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アップフロントカーボンとは?アップフロントカーボンの削減ポイントや取り組み事例を紹介

アップフロントカーボンとは?アップフロントカーボンの削減ポイントや取り組み事例を紹介

建設業界の脱炭素への取り組みで、建築物が生涯を通じて排出するCO2の総量を評価する指標であるライフサイクルカーボンが注目されています。その中で、ライフサイクルカーボンを構成する、建設の初期段階で発生するアップフロントカーボンも同時に注目され始めました。

本記事では、アップフロントカーボン及び、削減ポイントを解説しています。また、国や企業の取り組み事例も紹介しているため、これから削減の検討に携わる方は参考にしてみてください。

アップフロントカーボンとは

アップフロントカーボンは建設の初期段階で発生するCO2の排出量を指す用語です。アップフロントカーボンの概要や関連する用語をそれぞれ解説します。

アップフロントカーボンの概要

アップフロントカーボンとは、建築物や製品のライフサイクルにおいて初期段階で発生するCO2排出量を指します。建材の製造過程や建設現場までの運搬、実際の施工作業など、建物の運用が始まる前の段階で生じる環境負荷です。

近年、脱炭素が進む中で、建物のライフサイクル全体での環境負荷を削減するためには、初期段階での排出量削減が重要であるという認識が高まっています。すでに欧州の一部の国々やアメリカの一部の州では、アップフロントカーボンの情報開示が法制化されており、環境配慮型の建築設計や施工方法の採用が進められているのが現状です。

今後は、より多くの地域でアップフロントカーボン削減の取り組みが広がることが予想されます。

アップフロントカーボンに関連する用語

アップフロントカーボンに関連する用語として次の3つが挙げられます。

  • ライフサイクルカーボン
  • エンボディードカーボン
  • オペレーショナルカーボン

それぞれの言葉の意味を解説します。

ライフサイクルカーボン

ライフサイクルカーボンは、建築物が生涯を通じて排出するCO2の総量を評価する指標です。ライフサイクルカーボンは、建材製造から建設、解体までの全過程で発生する「エンボディードカーボン」と、建物の運用時に発生する「オペレーショナルカーボン」の両方を含んでいます。

評価方法としては、建築物の寿命全体で排出されるCO2総量を年間あたりの排出量に換算して算出します。ライフサイクルカーボンの概念は環境マネジメントに関する国際規格であるISO14000シリーズの1つとして規格化されており、建築物の環境負荷を包括的に評価する重要な基準として、世界的に認知されています。

脱炭素を進める上で、ライフサイクル全体での排出量の把握と削減が必要です。

関連記事:建築物ホールライフカーボン算定ツールJ-CATをリリース 開発背景と特徴、今後の展望をIBECsに聞く

エンボディードカーボン

エンボディードカーボンは、建築物のライフサイクル全体を通じて排出される温室効果ガスの総量から、日常的に消費される量を差し引いた分を表す指標です。建材となる原材料の採取から製造、建設現場への輸送、施工、そして建物の維持管理、最終的な解体・廃棄に至るまでの全ての段階で発生するCO2排出量が含まれます。

建設の初期段階で発生するアップフロントカーボンは、エンボディードカーボンの構成要素の1つです。脱炭素の取り組みでは、エンボディードカーボンの削減が課題となっており、建材選択や工法の最適化、リサイクル材の活用など、様々な観点からの対策が求められています。

関連記事:エンボディードカーボン削減に向けた取り組みとは?注目される理由や課題も解説

オペレーショナルカーボン

オペレーショナルカーボンは、建築物が実際に使用される期間中に発生する炭素排出量を指す指標です。室内環境を快適に保つための暖房・冷房システムの運転や、日常的な照明の使用、さらには水の供給や処理に関わるエネルギー消費など、建物の運用に直接関連する全ての活動から生じるCO2排出量が含まれます。

建築物の環境負荷を評価する上で、オペレーショナルカーボンの把握と削減も重要な課題です。省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用、効率的な建物管理システムの採用など、様々な対策を通じて、運用時の炭素排出量の最小化が目指されています。

関連記事:オペレーショナルカーボンとは?削減に向けた取り組みの建設業界の事例を紹介

アップフロントカーボンが注目されている理由

アップフロントカーボンが注目されている理由として、次の内容が挙げられます。

  • 長期的な影響
  • 規制強化
  • 持続可能な資材の活用促進
  • 環境への意識の高まり

それぞれどのような背景から注目されているのか、以下に詳しく解説します。

長期的な影響

アップフロントカーボンが注目を集める背景には、地球温暖化がもたらす長期的な環境への深刻な懸念があります。温暖化の進行は、世界各地で深刻な環境変化をもたらす可能性があり、影響は多岐にわたります。

海面上昇により沿岸域や島国では国土の消失や高潮被害のリスクが高まり、多くの地域社会が存続の危機に直面することになりかねません。また、急激な気温上昇は生態系にも重大な影響を与え、多くの動植物種が環境変化に適応できず、絶滅の危機に瀕する恐れがあります。

さらに、乾燥地域では干ばつの深刻化や砂漠化の進行が予測され、農業生産や人々の生活基盤に重大な影響を及ぼすことが懸念されます。

規制強化

アップフロントカーボンへの注目が高まっている背景として、世界各国での環境規制の強化が挙げられます。オランダでは、2018年に先駆的な取り組みとして、新築建築物で、アップフロントカーボンを含むエンボディードカーボンの排出量に上限を設ける法規制を導入しました。

また、EUでの取り組みも加速しており、2023年3月には「建築物エネルギー性能指令(EPBD)」の改正案が採択されました。改正案では、2030年までに全ての新築建築物をゼロエミッション化する目標が掲げられています。

国際的な規制強化の流れを受けて、建材メーカーや住宅メーカーには、自社製品のアップフロントカーボンを含むエンボディードカーボンの正確な把握と、具体的な削減施策の実施が今後より求められることが確実視されています。

持続可能な資材の活用促進

サプライチェーンで持続可能性への要求が高まる中、アップフロントカーボン削減を目指した環境と社会に配慮した資材調達の重要性が増しています。このような環境と社会に配慮した調達はサステナブル調達と呼ばれています。このサステナブル調達は環境負荷の低減と人権尊重を両立させながら、持続可能な事業活動を実現するための重要な取り組みです。

サステナブル調達には環境配慮型の原材料を優先的に選択するグリーン調達や、取引先の社会的責任への取り組みを評価基準とするCSR調達など、多角的なアプローチが展開されています。国際的にも取り組みの重要性は認識されており、2017年には世界初となるサステナブル調達に関する国際ガイドラインが制定されました。

建築資材の調達では、環境負荷の低減だけでなく、社会的公正性や持続可能性など幅広い観点からの配慮が不可欠となってきていることから、業界全体での取り組みが加速しています。

環境への意識の高まり

昨今の環境意識の高まりも、アップフロントカーボンへの注目を加速させている要因の1つです。金融市場では、企業の脱炭素への取り組みが投資や融資の重要な判断基準となっており、CO2排出量削減の実績が企業価値の1つとして認識されてきています。

また、2006年に国連が責任投資原則(PRI)を提唱したことにより、環境や社会に配慮して事業を行なっている企業に投資するESG投資(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance))も広まっています。

これは、根底に環境や社会問題に取り組もうとする企業は長期的に成長し、投資家たちにとってもリターンがあると考えがあります。CO2を削減するために対策をする企業が評価されやすくなっているため、アップフロントカーボンとESG投資市場の関わりが増加してきています。

ESG投資市場の急速な拡大とも密接に関連しており、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点から企業を評価する投資家が増加してきています。

アップフロントカーボン削減のポイント

アップフロントカーボン削減のポイント

アップフロントカーボン削減のポイントとして、次の内容が挙げられます。

  • 鉄骨構造部材をリユースする
  • 建材資材の循環利用
  • 鉄の再利用

それぞれのポイントを詳しく解説します。

鉄骨構造部材をリユースする

アップフロントカーボン削減の有効な手法として、鉄骨構造部材のリユースがあります。鉄骨構造部材のリユースは、既存建築物から柱、梁、ブレースなどの鉄骨部材を撤去し、鉄骨製作会社で新築建物の要件に合わせて加工した上で、新たな構造体として再利用する方法です。

リユースの場合、単なるリサイクルと比較して、部材製造時のCO2排出量を大幅に抑制できます。環境負荷削減効果としては、構造部材製造に伴うCO2排出量を69.3t-CO2に抑えられるほか、新規材料を全て新たに調達する場合と比較して約49%の削減が実現可能です。

鉄骨構造部材のリユースは、環境負荷低減の有効な戦略として評価されています。

参照:大林組/国内初、建物解体後の鉄骨およびコンクリート製の構造部材を新築建物へリユース

建材資材の循環利用

建設資材の循環利用を促進する法的枠組みとして、2000年5月に建設リサイクル法が制定されました。建設リサイクル法では、一定規模以上の建築物の建設や解体工事で、建設会社に対して義務が課されています。

コンクリート塊を含む3種類の建設廃棄物に対して、建設会社には分別解体作業の実施とリサイクルの実行が法的に義務付けられました。

具体的な資材の分別とリサイクルは次の通りです。

資材 リサイクル
コンクリート塊 道路路盤材・建築物の基礎材・コンクリートの石に利用
アスファルト・コンクリート塊 道路舗装の路盤材として利用
木材 住宅用資材、製紙用チップ、堆肥、燃料などに利用
建設汚泥 盛土用土、セメント用原料などに利用

建材資材の循環利用により、建設資材の再利用が促進され、新規材料の製造に伴うCO2排出量の削減に貢献しています。

鉄の再利用

鉄の再利用は、アップフロントカーボン削減に向けた重要な取り組みの1つです。鉄のスクラップは、発生源によって加工スクラップと老廃スクラップに分類されます。建築物や使用済み鉄製品から回収されるものは老廃スクラップです。

鉄スクラップは、専門の加工処理業者によって切断、破砕、プレスなどの加工処理が施され、再利用可能な状態に整えられます。さらに、脱炭素に向けて、高炉での水素還元法の導入や、転炉での鉄スクラップ投入量の増加、大型電気炉の新設による高級鋼の生産など、鉄の再利用に関する様々な技術革新が検討されているのが現状です。

アップフロントカーボン削減に向けた海外の動き

アップフロントカーボン削減に向けた海外の動き

アップフロントカーボン削減に向けた海外の動きとして、次の事例を紹介します。

  • EU
  • デンマーク
  • アメリカ

グローバルな活動を行う企業は、関連する地域の動きも把握していなければならないため、是非とも参考にしてください。

EU

EUは環境負荷削減に向けて、段階的かつ包括的な規制強化を進めています。EUでは、アップフロントカーボンを含めたライフサイクルカーボンや温室効果ガスの報告義務を次の計画で義務化を予定しています。

予定 義務化内容
2025年 全建材の温室効果ガス排出量データ開示
2027年 大規模建築物のライフサイクルカーボン報告
2030年 全建築物のライフサイクルカーボン報告

EUの段階的な規制の導入により、建築業界全体でのアップフロントカーボンの把握と削減が促進されることが期待されています。EUの先進的な取り組みは、建築物のライフサイクル全体を通じた環境負荷の可視化と削減を実現する重要なモデルケースとして、世界的な注目を集めています。

デンマーク

デンマークでは、2023年には大規模建築物におけるエンボディードカーボンの算定が義務化され、建築物の環境影響評価が制度化されました。デンマークの特徴的な取り組みとして、再生可能資源やリサイクル材の積極的な活用を推進しており、長期的な耐久性と環境負荷の低減を両立した建築物が高く評価されていることが挙げられます。

また、既存建築物の「コンバージョン」が一般的な手法として定着していることも注目すべきポイントです。コンバージョンによって、住宅をオフィスや商業施設、教育施設へと用途変更が促され、建物の解体・新築に伴うアップフロントカーボンの発生を抑制しています。

アメリカ

アメリカで注目されているのが、CLT(直交集成板)を活用した多層建築物の建設です。新しい建材の採用により、従来の建築材料と比較してエンボディードカーボンの大幅な削減を実現しました。

また、建築資材の見直しを図った事例として、Microsoftの本社再開発プロジェクトが挙げられます。同プロジェクトでは、建築資材の徹底的な見直しと最適化により、エンボディードカーボンを30%削減する顕著な成果を達成しました。

このような先進的な取り組みは、環境負荷削減の可能性を示す重要な事例として、建築業界全体に大きな影響を与えています。

アップフロントカーボン削減に向けた取り組み事例

アップフロントカーボン削減に向けた取り組み事例

アップフロントカーボン削減に向けた取り組み事例として、次の2社の事例を紹介します。

  • 株式会社大林組
  • 大成建設株式会社

どのような取り組みでアップフロントカーボン削減を実現しているのか、参考にしてみてください。

株式会社大林組

株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、建設資材における脱炭素社会・循環型経済の実現に向けた取り組みの一環として、大林組が請け負う解体工事で発生する鋼材(鉄スクラップ)を、大林組が施工する新築工事において循環利用を行うため、建材商社、金属リサイクル事業者、電炉鉄鋼メーカーと連携し、解体から鉄スクラップの発生を経て、電炉鋼材として再生し、再び建設現場で利用するまでの輸送ルートと事業者選定を最適化する水平リサイクルフローの構築に着手しました。

この取り組みの第一弾として、東京都港区北青山三丁目の解体工事で発生する鉄スクラップ約1,000tを、水平リサイクルフローに適用し、大林組新築工事で循環利用します。

引用:建設現場で発生する鉄スクラップの水平リサイクルフローを構築し、アップフロントカーボン削減を推進|2024.11.26|大林組

大成建設株式会社

大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、建築物新築時の設計段階において、BIMモデルを活用することで建築物に使用する建材や設備などの製造・調達および施工時のCO2排出量を短時間に高精度で算出できる予測システム「T-CARBON BIMシミュレーター」を開発しました。

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、建設・不動産分野では建築物新築時の調達・施工・解体等で排出されるCO2排出量「エンボディドカーボン」の削減が求められています。このうち、調達・施工時のCO2排出量「アップフロントカーボン」を把握するには、建築物に使用する建材ごとのCO2排出量を、建材それぞれの使用数量を基に算出する必要があります。しかし、建材の種類が多岐にわたることから、工事規模が大きい場合などにはCO2排出量の算出に数カ月かかるなど、多大な時間と労力を要していました。

そこで当社は、BIMデータを活用し設計段階におけるアップフロントカーボンを容易に把握することができるシステム「T-CARBON BIMシミュレーター」を開発しました。本システムを適用してBIMから算出した建材の種類ほか壁・扉の枚数などの詳細な数量データと、アップフロントカーボンを正確に予測する既存の当社独自開発システム「T-CARBON Navios」とを連携させることで、建材ごとのCO2排出量を短時間でより高精度に予測することが可能となります。

引用:BIMを用いた建築物新築時CO2排出量予測システム「T-CARBON BIMシミュレーター」を開発|2023.12.15|大成建設

まとめ

まとめ

本記事では、建設業界で注目されているアップフロントカーボンの解説をしました。アップフロントカーボンとは、建築物や製品のライフサイクルの初期段階で発生するCO2排出量を指します。

すでに欧州の一部の国々やアメリカの一部の州では、アップフロントカーボンの情報開示が法制化されており、環境配慮型の建築設計や施工方法の採用が進められているのが現状です。

アップフロントカーボンが注目を集める背景には、地球温暖化がもたらす長期的な環境影響への深刻な懸念があります。また、規制強化や持続可能な資材の活用などもアップフロントカーボン削減を後押しする要因です。

アップフロントカーボンの各国の取り組みや、企業としての取り組み事例も紹介しているため、脱炭素に取り組んでいる方は参考にしてみてください。

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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