2025/5/30
2025/5/30
カーボンニュートラルの実現に必須の「CCS」とは|主な効果や課題について

カーボンニュートラルの実現に必須の技術として、CCSがあります。CCSには化学吸収法や膜分離法などさまざまな技術があり、CO2削減だけではなく炭素の有効活用の側面でも効果が見込まれている技術です。
本記事では、建設業界向けにCCSについて解説します。また、CCSで期待される効果や抱えている課題、取り組み事例も紹介しているので、建設業として脱炭素に取り組む方は参考にしてください。
CCSとは
CCSとは、Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留)の略称です。発電所や化学工場などの大規模排出源から発生するCO2を、他の気体から分離・回収し、地中深くに圧入して長期間貯留する技術を指します。
CCSの主な目的は、大気中へのCO2排出量を削減し、地球温暖化対策として機能させることです。一方で、気候変動対策の重要な選択肢として国際的に注目されていますが、コストや安全性の課題があります。
注目されている理由
CCSが注目されている理由は、世界が掲げる脱炭素の達成に向けた現実的な解決策となる可能性があるためです。国際社会が温暖化防止のため脱炭素社会を目指す中、産業活動からCO2の排出量を減らすことは経済活動との両立が難しい傾向にあります。同時に、森林などによる自然吸収量を短期間で大幅に増やすことも困難なのが現実です。
CCSは既存の化石燃料を使用しながらもCO2を大気に放出せず地中に貯留できるため、現実的な移行技術として重要視されています。
CCSとカーボンニュートラルの関係性
CCSは、脱炭素への転換が難しい以下の場所から発生するCO2を分離・回収し、地下の安定した地層に長期間封じ込めることで、大気中へのCO2放出量を大幅に削減できます。
- 火力発電所
- 製油所
- 製鉄所
- 化学工場
- ごみ処理施設
CCSは、産業活動を維持しながら、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする脱炭素達成への道筋となる技術です。世界各国で研究開発が進められ、実証プロジェクトや商業規模での操業が拡大しています。
特に脱炭素が困難とされる産業分野で、脱炭素実現の鍵を握る不可欠な技術として位置づけられています。
CCSとCCU・CCUSの違い
CCSと混在しやすいCCU・CCUSとの違いを、以下にまとめています。
方式 | 特徴 |
CCS | 工場などから排出されたCO2を分離・回収後、地中深くに貯留する技術 |
CCU | 分離・回収したCO2を利用する技術 |
CCUS | 分離・回収、貯留したCO2を、さらに利用する技術 |
CCUは回収したCO2を資源として有効利用する技術で、燃料やプラスチック製造の原料化、あるいは油田に圧入して原油回収率を高めるEOR(Enhanced Oil Recovery)などに活用されます。
CCUSは双方を組み合わせたアプローチで、CO2の貯留と利用を統合した概念です。
CCSでCO2を分離する方法
CCSでCO2を分離する次の方法を紹介します。
- 化学吸収法
- 膜分離法
- 物理吸収法
- 物理吸着法
それぞれの特徴について、詳しく解説します。
化学吸収法
化学吸収法は、CO2分離・回収のための技術です。吸収塔でアミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)とCO2含有ガスを接触させることでCO2を選択的に吸収し、再生塔で吸収液を加熱して高純度のCO2を分離・回収します。
常圧ガスから大量のCO2を効率的に回収できますが、製鉄プロセスへの応用はまだ開発初期段階です。そのため、実際の製鉄現場を活用したさまざまな実証実験が進行中です。
今後の課題としては、回収に必要なエネルギー消費を最小化する新しい吸収液の開発や、装置自体のコンパクト化などが挙げられています。
膜分離法
膜分離法は、CO2回収でエネルギー効率に優位性を持つ技術です。CO2を選択的に透過させる特殊な分離膜を用い、ガスの圧力差を駆動力として利用してCO2を効率的に回収します。
分離膜はCO2分子のみを通過させ、他のガス成分を遮断する性質を持っています。従来の化学吸収法などと比較して、加熱・冷却のための大きなエネルギーを必要とせず、単純な圧力差だけでCO2を分離できます。そのため、少ないエネルギー消費でCO2回収が可能です。
物理吸収法
物理吸収法は、CO2の物理的な溶解度の差を利用したCO2回収・分離技術です。特殊な吸収液を高CO2分圧かつ低温条件下で使用することで、CO2を物理的に吸収させます。
その後、吸収液を減圧または大気圧に開放し、さらに高温状態にすることでCO2を放散させて回収します。高CO2濃度・高圧条件下での分離で効率的に機能するのが特徴です。
物理吸着法
物理吸着法は、CO2分離で圧力差と温度差の両方を効果的に活用する技術です。物理吸着法では、ゼオライトや活性炭などの多孔質の固体吸着材を用いて、加圧条件下でCO2を吸着させます。その後、圧力を下げることで吸着材からCO2を脱離させて回収します。
加圧ガス中のCO2分離は、化学吸収法と比較してエネルギー消費を削減できることがメリットです。
CCSでCO2を貯蓄する方法
CCSでCO2を貯蓄する方法として、以下2つの方法を紹介します。
- 地中貯留
- 海洋隔離
それぞれの特徴について、詳しく解説します。
地中貯留
地中貯留は、CO2を排出源から回収し地球深部に長期間封じ込める技術です。地中貯留では、発電所や工場などのCO2固定発生源から分離・回収したCO2を、地下約1000m以深にある帯水層に圧入します。
帯水層は主に海底の砂が長い年月をかけて埋没してできた地層で、砂粒子の間には地層水で満たされた多数の空隙が存在しています。貯留されたCO2は、上部の不浸透層(キャップロック)によって地表への漏出を防止し、さらに長期的には鉱物化などの過程を経て安定化する仕組みです。
海洋隔離
海洋隔離は、回収したCO2を海洋の中深層(1,000~3,000m)に直接注入して溶解・希釈させる技術です。CO2を海洋深層に送り込み、海水中に長期間保持させます。海洋隔離の主なメリットは、大気中にCO2を放出した場合に起こる急激な濃度上昇を緩和できることです。
深海に隔離されたCO2は海水に溶け込み、海洋循環により数百年から千年以上にわたって大気から隔離されるため、地球温暖化の進行を遅らせる効果が期待されています。一方で、海洋生態系への影響懸念から、研究段階にとどまっているのも事実です。
CCSによる効果
CCSによって、次に挙げる効果が期待されます。
- CO2の削減
- 炭素の有効活用
- 再生エネルギーの普及の促進
どのようなメリットがあるのか、詳細に解説します。
CO2の削減
CCSの効果は、CO2の大気中への直接放出を削減できる点にあります。CCSの技術は、産業活動に伴いCO2を大量に排出する以下の分野に広く適用可能です。
- 火力発電所
- 製鉄工場
- セメント生産施設
- ごみ焼却場
具体的な削減効果の例として、約27万世帯分の電力供給能力を持つ80万kW規模の石炭火力発電所にCCSを導入した場合、年間約340万トンものCO2排出量を防止できます。したがって、CCSは気候変動対策として有効な手段となると判断できます。
参照:環境省/CCUSを活用したカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み
炭素の有効活用
CCSは、CO2を資源として循環利用できる効果も見込めます。回収したCO2を単に地中に貯留するだけでなく、資源として循環利用することで付加価値を生み出せます。
脱炭素社会への移行には、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料依存を減らしながらも、必要な製品の生産を継続しなければなりません。そのため、回収したCO2を貴重な炭素資源として活用する方法が注目されています。
特に水素と組み合わせることで合成燃料や化学原料を製造したり、コンクリート硬化や藻類培養の炭素源として利用したりすることで、炭素の循環システム構築に貢献します。
再生エネルギーの普及の促進
再生可能エネルギーの普及促進に関しても、CCSは重要な役割を果たします。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー源から得られる電力は、天候や時間帯により出力が変動するにもかかわらず、効率的で大規模な貯蔵手段が限られているのが現状です。
CCS技術を応用すれば、回収したCO2と再エネ由来の水素を組み合わせてメタンなどの合成燃料の生成が可能です。余剰電力を化学エネルギーとして貯蔵でき、需要に合わせて利用できます。
CCSの課題
CCSには次の課題があります。
- コスト面
- 技術面
- 法整備
それぞれどのようなポイントに注意すべきか、参考にしてください。
コスト面
CCSの課題のひとつに、高額なコスト負担が挙げられます。CCSシステムの導入には、CO2の回収・分離、輸送、そして最終的な地下への圧入・貯留など複数の工程が必要です。各段階で専門性の高い技術と大規模な設備投資が求められるため、初期投資額が膨大になります。
具体的には、CO2を1トン回収するのに約4,000円前後のコストがかかるといわれています。経済的負担がCCSの広範な普及を妨げる要因となっており、技術革新によるコスト削減やカーボンプライシングなどの政策的支援が普及促進には欠かせません。
技術面
CCSには以下に挙げる領域においての技術的課題があります。
- CO2を効率よく分離・回収する技術
- 長距離輸送を安全に行うパイプラインや船舶輸送の技術
- 長期間安定して貯留できる地層の選定と監視技術
課題に対し、日本政府は事業者と連携してCCSバリューチェーン全体のコスト低減に向けた取り組みを進めているのが現状です。また、政府は貯留に適した地層の調査を積極的に実施する方針を打ち出しており、技術開発と並行して実用化に向けた基盤整備を推進しています。
法整備
法整備面では、CCS実施に関する法的枠組みの確立が課題です。地下や海底下へのCO2貯留では、既存の土地所有権や鉱業権との権利衝突を回避するための新たな法を整備しなければなりません。
貯留層の使用権や排他的権利の設定方法、既存権利者との調整メカニズムなどが対象です。また、CO2圧入・貯留に関する事業者の法的責任の範囲と期間の明確化も求められています。
特に長期間にわたる貯留層のモニタリング義務、万一の漏洩時の対応責任、閉鎖後の管理体制など、事業終了後も含めた責任の所在を法的に明確にしなければなりません。
日本・海外とで異なるCCSの状況
海外では積極的にCCSの事業化が進められる中で、日本でも実証実験をはじめとして事業開始目標が設定されてきている現状があります。日本・海外におけるそれぞれのCCSの状況を詳しく解説します。
日本におけるCCS
2023年3月に策定されたCCS長期ロードマップでは、2030年までの商業規模での事業開始を目指し、同年までに年間600〜1200万トン相当の貯留量を担保することが目標です。
これまで北海道・苫小牧で先駆的なCCS実証試験が実施され、技術的知見が蓄積されてきましたが、今後CCSをビジネスとして持続可能なものにするためには、より多様な事業モデルの開発が必要とされています。
特に、コスト分担の仕組みや官民連携の形態など、経済性と技術の両面でさらなる発展が求められています。
海外におけるCCS
IEA(国際エネルギー機関)の試算によれば、2050年に世界全体で脱炭素を実現するためには、年間約38~76億トンの膨大なCO2をCCSによって圧入・貯留する必要があるとされています。
2050年の目標に向けて、世界各国ではCCS事業化のプロジェクトが急速に拡大しており、2022年9月時点では開発中のCO2回収施設の総容量が2.44億トンにまで拡大しました。特に米国やカナダ、欧州諸国、中東などで大規模プロジェクトが進行中であり、技術革新や国際連携を通じたCCSの普及加速が世界的な脱炭素には欠かせません。
参照:経済産業省/CCS 長期ロードマップ検討会最終とりまとめ
建設業界におけるCCSの導入事例
建設業界におけるCCSの導入事例として次の3社を紹介します。
- 清水建設株式会社
- 鹿島建設株式会社
- 大成建設株式会社
それぞれの事例を参考にしてください。
1.清水建設株式会社
清水建設は双日㈱、Carbon Xtract㈱と共同で、CO2を大気から直接回収して利活用するシステムの都市実装に向けた事業を行う予定です。この取り組みは、東京都の「GX関連産業創出へ向けた早期社会実装化支援事業」に採択されています。
具体的にはCarbon Xtractが保有する「m-DAC」の技術でCO2を回収し、植物栽培プラントで植物の光合成を促進すること等が計画されています。小型・分散型のCO2回収システムを用いたネガティブエミッション技術を都市実装することにより、炭素の循環利用が可能な都市づくりを目指します。
引用:CO2回収技術のゼネコン事例|二酸化炭素を減らすには|2024.10.22|BuildAppNews
2.鹿島建設株式会社
鹿島(社長:天野裕正)と川崎重工(社長:橋本康彦)は、川崎重工が保有するDAC(Direct Air Capture)を、鹿島らが開発したカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM」(シーオーツースイコム)の製造に利用するための共同研究を開始しました。
川崎重工が開発したDACは、大気中からCO2を直接回収する技術です。CO2の吸収に最適な多孔質材料とアミン化合物から成る固体吸収材によって、大気中のCO2を分離・回収します。
一方、鹿島らが開発した「CO2-SUICOM」は、コンクリートの製造時にCO2を吸収・固定することでCO2排出量を実質ゼロ以下にできる技術です。プレキャストコンクリート製品工場にて炭酸化養生※1を行うことで、CO2を吸収・固定させます。炭酸化養生で用いるCO2は現状、外部から購入しており、「CO2-SUICOM」の普及展開にあたっては、CO2の調達手段が大きな課題となっています。そこで、鹿島は必要なCO2を必要な場所でタイムリーに調達できるDACに着目し、数十年にわたり開発を進めている川崎重工と共同研究を開始することとしました。
川崎重工が保有する最先端のDAC技術と「CO2-SUICOM」を組み合わせてCCU※2を実施できれば、カーボンニュートラル社会の実現に大きく寄与することができます。
両社は今後、プレキャストコンクリート製品工場に適したDAC装置の構成を検討し、「CO2-SUICOM」の製造実証を行ってまいります。
※1 CO2を封入した槽内でコンクリートを養生し、安定した環境でCO2を吸収・固定させる方法
※2 Carbon dioxide Capture and Utilization:CO2を回収・利用すること
引用:大気中のCO2をコンクリートに吸収・固定する共同研究を開始|2024.07.26|鹿島建設
3.大成建設株式会社
本構想は日本製鉄の九州製鉄所大分地区及び太平洋セメントグループの株式会社デイ・シイ川崎工場から分離回収したCO2を貯留適地候補に船舶を用いて輸送・貯留するもので、2023年度にCO2の分離回収・輸送・貯留に係る事業性調査を実施してまいりました。事業性調査には、事業全体における技術的課題の整理の他、経済性や社会的受容性の獲得等に向けた検討も含まれています※3。
今回採択された本作業では、その次のフェーズとなるCO2の分離回収・輸送・貯留に係る基本設計(FEED:Front End Engineering Design)作業、試掘調査等を行います※4。上述の事業性調査の結果を基に、CO2の分離回収・船舶輸送・地下貯留の各要素に対して技術面・経済性の両面から事業の基本設計作業等を進め、2030年度の操業開始に繋げていくことを目標としています。
※3「令和5年度 先進的CCS事業(二酸化炭素の分離回収・輸送・貯留)の実施に係る調査」の受託について
https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230802.html※4 JOGMEC「先進的CCS事業に係る設計作業等」に関する業務委託先の公募の概要
https://www.jogmec.go.jp/news/bid/bid_10_00836.html
引用:「先進的CCS事業(二酸化炭素の分離回収・輸送・貯留) に係る設計作業等」の受託について|2024.09.04|大成建設
まとめ
本記事では、建設業界向けにCCSについて解説をしました。CCSの技術は、発電所や化学工場などの大規模排出源から発生するCO2を、他の気体から分離・回収し、地中深くに圧入して長期間貯留するものです。
国際社会が温暖化防止のため脱炭素社会を目指す中、産業活動から排出されるCO2の量を減らすことは経済活動との両立が難しく、同時に森林等による自然吸収量を短期間で大幅に増やすことも困難な現実があります。
CCSは既存の化石燃料を使用しながらもCO2を大気に放出せず地中に貯留できるため、現実的な移行技術として重要視されています。
また、CCSには炭素の有効活用や再生エネルギーの普及促進等さまざまな効果が見込まれていますが、コスト面や法整備の面で課題を抱えているのが現状です。日本、海外それぞれのCCSの状況や、国内企業の取り組みも紹介しているため、脱炭素に取り組む企業の方は参考にしてください。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。

この記事の監修

リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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