炭素税の価格は建設業にとって、燃料価格の上昇による業界全体のコスト構造変化など、さまざまな面で影響が避けられない要素です。世界的には日本の炭素税価格は低水準にあるため、今後の動向次第ではさらに高い税率が設定される可能性もあります。
本記事では、炭素税の価格が企業に与える影響を解説しています。また、対応戦略や今すぐ始めるべき対策も解説しているため、建設業に携わる方は参照してみてください。
炭素税とは何か?建設業が押さえるべき基礎知識

炭素税とは、環境税の一種で炭素の含有量に応じて税金をかけることで、脱炭素を促すことを目的とした税制です。ここでは、脱炭素の詳しい定義やカーボンプライシングとの違い、日本の現状を解説します。
炭素税の定義と導入の目的
炭素税は化石燃料の炭素含有量に基づいて課税することで、市場を通じた温室効果ガス削減を目指しています。
石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料の使用に対し、それぞれの炭素含有量に応じて税負担を課します。税が課されることにより化石燃料の価格が上昇し、消費者や企業の需要が自然に抑制される仕組みです。結果として社会全体のCO2排出量削減につながることが期待されています。
これにより、省エネ技術の導入や再生可能エネルギーへの転換など、積極的に温暖化対策に取り組む企業や個人は相対的に税負担が軽減されます。一方で、従来通りの高炭素型の活動を続ける場合は、相応の経済負担を負うことになりかねません。
カーボンプライシングとの違い
カーボンプライシングは、CO2排出量に対して経済的コストを設定し、排出者に財政負担を求める政策枠組みです。
カーボンプライシングは政府による実施方法によって明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングの2つの形態に分類されます。明示的カーボンプライシングは、炭素排出に対して直接的に価格を設定する手法で、排出量取引制度や炭素税が該当します。
一方、暗示的カーボンプライシングは、燃料税や規制措置など、間接的に炭素排出コストを発生させる政策です。
炭素税は環境税制の一部として位置づけられ、明示的カーボンプライシングの代表的な政策手段です。
日本の炭素税制度の概要と現状
日本における炭素税制度は、「地球温暖化対策税」として2012年に本格導入されました。地球温暖化対策税は、化石燃料の消費段階で課税される仕組みで、石油、石炭、天然ガスなどの使用量に応じて税負担が発生します。
地球温暖化対策税は次の内容で運用されています。
| 項目 | 内容 |
| 課税対象 | 原油・石油製品・天然ガス・石炭 |
| 税率 | 約289円 ※CO2 1トンあたり |
| 徴収方法 | 化石燃料の輸入・採取時 |
税収は再生可能エネルギーの普及促進や省エネルギー対策の支援など、温暖化対策事業の財源として活用されています。
ただし、日本の地球温暖化対策税の税率は国際的に見ると比較的低水準に設定されており、より効果的な排出削減を実現するための税率引き上げや制度拡充について継続的な議論が行われているのが現状です。
炭素税の価格水準と国際比較

炭素税に関して、国内でどのような価格で推移してきたのか、価格水準がどのようになっているのかを解説します。また、世界各国ではどのような状況となっているのかもあわせて紹介します。
日本における炭素税価格の推移
日本では、CO2排出量1トンあたり289円という統一的な炭素価格を基準として設計されています。石油、石炭、天然ガスなど異なる化石燃料に対しても、それぞれの排出原単位に応じた公平な税率が適用される仕組みです。
制度導入に際しては、経済への急激な影響を緩和するため、段階的な税率引き上げ方式が採用されました。具体的には次の価格で推移してきています。
| 年 | 税率 |
| 2012年10月 | 石油:250円/kl
ガス:260円/t 石炭:220円/t |
| 2014年4月 | 石油:500円/kl
ガス:520円/t 石炭:440円/t |
| 2016年4月 | 石油:760円/kl
ガス:780円/t 石炭:670円/t |
段階的導入により、企業や消費者が新しい税制に適応する時間的余裕が担保され、省エネルギー投資や技術転換への準備期間が提供されました。
海外主要国との価格比較(スウェーデン・ドイツなど)
国際的な炭素税制の導入状況を見ると、1990年のフィンランドによる世界初の導入から始まり、現在では37カ国が炭素税を実施しています。炭素税制は、各国が自国の経済状況や環境目標に応じて税率を設定しています。
特にヨーロッパ地域では、炭素税と並行してEUの排出量取引制度も運用されており、複層的な炭素価格が構築されていることが特徴です。
各国の炭素価格を比較すると、日本のCO2排出量1トンあたりの水準は国際的に見て低い位置にあります。一方で、ウルグアイやスウェーデンなど1トン当たり140米ドル以上と高い炭素価格を設定している国も存在します。フランスやフィンランド、ノルウェーなどの欧州主要国も日本より高い水準です。
出典:日興リサーチセンター/「State and Trends of Carbon Pricing 2024」
今後の価格引き上げと予測シナリオ
日本の炭素価格制度は現行の地球温暖化対策税を基盤としつつ、より本格的なカーボンプライシング制度への発展が進められています。環境省は現在の税率水準では十分な排出削減効果が期待できないとして、抜本的な制度強化の必要性を検討しています。
2023年5月に成立したGX推進法では従来の温対税に加え、2つの新しいカーボンプライシング制度が段階的に導入されることが決定されました。まず2028年度から開始される化石燃料賦課金は、燃料の上流段階である採取業者や輸入業者を対象とした制度です。
続いて2033年度には特定事業者負担金が導入され、特に排出量の多い発電事業者に対してより重い負担が課されます。
出典:環境省/我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況
炭素税が建設業に与える影響

炭素税が建設業に与える影響として、次の内容が挙げられます。
- 燃料価格の上昇と工事コストへの転嫁
- 取引先からの値上げ圧力とサプライチェーンの波及
- 利益率への影響と対策の必要性
建設業にどのような影響を与えるのか、自社の状況も踏まえて参照してみてください。
燃料価格の上昇と工事コストへの転嫁
建設現場で不可欠な重機類は大量の化石燃料を消費するため、炭素税による燃料価格の上昇が業界全体のコスト構造を大きく変化させることが予想されます。
特にブルドーザーやショベルカーなどの大型建設機械は、作業効率を重視した設計のため燃料消費量が極めて多く、炭素税導入による燃料費上昇の影響は避けられません。重機は長時間稼働するため、わずかな燃料価格の上昇でも、プロジェクト全体の運営コストに大きな影響を与えます。
結果、一件あたりの工事費用が大幅に増加し、負担は最終的に発注者や消費者に転嫁される可能性があることが懸念点です。建設業界の競争力低下や建設コストの高騰を通じて、住宅価格やインフラ整備費用の上昇につながる恐れもあります。
取引先からの値上げ圧力とサプライチェーンの波及
炭素税制の税負担が燃料生産者や電力会社などの上流企業に課された場合でも、負担は市場構造を通じて必然的に下流企業へと波及します。サプライチェーンの価格転嫁の過程で、建設業界は特に厳しい立場に置かれることが予想されます。
セメント、鉄鋼、アスファルトなどの建設資材メーカーが炭素税負担の増加を材料費に反映させる一方で、電力コストの上昇も加工費や輸送費の押し上げ要因です。
サプライチェーン全体でのコスト増加は、個別の建設プロジェクトの収益性を直接的に圧迫します。材料費、機械燃料費、電力費の同時上昇により、従来の積算基準では採算が取れない状況が生まれる可能性があります。
利益率への影響と対策の必要性
燃料費や電力費、資材費の同時上昇は、建設会社の収益性を圧迫します。固定価格契約が一般的な建設業界では、契約締結後のコスト増加を価格に反映することが困難であり、追加負担が直接的に利益を削減する構造です。中小建設業者にとっては、わずかな利益率の悪化でも経営存続に関わる問題となりかねません。
そのため、建設業界では抜本的な事業戦略の見直しが急務です。省エネルギー技術の積極導入、建設機械の電動化推進、工法の効率化、再生可能エネルギーの活用など、脱炭素と収益性向上を両立する取り組みが求められます。
炭素税による企業経済への影響と対応戦略

炭素税が企業にとって、コストや価格競争の面でどのような影響を与えるのか解説します。また、対応戦略の一つとなる国による税収の活用と企業支援制度も紹介します。
企業の直接的コスト負担の増加
建設業は、製造プロセスで大量の化石燃料を必要とするため、炭素税の導入により従来のコスト構造が根本的に変化します。
鉄鋼業、化学工業、セメント製造業などの重工業分野では、高温での加熱処理や化学反応に石炭や天然ガスが不可欠であり、燃料コストが製造原価に占める割合は極めて高いのが現状です。炭素税による燃料価格の上昇は、企業の変動費を直接的に押し上げ、製品一単位あたりの製造コストを増加させます。
炭素税の価格と競争力のバランス
国際市場では、炭素税負担の重い企業が税負担の軽い国の競合他社と競争する際、同一品質の製品でも価格面で不利な立場に置かれます。
極端な場合、企業が生産拠点を炭素税の低い国に移転する現象が発生し、国内産業の空洞化を招くことがリスクです。一方で、炭素税は同時に革新的な技術開発を促進する経済的インセンティブとしても機能します。
高い炭素コストに直面した企業は、省エネルギー技術の導入、生産プロセスの効率化、代替エネルギーの活用などの技術革新により、長期的には炭素税負担を上回るコスト削減効果や、環境技術分野での新たな競争優位性を獲得する可能性があります。
国による税収の活用と企業支援制度
省エネルギー技術の導入や脱炭素設備への投資に対する補助金制度は、企業が抱える初期投資の負担を大幅に軽減します。特に中小企業にとって、数千万円から数億円規模の設備投資は経営上の大きなリスクですが、補助金による支援により実現可能性が高まることがメリットです。
例えば、太陽光発電設備の導入時における課税標準の特例適用により、企業の税負担が軽減され、投資回収期間の短縮が期待できます。さらに、環境・エネルギー対策資金による低利融資制度は、資金調達面での支援を提供しています。
建設業が今すぐ始めるべき炭素税対策

建設業が今すぐ始めるべき炭素税対策として、省エネ機器の導入や再エネ電力の導入によるCO2排出削減があります。それぞれの対策方法を解説します。
省エネ機器の導入とエネルギー管理の徹底
建設業界における炭素税対策として、省エネ機器の導入とエネルギー管理の徹底は即効性の高い取り組みです。例えば、建設機械の中でも油圧ショベルは温室効果ガス排出量の59%を占める主要な排出源となっており、油圧ショベルの効率化が業界全体の脱炭素で決定的な意味を持ちます。
従来のディーゼルエンジン駆動の油圧ショベルでは、燃料から実際の作業に変換されるエネルギー効率がわずか20%と極めて低い水準です。課題に対する解決策として、ハイブリッド技術の導入が注目されています。
実証試験の結果、ハイブリッド化された油圧ショベルでは60%以上の燃料削減効果が確認されており、従来機と比較して大幅なコスト削減が可能です。
電動建機の導入や高効率発電設備への転換などの技術革新により、建設現場でのエネルギー消費量を根本的に削減し、炭素税負担の軽減を図れます。
出典: 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構/世界初のハイブリッドショベル開発、省エネ、CO2削減に大きく寄与
再エネ電力の導入によるCO2排出削減
建設業界における再生可能エネルギー電力の導入は、炭素税対策として効果的な取り組みです。工事現場や事務所での電源を再エネ化することで、直接的なCO2排出量削減とコスト負担軽減の両方を実現できます。
建設現場では仮設事務所、照明設備、電動工具などで相当量の電力を消費するため、これらの電源を再生可能エネルギーに転換することで、炭素税の影響を軽減できます。特に長期間の大規模工事では、現場での太陽光発電設備の設置により、電力コストの削減と環境負荷の低減を同時に達成可能です。
まとめ

本記事では、炭素税の価格が企業に与える影響を解説しました。炭素税は、地球温暖化対策として注目されている環境政策手法の一つです。炭素税は化石燃料の炭素含有量に基づいて課税することで、市場を通じた温室効果ガス削減を目指しています。
炭素税の価格は、日本ではCO2排出量1トンあたり289円という統一的な炭素価格を基準として設計されています。各国の炭素価格を比較すると、日本のCO2排出量1トンあたりの水準は国際的に見て低い位置にあります。炭素税によるコスト増加は、エネルギー集約型産業において深刻な経営課題となるため、本記事での解説内容を参照してみてください。

この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。








