安定した電力供給にはエネルギーミックスの考え方が欠かせません。日本政府により2030年に向けたエネルギーミックスの目標も制定されており、建設業界としても住宅・ビルのネット・ゼロ・エネルギー化など関連する内容も進められているのが現状です。
本記事では、エネルギーミックスの概要から解説しています。また、考え方の基本となる「S+3E」や2030年の詳しい目標値も解説しているため、参考にしてみてください。
目次
エネルギーミックスとは

エネルギーミックスとは、様々な発電方法を組み合わせることを言います。日本にとってはエネルギー自給率の低さから、安定した電力供給のために必要な考え方とされています。エネルギーミックスの概要と、なぜ必要とされているのかを詳しく解説します。
エネルギーミックスの概要
エネルギーミックスは、複数の発電方法を効果的に組み合わせることで、電力供給の安定性と効率性を担保します。
従来から主力となってきた火力発電では、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が使用されています。これに加えて、原子力発電や水力発電、さらには太陽光や風力など温室効果ガスの排出が少ない再生可能エネルギーによる発電方法が活用されています。
エネルギー源の特性に応じて様々な発電方法を組み合わせることで、単一の発電方法に依存せず、電力の安定供給を実現しています。このように、気候変動対策を取り入れた多様な電源構成が、現代の電力供給システムの基盤として欠かせなくなっています。
エネルギーミックスの必要性
エネルギーミックスが必要とされる根本的な理由は、完璧な発電方法が存在しない現実にあります。想定外のトラブルや事故により電力供給が停止されることも考えられるため、特定の発電方法のみに依存することは避けなければなりません。
特に、日本のエネルギー自給率はわずか12.6%と極めて低く、エネルギー資源の多くを海外に依存しており、エネルギー安全保障の懸念点となっています。さらに、日本は世界有数のエネルギー消費大国であり、産業活動や日常生活で大量の電力を必要としています。このため、安定した発電方法と共に自国の資源で発電できる発電方法が必要とされています。
発電方法には火力発電や原子力発電、水力発電、太陽光発電など様々な種類があり、それぞれに独自の長所と短所が存在しています。何かしらの発電方式が自然災害や資源の枯渇、国際情勢の変化などの理由で利用できなくなった場合、電力供給に深刻な支障をきたす可能性があるためエネルギーミックスの考え方が必要となっています。
参照:経済産業省 資源エネルギー庁/エネルギーに関するさまざまな動きの今がわかる!「エネルギー白書2024」
エネルギーミックスの「S+3E」

エネルギーミックスの基本理念として、「S+3E」の考え方があります。安全性(Safety)を最優先としつつ、3つのE、すなわち安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に達成することを目指す概念です。
特に安全性は、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故の経験を踏まえ、日本のエネルギー政策で最重要事項として位置づけられています。安全性を大前提としながら、エネルギーの安定供給も重要な課題で、特定の国や地域への依存度を下げ、調達先の多様化や自給率の向上、災害に強いシステムの構築が欠かせません。
また、エネルギー価格は国民生活や経済活動に大きな影響を与えることから、経済効率性の担保も重要な要素です。近年では、気候変動対策の観点から、CO2を排出しないクリーンエネルギーへの転換が世界的な課題となっており、環境適合性への配慮も不可欠となっています。
このS+3Eの各要素をバランスよく実現することが、現代のエネルギー政策の要とされています。
各発電方法のメリット・デメリット

ここでは、主要な発電方法のメリット・デメリットを解説します。次の3つの発電方法をみていきましょう。
- 原子力発電
- 火力発電
- 再生可能エネルギー(太陽光発電、水力発電など)
以下にそれぞれのメリット・デメリットを解説します。
原子力発電
原子力発電は、ウラン235を燃料として利用する発電方式です。原子炉内でウラン235に中性子を当てることで核分裂反応が起こり、その過程で生じる膨大な熱エネルギーを利用して発電を行います。
原子力発電の最大の特徴は、発電時のCO2排出量が少ないことにあります。原子力発電のCO2排出量は、地熱発電に次いで3番目に低い水準です。また、他の発電方式と比較して発電効率が高く、コストパフォーマンスに優れているメリットもあります。
一方で、原子力発電は、事故が発生した際の被害規模が甚大になる可能性があることがデメリットです。また、使用済み燃料の最終処分方法も問題視されています。使用済み燃料からは放射線が放出されるため、長期にわたる適切な管理が不可欠です。
火力発電
火力発電は、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃焼させて発電する方式です。火力発電の特徴は、高い供給安定性にあります。天候に左右されることなく、燃料さえあれば常に一定の電力を供給できる点がメリットです。
さらに、火力発電は発電効率が高く、発生したエネルギーを無駄なく電力として活用できます。出力調整の柔軟性にも優れ、電力需要の変動に応じて発電量を細かく制御可能です。必要な時に必要な量だけの電力を供給でき、余剰電力による無駄を最小限に抑えられます。
一方で、火力発電で深刻なのは、発電過程で地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出することです。また、日本は火力発電の燃料となる化石燃料のほぼ全てを海外からの輸入に依存しており、エネルギー安全保障の観点からも課題を抱えています。
再生可能エネルギー(太陽光発電、水力発電など)
再生可能エネルギーは、太陽光や風力、地熱、中小水力、バイオマスなど、自然環境を活用して電力を生産する発電方式の総称です。再生可能エネルギーは、発電時にCO2を排出せず、環境負荷が低い特徴があります。
また、化石燃料とは異なり、資源を消費することなく半永久的に利用できる点も大きなメリットです。さらに、自然の力を利用するため、大規模な災害時でも一定の電力供給が可能です。
デメリットとしては、面積あたりの発電効率が低く、大量の電力を生産するためには広大な設置スペースが必要となることや、初期投資を含む発電コストが高額になる傾向があることが挙げられます。
天候などの自然条件に大きく左右されるため、安定的な電力供給が難しいなど技術的な課題もデメリットです。
世界のエネルギーミックスの事情

世界のエネルギーミックスの事情として、次の3国の状況を解説します。
- アメリカ
- カナダ
- フランス
それぞれの内容を詳しく解説します。
アメリカ
アメリカのエネルギーミックスは、石炭や天然ガス、太陽光、風力、原子力など、多様な発電方式で構成されています。かつての主力電源であった石炭火力発電の割合が大きく変化し、石炭による発電は、現在では全体の2割程度にまで減少していることが特徴です。
構成割合の変化を牽引したのが、2000年代に起きた「シェールガス革命」です。シェールガス革命により、アメリカ国内で天然ガスの生産量が飛躍的に増加し、エネルギー供給構造に大きな変革をもたらしました。
結果として、天然ガスを用いた発電が急速に拡大し、エネルギーミックスの重要な柱となっています。
参照:JETRO/米2022年の再エネ発電量、石炭発電と原子力発電をそれぞれ上回る
カナダ
カナダのエネルギーミックスの特徴は、恵まれた自然環境を活用した水力発電が主力であることです。全発電量に占める再生可能エネルギーの比率は65.6%と世界トップクラスであり、その大部分を水力発電が占めています。
高い水力発電比率を可能にしているのが、カナダの地理的特徴です。国土には起伏の激しい地形が広がり、発電に適した河川が豊富に存在しています。代表例が、世界三大瀑布の1つとして知られるナイアガラの滝です。オンタリオ州に位置するこの滝にも水力発電所が設置され、安定した電力供給に貢献しています。
カナダは自国の地理的優位性を最大限に活かし、環境負荷の低い持続可能なエネルギー供給体制を確立していることが特徴です。
フランス
フランスのエネルギーミックスは、原子力発電への高い依存度が特徴として挙げられます。日本と同様に化石燃料資源に恵まれないフランスは、1973年のオイルショックを契機として原子力発電の開発を積極的に推進してきました。現在では発電電力量の6割以上を原子力発電が占めています。
原子力発電を中心としたエネルギー政策により、フランスは大きな成果を上げてきました。エネルギー自給率は50%以上にまで向上し、温室効果ガスの排出量削減に成功しています。
フランスを含むヨーロッパ地域の特徴として、国境を越えた充実したエネルギーインフラがあります。送電網やガスのパイプラインが各国間で整備されており、必要に応じて相互にエネルギーを融通することが可能な体制が構築されていることが強みです。
地域的な協力体制も、フランスのエネルギー安全保障を支える重要な要素です。
2030年のエネルギーミックスの目標とは

2030年に向けたエネルギーミックスの目標は、2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」で明確に示されています。「2050年カーボンニュートラル宣言」を踏まえつつ、より具体的な中期目標を設定しています。
計画の核心は、2030年度までにCO2排出量を2013年度比で46%削減する目標です。さらに、この目標にとどまらず、50%削減の高い目標に向けても継続的な取り組みを行うことが示されています。
野心的な見通しとして掲げられた具体的な目標は次の通りです。
| 使用エネルギー | 割合 |
| 再生可能エネルギー | 36~38% |
| 水素・アンモニア | 1% |
| 原子力 | 20~22% |
| 天然ガス(LNG) | 20% |
| 石炭 | 19% |
| 石油等 | 2% |
| 発電電力量 | 約9340億kWh程度 |
参照:今後の再生可能エネルギー政策について|資源エネルギー庁
目標が達成された場合、日本のエネルギー自給率は現在のわずか12.6%(2022年度)から2030年には22~24%程度にまで大幅に向上する見通しです。
【建設業界】エネルギーミックスに向けた取り組み

エネルギーミックスに向けた取り組みとして建設業界に関連する内容を次の項目で紹介します。
- 産業部門
- 業務・家庭部門
- 運輸部門
以下にそれぞれの部門の詳細を解説します。
産業部門
産業部門の建築業でのエネルギーミックスへの取り組みは、建築業で工場を建てる際に関係があり、主に省エネ法を基盤として進められています。
省エネ法では、工場などの設置者に対して具体的な省エネルギーの判断基準を提示しており、設備管理の基準や年間1%のエネルギー消費効率改善など明確な目標を設定しています。
特に重要な規制対象となるのが、年間1,500キロリットル以上のエネルギーを使用する「特定事業者」です。約12,000の事業者が該当し、事業者にはエネルギー使用状況の報告が義務付けられています。
さらに、2008年には「産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)」が導入されました。各業界で最も効率的なエネルギー利用を実現している上位1~2割の事業者の水準を目標として設定し、業界全体の省エネ水準の底上げを図るもので、業界の特性に応じた最適な省エネ対策の促進が目指されています。
なお、建築物省エネ法が2025年4月に改正されました。省エネ基準が全棟義務化となりました。詳細は、こちらの記事でご紹介しています。
業務・家庭部門
建設業として業務・家庭部門でのエネルギーミックスの取り組みは、戸建やマンションなどの新築建物を作るとき省エネ化が挙げられます。現在、新築建築物に対する省エネ基準への適合が義務化され、建築物全体のエネルギー消費性能の向上を図ることが必要になっています。
注目すべき取り組みの1つが、住宅・ビルのネット・ゼロ・エネルギー化です。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の促進により、2030年に向けて建築物で新たな省エネルギーモデルの確立と普及を目指しています。
ZEHやZEBが持つ知的生産性や快適性などの多面的な価値の認知促進も重要な課題とされており、これらの建築物が社会に自立的に普及していくための施策が進められています。
運輸部門
運輸部門での建築業界でのエネルギーミックスへの取り組みは、土や資材などを運ぶトラックに関係しています。現在、物流の効率化を中心に展開され、貨物輸送に関わる事業者間の連携強化に重点が置かれています。
省エネ法では2005年以降、貨物輸送事業者に輸送を委託する「荷主」を規制対象とし、荷主に対しては、省エネに資する輸送方法の選択や貨物輸送事業者との連携、年間1%のエネルギー消費効率改善などの具体的な判断基準を遵守しなければなりません。
さらに近年では、所有権の有無にかかわらず輸送方法を決定する権限を持つネット小売事業者も荷主として規制対象に含められるようになりました。また、新たに準荷主の概念が導入され、貨物の到着日時等を指示できる荷受側にも、荷主の省エネ取り組みへの協力が求められています。
まとめ

本記事では、建設業界向けにエネルギーミックスを解説しました。エネルギーミックスとは、電力供給を安定的に行うための重要な考え方です。エネルギーミックスは、複数の発電方法を効果的に組み合わせることで、電力供給の安定性と効率性を担保します。
何かしらの発電方式が自然災害や資源の枯渇、国際情勢の変化などの理由で利用できなくなった場合、電力供給に深刻な支障をきたす可能性があるためエネルギーミックスの考え方は必要です。
2030年度までにCO2排出量を2013年度比で46%削減する目標が立てられ、エネルギー源とする割合の目標値も設定されています。
エネルギーミックスに向けた取り組みとして建設業界に関連する内容も紹介しているため、参考にしてみてください。

この記事の監修
リバスタ編集部
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