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ブルーエコノミーとは?取り組み事例について紹介

ブルーエコノミーとは?取り組み事例について紹介

近年、持続可能な開発と経済成長の両立を目指す「ブルーエコノミー」という概念が注目を集めています。ブルーエコノミーとは、海洋資源を活用しつつ、環境保護と経済発展を同時に推進する経済モデルを指します。この取り組みは、海洋に依存する産業だけでなく、広範囲に渡る分野に影響を及ぼしています。

特に建設業界では、ブルーエコノミーの経済モデルを取り入れることで、沿岸部の開発プロジェクトや港湾施設の建設において、環境への配慮を深めることが可能になります。

今回は、ブルーエコノミーの詳細、注目されている理由、日本の取り組み、企業の取り組み事例などについて、詳しく解説します。ブルーエコノミーに関心のある方は、ぜひ参考にしてください。

ブルーエコノミーとは

ブルーエコノミーとは、海洋資源・海洋環境の保護と持続可能な経済活動を行う考えです。潮力を活用した発電、海洋資源を発掘する設備である海洋プラントなどが、ブルーエコノミーの代表格として知られています。

以下よりブルーエコノミーの具体的な定義、オーシャンマリンエコノミーとの違いについて説明いたします。

ブルーエコノミーの定義

近年注目を集めているブルーエコノミーですが、世界規模での統一的な定義はまだありません。2017年、国際開発金融機関(MDBs)の世界銀行は、ブルーエコノミーについて、下記のような定義をしています。

持続可能海洋資源の活用による経済成長や生活の改善、海洋生態系の健全な保全により発生する雇用

上記の定義が今後の統一的な定義になると予想されています。しかしまだ完全な定義の統一化が実現していないため、国や団体によって定義や内容に若干の違いがあるのが、ブルーエコノミーの特徴です。

オーシャン・マリンエコノミーとの違い

ブルーエコノミーと同じような概念・取り組みとして考えられているのが、オーシャン・マリンエコノミーです。この2つは同じ意味合いだと思われることもありますが、両者には違いがあります。

ブルーエコノミーとオーシャン・マリンエコノミーの大きな違いは、総経済的価値の違いです。経済的価値とは、環境経済学で使われる天然資源の価値を判断するための考えを指します。経済的価値には下記の表のように2つの種類が存在します。

利用価値 ・直接利用価値
資源を直接的に利用して生まれる価値(価値漁業や観光など)・間接利用価値
資源劣化を回避しながら生まれる価値(生態系回復など)・オプション利用価値
将来の利用を想定して保持する価値
非利用価値 ・存在価値
資源が存在しているだけで生まれる価値・遺贈(いぞう)価値
将来世代の資源の利用を想定して生まれる価値

上記のように経済的価値とは利用価値・非利用価値の2種類があり、この2つはさらに細分化される仕組みです。ブルーエコノミーは経済的価値で見ると、利用・非利用の両方にあてはまります。対してオーシャン・マリンエコノミーが該当するのは、利用価値のみです。

現段階で利用価値が生じるオーシャン・マリンエコノミーと異なり、未来を見据えた取り組みになるのが、ブルーエコノミーの特徴です。

関連記事:サーキュラーエコノミーとは?必要な3つの理由と建設業界の取り組み事例を紹介

ブルーエコノミーが注目されている理由

近年、なぜブルーエコノミーがこれほどまでに注目を集めているのでしょうか。下記よりその理由を4通りに分けて説明いたします。

海洋プラスチック汚染問題

ブルーエコノミーが注目される理由の一つが、海洋プラスチックによる汚染問題です。プラスチック製品は、成分が分解されて土壌に還ることはなく、燃焼させた場合は有害ガスを発します。

そのような問題に配慮して各メーカーが打ち出した方針が、数年かけて土壌に還る生分解性プラスチックの導入です。しかし生分解性プラスチックはあくまで土壌が対象なので、海に破棄した場合はほとんど分解が進みません。

このような破棄が困難なプラスチック問題に関して特に注目されたのが、海洋プラスチックごみとプラスチック製の猟具です。海洋産業にて排出されるプラスチック製品のごみのうち、約半数は魚網・ブイなどの漁業ごみが占めていますしかし、廃棄する魚網の回収やリサイクルは、それほど行われていません。

そのため、海に還ることが不可能という問題を抱えたプラスチックごみに対して、回収・リサイクルの体制確立は世界規模の課題となっているのです。このような問題の解決もブルーエコノミーに含まれているため、ブルーエコノミーが大いに注目されています。

SDGs

ブルーエコノミーは、世界規模の目標であるSDGsにも深い関係があります。SDGs(Sustainable Development Goals)とは、日本語に直訳すると「持続可能な開発目標」という意味で、2015年の国連サミットで採択された目標です。

世界が抱えている様々な問題に対して17の目標・169のターゲットを設定し、2030年までの達成を目指しています。

そして、SDGsが掲げた14番目の目標「海の豊かさを守ろう」と関連性があるのが、ブルーエコノミーです。目標14は「持続可能な開発のため、海洋・海洋資源の保護、それら資源の持続可能な形での利用」という内容になっています。

海洋環境の汚染を回避し豊かな資源を保護しつつ、発展途上国の経済的な利益向上の実現が、具体的な目標です。

SDGsは2015年の採択以来、急速にその概念が世界中に広まっています。その効果により、あらゆる国で環境問題に関する意識が高まっており、地上だけでなく海洋の環境も対象として意識する層が増加しているため、ブルーエコノミーも大いに注目されているのです。

海洋資源の潜在的価値

世界および日本にとって海洋産業市場が膨大という点も、ブルーエコノミーが注目される理由です。2016年に経済協力開発機構(OECD)は、「海洋産業の全体的な市場規模は2030年までに3兆ドルに到達する」と発表しました。

そして海洋産業との関連性は日本も例外ではありません。日本は国土面積こそ世界で61番目の​​約38万km2ですが、海洋に関しては世界有数の資源大国です。日本の保有エリアである排他的経済水域(EEZ)は、領海を合わせると約447万km2で世界第6位になります。

また、海岸線の長さも世界第6位を記録している約3万5,600kmです。そして、日本には約6,850の島がある世界有数の多島国としても知られています。このような恵まれた環境のため、2014年の日本の貿易量9億5,859万トンのうち、海上貿易が占めている割合は99.6%です。

日本が保有する海洋領域では、数多くの種類の資源が確認されています。ブルーエコノミーは、今後ますます資源大国として発展する可能性がある日本と関連性が高いため、注目を集めているのです。

ブルーカーボンへの期待

海洋環境の保護が目的の一つであるブルーエコノミーは、「ブルーカーボン」とも深い関連性があります。ブルーカーボンとは、海洋系生態系に吸収されたカーボン(炭素)のことです。海藻・海草・湿地・マングローブ林・干潟などが、海洋生態系に分類されます。

温暖化の原因であるCO2は水に溶けやすいのが特徴です。そのためブルーカーボンは、森など陸上の植物が吸収するグリーンカーボンより、多くの炭素を吸収します。

国土交通省が発表したデータによると、日本のブルーカーボン・グリーンカーボンの炭素​​​​​吸収量は下記のようになっています。

  • グリーンカーボン:19億トン
  • ブルーカーボン:29億トン

このように、ブルーカーボンは他のカーボンに比べて膨大な炭素吸収量があるため、温暖化の問題に対して期待がされています。そして、ブルーカーボンに分類される生態系の保全の進め方は、海洋産業の経済活動の拡大に関しても期待されています。ブルーカーボンの活性化は、ブルーエコノミーの発展にもつながるのです。

参照: 海の森ブルーカーボン CO2の新たな吸収源|国土交通省

ブルーエコノミーの種類

ブルーエコノミーの種類は大きく分けて「既存セクター」「新興・革新セクター」の2種類が存在し、以下の表のようにこの2つがさらに細分化されています。

既存セクター ・海洋生物資源(捕獲漁業、養殖業、水産加工業など
・海洋非生物資源(オイル&ガス、ミネラル)
・港湾活動(港湾サービス)
・造船(造船、船舶の修理)
・輸送(海上輸送)
・観光業(海洋・沿岸地域の観光)
新興・革新セクター ・海洋再生可能エネルギー(洋上風力発電、波力発電など)
・海洋鉱物(深海探鉱)
・ブルーバイオエコノミー、バイオテクノロジー
・インフラ(海底ケーブル、ロボット)
・廃棄物処理
・脱塩(海水淡水化)

上記の表をみてわかる通り、ブルーエコノミーの種類は多岐にわたります。そのなかで注目されているのが、新興・革新セクターに分類されている海洋再生可能エネルギーです。CO2排出・資源枯渇の心配がないメリットのある海洋再生可能エネルギーにおいて、潮力発電が大きな関心を集めています。

潮力発電は、海の潮の満ち引きに発生するエネルギーを活用した発電方法です。潮の満ち引きは一定の周期に行われるため、他の再生可能エネルギーの弱点であるエネルギー供給が不安定といった心配がありません。

ブルーエコノミーの日本の取り組み

世界的に注目が集まっているブルーエコノミーに関する取り組みは、日本でも例外ではありません。日本がブルーエコノミーに関してどのような取り組みをしているのか、下記より紹介します。

海洋基本計画

日本における海洋に関する決まりは、海洋基本法にそった「海洋基本計画」をもとに実践されます。海洋基本計画は、海洋に関するさまざまな施策を、政府が5年ごとに作成する計画をまとめたものです。

海洋基本計画では「海洋産業利用の促進」が主な政策の一つとして挙げられています。その内容は以下のとおりです。

  • メタンハイドレート・海底熱水鉱床・レアアース泥などのエネルギー・資源開発の推進
  • 洋上風力発電の海域利用ルールなどの整備の促進
  • 海洋産業の市場開拓、活性化
  • 資源調査の充実、漁業取締能力の強化などを行い、水産資源の適切な管理を推進

以上の政策により、ブルーエコノミーへの取り組みはさらに活性化される見込みです。

マリーン(MARINE)・イニシアティブ

2019年6月のG20大阪サミットにて発足したのが、「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」です。これは「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現のため、世界規模の海洋プラスチックごみ対策を促進するために、政府が立ち上げた施策です。

「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」とは、海洋プラスチックごみ汚染を2050年までにゼロにする目標を指します。マリーン・イニシアティブのMARINEは、下記の単語の頭文字によって構成されており、その単語とは以下のとおりです。

  • Management of wastes(廃棄物管理)
  • Recovery(海洋ごみの回収)
  • Innovation(イノベーション)
  • Empowerment(途上国の能力強化)

上記の4つの目標を達成するのが、マリーン・イニシアティブの方向性です。

ブルーエコノミーの日本企業の取り組み事例

日本企業はブルーエコノミーに関して、具体的にどのような取り組みをしているのか、代表的な取り組み事例2つを紹介します。

鹿島建設株式会社

鹿島がメンバーとして活動している「葉山アマモ協議会」が、昨年度に引き続き「Jブルークレジット®」を取得しました。これに伴い、3月19日に、Jブルークレジット証書交付式および活動報告・意見交換会が行われました。

「Jブルークレジット」は、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下、JBE) から独立した第三者委員会による審査・意見を経て、JBE が認証・発行・管理する独自のカーボンクレジットです。

令和5年度(2023年度)は、29プロジェクトについて「Jブルークレジット」が認証・発行されました。

鹿島は、葉山アマモ協議会のメンバーとして、2006年から地域連携による積極的な藻場再生活動を行ってきました。今回は、当社が独自に開発した藻場再生技術※の活用を含め、カジメ場、ワカメ場、ヒジキ場で合計49.7t-CO2/年のJブルークレジット取得に貢献しました。

鹿島は今後も、地域の漁業者、学校、ダイバーを含む多様な主体と連携し、藻場再生などによるクレジット認証をはじめとした地球環境の保全活動に尽力してまいります。

引用:藻場再生技術で49.7t-CO2/年のJブルークレジット取得に貢献|鹿島建設株式会社

東洋建設株式会社

一般的に建設現場から排出されるCO2は、使用する重 機・建設機械等が主な排出源となりますが、当社が得意と する海上工事ではA重油を燃料とする作業船が主な排出源 となります。マリコンである当社にとって、作業船運転時の CO2排出量をいかに削減していくかが重要ですので、以前 から環境配慮型エンジンへの換装、A重油から軽油への転換等を実施しています。

さらに、作業船から排出されるCO2 を回収・固定化する技術開発も進めており、陸上での実証 実験では、ディーゼル発電機から排出されたCO2を回収し て、高純度の液化炭酸ガスとドライアイスを製造し、そのドライアイスをセメントスラリー※に混入することでCO2を固 定化することに成功しました。将来的には、当社が保有する 作業船から発生するCO2を回収し、作業船上でセメントや地中へのCO2固定量を最大化する技術の開発にも取り組 み、海上工事のCO2排出量の削減に貢献していきます。 

建築事業では、ZEB/ZEHの施工や既存建物の省エネ提 案を積極的に行っているほか、既存施設に比べCO2排出量 が抑制されたごみ処理施設の建設を担う等、地球温暖化防止に向けた事業活動を展開しています。

引用:気候変動への取り組み|東洋建設株式会社

まとめ

ブルーエコノミーは、環境・資源保護だけでなく、経済的な発展も同時に実現するため、近年大きな注目を集めています。そして、日本は世界有数の海洋資源大国です。このため、日本がブルーエコノミーの概念を深く理解し、それをさまざまな形で実践すれば、世界規模の大きな経済効果が見込めます。

建設業界においても、ブルーエコノミーの概念は重要な意味を持ちます。例えば、沿岸部や海上でのインフラ建設プロジェクトでは、生態系に配慮した持続可能な建築技術や材料の使用が求められます。また、港湾開発や海洋施設の建設では、エコシステムへの影響を最小限に抑えつつ、エネルギー効率の高い設計が重要となるため、建設業界はブルーエコノミーを推進する技術革新の先駆者となり得ます。数多くの企業が再生可能エネルギーの大々的な導入・温室効果ガス排出量削減に力を入れている近年、ブルーエコノミーという概念をしっかりと理解することが大事です。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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