて地球環境への負荷を最小限に抑え、次世代により良い環境を引き継ぐための基本姿勢を表すものです。社名の由来にあるとおり、私たちは解体という一見破壊的に見える行為の中にこそ、再資源化やリサイクル、省エネルギーといった持続可能性の重要性が潜んでいると考えています」と話します。

こうした流れで新設されたのが脱炭素事業推進部です。「脱炭素は、特に近年の社会的な必要性の高まりの中で、当社が優先して取り組むべき課題の一つと捉えています。プラント解体を担う立場として、単なる解体作業にとどまらず、解体に伴うCO2排出量の低減、廃材の再利用、最適な処分方法の提案など、解体プロセスそのものを環境負荷の低いものに転換する責任があると認識しています。そもそも当社のメインとなる顧客は、電力や石油生成、製鉄というCO2排出量が大きい産業分野なだけに、CO2排出量削減に対して関心が高い。そうしたお客様のニーズにしっかりと応えていくというところで脱炭素事業推進部が新設されたという経緯があります」(金光氏)

脱炭素事業推進部 マネージャー 金光 氏

りんご皮むき工法でCO2排出量が半減

ベステラは解体に伴う環境負荷を低減させるため、ユニークな工法を開発しています。同社を代表する「りんご皮むき工法」は、創業者の吉野佳秀氏が発案した工法です。

ガスタンクや石油タンク等の球形貯槽の解体を行う場合、従来の工法では仮足場を組み、切り出した外装鋼板を、クレーンで一つひとつ降ろしていました。りんご皮むき工法では、構造物を外側から順に削ぎ落とすことで、外装鋼板は重力によって渦巻き状に下へと降りていきます。仮足場や燃料を使うクレーンが不要になることで、解体費用の軽減や工期短縮だけでなく、CO2排出量の削減にもつながっています。

同社の算定によると、従来工法に比べて、CO2排出量は約50%削減、コストは65%削減、工期は65%短縮できるといいます。吉野氏が自宅で食事中に、りんごの皮をむいている様子を見て「これだ!」と着想を得たというエピソードがあります。

▼りんご皮むき工法
出典:ベステラWebサイト

転倒工法・垂直構造物を重力で解体

「転倒工法」は、垂直構造物の解体において、同じく重力を活用するという発想に基づき、転倒軸を計算し、構造物を狙った方向に正確に倒すことで、エネルギーの削減と工期短縮を実現する特許工法です。当時の社員(現・専務取締役の長泰治氏)の発案によって開発されました。この工法は、風⼒発電設備の解体などに用いられています。ブレードを撤去したタワーの根元を切断し、本体を狙った場所に正確に転倒させることで、従来の工法で必要だった足場組みとクレーンの使用を省略することができます。

長氏は「転倒工法は、従来の工法と比べて工期を約10%短縮でき、結果としてCO2排出量をおおよそ40%削減できると考えています」と説明します。

りんご皮むき工法、転倒工法ともに、安全性と工期短縮を追求し、重機の稼働を抑えることで、結果的にCO2排出量と解体コストを削減し、ベステラの競争力を高める効果を上げています。

▼転倒工法

専務取締役 長 泰治(ちょう・やすはる)氏

再生プラスチック廃棄袋を開発

カーボンニュートラルへの取り組みとして、次に注目したのが、解体工事の際に使用されるアスベスト廃棄袋と養生シートでした。解体現場で排出されるアスベストは法令に従った指定の袋に入れて厳しい基準の下、そのほとんどが埋め立て処分されています。さらに解体時のアスベスト含有調査の結果、石綿除去工事が増加すれば、それに伴い工事区画を密閉するための養生シートの使用量も増加します。「当社が解体するプラント建造物は、数十年以上前に設置された設備が多く、有害物質であるダイオキシン、PCB、鉛含有塗膜などの除去も頻繁に行っています。こうした環境工事においても、大気汚染防止法に基づいた密閉養生を行う際には、主にビニール製の養生シートが使用されますが、有害物質が付着するため、使用後はリサイクル原料として利用することができず、廃棄処分されるのが現状です」(瀬古氏)

脱炭素事業推進部担当部長 瀬古伸顕(せこ・のぶあき)氏

そこで、ベステラでは、再生プラスチックを取り扱う専門業者に相談して、再生プラスチックを原料とした石綿廃棄袋と養生シートの開発に乗り出しました。金光氏は「バージン材(新規原料のプラスチック)で製造し続け、最終的に廃棄する場合、社会全体として見た際のエネルギーロスやCO2排出量は非常に大きなものとなります」と開発の背景について語ります。

一般的に使用される中サイズのアスベスト廃棄袋1枚あたりのCO2排出量は約500ml(原油換算分のCO2排出量)と試算されています。2024年の1年間で同社および関連会社で使用した廃棄袋の実績は年間約15万枚であり、これを従来品(バージンプラスチック製品)と比較した場合、年間で約75トンのCO2排出抑制につながった計算となります。

▼プラスチックを使用した廃棄袋
出典:ベステラWebサイト

また、解体業におけるCO2排出量のなかで比較的大きな割合を占めるのが、現場で使用する重機の燃料や溶断・溶接に使用するプロパンガスに由来するものです。ベステラでは、発電機へのバイオ燃料の導入や、CO2排出を削減できる水素ガスを使用したガス溶断などの技術を積極的に取り入れています。

▼CO2排出を削減できる水素ガスを使用したガス溶断
出典:ベステラWebサイト

金光氏は解体業における脱炭素の取り組みについて「さまざまなアプローチがありますが、特に重要なのは、解体プロセスにおいて産業廃棄物をいかに混合させずに分別・搬出できるかという点です」と強調します。「当社では、プラント設備を解体する際、廃材の混合を防ぎ、効率よく分別・搬出できるよう、解体の順序をあらかじめ施工計画に組み込んでいます。リサイクル率を高めるためには、手作業での解体や廃棄物の丁寧な仕分けが必要となり、それに伴ってコストが上昇することも避けられません」

国土交通省は2028年度から、新たに建てる建築物について、計画から解体までのCO2排出量を算定する「LCA(ライフサイクルアセスメント)」制度を導入するとしています。金光氏は「当社の取り組みは、カーボンニュートラルに向けた準備という意味で顧客からも非常に評価していただいていると思います」と力を込めます。「例えば、産業廃棄物のリサイクルにしてもリサイクルフローを構築するまでにはかなりの時間がかかります。当社としては、将来必ず必要になるものに対して、できることから準備して、時が来たときにきちんと対応できる会社でいたいと取り組んでいます」

【写真左】脱炭素事業推進部 マネージャー 金光 弘嗣(かねみつ・こうじ)氏
【写真中央】専務取締役 長 泰治(ちょう・やすはる)氏
【写真右】脱炭素事業推進部 担当部長 瀬古伸顕(せこ・のぶあき)氏

※組織名・役職などの情報は取材当時(2025年6月)のものです。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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