建設業界において、脱炭素への対応が急務となる中、建材製造段階のCO2算定が重要な課題として注目されています 。これは、従来の簡易的な手法では、環境配慮型建材の効果を正しく評価できない問題が明らかになってきたためです。
本記事では、建材製造段階のCO2算定方法の種類や、算定が求められる背景、ライフサイクル全体における位置づけについて解説します。
また、概算式と積上げ式の違いや、アップフロントカーボン、エンボディドカーボン、オペレーショナルカーボンなど各段階の排出特性も解説していますので、環境性能の高い建築プロジェクトを推進したい建設業の方は参照してみてください。
目次
建材製造段階のCO2算定方法とは

建築物のライフサイクル全体における環境負荷を評価する際、建材製造段階でのCO2排出量を正確に把握することが重要です。CO2算定には、概算式と積上げ式の手法があり、それぞれ精度や適用場面が異なります。さらに、より詳細な評価を目指す場合には概算式から積上げ式への移行が求められている状況です。
建材製造段階のCO2算定方法について解説します。
概算式
建材製造段階におけるCO2排出量の算定手法として、概算式は最も容易な方法です。概算式は、建築工事にかかる総工費に特定の排出係数を乗じることで、全体の環境負荷を迅速に推計できる点が特徴です。
概算式の計算式は次の通りです。
| 建物の金額 × 金額あたりのCO2排出源単位 = 建材製造段階のCO2排出量 |
例えば、工事費が1億円の建物であれば、係数として4.2t-CO2/百万円を用いた場合、単純な掛け算で420t-CO2の排出量が算出されます。複雑なデータ収集や個別の材料分析を必要とせず、プロジェクトの初期段階でも環境影響の概要を把握できるため、時間的制約がある場合や大まかな比較検討が目的の際に有効な計算方法です。
積上げ式
積上げ式は、建材製造段階のCO2排出量をより精緻に算定できる手法です。積上げ式では、使用される個々の建材について具体的な数量とそれぞれの排出原単位を用いて計算を行い、総和から建物全体の環境負荷を導き出します。
積上げ式の計算式は次の通りです。
| (鉄筋数量 × 鉄筋のCO2排出源単位)+
(コンクリート数量 × コンクリートのCO2排出源単位)+ (鉄骨数量 × 鉄骨のCO2排出源単位)+ ・・・・・(すべての材料を同様に算出) = 建材製造段階のCO2排出量 |
積上げ式が高精度である理由は、実際の設計図書に基づいて材料を一つひとつ集計するためです。例えば、コンクリート100立方メートルに対して0.32t-CO2/立方メートルの原単位を掛け、鉄筋10トンには別の原単位を適用するなど、各部材の特性に応じた計算を積み重ねていきます。
正確な算出が実現する一方で、相応の時間と労力が必要です。大規模な建築物では部材の種類が数百にもおよぶことがあり、それぞれの数量把握と原単位の調査には専門的な知識と綿密な作業が求められます。
概算式から積上げ式への移行
近年、建築分野においてCO2算定手法の見直しが進んでいます。これまで企業の環境報告などでは、簡便な概算式による算定が主流でしたが、実際の脱炭素を推進する上では課題が浮き彫りになってきました。
概算式から積上げ式への移行が求められる理由は、概算式では環境配慮型建材の効果を適切に評価できない問題があるからです。低炭素建材は一般的に高価格であるため、工事費に係数を掛ける概算式では、コストの上昇に比例してCO2排出量も増加したと計算されます。環境負荷を下げるために選んだ建材が、算定上は逆効果として表れる矛盾が生じます。
個々の建材の実際の排出量を反映する積上げ式であれば、環境配慮の取り組みが正当に数値化され、真の削減効果を示すことが可能です。実効性のある脱炭素戦略には、算定手法の転換が欠かせません。
建材製造段階のCO2算定が必要となる背景

建築物の環境負荷低減が世界的な課題となる中、建材製造段階のCO2算定に対する注目が高まっています。背景には、使用段階のCO2削減が進展したことで相対的に製造段階の排出割合が増加したこと、従来の算定方法が曖昧であったため透明性のある評価基準が求められていることがあります。
建材製造段階のCO2算定が必要となる背景について解説します。
使用段階のCO2削減
建材製造段階のCO2算定が重視されるようになった背景には、建築物のライフサイクル全体における排出構造の変化があります。
従来の建物ライフサイクルのステージを分類し、それぞれのCO2排出量の割合を示したのが次の表です。従来は建物から発生するCO2の約70%は使用段階、空調や照明などで消費される電気・ガスなどエネルギー起源のものでした。
| 段階 | 割合 |
| 建材製造段階 | 30% |
| 使用(資材)・解体段階 | 20% |
| 使用(水道光熱費)段階 | 50% |
しかし、現在では使用段階での排出割合が低下しており、相対的に建材製造段階での排出が増加しています。使用段階の排出割合が相対的に低下した理由は、省エネルギー技術の飛躍的な進展です。省エネ法への対応が進み、ZEB(ゼロエネルギービル)の実現や再生可能エネルギー由来の電力利用が普及したことで、運用時の環境負荷は着実に減少してきました。
一方で、使用段階での削減が進んだ結果、相対的に建材製造段階の排出が無視できない規模になってきたのが現状です。次なる削減対象として、建物を構成する材料そのものが生み出すCO2に目が向けられるようになったのは、必然的な流れといえます。
算定方法が曖昧
建材製造段階のCO2算定が求められる背景として、従来の算定方法における曖昧さの問題があります。環境負荷を実効的に削減するには、まず現状の排出量を正確に数値化し、可視化することが不可欠です。
建材CO2の計算には専門的な知識が必要であり、業界全体で共通の基準やツールが確立されていません。結果、各企業が独自に選んだ手法やソフトウェアを用いて算定を行っており、同じ建物でも評価者によって異なる数値が算出される状況が生まれています。
透明性のある評価基準が整備されれば、次のステップとして具体的な低減策の検討が可能です。信頼性の高いデータに基づいた意思決定ができることで、建築業界全体での脱炭素が加速すると期待されています。
建材製造段階のCO2はライフサイクルカーボンの一つ

建築物の環境性能を総合的に評価するためには、ライフサイクル全体を通じたCO2排出量の把握が重要です。建材製造段階のCO2も、全体像の一部として位置づけられます。
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは何かも含めて、建材製造段階のCO2はライフサイクルカーボンの一つであることについて解説します。
LCA(ライフサークルアセスメント)とは
建材製造段階のCO2を理解する上で、LCA(ライフサイクルアセスメント)の概念が欠かせません。LCAは、製品やサービスが誕生してから役割を終えるまでの全過程における環境負荷を、定量的に捉えるアプローチです。
原材料の調達から始まり、製造、輸送、使用、そして最終的な廃棄やリサイクルに至るまで、各プロセスで発生する環境への影響を漏れなく評価することで、初めて全体像が明確化します。LCAを行うことで排出削減を行うべき箇所を明らかにできますが、一方で部分的な排出削減が別の段階で新たな負荷を生む可能性もあるため、包括的な視点が不可欠です。
また、LCAはライフサイクルカーボンを算出する手法であり、建設から取り壊しまでの建物が存在する全期間のCO2排出量を測定します。全体の枠組みの中で、建材製造段階の排出は重要な構成要素の一つとして位置づけられています。
アップフロントカーボン
アップフロントカーボンは、建築物のライフサイクルにおいて初期段階に発生するCO2排出量を指します。アップフロントカーボンが重視される理由は、建物が使用される前の段階で既に相当量の環境負荷が発生しているためです。
コンクリートや鋼材といった建材の製造工程、材料を建設現場まで運ぶ輸送過程、さらには実際の施工作業で消費されるエネルギーなど、多様な排出源が含まれます。初期段階の排出は一度発生すると取り返しがつかないため、設計・計画段階から削減策を講じることが効果的です。
欧州諸国の一部やアメリカの複数の州では、アップフロントカーボンの開示を義務づける法律が施行されており、環境配慮型の建材選定や施工手法の導入が促進されています。
エンボディドカーボン
エンボディドカーボンは、製品や建築物そのものに内包されたCO2排出量を表す概念です。建物の形として具現化されるまでに発生した環境負荷の総体を捉える指標として、LCA評価において中心的な役割を果たしています。
原材料を地中や自然環境から取り出す採掘段階に始まり、工場での加工・製造、建設現場への輸送、実際の施工作業、そして最終的な解体や廃棄物処理に至るまで、建物の「モノとしての存在」に関わる全プロセスが対象です。
アップフロントカーボンはエンボディドカーボンの一部分として位置づけられます。
オペレーショナルカーボン
オペレーショナルカーボンは、建物の運用段階で継続的に発生するCO2排出量を示す指標です。ライフサイクル全体の環境負荷を評価する際、エンボディドカーボンと対をなす重要な概念として位置づけられています。
照明や空調設備、給湯システム、オフィス機器などの稼働に必要なエネルギー消費が日々繰り返されることで、運用期間中の総排出量は膨大になります。かつては建物由来のCO2の大半がこの段階から発生しており、削減の最優先課題とされてきました。
近年では、高効率設備の導入や断熱性能の強化、さらにはZEBのように、エネルギー消費と創出のバランスをゼロにする先進的な取り組みも普及しつつあります。
建設業界のLCA導入事例

建設業界のLCA導入事例を2つ紹介します。
- 住友林業株式会社
- 清水建設株式会社
それぞれの事例を自社の取り組みの際に参照してみてください。
住友林業株式会社
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出典:建物のCO2排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す~ソフトウェア「One Click LCA」 日本単独代理店契約を締結~|2022.1.27|住友林業株式会社
清水建設株式会社
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出典:建設生産に伴うCO2排出量の自動算出プラットフォームを開発|2023.3.23|清水建設株式会社
まとめ

本記事では、建材製造段階のCO2算定方法と重要性について解説しました。建設業界では、脱炭素が喫緊の課題です。従来は簡便な概算式による算定が主流でしたが、実効性のある削減を進めるには、個々の建材を積上げて計算する積上げ式への移行が欠かせません。
使用段階の省エネ化が進んだ今、建材製造段階の排出削減が次なる焦点となっており、統一的な算定基準の確立が求められています。
ライフサイクル全体を見渡すLCAの視点では、アップフロントカーボンやエンボディドカーボン、オペレーショナルカーボンなど各段階の排出を適切に把握することが重要です。特に建設プロジェクトの初期段階から環境配慮型の建材を選定し、その効果を正確に評価できる体制を整えることが、業界全体の競争力向上にもつながります。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。








