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カーボンクレジットにおける価格の仕組みと推移|今後の動向や予測

カーボンクレジットにおける価格の仕組みと推移|今後の動向や予測

CO2排出量の多い建設業界にとって、カーボンクレジットは活用方法も含めて仕組みを把握しておくべき制度の一つです。カーボンクレジットは需要と供給のバランスによって価格が決まるほか、クレジットの品質や信頼性も重要な価格変動の要因として挙げられます。

本記事では、カーボンクレジットにおける価格の仕組みと推移を解説しています。また、今後の動向や予測、情報収集の仕方も紹介しているため、カーボンクレジットの有効活用を検討している方は参照してみてください。

カーボンクレジット価格の決まり方

カーボンクレジット価格の決まり方

カーボンクレジット価格は需要と供給のバランスによって価格が変動します。また、クレジットの品質と信頼性に価格が影響を受けることも特徴です。

以下では、需給バランスによる価格変動と、クレジットの品質と信頼性が与える影響、各国の炭素政策や規制の影響を解説します。

需給バランスによる価格変動

カーボンクレジットにおける価格形成の基本的な仕組みは、市場の需要と供給のバランスが価格を左右する主要な要因となっており、バランスによって価格の上昇や下落が発生します。

近年、企業の環境意識の高まりとともに、CO2の削減目標がより厳格になる傾向にあります。環境意識の高まりにより、カーボンクレジットへの需要が急激に増加し、結果として価格の上昇圧力が生まれているのが現状です。

また、すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄うことを目指すRE100のような国際的な取り組みに参加する企業が増加していることも価格上昇の要因の一つです。他にもプロジェクトの種類や認証機関の基準の厳しさも、価格決定の重要な要素として挙げられます。

クレジットの品質と信頼性が与える影響

カーボンクレジットの価格形成において、クレジットの品質と信頼性も要因の一つです。市場は、クレジットの価値を判断する際に複数の重要な評価基準が設けられており、これらの基準を満たす程度によって価格が変動します。

品質評価の核となるのは、次の3つの要素です。

  • 追加性
  • 永続性
  • 測定可能性

追加性は、そのプロジェクトがなければ実現しなかった削減効果であることを証明する必要があり、二重計上を防ぐ指標です。削減効果が一時的なものではなく長期間にわたって持続する永続性や、効果を客観的かつ正確に数値化できる測定可能性も、品質を左右します。

基準をより厳格に満たすクレジットは、市場で高い評価を受け、相応の高価格で取引されています。実際の取引においては、森林系プロジェクトと再生可能エネルギー系プロジェクトの間で大幅な価格差が生じているのが現状です。

各国の炭素政策や規制の影響

カーボンクレジット市場は、各国の気候変動政策や規制の動向にも左右される特徴があります。政府による政策変更は、企業の環境戦略に直接的な影響を与え、結果としてカーボンクレジットの需要構造を変化させる重要な要因です。

炭素税の導入や排出量取引制度の強化といった政策措置が、企業の脱炭素への取り組みを促進させています。これらの制度により、企業はCO2排出に対してより高いコストを負担することになり、排出削減への経済的インセンティブが強化されます。

国際的な動向として、EUの排出量取引制度やCBAMなどの政策が注目されており、世界的なカーボンクレジット需要に影響を与えているのが現状です。日本においても、2028年に炭素賦課金の開始が予定されており、国内企業のカーボンクレジットに対する需要が今後さらに高まることが予想されます。

関連記事:カーボンクレジットとは?仕組みやメリット・デメリットについて

日本のカーボンクレジット価格の現状

日本のカーボンクレジット価格の現状

日本のカーボンクレジットとしてJ-クレジットがあります。J-クレジットの価格推移や入札価格と市場価格の違い、他国との価格比較をそれぞれ解説します。

J-クレジットの価格推移

J-クレジットの価格は次のような価格で推移しています。

取引量 価格
2016年6月 1,000トン 510円/トン
2020年6月 200,000トン 1,887円/トン
2021年4月 200,293トン 2,536円/トン
2023年5月 259,721トン 3,246円/トン

制度開始当初の2016年6月時点では、市場の認知度が低く需要も限定的だったため、平均販売価格は1トンあたり510円の比較的低い水準でスタートしました。

転機となったのは2021年4月で、この時期に2000円台に到達し、明確な価格上昇トレンドが始まっています。再生可能エネルギーに対する社会的関心の高まりと連動して、再エネ発電由来のクレジットに対する需要が急激に拡大したことで、2023年5月には価格が3,246円まで上昇し、制度開始時の約6倍の水準に達する変化を遂げました。

出典:J-クレジット制度事務局/J-クレジット制度について

入札価格と市場価格の違い

J-クレジットの売買は主に相対取引と入札販売の方法で行われています。J-クレジットには統一的な定価が設定されていません。一般的な商品とは異なり、市場の需給状況や取引当事者の事情によって価格が柔軟に変動する仕組みです。

相対取引では、売り手と買い手が直接交渉を行うため、具体的な取引価格や取引量は外部からは把握できません。一方で、制度事務局が定期的に実施する入札販売は、結果が制度のホームページで公開されており、市場参加者にとって重要な価格指標として扱われています。

入札価格は公開性と透明性を持つため、市場全体の価格動向を把握するうえで貴重な情報源として機能しており、相対取引における価格交渉の参考材料としても活用されています。

他国との価格比較

日本のカーボンクレジット市場は、政府のGX基本方針に基づく政策的な後押しにより、2023年10月に東京証券取引所で本格的な取引が開始されました。

東京証券取引所での取引実績を見ると、開始から11月末までの約2か月間で34,665トンのクレジットが取引され、全体の平均取引価格は2,381円です。この数値は、日本の炭素市場が着実に動き始めていることを示しています。

一方で、国際的な視点で比較すると、日本の炭素価格は依然として低い水準にあることが明らかです。2021年度の各国データによると、スウェーデンでは15,645円、スイスは11,568円と高い炭素価格が設定されている一方、日本の再生可能エネルギー由来J-クレジットは2,995円です。

価格差は、各国の環境政策の厳格さや市場の成熟度の違いを反映しており、日本の今後の政策展開が重要な影響を与えます。

出典:環境省/気候関連財務情報開示を企業の経営戦略に活かすための勉強会

カーボンクレジットの価格上昇が予想される理由

カーボンクレジットの価格上昇が予想される理由

カーボンクレジットの価格は、次の理由により上昇が予想されています。

  • IPCC・IEAなど国際機関の価格シナリオ
  • 高品質クレジットの需要集中
  • 技術投資の高騰と供給不足

以下にそれぞれの要因を詳しく解説します。

IPCC・IEAなど国際機関の価格シナリオ

国際エネルギー機関IEAが発表した「World Energy Outlook 2020」では、持続可能な開発目標の達成を前提としたシナリオで、先進国の電力・産業・航空部門における炭素価格が段階的に上昇することが予測されています。

具体的には、2025年には約6,900円、2040年には約15,260円まで上昇する見込みで、現在の日本の価格水準と比較すると大幅な上昇が想定されています。

さらに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、2035年までに2019年度比で60%のCO2排出削減を実現するためには、カーボンクレジット価格を1トンあたり約20,000円から35,000円程度まで引き上げが必要です。

高品質クレジットの需要集中

カーボンクレジットの品質基準となるのが、ICVCM(The Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)のコアカーボン原則に準拠したクレジットです。高品質クレジットは、世界の脱炭素に実質的に貢献する効果が認められており、企業の環境戦略において重要な価値を持っています。

一方で、本質的な脱炭素効果が限定的で、グリーンウォッシュの誤解を招く可能性がある低品質クレジットとの区別がより明確になることが想定されます。

現在の市場において、真に高品質なクレジットの流通量は限られており、供給不足が価格上昇の主な要因です。企業の環境意識の高まりとともに、信頼性の高いクレジットに対する需要が急激に拡大している一方で、供給が追いついていない状況が続いています。

技術投資の高騰と供給不足

カーボンクレジット市場の将来展望において、技術投資の高騰と供給制約が価格上昇の重要な推進力となることが予想されています。ブルームバーグNEFが発表した「カーボンオフセット長期見通し」では、カーボンクレジット市場の総額が、早ければ2037年に1兆ドルに達する可能性があることが示されました。

より厳しい品質定義の導入により、市場の信頼性が向上し、結果として価格上昇と需要拡大循環が生まれることが指摘されています。特に、大気中から直接CO2を回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)技術は将来的に排出削減に貢献すると期待されています。このような新技術が実用化されることで新たに市場にクレジットが大量供給されることになります。しかし、DAC実用化及び展開にはコストが必要となるため実用化には時間がかるため、2037年頃から市場は一時的なクレジットの供給不足に陥り、DAC実用化までクレジット価格が高騰するとと予測されています。

カーボンクレジットの価格を見極めるための情報収集術

カーボンクレジットの価格を見極めるための情報収集術をここでは解説します。カーボンクレジットを見極めたうえで、長期的な戦略を立てることが建設業には求められるため、ここで紹介する情報収集術を参照してみてください。

取引所での価格確認方法

日本国内では、東京証券取引所やCarbonEXの取引所が、それぞれのプラットフォーム上で取引されているカーボンクレジットの価格情報を一般に公開しています。

これら取引所のWebサイトでは、市場参加者にとって重要な情報が包括的に提供されています。リアルタイムの価格情報により最新の市場動向を把握できるほか、過去の取引履歴を分析することで価格トレンドや変動パターンを理解可能です。

取引所ごとに取り扱うクレジットの種類には特徴があります。東京証券取引所のカーボン・クレジット市場では、主に国内で発行されるJ-クレジットが取引対象です。一方、CarbonEXではより幅広いラインナップを提供しており、ボランタリーカーボンクレジットやJ-クレジット、非化石証書に加えて、海外で発行されたクレジットも取引されています。

データベンダーやレポートの活用

カーボンクレジット市場の価格分析で、専門的なデータベンダーやレポートの活用は極めて重要な情報収集手段です。

市場をリードする主要なデータプロバイダーとして、S&P Global PlattsやBloomberg NEFなどの国際的な金融情報企業が挙げられます。これらの企業は、世界規模でのカーボンクレジット市場に関する詳細な価格情報と市場分析を提供しており、グローバルな視点での市場分析を可能にしています。

国内は、野村総合研究所が国内外のデータプロバイダーから収集した価格データをもとに、日本のカーボン市場の動向分析や各国の最新政策情報を提供していることが特徴です。

価格変動要因をモニタリングする視点

カーボンクレジット市場において価格変動を正確に予測するためには、市場に影響を与えるさまざまな要因を継続的にモニタリングすることがポイントです。各国や企業の排出量目標の変化、環境政策の導入時期、再生可能エネルギーの導入拡大状況などがモニタリング対象として挙げられます。

売買区分の見直しをはじめとする制度改革により、市場参加者にとってより使いやすく、かつ信頼性の高い取引環境の構築が目指されています。制度変更は価格形成メカニズムに直接的な影響を与えるため、市場関係者にとって動向を注視すべき重要な要素です。

政策変更のタイミングや内容を事前に把握することで、価格変動リスクを適切に管理できます。

関連記事:カーボンクレジットの仕組みや制度の種類を紹介

まとめ

まとめ

本記事では、カーボンクレジットにおける価格の仕組みと推移を解説しました。カーボンクレジット価格は需要と供給のバランスによって価格が変動します。また、クレジットの品質と信頼性に価格が影響を受けることも特徴です。

国際的な動向として、EUの排出量取引制度やCBAMなどの政策が注目されており、世界的なカーボンクレジット需要に影響を与えているのが現状です。

建設業界として、カーボンクレジットの価格動向を見極め、適切な戦略を立てていくことが重要です。そのためには、情報収集をしなければなりません。カーボンクレジットの価格を見極めるための情報収集術として3つのポイントを紹介しているため、カーボンクレジットの動向を注視している方は参照してみてください。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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