公共工事の入札制度は、建設業者にとって安定した受注機会を得るための重要な仕組みです。しかし、入札の種類や参加方法、各種制度について十分に理解していないと、適切な対応ができず機会を逃してしまう可能性があります。
本記事では、公共工事の入札の基本的な仕組みから、一般競争入札・指名競争入札・随意契約などの入札方式の違い、具体的な参加フローまでを詳しく解説しています。
また、最低制限価格制度や総合評価制度といった入札に関わる重要な制度も紹介していますので、公共工事への参入を検討されている建設業の方は参照してみてください。
目次
公共工事の入札の仕組み

公共工事の入札は、国や地方自治体が発注する工事を受注するための重要な制度です。公共工事の種類や民間工事との違いを理解することで、入札制度の目的が明確になります。
また、公共工事の入札に参加するメリットを理解し、企業の成長戦略に活かすことが重要です。ここでは、公共工事の入札の仕組みについて解説します。
公共工事の種類
公共工事には、さまざまな種類が存在します。国や地方自治体が発注する工事は、全部で29種類に分類されており、それぞれが重要な役割を担っています。
道路や橋梁などの交通インフラ、学校や病院などの公共施設、河川整備や公園造成といった環境整備など、生活に欠かせない施設の建設や維持管理が対象です。発注者によって工事の規模や内容も異なり、国が担当する高速道路建設や国の機関の庁舎建設は大規模なプロジェクトとなる一方、地方自治体は地域住民に身近な道路舗装、公園整備、学校や病院の建設などを手がけています。
公共工事は幅広い分野にわたるため、建設業者は自社の得意分野や技術力に応じた工事を選択できます。多様な公共工事の種類を理解することは、入札参加を検討する上で重要な第一歩です。
公共工事と民間工事の違い
公共工事と民間工事には、発注者や目的、契約方式において明確な違いがあります。違いを理解することは、建設業者が適切な営業戦略を立てる上で不可欠です。
公共工事と民間工事の違いは次の通りです。
| 工事種別 | 発注者 | 契約 |
| 公共工事 | 国・地方自治体 | 厳格な入札手続き |
| 民間工事 | 民間企業 | 自由な交渉 |
公共工事は国や地方自治体などの公的機関が発注し、国民の生活向上や地域発展を目的としています。そのため、厳格な入札手続きや契約方式が定められ、高い透明性と公平性が要求されます。評価基準も価格だけでなく、技術力や社会貢献度など多面的な要素が考慮されるのが特徴です。
一方、民間工事は企業や個人が自社の利益や個人的な目的で実施するもので、オフィスビルやマンション、工場などの建設が代表例です。発注者と受注者が自由に交渉して契約を結べるため、公共工事ほど厳しい規制は適用されません。
公共工事の入札制度の目的
公共工事の入札制度は、複数の業者に工事の価格や技術を競争させ、最も優れた条件を提示した業者に発注する仕組みです。入札制度には、公共事業の健全な運営を支える重要な目的があります。主に次に示す要素が目的として挙げられます。
- 公平性の確保
- 透明性の確保
- 経済性の確保
- 品質の確保
第一に、公平性と透明性の確保が挙げられます。税金を財源とする公共工事では、特定の業者への優遇や不正を防ぎ、すべての事業者に平等な機会を提供しなければなりません。入札制度により、発注プロセスが明確化され、国民への説明責任を果たせます。
次に、経済性の確保も重要な目的です。競争原理を働かせることで適正な価格が実現し、税金の無駄遣いを防止できます。同時に、品質の確保も欠かせません。価格だけでなく技術力も評価することで、質の高い工事を実現し、公共施設の安全性や耐久性を保証します。
公共工事の入札に参加するメリット
公共工事の入札に参加する最大のメリットは、効率的な受注活動が可能になる点です。民間工事では営業担当者を配置し、時間とコストをかけて顧客開拓をおこなう必要がありますが、入札制度では公示された案件に応募するだけで受注機会を得られます。
人件費や営業経費を大幅に削減できるため、経営資源を工事の品質向上に集中させられます。さらに、地域貢献型の入札では、地元で実績を持つ業者が優先的に受注できる仕組みです。地域経済の活性化を目的とした優先制度により、中小規模の建設業者でも安定した受注を確保しやすくなっていることもメリットの一つです。
加えて、工事の種類によっては落札後に前払金が支払われるため、資金繰りの負担を軽減できます。入札参加は、経営の安定化と効率化を同時に実現する有効な手段です。
公共工事の入札の種類
公共工事の入札には、競争性や透明性の度合いに応じて複数の種類が設けられています。それぞれの入札方式には異なる特徴があり、工事の規模や性質によって使い分けられていることがポイントです。
ここでは、公共工事の入札の種類について解説します。
一般競争入札
一般競争入札は、入札資格を持つ不特定多数の業者が参加できる最も開かれた入札方式です。一般競争入札は透明性と公平性が非常に高い反面、価格競争が激しくなる側面も持っています。
発注者である自治体が案件の広告を公開し、条件を満たすすべての業者に参加機会を提供します。その中から最も有利な条件を提示した業者が選定される仕組みです。メリットは、多数の参加者による競争により高い透明性と公平性が担保される点にあります。特定業者への優遇や不正の余地が少なく、国民への説明責任を果たしやすい制度です。
一方で、価格競争が激化するため、業者によっては適正な利益を担保できず、採算が合わないケースも発生します。過度な低価格競争は工事品質の低下を招く恐れもあるため、技術力や実績も含めた総合的な評価基準の導入が進められています。
指名競争入札
指名競争入札は、発注者が事前に選定した特定の業者のみが参加できる入札方式です。一般競争入札と比べて参加者が限定される分、専門性の高い工事に適した仕組みです。
指名競争入札のメリットは、発注者が信頼できる業者を選定するため、コストやスケジュールの見通しが立てやすい点にあります。特に高度な専門性や技術力が求められる工事では、実績のある業者を指名することで品質の担保が容易です。
また、入札参加者が絞られることで事務手続きも効率化され、発注者・受注者双方の負担軽減につながります。一方で、新規参入を目指す事業者にとっては、指名を受けること自体が高いハードルとなりかねません。
過去の実績や発注者との関係性が重視されるため、優れた技術力を持っていても参加機会が得られにくい状況が生まれます。
随意契約
随意契約は、地方自治体や官公庁が競争入札をおこなわず、任意で選定した相手と直接契約を締結する入札方式です。他の方式と比べて最も競争性が低い一方、特殊な状況に対応できる柔軟性を持っています。
原則として、2社以上から見積書を取得することが条件です。ただし、契約相手として選ばれるには、過去に豊富な実績を持つことや、特定の高度な技術力・サービスを保有していることが求められるため、参加のハードルは高いことが特徴の一つです。
緊急性の高い災害復旧工事や、特殊な技術を要する案件などで活用されることが多い方式です。最低価格での競争がないため適正な利益率を担保しやすい点がメリットとなる一方で、実績が十分でない企業にとっては落札が極めて困難なデメリットがあります。
公共工事の入札参加フローチャート

公共工事の入札に参加するには、情報収集から契約締結まで、それぞれの段階で適切な対応が求められます。入札参加には次の手続きが必要です。
- 入札情報の収集
- 入札説明会に参加
- 提案書・見積書の作成
- 入札~落札者の決定
- 契約の締結
公共工事の入札参加フローチャートについて解説します。
入札情報の収集
入札情報の収集は、公共工事の受注機会を得るための最初のステップです。適切な情報源を活用し、自社に適した案件を見極めることが成功へのポイントです。
具体的な情報源としては、官報や自治体・関係機関のWebサイト、業界紙や専門誌、入札情報サービスなどが挙げられます。効果的に活用するには、興味のある分野の入札情報を日常的にチェックする習慣が重要です。特に入札情報サービスのアラート機能を設定しておけば、条件に合致する案件が公示された際に即座に通知を受け取れるほか、対応の遅れを防げます。
収集した情報は、案件名、発注者、予定価格、入札日程など項目ごとに整理する方法が効果的です。単に情報を集めるだけでなく、自社の技術力や実績、得意分野を活かせる案件を選別しなければなりません。
入札説明会に参加
入札説明会への参加は、公共工事の案件の詳細を把握し適切な入札準備をおこなうために必要なステップです。単なる情報収集だけではなく、入札参加の前提条件となっている場合もあるため、必ず確認が必要です。
入札説明会では、案件の具体的な内容や条件について発注者から直接説明がおこなわれます。工事の仕様書や設計図面など入札関係資料が配布されることが一般的で、これらの資料は見積作成に欠かせない情報源です。
工事の難易度や特殊な条件、現場の状況などを正確に理解することで、過度な低価格入札や採算割れのリスクを回避できます。質疑応答の時間を活用して不明点を解消することも重要です。
提案書・見積書の作成
提案書・見積書の作成は、公共工事の入札プロセスにおいて最も重要な段階です。これらの書類は発注者が事業者を選定する際の決定的な判断材料となるため、戦略的かつ丁寧な準備が求められます。
公共工事の入札では、価格だけでなく多面的な評価がおこなわれる点が特徴です。工事の品質やスケジュール管理能力、技術力、安全対策、環境への配慮などの要素が総合的に判断されます。
単に安い価格を提示するだけでは不十分であり、自社の強みや実績を効果的にアピールする内容の充実が欠かせません。過去の類似工事の実績、保有する技術や資格、工程管理の手法、品質保証の体制などを明確に記載する必要があります。また、見積書では適正な価格設定を心がけ、根拠を明示することで信頼性を高められます。
入札~落札者の決定
入札から落札者の決定までは、公共工事の発注者による慎重な審査がおこなわれます。単純な価格競争ではなく、さまざまな評価基準に基づいて最適な事業者が選ばれる仕組みです。
落札者の決定権は発注者にあり、最も低い価格を提示した業者が自動的に選ばれるわけではありません。特に総合評価方式では、技術提案の優れた事業者が価格面で多少劣っていても選定される可能性があります。
最低制限価格は過度な低価格競争による工事品質の低下を防ぐために設定される価格の下限であり、最低制限価格を下回る入札は失格となる点に注意が必要です。
契約の締結
契約の締結は、入札プロセスの最終段階であり、落札者と発注者の間で正式に工事の合意が成立する重要な手続きです。契約締結を経て初めて、実際の工事着手が可能です。
落札者として決定された事業者は、発注者との間で工事請負契約を締結します。契約書には、工事の内容や工期、請負金額、支払条件、品質基準、安全管理義務など詳細な条件が明記されます。契約条項は法的拘束力を持つため、内容を十分に確認し理解した上で署名することが大切なポイントです。
契約締結後は、契約内容に従って誠実に工事を遂行する義務が生じます。適切な契約管理により、トラブルを未然に防ぎ円滑な工事進行を実現することが重要です。
公共工事の入札の主な制度
公共工事の入札には、公正性や品質を担保するためのさまざまな制度が設けられています。入札の主な制度は次の通りです。
- 最低価格自動落札制度
- 総合評価制度
- 最低制限価格制度
- 低入札価格調査制度
- 予定価格制度
最低価格自動落札制度は価格のみを審査項目とするシンプルな方式です。一方、総合評価制度では技術力や実績、表彰歴、安全性、地域貢献度などの基準で落札者を決定するため、価格以外の強みもアピールできます。
価格面での重要な制度として、ダンピング防止を目的とした最低制限価格制度があります。予定価格(上限値)と最低制限価格(下限値)を設定し、範囲外の価格を提示した業者は失格となる仕組みです。同様の目的で低入札価格調査制度も運用されており、過度な低価格入札による品質低下を防いでいます。
予定価格制度では、入札価格が予定価格を超えると落札できません。全業者の提示価格が予定価格を上回り落札者が出ない状態は「不落」と呼ばれ、再入札がおこなわれます。
まとめ

本記事では、公共工事の入札の仕組みと種類について解説しました。公共工事は国や地方自治体が発注する建設工事であり、透明性と公平性を担保するため、厳格な入札制度が設けられています。
入札方式には、不特定多数が参加できる一般競争入札、発注者が選定した業者のみが参加する指名競争入札、競争によらず任意で契約相手を決める随意契約があります。
建設業者にとって公共工事の入札は、安定した受注機会を得られる重要なチャンスです。入札制度を正しく理解し、自社の技術力や実績を効果的にアピールすることが成功のポイントです。公共工事への参入を検討されている建設業の方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
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