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【基礎編】脱炭素をアピールする「国際イニシアチブ」とは? CDP、RE100、SBTなどを紹介

【基礎編】脱炭素をアピールする「国際イニシアチブ」とは?  CDP、RE100、SBTなどを紹介

建設業界では発注元であるデベロッパーなどから、CO2排出量を開示し削減方針を示すことを要望される状況が起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。脱炭素をアピールするにあたり、「国際イニシアチブ」に加盟して対外的に取り組みを報告、開示することが盛んに行われている背景はそこにあります。

とりわけ、建設業界はCO2排出と密接な関係性にあり、施行時、運用時、解体時全ての過程でCO2を排出しています。世界の産業別CO2排出率を見ても、建設業関連だけで37%の排出量を占めています。そのため脱炭素社会に向けた省エネ設備を導入することや、CO2を排出しづらい燃料や材料を使用するなど対策を行う必要があります。

本記事では、「国際イニシアチブ」の概要から加盟条件など基礎的な情報をご紹介しています。ぜひ参考にしてください。

気候変動に取り組む、国際イニシアチブとは?

イニシアチブという言葉はビジネス上では「主導権」という意味で使われることがありますが、環境経営や脱炭素においては「気候変動や環境保護対策へ導く団体」を指す言葉です。世界共通目標として気候変動を抑えて経済リスクを低減する努力義務があり、CO2排出量を削減、算定が行われています。ここでは代表的な国際イニシアチブをいくつかご紹介します。

名称 概要 加盟条件
CDP Carbon Disclosure Project の略称で、気候変動・水・森林に関する情報を収集し、大企業への公開質問や格付けなどを行っている非営利団体です。

2023年CDPの質問書の日本企業の回答総数は1,585社で、Aスコアは109社でした。

※Aスコアとは、回答に応じた点数でありAは最高評価となります。Aスコアは企業のブランド力を高めるだけでなく、ESG投資の対象となりやすいです。

企業の環境情報を得るために送付される、CDP質問書事項に回答できること。CDP質問書の内容は、毎年、投資家や企業、政府関係者など様々なステークホルダーからのフィードバックに基づき、改訂されています。

詳細はこちらからご確認ください。

TCFD 気候関連財務情報開示タスクフォースとは、G20(主要20ヶ国首脳会議)の要請を受けて設立された団体です

企業に対して気候変動によるリスクや機会を認識し、経営戦略に盛り込むことを提言しています。

日本では環境省が賛同を表明、1,488社の企業・機関がTCFDに賛同しています。(2023年11月時点)

TCFD提言に賛同する法人の場合、加盟が可能です

加盟後に気候変動シナリオの策定や、それによる財務への影響に対するガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標を開示することが推奨とされています。

詳細はこちらからご確認ください。

SBT Science Based Targets の略称で、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。

パリ協定の基準に基づき毎年2.5%以上の温室効果ガスの削減を目安に目標となるSBTを設定します。

日本企業の1,283社が認定を取得しており、認定取得・コミット数は世界1位になっています。(2024年8月時点)

すべての温室効果ガスを対象に企業全体のScope1から2をカバーして削減⽬標年は申請時から最短5年、最⻑10年以内とします。

Scope1,2では、最低でも、産業⾰命前と⽐べて1.5℃以内(毎年少なくとも4.2%の削減)に抑える削減⽬標を設定します。

また、Scope3では、最低でも、産業⾰命前と⽐べて2℃を⼗分に下回るよう抑える⽔準(毎年少なくとも2.5%の削減)を設定します。

詳細はこちらからご確認ください。

RE100 Renewable Energy100%とは、企業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す取り組みです

再エネの活用は企業の排出削減目標の達成につながり、エネルギーコスト管理が可能となります。

日本の環境省と防衛省・外務省がアンバサダーとして参加し、活動を促進。89社の日本企業が参加しています。(2025年2月時点)

消費電力量が年間100GWh以上であり、自社事業で使用する電力(GHGプロトコルのスコープ2および1の電力消費)の100%再生エネ化に向け、期限を切った目標を設定し、公表することが条件です。

また、グループ全体での参加および再エネ化にコミットすることも定められています。

詳細はこちらからご確認ください。

EP100 Energy Productivity の略称で、事業におけるエネルギー効率を倍にすることを目標に掲げる企業が参加する国際的なイニシアティブです

エネルギー効率を高めることで、環境保全に取り組みながら様々なコストを削減できる可能性があります

4社の日本企業が参加しています。(2025年2月時点)

25 年以内にエネルギー生産性を 2 倍にする、10年以内にエネルギーマネジメントシステムを導入する、2030 年までに純炭素ゼロの運用資産を所有、占有、開発することに取り組むことが条件となります。

詳細はこちらからご確認ください。

関連記事:CDP気候変動部門Aリストに選定された鉄建建設 迅速なAリスト入りを支えたサステナビリティ経営(前編)

関連記事:RE100とは?メリットや日本企業の取り組みをわかりやすく解説

国際イニシアチブとステークホルダーとの関わり

ここでは、国際イニシアチブに参画し目標を設定、その後の活動報告や開示の流れ、ステークホルダーとの関係性についてまとめています。

1.国際イニシアチブへの参画

SBTやRE100、EP100などの目標設定を実施して対外的に企業の取り組みを開示することから始めて、機関投資家や顧客、金融機関に環境経営や脱炭素の取り組みのアピールを行います。

2.脱炭素経営の取り組みを開示する

企業が実際に取り組んだ内容や成果を報告、開示します。CDPの場合はアンケートが送られてくるので、アンケートに回答することで各企業の取り組みを評価して格付けを行います。また、第三者機関によって企業の社会的・環境的に配慮した取り組みは、ESG評価としてスコアが開示されます。

 

TCFD提言で推奨されている開示項目は「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つとシナリオ分析、そして2021年10月からは温室効果ガス排出量・移行リスク・物理的リスク・気候関連の機会・資本配備・ICP(内部炭素価格)・報酬の7つの指標と目標の開示が推奨され、企業を評価、信頼する判断軸となります。

3.機関投資家や国から還元される

脱炭素経営の取り組みがスコアリングされて、ESG投資や国からの補助金など支援を受ける機会が増加して、脱炭素の取り組みが企業活動の実利として還元されるようになります。

以下に国際イニシアチブとステークホルダーとの関わりを図解にまとめましたので、ご参照ください。

国際イニシアチブに参加する企業の成功事例

脱炭素社会の実現に向け、国際イニシアチブに参加する企業が増えています。特に建設業界では、RE100やSBTなどの枠組みを活用し、環境負荷の低減を進める動きが活発です。企業の取り組みにより、投資家や取引先からの評価が向上し、企業価値の向上につながるケースも多く見られます。

次に国際イニシアチブに参加した企業の事例を紹介し、具体的な取り組み内容や成果を解説します。これから脱炭素経営を検討している企業にとって、成功事例を知ることは自社への導入の参考にしてください。

建設業界で国際イニシアチブに参加する企業の取り組み

ここでは、代表的な国際イニシアチブごとに建設業界での取り組み事例を紹介します。

【CDP】鹿島建設株式会社

鹿島は、1998年に策定した「鹿島環境方針」の中で「環境保全と経済活動が両立する持続可能な社会の実現を目指す」と宣言しました。また2013年には、具体的なCO2削減目標を含む「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を策定、持続可能な社会を「低炭素」「資源循環」「自然共生」の3つの視点でとらえ、2050年までに鹿島が達成すべき将来像を「Zero Carbon」「Zero Waste」「Zero Impact」と表現しました。3つの「ゼロ」の一つである「Zero Carbon」では、自社の事業活動、特に施工段階におけるCO2排出量の削減に取り組むだけでなく、提供する建造物からの温室効果ガス排出量をゼロにすることも目指しており、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の達成と普及・展開を目指しています。2018年にはZero Carbonの目標を見直し、「鹿島グループの温室効果ガス排出量(スコープ1、2、3)を2013年度比で80%以上削減」としました。

 2018年からスタートした「鹿島グループ中期経営計画」においてもESGへの取組みを重点項目とし、積極的な活動を展開しています。環境・エネルギーに関しては、自社の事業活動によるCO2排出量削減の取組みに加え、顧客の事業活動支援のため、風力発電やバイオマス資源などの再生可能エネルギー分野、地域の防災・減災やBCP対策、IoTを活用したエネルギーマネジメントなどを推進しています。

引用:CDP気候変動のAリスト(最高評価)に認定|鹿島建設株式会社

【TCFD】大末建設株式会社

当社は、気候変動を重要な課題と捉え、2023年11月にTCFD提言に賛同するともに、TCFD提言に基づく分析を実施しました。TCFD提言に基づく気候関連情報は下記の通りであり、分析を踏まえた対応策を推進し、持続可能な社会の実現と企業価値の向上に取り組んでいきます。

ガバナンス

社長を委員長として、気候関連を含むサステナビリティ課題の審議・検討を行うサステナビリティ委員会を設置しています。同委員会は年複数回必要に応じて開催され、サステナビリティに関するリスクや機会など重要課題の特定や見直し、施策の審議・検討や実施状況の評価、モニタリングなどを通じ、気候関連課題に対する取り組みを推進しています。サステナビリティ委員会で審議された内容は年1回以上取締役会へ報告され、取締役会では報告内容について審議・決定が行われています。

リスク管理

気候変動関連リスクはサステナビリティ委員会で管理されています。同委員会では気候変動関連リスクを特定し、定性・定量の両面から評価することに加え、対応策の審議・検討を行っています。特定された気候変動関連リスクは、その他のサステナビリティ関連リスクと統合・再評価され、対応状況をモニタリングされています。このうち重大と判断されたリスクは、取締役会へ報告された後、全社的なリスクと統合され管理・監督されます。

引用:TCFD提言に基づく気候関連の情報開示|大末建設株式会社

【SBT】大成建設株式会社

大成建設株式会社(社長:村田誉之)は、温室効果ガス排出の2030年削減目標を、温室効果ガス排出削減に関する国際的イニシアチブにより「SBT(Science Based Targets)」※1に認定されました。

 当社は、ESG(「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」)経営の観点から、持続可能な環境配慮型社会の実現に向けた2050年目標「TAISEI Green Target 2050」※2を策定しており、そのベンチマークである2030年の削減目標が今回「SBT」認定の対象となりました。

【大成建設のスコープ※3毎のSBT】

スコープ1:建設作業所における重機・車両等の燃料使用に伴う直接排出

スコープ2:建設作業所における電力使用に伴う間接排出

温室効果ガス排出量(スコープ1+スコープ2)を2030年までに2013年度比で26%削減

スコープ3:引き渡した建物の運用段階におけるエネルギー使用に伴う間接排出

温室効果ガス排出量を2030年までに2013年度比で25%削減

 今後当社は、この「SBT」の達成に向け、全作業所で展開する会議におけるペーパーレス化、仮設照明のLED化、ハイブリッド型重機の使用や再生可能エネルギーの利用といったさまざまな環境負荷低減活動「TAISEI Sustainable Action」を実施し、施工段階のエネルギー使用の効率化や再生可能エネルギーの利用等による温室効果ガスであるCO2削減を進めます。また、お客様に提供する技術・サービスにおいても建物の大幅な省エネに貢献する「ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」の普及を通じて削減に取り組んで参ります。

引用:大成建設の2030年温室効果ガス排出削減目標がSBTに認定|大成建設株式会社

【RE100】戸田建設株式会社

当社は、2019年1月に再エネ電力使用目標を設定し、RE100イニシアチブへ加盟しました。

当社が使用する電力の約90%は、建設施工に用いられます。作業所では軽油等の燃料を多く使用しますが、CO2排出量の約30%は電力の使用が占めています。今後、建設機械の電動化の進展により、この電力使用の割合は増加していくことが想定されます。

RE100イニシアチブへの加盟は、当社のCO2排出量削減目標の達成、さらには、再エネ電力の社会全体での利用推進に貢献することを目的としています。

引用:RE100達成への取り組み|戸田建設株式会社

【EP100】大東建託株式会社

大東建託株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:小林克満)は、8月27日、事業活動のエネルギー効率向上を目指す国際環境イニシアチブ「EP100 (Energy Productivity 100)」※1に加盟しました。

当社グループは、日本の建設業・不動産業として初めて国際的な環境イニシアチブである「SBT(Science Based Target)」※2の「1.5℃水準」認定を取得しており、EP100によるのエネルギー効率を高める省エネ活動などを通して、脱炭素経営の実現に向けた事業活動をさらに推進していきます。

※1   事業活動のエネルギー効率を倍増させることを目標に掲げる企業が参加する国際的な環境イニシアチブ。2014年に、イギリスに本部を置く国際環境NPO「The Climate Group」と「Alliance to Save Energy」が中心となって設立。

https://www.theclimategroup.org/ep100-members

※2  パリ協定に基づき、産業革命時期比の気温上昇を「2℃未満」にするために、企業が気候科学(IPCC)に基づく温室効果ガス削減シナリオと整合した削減目標を設定し、認定を受けることを推奨する国際環境イニシアチブ。

https://sciencebasedtargets.org/

引用:国際的環境イニシアチブ 「EP100」 に加盟|大東建託株式会社

企業の情報開示が求められるように

企業が多くのCO2を排出している背景から 企業に対して気候変動対策と情報開示が求められるようになりました。 同時に、情報開示のレベルがステークホルダーに 大きく影響し、機関投資家や取引先、顧客が企業を選ぶ指標になりつつあります。

建設業界では、CO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注元であるデベロッパーから選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってもCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。

まとめ

この記事では、国際イニシアチブを紹介しました。この機会に環境経営や脱炭素に関する取り組みを開示して、対外的なアピールを検討してみてはいかがでしょうか。環境省では建設業界に対する補助金が毎年更新されており、脱炭素社会の実現に向けた設備導入などの資金に利用が可能です。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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