2023/6/26
2025/6/12
ZEHの種類や基準、メリット・デメリット、補助金を解説!

近年、省エネに向けたさまざまな取り組みが進んでいます。住宅メーカーや建築業界に勤務する方の中には、ZEHに関連する部門を任された方もいるのではないでしょうか。
本記事ではZEHについて、その概要や仕様基準などの基礎知識を解説します。ZEH仕様住宅の持つメリット・デメリット、活用できる補助金に関しても説明するので、ぜひ参考にしてください。
ZEHとは消費電力をゼロに抑える住宅
ZEH(ゼッチ)とはNet Zero Energy Houseの略で、再生可能エネルギー等を活用して年間のエネルギー消費量を実質ゼロに抑える住宅のことです。政府は2050年までの脱炭素(カーボンニュートラル)を目指しており、ZEHは「住宅業界における脱炭素化への取り組み」を指します。
ZEHの具体的な取り組み
ZEHにはエネルギーを創出するシステム(創エネ)や、省エネを図れる設備の導入が必要になります。
たとえば「創エネ」の代表として、太陽光発電設備が挙げられます。太陽の光を電気に変換することで、生活に必要なエネルギーの代用となります。また「省エネ」の代表としては、エネルギー効率の良い給湯器の利用や、住宅への断熱設備の導入などが挙げられます。
少ない燃料で多くのお湯を沸かす給湯器があれば、毎月の光熱費が削減できます。また、住宅に断熱素材を利用すれば、室温が快適に保たれ、冷暖房による消費電力が抑えられます。
このようなZEH化を進めることで、生活に必要なエネルギー消費量を抑えるのみでなく、CO2削減など地球環境改善にも貢献できます。
関連記事:カーボンニュートラルをわかりやすく解説!取り組み事例も紹介
ZEHのメリット
住宅にZEHを導入すれば、1年を通して省エネルギーを実現しながら快適に過ごせると共に、創エネにより電気を自給して光熱費ゼロを目指すことも可能になります。ZEHを導入していない住宅と比較した場合のメリットは、主に3つ挙げられます。
【ZEHのメリット】
- 光熱費を抑えられる
- 災害時の備えになる
- 室内が適温に保たれる
光熱費を抑えられる
ZEHのメリットとしてまず挙げられるのが、生活にかかる光熱費を抑えられる点です。
たとえば、太陽光発電システムなど自家発電設備があれば、消費されるエネルギーをまかなえます。また、高性能のサッシなどで建物の断熱性能を高めれば、エアコンによる電気消費量を抑えられます。
「創エネ」「省エネ」の両方を用いてエネルギー消費を抑えられる点は、ZEH住宅の使用者にとって最大の魅力といえます。
災害時の備えになる
ZEH仕様の住宅は、災害時の備えにもなります。住宅に蓄電池や自家発電システムを導入すれば、非常用電力の備蓄や、自給自足のエネルギー供給が可能になります。
地震などの災害が起これば停電することも考えられるので、非常に有用な備えになります。
室内が適温に保たれる
ZEHの特徴のひとつである断熱効果によって、建物内の温度を適温に保てます。
断熱効果の高い複層ガラスや樹脂サッシを導入すれば、エアコンなどを使わずに室内を快適な温度にできます。また、部屋間の温度差も生じにくくなるため、ヒートショックのリスクを軽減できます。
なお、東京都は、都内の住宅特性を考慮した「東京ゼロエミ住宅」を提案しています。東京ゼロエミ住宅を選択するメリットは、求める省エネ性能の水準が高く設定されているため、断熱性を確保しやすく、光熱費を削減できることです。
また、省エネ性能により、結露や建材の劣化も抑えられるので住宅が長持ちしやすい点も特徴です。東京ゼロエミ住宅については東京都環境局「東京ゼロエミ住宅とは?」をご確認ください。
ZEHのデメリット
ZEHにはさまざまなメリットがありますが、デメリットがあることも忘れてはいけません。
【ZEHのデメリット】
- 初期コストがかかる
- 太陽光発電の定量化が難しい
- デザインが制約される場合がある
初期コストがかかる
デメリットの1つとして、ZEHに対応した家を建てる際に初期コストがかかる点が挙げられます。
ZEH仕様の住宅には多くの魅力がありますが、その分ZEH対応していない住宅よりも初期コストが多くかかります。このコストがネックとなり、ZEH化を踏みとどまるケースも少なくありません。
とはいえ、創エネや省エネにより年間の光熱費を抑えられるため、初期コストは回収できる可能性があります。そのため、エネルギー収支については事前にシミュレーションし、ZEH化を検討することをおすすめします。
太陽光発電の定量化が難しい
ZEHの取り組みの1つである太陽光発電は、天候によって発電量が左右されるため、電力の定量化が困難です。たとえば梅雨時期、また冬季に雪の多い地域では、日照時間を確保できず、電力を安定して得られない可能性もあります。
自家発電システムを備えた住宅は魅力ではありますが、「太陽光発電は定量を約束されてはいない」という点は留意しなければなりません。
デザインが制約される場合がある
ZEHは断熱性能を高める都合上、吹き抜けや大きな窓を採用しにくい場合があります。このように、ZEHとしての機能を保つ都合上、デザインに対して一定の制約がかかるケースも少なくありません。
家づくりに対してこだわりがある場合は、デザインと機能性を両立できるように、住宅メーカーへの相談を検討してみてください。
ZEHの種類と基準
次にZEHの種類と基準について詳しく説明します。
ZEHとZEH-M
ZEHには大きく分けて、「ZEH」と「ZEH-M」があります。
- ZEH:戸建て住宅向けの定義
- ZEH-M:集合住宅向けの定義
ここではまず、戸建て住宅向けの「ZEH」について解説します。ZEH-Mについては、後述する「集合住宅はZEHの定義が異なる」を確認してください。
ZEHの種類
ZEHは、エネルギー消費量の削減割合に応じて3種類に分類されます。いずれも建築物省エネ法で定められた住宅の省エネ基準から20%以上の一次エネルギー消費量の削減を満たす住宅が前提となっています。
【ZEHの種類と詳細】
種類 | 詳細 |
ZEH |
|
Nearly ZEH |
|
ZEH Oriented |
|
参照: 「ZEHとは?取得のメリットやZEHの種類を紹介、補助金制度についても専門家が徹底解説 」|環境・省エネルギー計算センター
年間消費エネルギー量を100%以上削減できる住宅は「ZEH」として分類されます。
しかし、すべての地域や住宅でZEHの要件を満たせるわけではありません。たとえば都市部の狭小地であった場合は、スペースの都合上、太陽光発電の設置は困難です。また日照時間が短い場所の場合、発電量には限界があります。
そういったZEHの取得が困難な住宅の場合、「Nearly ZEH」や「ZEH Oriented」を取得することになります。
「Nearly ZEH」は寒冷地や低日射地など、創エネが十分にできない地域、「ZEH Oriented」は都市部狭小地や多雪地域など、創エネ設備の設置が難しい地域を対象にしています。
なお、ZEHとNearly ZEHには上位モデルとして「ZEH+」「Nearly ZEH+」があります。ZEHとNearly ZEHを取得したうえで、更なる省エネを実現したい場合は検討してみてください。
ZEHの基準
ZEHの基準に関して、ZEHロードマップ検討委員会では、4つの定義を定めています。ZEHの定量的要件において対象となる一次エネルギー消費量は「暖冷房」「換気」「給湯」「照明」です。
【ZEHの基準】
種類 | 定量的要件 |
ZEH | 以下の①~④のすべてに適合した住宅 ① ZEH強化外皮基準(※1)を満たした上での外皮平均熱貫流率(UA値[W/㎡K]) 1・2地域(北海道):0.40以下 3地域(東北北部):0.50以下 4~7地域(東北南部~九州):0.60以下 ② 再生可能エネルギーを除く基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減 ③ 容量は問わず再生可能エネルギーを導入 ④ 再生可能エネルギーを加えて100%以上の一次エネルギー消費量削減 |
Nearly ZEH | 以下の①~④のすべてに適合した住宅 ① ZEH強化外皮基準(※)を満たした上での外皮平均熱貫流率(UA値[W/㎡K]) 1・2地域(北海道):0.40以下 3地域(東北北部):0.50以下 4~7地域(東北南部~九州):0.60以下 ② 再生可能エネルギーを除く基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減 ③ 再生可能エネルギー等を導入(容量不問) ④ 再生可能エネルギー等を加えて75%以上100%未満の一次エネルギー消費量削減 |
ZEH Oriented | 以下の①及び②のいずれにも適合した住宅 ① ZEH強化外皮基準を満たした上での外皮平均熱貫流率(UA値[W/㎡K]) 1・2地域(北海道):0.40以下 3地域(東北北部):0.50以下 4~7地域(東北南部~九州):0.60以下 ② 再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減 |
参照:経済産業省「ZEHの定義(改定版)」
(※1)1から8地域の平成28年省エネルギー基準(ηA値、気密・防露性能の確保等の留意事項)
強化外皮基準とは、建物の外皮(壁など)の断熱性能についての基準を指します。
外皮性能の基準である外皮平均熱貫流率(UA値)とは、住宅に出入りする熱量の値で、寒冷地であるほどに基準値が低く定められています。この値が低いほど断熱性能が高いので、「寒冷地であるほどに基準が厳しい」ということです。
ZEHとNearly ZEHは、外皮性能基準を満たしたうえで「20%以上の一次エネルギー消費量を削減していること」が要件になります。また、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入していることも要件に入ります。
ZEH Orientedは、再生可能エネルギーの導入は要件に入っていません。ZEH Orientedは都市部狭小地や多雪地帯を対象としているため、太陽光発電など再生可能エネルギーの設置は義務付けられていないのです。
なお、ZEHの定量的な要件におけるエネルギー消費量は平成28年省エネ基準で定められている計算方法に従って計算しています。ZEHの定量的な要件における再生可能エネルギー量の対象は敷地内に限定し、自家消費分に加え売電分も対象に含めることも定められています。
集合住宅はZEHの定義が異なる
集合住宅は戸建て住宅のZEHと異なり、ZEH-M(ゼッチマンション)と定義されています。高層マンションになるほど住戸数に対して太陽光パネルの設置が不足し、集合住宅全体のエネルギー消費量がなくなることを勘案して定義されました。
ZEH-Mには4種類あり、エネルギー消費量の削減割合によって分類されます。
【集合住宅におけるZEHの定義】
種類 | 詳細 |
ZEH-M |
|
Nearly ZEH-M |
|
ZEH-M Ready |
|
ZEH-M Oriented |
|
参照:国土交通省「ZEHの普及促進に向けた政策動向と令和5年度の関連予算案」
集合住宅のZEH化を進めるには、断熱性能が高い外壁や窓ガラス、高効率のエアコン、省エネ性の高い給湯器の導入によってエネルギー削減を図ります。また、各住戸に太陽光発電設備や燃料電池を設置することで電力の自給自足を叶えます。
なお、一般社団法人 環境共創イニシアチブによる「集合住宅におけるZEHの設計ガイドライン」が公開されています。集合住宅ZEHの設計などを検討している事業者は確認しておきましょう。
関連記事:これは助かる、担当者必見!環境関連 用語集 <カテゴリ別>
ZEHのメリットとデメリット
ZEHは、断熱と再生可能エネルギーによって消費電力をゼロに抑えられる住宅です。省エネルギー効果以外にも、ZEH仕様ではない住宅と比較した場合のメリットとデメリットがあります。
ZEHに活用できる補助金制度
ZEHはその種類に応じて、国の補助金を始めとした減税措置や非課税制度を利用できます。ここでは令和7年度の補助金について紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
【令和7年度交付決定の補助金などの種類】
補助金の種類 | 詳細 |
戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業 | ZEHの要件を満たす戸建住宅:55万円
ZEH+の要件を満たす戸建住宅:90万円 |
子育てグリーン住宅支援事業 | <補助対象>申請時点において2005年4月2日以降に出生した0~19歳の子を有する家庭
<補助内容>40万円/戸(建て替えの場合60万円/戸) |
住宅ローン減税 | <補助対象>ZEHの要件を満たす住宅に入居
<補助内容>3,500万円の借入れで0.7%の控除(原則13年間) |
贈与税の非課税枠が拡大 | <補助対象>2025年1月1日~2026年12月31日に申請
居住の用に供する家屋であること <補助内容>非課税限度額が1,000万円 本来の110万円と足して1,110万円 |
給湯省エネ2025事業 | <補助対象>住宅の建築主および購入者、リフォーム工事発注者
<補助内容> 家庭用燃料電池(エネファーム):16万円/台 ハイブリッド給湯機(エコワン):8万円/台 ヒートポンプ給湯機(エコキュート):6万円/台 |
ZEHとZEH+を対象とした補助事業には環境省の「戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業」があります。ZEHの要件を満たす戸建住宅は55万円、ZEH+の要件を満たす戸建住宅には90万円の定額補助が交付されます。
なお、補助金制度は公募の年度ごと条件が変わる場合があります。補助金へ申請できる要件も異なる場合があるため、最新の公募要領を確認してから活用してください。
建築業者はZEHビルダー/プランナー制度の登録を検討する
ZEHの補助事業には、ZEHビルダー/プランナー制度に登録された事業者の関与が必要になります。ハウスメーカー・工務店・建築設計事務所・リフォーム業者・建売住宅販売者は、ぜひこの機会に登録をご検討ください。
ZEHビルダー/プランナー制度は、事業趣旨を理解し、定められた要件を満たすことで登録が可能です。登録時、建設会社は「ZEHビルダー」を、建築設計事務所は「ZEHプランナー」を選択します。
【ZEHビルダー/プランナー制度の登録要件】
要件 | 詳細 |
「普及目標」を設定する
|
2020年度のZEH建築実績に基づく目標設定
|
普及実績と普及目標の公表 | 自社ホームページでの以下の公表
|
参照:一般社団法人 環境共創イニシアチブ「ZEHビルダー/プランナー登録 (フェーズ2)」
また、ZEHビルダー/プランナーは、オーナーの代わりに補助制度の申請を行う手続代行者も兼務できます。ZEHビルダー/プランナーが手続代行として行う業務は各補助事業の公募要領によって異なります。
まとめ
ZEHとは、断熱や再生可能エネルギーによって消費電力をゼロに抑える住宅のことです。ZEHの基準を満たすためには、創出する電力が消費電力と同じか上回るような設備の導入が必要となります。
ZEHはエネルギー消費量の削減割合に応じて「ZEH」「Nearly ZEH」「ZEH Oriented」「ZEH+」「Nearly ZEH+」の5種類に分類されます。また、ZEHの定義として外皮性能の基準や年間エネルギー消費量や外皮性能の定量的な基準が設けられています。
ZEHにはそれぞれ省エネルギー設備や太陽光発電を導入しない住宅と比較した場合のデメリットがあります。デメリットのひとつである初期コストがかかる点に関しては、ZEHの種類に応じた国の補助金制度を活用することを検討してみてください。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。

この記事の監修

リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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