2025/3/14
2025/6/10
e-fuelとは?注目の理由や活用のメリット・デメリットについて

2024年に経済産業省が合成燃料(e-fuel)の商用化に向けたロードマップを公表しました。このため、e-fuelに対して気になっている方も多いのではないでしょうか。e-fuelは、建設業界の脱炭素戦略にとって貢献しうる要素のひとつです。
本記事では、e-fuelの製造手順や注目される背景について解説します。また、e-fuelのメリットや抱えている課題も紹介するので、脱炭素への取り組みに関心のある建設業者の方は参考にしてください。
e-fuelとは
e-fuelとは、CO2とH2を原材料として製造される石油代替燃料です。石油と同じ炭化水素化合物の集合体であるため、ガソリンや灯油などの化石燃料の代替品として、さまざまな用途に合わせて柔軟に利用できます。
再生可能エネルギーで発電した電力を使って水を電気分解して得られる水素と、発電所や工場から排出されるCO2、あるいは大気中のCO2を原料として製造されることがe-fuelの特徴です。このため、e-fuelは従来の化石燃料と異なり、脱炭素の特性を持つ次世代燃料として注目されています。さらに、既存のインフラや内燃機関をそのまま活用できる点も、e-fuelの大きなメリットです。
e-fuelが注目される背景
e-fuelが世界的に注目を集める背景には、各国・地域の脱炭素政策が関わっています。EUでは「Fit For 55」と呼ばれる、2030年までに温室効果ガス排出量を55%削減する目標が掲げられました。
このFit For 55の中で、従来は認められていなかったe-fuelを使用した内燃機関車については例外的に認める方針へと転換したため、e-fuelへの関心が一層高まっています。
一方、日本でも2050年の脱炭素実現に向けたロードマップの一環として、e-fuelの開発と実用化が進められています。自動車や船舶などのモビリティ分野を中心に、2040年までの商用化を目指す具体的な目標が設定されており、政府と産業界が連携して技術開発や普及促進に取り組んでいるのが現状です。
出典:日本貿易振興機構JETRO/EU、2030年までのGHG排出55%削減に向けたFit for 55関連法案がほぼ成立
出典:経済産業省/合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 2023年 中間とりまとめ
脱炭素価値との関連性
「e-fuel製造の際の排出量算定範囲をどこからどこまでにするか」など、日本におけるe-fuelの脱炭素価値の策定は、現在も検討段階です。関連付けの方法として、温室効果ガス排出量の基準値を設定するアプローチと、従来の化石燃料と比較した相対的な削減効果を基準とするアプローチのどちらを採用するかが主要な論点となっています。
また、e-fuel製造に使用する水素の由来も重要な課題です。再生可能エネルギーから生産される「グリーン水素」だけでなく、天然ガスから生産され炭素回収・貯留技術を組み合わせた「ブルー水素」や、炭素回収なしで生産される「グレー水素」も認めるべきかどうかの議論があります。
さらに、原子力発電から生み出される電力由来の水素の取り扱いも、脱炭素価値の観点から検討が必要です。
e-fuelの製造手順
e-fuelの製造は、次の手順で行われます。
- 原材料を製造する
- 合成ガスを製造する
- FT合成を行う
ここでは、e-fuelが製造される各手順の詳細について解説します。
1.原材料を製造する
e-fuelの製造プロセスの第1段階は、基本原料となるCO2とH2の製造・調達です。CO2は、主に以下2種類の方法で調達されます。
- 火力発電所や工場などから排出される産業排ガスから直接回収する方法
- DAC(Direct Air Capture)と呼ばれる大気中から直接CO2を吸収・分離する技術を用いる方法
一方、水素の製造に関しては、再生可能エネルギーで発電した電力を使用して水を電気分解するのが理想的な方法とされています。
2.合成ガスを製造する
e-fuel製造プロセスの第2段階では、前工程で準備されたCO2とH2を化学反応させて合成ガスを製造します。
化学反応は通常、高温・高圧の条件下で行われ、反応効率を高めるために様々な触媒技術が活用されています。合成ガスは次の工程で液体燃料へと変換される前の重要な中間体であり、組成や純度がe-fuelの最終的な品質や性能を左右します。
3.FT合成を行う
e-fuel製造プロセスの第3段階では、前工程で生成された合成ガスに対してフィッシャー・トロプシュ合成(FT合成)と呼ばれる合成を行います。
生成された合成粗油は、その後アップグレーディングと呼ばれる精製プロセスを経て、さまざまな用途に適した燃料製品へと加工されます。
- ガソリン
- ジェット燃料(SAF)
- 軽油(ディーゼル)
この一連の工程により、既存の内燃機関や燃料インフラをそのまま活用できる石油代替燃料であるe-fuelが完成します。
e-fuelのメリット
e-fuelのメリットとして挙げられるのは、以下4点です。
- 国内で製造できる
- 既存の設備を使用し続けられる
- 輸送・備蓄しやすい
- エネルギー密度が高い
各メリットの詳細を解説するので、e-fuelへの理解を深めるためにぜひ参考にしてください。
国内で製造できる
e-fuelのメリットは、地理的な制約から解放される「国内製造の可能性」にあります。従来の化石燃料は中東・北米・ロシアなど特定の地域に偏在していました。そのため、化石燃料を持たない国々はエネルギー安全保障の観点から常に脆弱性を抱えてきたのです。
一方、e-fuelはH2とCO2の基本的な物質から合成されるため、資源に乏しい国でも製造が可能です。将来的には日本国内でもe-fuel製造プラントが稼働し、ガソリンや灯油などの燃料を国内製造できる可能性が高まっています。
このように、エネルギー安全保障の強化に加え輸送コストの削減や為替変動リスクの軽減など、e-fuelには多面的なメリットが期待されます。
既存の設備を使用し続けられる
e-fuelの実用的なメリットとして、既存のインフラや設備をそのまま活用できる点が挙げられます。e-fuelは石油由来のガソリンやディーゼル燃料と化学的に極めて類似した炭化水素から構成されているため、以下のような内燃機関をはじめとして、既存のさまざまな設備で使用できます。
- ガソリン車
- ディーゼル車
- 航空機のジェットエンジン
- 船舶のエンジン
また、燃料の貯蔵タンクやタンクローリー、ガソリンスタンドなどの流通インフラも、大きな改修なしに継続利用できます。
普及へのハードルが低く、かつ比較的短期間での導入が可能であるため、CO2削減の早期実現に貢献できる現実的な解決策です。
輸送・備蓄しやすい
e-fuelの重要な特性として、物理的性質による「輸送・備蓄のしやすさ」が挙げられます。e-fuelは従来の石油製品と同様に常温で液体の状態を保つため、エネルギー密度が高く、長期間の備蓄が容易です。
一方で、水素などの代替燃料は、高圧または極低温での貯蔵が必要となり、特殊な設備で取り扱わなければなりません。また、災害時や緊急事態でも、e-fuelは従来の燃料と同じように迅速な輸送・配給が可能であり、非常時のエネルギー供給にも貢献できます。
エネルギー密度が高い
e-fuelのメリットとして、エネルギー密度の高さも挙げられます。e-fuelの化学構造は従来の石油由来燃料と同様のため、化石燃料と同等の高いエネルギー密度を有していることが特徴です。
航空機や大型船舶、長距離トラック輸送などでは、少量で大きなエネルギーを供給できることが重要です。e-fuelは特性上、少量のエネルギー供給における需要に応える性能を備えています。同じ体積に対して、e-fuelは他のエネルギーよりも多くのエネルギーを蓄えられる可能性があるため、輸送効率の向上や航続距離の延長に貢献します。
e-fuelの課題・デメリット
e-fuelの課題・デメリットとして挙げられるのは、以下の7点です。
- 原料の調達
- 製造コスト
- 実用化につながる技術開発
- 品質の担保
- 生産性向上と供給量の担保
- 運搬と貯蔵
- 販売と使用の施策
e-fuelを取り入れる際はメリットだけでなく、課題やデメリットも把握しておく必要があります。
原料の調達
e-fuel実用化における課題として、主要原料であるH2の調達が挙げられます。e-fuelの製造コスト低減のためには、水素を大量かつ安価に担保することが欠かせません。
e-fuelと認められるためには、再生可能エネルギー由来の使用が要件とされています。太陽光や風力など、再生可能エネルギーを活用した国内での水素製造基盤の確立が急務となっています。
製造コスト
製造コストがかかることも、e-fuelにおける課題のひとつです。現状では、e-fuelの製造コストは従来の化石燃料と比較して高く、コストの課題が市場への本格導入の障壁となりかねません。
特に日本国内での水素製造コストは、再生可能エネルギーのコストや設備費の高さから、欧州や中東などの海外と比較して2倍から3倍も高いとされています。地域による価格差は、最終的なe-fuel製品の競争力に直接影響を与える要因です。
コスト構造を考慮すると、e-fuelの製造は日本国内よりも再生可能エネルギー資源が豊富で発電コストが安い海外で行い、製品を輸入する方式が経済的に合理的であると予想されています。
海外製造のアプローチは製造コスト削減につながる一方で、エネルギー安全保障の観点からは国内製造の利点が一部失われるジレンマも生じさせています。
実用化につながる技術開発
e-fuelの実用化に向けた課題を克服するためには、製造プロセスの技術革新が不可欠です。日本では、政府主導の研究開発プログラムによって課題に取り組んでいます。
経済産業省のグリーンイノベーション基金事業やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の交付金事業を通じて、FT合成プロセスの大規模化と効率化に関する技術開発が進められています。
合成燃料の製造コストを大幅に低減するための革新的技術として、CO2から直接燃料を合成する直接合成法や、水とCO2を同時に電気分解する共電解技術とFT合成を組み合わせた新しいプロセスの開発が進行しているのが現状です。
品質の担保
品質基準を担保する法的枠組みがないことも、e-fuelの実用化と普及に向けた課題です。現在の石油製品であるガソリンや軽油などは「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)」によって詳細な品質規格が定められており、消費者保護や機器の安全性、環境への影響が管理されています。
一方で、e-fuelは同様の品質規格や法的枠組みがまだ整備されていません。e-fuelが市場に大量に流通し、既存の内燃機関で安全かつ効率的に使用されるためには、従来の石油製品と同等あるいはそれに準じた品質基準の策定と、それを担保する法制度の整備が不可欠です。
生産性向上と供給量の担保
e-fuelの大規模な社会実装に向けた課題として、生産性向上と供給量の担保が挙げられます。e-fuelを大量かつ安定的に供給するためには、単に製造設備を増やすだけでなく、原料となるH2とCO2の安定的な調達体制の確立が必須条件です。
同時に、限られた資源とエネルギーを最大限に活用するため、製造プロセスの無駄を省き、効率的に合成燃料を生成する技術の向上も重要です。
日本の経済産業省は、課題を克服するためのロードマップを策定しており、2040年までに液体燃料収率80%達成を目標としています。
出典:経済産業省|資源エネルギー庁/CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性(案)
運搬と貯蔵
e-fuelの普及では、運搬と貯蔵に関する課題も存在します。e-fuelは物理的特性が従来の石油製品に類似しているため、既存のインフラを活用できることがメリットです。一方で、実際の運用にあたっては、従来のガソリンや軽油などの石油製品とe-fuelとの管理方法を棲み分けるためのルール策定が欠かせません。
具体的には、以下のような運用規則の整備が求められます。
- 同じタンクでの混合保管が可能かどうか
- 混合した場合の品質保証の方法
- 異なる種類の燃料を区別するための表示方法
ルール策定では、安全性の担保や品質管理、消費者への適切な情報提供などの観点から検討が必要であり、業界団体や規制当局による綿密な協議と基準作りが今後の課題です。
販売と使用の施策
e-fuelの市場普及に関して、経済性の問題も無視できない課題です。現状の技術と生産規模では、e-fuelの製造コストは従来の化石燃料を大幅に上回ると予測されています。
将来的に既存の化石燃料との並売状況が継続し、さらにバッテリー電気自動車(BEV)の価格低減が進むことを考慮すると、価格差の問題はe-fuelの普及にとって障壁となりかねません。
経済的障壁を克服するためには、政府による積極的な支援策が不可欠です。e-fuel製造事業者への設備投資補助金や税制優遇措置、消費者向けの購入時補助金や燃料税の軽減など、サプライチェーン全体をカバーする包括的な経済的インセンティブの導入が求められています。
日本におけるe-fuelの今後
日本政府はe-fuelの実用化に向けて、明確なロードマップを策定しています。ロードマップでは段階的な技術開発と実証を経て、2040年の本格実用化を目指すことが示されています。
なおe-fuelの実用化に関しては、以下の段階で計画が組まれています。
年代 | 目標 |
2025年 | ベンチプラントによる基礎技術の実証を完了 |
2028年 | より大規模なパイロットプラントによる実証実験 |
2030年代半ば | 実証結果を基に商品化を開始し、生産量の段階的拡大を目指す |
2040年 | 本格的な実用化・商用化の達成 |
最終的な目標は、2050年までにはe-fuelの製造コストを従来のガソリン価格以下に削減することです。
出典:経済産業省/合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会2023年 中間とりまとめ
まとめ
本記事では、建設業界の方向けにe-fuelについて解説しました。e-fuelとは、CO2とH2を原材料として製造される石油代替燃料です。石油と同じ炭化水素化合物の集合体であるため、用途に合わせた柔軟な利用が可能です。
現状、2050年の脱炭素実現に向けたロードマップの一環として、e-fuelの開発と実用化が進められています。
e-fuelは数多くのメリットがある一方、課題やデメリットも少なくありません。メリットと共に課題やデメリットも解説していますので、脱炭素を目指す建設業者の環境戦略担当者は本記事をぜひ参考にしてください。
#e-fuel #efuel
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。

この記事の監修

リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
本ウェブサイトを利用される方は、必ず下記に規定する免責事項をご確認ください。
本サイトご利用の場合には、本免責事項に同意されたものとみなさせていただきます。当社は、当サイトに情報を掲載するにあたり、その内容につき細心の注意を払っておりますが、情報の内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。
また、当サイト並びに当サイトからのリンク等で移動したサイトのご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、当社は何らの責任を負うものではありません。