日本は2050年カーボンニュートラルの達成を目標としており、脱炭素社会に向けた様々な取り組みが進んでいます。こうした流れを踏まえ、企業として取り組むべきことは何か、確認しておきたい方もいるでしょう。
この記事では、脱炭素社会に向けた企業の取り組みについて解説します。また、脱炭素社会に向けた取り組みを行うメリットや事例なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
脱炭素とは?
脱炭素とは、二酸化炭素(CO₂)をはじめとする温室効果ガスの排出をできるだけ減らす取り組みを指します。気候変動が深刻化するなか、世界各国が排出量削減を求められており、企業活動にも見直しが欠かせません。なお、排出量を実質ゼロへと近づけた社会は「脱炭素社会」と呼ばれ、持続可能な経済の実現に欠かせない概念とされています。
脱炭素化を進める方法として、「再生可能エネルギーの活用」や「省エネ技術の導入」が挙げられます。たとえば、太陽光発電の利用や高効率設備を導入すれば、化石燃料への依存を減らしながらエネルギー消費を抑えることが可能です。
脱炭素の目的は、「地球温暖化の防止」と「持続可能な社会の実現」です。環境負荷を減らすだけでなく、企業にとってはエネルギーコストの低減や信頼性向上にもつながるため、将来を見据えた重要な取り組みとして位置づけられています。
脱炭素に向けた日本における取り組み
日本では脱炭素社会の実現に向け、政府主導で取り組みを強化しています。
2020年10月26日の所信表明演説で、当時の菅内閣総理大臣が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言したことが大きな転換点となりました。国家として、温室効果ガス排出量を実質ゼロに近づける方針が示されたことで、産業界にも脱炭素化の流れが急速に広がっています。
宣言を受けて、政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」に基づき「グリーン成長戦略」を策定しました。同戦略は、再生可能エネルギーや水素、蓄電池、次世代自動車など、重点分野で技術革新と投資を促す政策として位置づけられています。
「グリーン成長戦略」とは、脱炭素と経済成長の両立を目指す政府の産業政策です。企業が環境配慮型の技術や設備を導入しやすいように、支援策や重点分野が整理された取り組みとして位置づけられています。建設業界でも省エネ建材の普及や再エネ導入支援が進み、企業の脱炭素化を後押ししています。
脱炭素社会に向けて取り組む企業は増加している
企業は脱炭素に向けた取り組みを行うことで、環境保全に貢献しながらエネルギーコストの削減や企業価値を向上させることができます。そのため、脱炭素社会に向けて取り組む企業は増加しています。
たとえば、経済産業省が公表している脱炭素社会の実現に向けて取り組む「ゼロエミ・チャレンジ企業」は2020年の第一弾は325社でしたが、2021年の第二弾では623社でした。「ゼロエミ・チャレンジ企業」は、投資家等への情報提供を目的としたプロジェクトです。
また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)へ賛同する企業は、2023年まで増加傾向にあり、同年11月時点では世界で4,932社、日本で1,488社に達しています。企業が脱炭素や気候変動への対応を経営課題として捉える動きが、広がっていることがわかります。
※なお、TCFDは2023年10月に活動を終え、以降の議論についてはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が引き継いでいます。
脱炭素に向けて企業が取り組むメリット
脱炭素社会に向けた取り組みは、環境保全や企業活動によい影響を与えます。企業が脱炭素に取り組むことで得られるおもなメリットは、以下の通りです。
- エネルギーコストを削減できる
- ESG投資の指標になる
- 環境保全に貢献できる
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
エネルギーコストを削減できる
脱炭素に企業が取り組むことでエネルギーコストを削減できます。脱炭素技術は従来技術よりもコスト優位なものが多いからです。
たとえば、経済産業省の資料によると企業がエネルギーコストを削減する方法として、「バッテリー電気自動車(BEV)の活用」「商業ビルや産業中および低温熱需要におけるヒートポンプの活用」「再生可能エネルギーの活用による電力の脱炭素」が挙げられます。
また、エネルギーコストの削減においては、事業における設備やプロセスの改善も必要となります。
既存設備を省エネ効果のある設備に交換したり、再生可能エネルギーを導入したりし、生産プロセスを改善する方法があります。
なお、再生可能エネルギーや省エネ設備の導入には初期コストがかかる点がデメリットとなる場合もあります。
ただし、脱炭素によって消費エネルギー量を削減できるため、長期的にはコスト減を図れるでしょう。
ESG投資の指標になる
脱炭素社会に向けて企業が取り組む理由として、脱炭素がESG投資の指標になることも挙げられます。
ESG投資とはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を考慮した企業への投資活動のことです。
企業は社会関心度の高い脱炭素の取り組みによって、企業の将来性や持続性を評価されることとなり、ESG投資家の投資対象となることで企業価値が向上すると考えられます。
なお、脱炭素経営を表明し、地球温暖化防止に貢献することによって、脱炭素銘柄としての成長も期待できるでしょう。
脱炭素銘柄とは脱炭素に関連する事業を行う上場企業の株を指し、脱炭素銘柄への投資はESG投資に含まれます。
環境保全に貢献できる
脱炭素社会に向けて企業が取り組む理由として、環境保全に貢献できる点が挙げられます。
脱炭素に向けた取り組みは世界的に行われており、国や自治体だけのものではなく、企業として取り組むことで地域社会だけでなく地球温暖化防止にも貢献できるからです。
また、環境保全に貢献できることで企業価値を高めることにもつながります。脱炭素を通じた環境保全を行う企業は投資家や消費者から評価される傾向にあり、ビジネスチャンスの創出や経営の維持においても有利であるといえます。
脱炭素に向けて企業が行うべき具体的な取り組み
脱炭素を実現するために、企業が行うべき取り組みは複数あります。たとえば、以下のような取り組みが挙げられるでしょう。
- 再生可能エネルギーの活用
- サプライチェーン排出量の把握
- カーボンオフセットの強化
企業規模や業種によっても、脱炭素に向けた取り組みの内容は異なります。以下では、上記の取り組みについて具体的な内容を紹介します。
再生可能エネルギーの活用
脱炭素に向けて企業が行うべき取り組みの1つが太陽光・風力・バイオマス発電など再生可能エネルギーを活用する方法です。
再生可能エネルギーは、発電時に温室効果ガスを排出しないため、脱炭素社会において必要とされています。
たとえば、使用する電力を太陽光発電システムによって発電した電力に置き換えることで消費エネルギー量や温室効果ガスの排出量を削減できます。
なお、使用電力を100%再生可能エネルギーに置き換えた企業はRE100への加盟が可能です。
国際的なイニシアティブであるRE100参加することによって環境先進企業として認められ、投資家からの評価が一層高まる可能性があります。
建築業界では再生可能エネルギーと省エネ設備を活用して、住宅や建築物の年間消費エネルギー量を実質ゼロにするZEBやZEHに取り組んでいます。
ZEBに関して知りたい方は「ZEBとは?知らないと乗り遅れるZEBの基礎知識」「ZEHとはどんな住宅?いま知るべき、ZEHの基礎知識」を参考にしてください。
サプライチェーン排出量の把握
企業が行うべき取り組みとしてサプライチェーン排出量の把握があげられます。
サプライチェーン排出量とは、事業者のみならず事業活動に関係するあらゆる温室効果ガス排出量を合計したものです。
たとえば、建設業においてプレハブ住宅を建築する場合、サプライチェーン排出量の対象となるのは住宅建設の原材料調達から生産および施工、アフターサービス、リフォーム、使用後の解体で発生する温室効果ガスです。
サプライチェーン排出量を把握することで優先的に削減するべき作業工程を明確化できます。
削減対象を明確にして把握することによって、企業における環境負荷削減戦略や事業戦略など長期的な計画につなげられるでしょう。
なお、サプライチェーン排出量の算定は、CO2排出量計測管理サービスを活用することで作業コストを削減できます。
事業活動に関係する温室効果ガス排出量の算定を行う際は、CO2排出量計測管理サービスの活用を検討してみてください。
建設業界のCO2管理にはリバスタも取り組んでおります、お気軽にご相談ください。
カーボンオフセットの強化
企業が行うべき取り組みとしてカーボンオフセットの強化があげられます。
カーボンオフセットとは、事業活動に関連する温室効果ガスを削減したうえで、削減しきれない分をオフセット(埋め合わせ)することです。
【カーボンオフセットの種類】
| 種類 | 取り組み内容 |
| オフセット製品・サービス | <取り組みを行う者> 製品の製造および販売者、サービスを提供する者 <取り組み内容> 販売及び提供する製品やサービスのライフサイクルによって排出される温室効果ガス排出量をクレジットで埋め合わせる |
| クレジット付製品・サービス | <取り組みを行う者> 製品の製造および販売者、サービスを提供する者、イベントの主催者等 <取り組み内容> 製品やサービス、チケットなどにクレジットを付帯して販売し、購入者や来場者の日常生活に伴う温室効果ガス排出量を埋め合わせる |
| 組織活動オフセット | <取り組みを行う者> 企業や自治体などの組織 <取り組み内容> 事業活動に伴う温室効果ガス量を自らがクレジットで埋め合わせる |
| 会議・イベントのオフセット | <取り組みを行う者> イベントの主催者等 <取り組み内容> コンサートやスポーツ大会、国際会議等の開催に伴う温室効果ガス量をクレジットで埋め合わせる |
| 寄付型オフセット | <取り組みを行う者> 製品の製造および販売者、サービスを提供する者、イベントの主催者等 <取り組み内容> 消費者に対し、地球温暖化防止活動への貢献・資金提供等を目的としたキャンペーンなどを通じて参加者を募り、クレジットを購入・無効化する |
参照:環境省「カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0」
たとえば、企業が強化できるカーボンオフセットの方法として、温室効果ガスの排出削減量の購入や植林や環境保護への寄付が挙げられます。
ほかにも、製品やサービスの提供やイベント開催時に行えるカーボンオフセットの取り組みがあります。
製品のライフサイクルやイベント開催にともなう温室効果ガス排出量をクレジットで埋め合わせたり、キャンペーンへの参加を募ったりして埋め合わせる方法です。
なお、企業が強化できるカーボンオフセットの種類は業種によって異なります。興味がある方は、各社で取り組んでいる事例をもとに自社に合う方法を検討してみてください。
【建設業】脱炭素に向けた企業の取り組み事例3選
建設業ではCO₂排出量が多く、脱炭素化の推進が欠かせません。ここでは、環境省より公開されている情報をもとに、脱炭素に取り組んでいる建設企業について紹介します。
株式会社大林組
大林組では、以下のような取り組みが示されています。
- 温室効果ガス排出量の算定と中長期目標の設定
- サプライチェーン全体での排出削減への取り組み
- 脱炭素に係るステークホルダーとのコミュニケーションの強化
同社では、自社の温室効果ガス排出量を把握したうえで、重点的に取り組むべき分野と中長期的な削減目標を設定しています。さらに、自社グループにおける取り組みや目標の見直しを行い、継続的な改善を進めています。
また、サプライチェーンにおける排出量算定では、協力会社ごとのデータ収集状況に差があることが課題として挙げられています。今後は、サプライチェーン全体でデータの把握を進めることが求められるでしょう。
参照:株式会社大林組|環境省
鹿島建設株式会社
鹿島建設では、以下のような取り組みが示されています。
- 上流・下流を含めた環境影響の把握
同社は、建築物が長期間使用される社会インフラであることや、建設業が資源多消費型産業である点を踏まえ、上流から下流までの環境影響を把握するために排出量算定を行っています。算定データは、取り組むべき課題の重点化や成果の評価、ステークホルダーへの情報開示に活用されています。
また、自社が設計する建築物の省エネルギー性能向上や、再生材・低炭素建材の活用を進め、資材利用に伴う排出量低減を図っています。一方で、建材の製造時CO₂データが十分に開示されていない点や、案件ごとにサプライチェーンが異なる点から、原単位によらない算定が困難であることが課題として示されています。
参照:鹿島建設株式会社|環境省
大成建設株式会社
大成建設では、以下のような取り組みが示されています。
- 施工時のCO₂排出量の削減(Scope1・2の削減目標と削減に向けた取り組み)
- 建物の運用段階で発生するCO₂排出量の削減(Scope3の削減目標と削減に向けた取り組み)
なお、大成建設ではScope1・2・3を以下のように定義しています。
- Scope1:建設工事で使用する重機や工場の燃料による排出
- Scope2:事業所で使用する電力・熱に由来する排出
- Scope3:資材製造時の上流排出と建物使用時の下流排出
同社は、施工段階で発生するCO₂排出量の削減をScope1・2の目標として掲げ、より効率的な施工や燃料使用の削減、省エネの推進に取り組んでいます。また、Scope3では建物の運用段階の排出削減を目標とし、ZEBを含む省エネ設計を進めています。
今後の課題として、Scope1ではICT活用による生産性向上、Scope2では電力の排出係数低下や省エネ推進、Scope3ではグリーン調達や省エネ設計、サプライチェーンの環境配慮意識向上が必要とされています。
参照:大成建設株式会社|環境省
まとめ
企業による脱炭素に向けた取り組みは加速しており、企業にとってもエネルギーコストの削減やESG評価の向上など多くのメリットがあります。再生可能エネルギーの活用やサプライチェーン排出量の把握、カーボンオフセットの強化など、企業が実施すべき施策は多岐にわたります。
建設業のように排出量が大きい業界では、施工段階の排出削減や省エネ設計の推進が特に重要です。まずは自社の排出状況を正しく把握し、優先度の高い取り組みから着実に進めることが求められます。紹介した事例を参考に、脱炭素化の実行計画を検討してみてください。

この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。







