建設業界では脱炭素への取り組みが加速しており、環境負荷を客観的に評価する手法への関心が高まっています。資材調達から施工、使用、解体に至るまで長期間にわたる建設プロジェクトでは、各段階での環境影響を定量的に把握することが重要です。
本記事ではLCAの基本概念や計算方法、Scope3との違い、具体的な算定手順を解説します。また、建設業界における実践事例も解説していますので、環境配慮型の建設プロジェクトを推進したい方や、サプライチェーン全体での環境負荷削減を目指す方は参照してみてください。
目次
LCAとは

LCA(ライフサイクルアセスメント)は、原材料の調達から製造、輸送、使用、そして廃棄に至るまでの全工程を通じて、CO2排出量やエネルギー消費量などの環境負荷を数値化する評価方法です。
建設プロジェクトでは、資材選定の段階から解体処分まで長期にわたる環境影響を考慮することが求められているのが現状です。LCAの主な目的と重要性、サプライチェーン排出量Scope3との違い、LCAの基準とガイドラインについて解説します。
LCAの主な目的と重要性
LCAを実施する最大の目的は、環境負荷データを持続可能な事業活動へ具体的に活かすことです。建設業では、施工段階のみに着目すると環境配慮が十分と思われる工法でも、資材製造や将来の解体処分を含めた全体評価では高い環境負荷を生じるケースが少なくありません。
部分的な視点では見落とされやすい環境影響を可視化することで、真に効果的な資源利用や環境配慮型の製品開発が可能です。初期コストは高くても長寿命で廃棄時の負荷が少ない建材を選択するなど、ライフサイクル全体で最適な意思決定ができます。
結果、企業の環境経営戦略の質が向上し、社会全体の持続可能性に貢献できることも特徴の一つです。
サプライチェーン排出量Scope3との違い
LCAとScope3は混同されやすいものの、次に示すように性質は明確に異なります。
| Scope3 | 企業全体の排出範囲を特定する枠組み |
| LCA | 個別の環境負荷を測定し改善につなげる技術 |
Scope3とは、企業が直接管理していない事業活動から間接的に発生するCO2排出量を指し、サプライチェーン排出量全体の中でScope1(直接排出)・Scope2(エネルギー起源の間接排出)以外の部分を15のカテゴリに分類して把握する概念です。
一方、LCAは特定の製品やサービスに焦点を当て、全ライフサイクルにおける多様な環境影響を定量的に算定・評価する分析手法です。サプライチェーン排出量Scope3とLCAを組み合わせることで、より実効性の高い環境戦略の構築が可能です。
LCAの基準とガイドライン
LCAを正確に実施するには、統一された評価基準に従うことが不可欠です。国際的にはISO14040とISO14044の規格が確立されており、それぞれ次に示す内容が規定されています。
| 規格 | 規定内容 |
| ISO14040 | LCAの基本的な考え方や実施の枠組み |
| ISO14044 | 具体的な算定手順や技術的要件を詳細に規定 |
建設業でISO14040およびISO14044といったLCAに関する国際規格に準拠することで、評価結果の信頼性と国際的な比較可能性が担保されます。また日本国内では、環境省と経済産業省が共同で「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を策定し、企業活動全体における排出量の把握を推進しています。
ガイドラインでは、調達する資材・サービスの製造過程から自社の事業活動まで幅広い範囲を対象とし、建設業者が実務で活用しやすい具体的な算定方法を示していることが特徴です。
出典:環境省/サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する
LCAの計算方法
建設プロジェクトにおけるライフサイクル全体の環境負荷を定量化するには、体系的な計算手法の理解が必要です。LCAでは基本的に次の計算式を用いてCO2排出量を算出します。
| 活動量×排出係数(排出原単位) |
建設業では特有の複雑なプロセスや多様な資材を扱うため、正確なデータ収集と適切な係数の選定が重要です。LCAの計算に必要な活動量、排出係数(排出原単位)について解説します。
LCAの計算に必要な活動量
LCA計算の基礎となる活動量とは、事業活動で実際に消費したエネルギーや資源の量を数値化したものです。電力使用量や燃料消費量、資材の輸送距離など、CO2排出につながる具体的な行動データを指します。
それぞれのデータを把握するには、前年度に使用した各種エネルギーの種類と使用量を体系的に集計しなければなりません。実務では社内の購買記録や工事報告書から実測値を収集するほか、データが不足する部分は業界団体が公表する平均値を参照します。
特に建設業では工事ごとに使用する重機や資材が大きく異なるため、代表的なプロジェクトをサンプルとして抽出し、詳細な調査を行うことで全体像を推定する手法が一般的です。正確な活動量の把握が、信頼性の高いLCA結果を得るためには必要です。
排出係数(排出原単位)
排出係数とは、特定の活動によって発生するCO2排出量を示す換算値であり、LCA計算において活動量と掛け合わせる重要な数値です。建設業では使用する燃料の種類や輸送手段が多岐にわたるため、それぞれに対応した係数を正確に選定しなければなりません。
また、基礎排出係数と調整後排出係数の2種類が存在する点に注意が必要です。基礎排出係数は電力会社が燃料を燃焼させた際の直接的なCO2排出量を示す基本指標ですが、調整後排出係数はそこに太陽光発電などの再生可能エネルギー導入効果や、非化石証書による環境価値を加味した、より実際の環境貢献度を反映しています。
係数は環境省が定期的に公表しており、最新データを参照することで正確なLCA評価が可能です。建設プロジェクトの特性に応じて適切な係数を選択することが、信頼性の高い環境負荷算定につながります。
LCA計算の具体的な手順

建設プロジェクトでLCA計算を実施する際には、体系的なプロセスに従って計算を進めることが重要です。単に数値を掛け合わせるだけでなく、評価の目的や対象範囲を明確にし、信頼性の高いデータを収集した上で、適切な排出係数を用いて算出する一連の流れを理解する必要があります。
目的の明確化と範囲設定、データ収集、データ入力、原単位を掛け合わせる計算方法について解説します。
目的の明確化と範囲設定
LCA計算を開始する前に、最も重要なのは評価の目的と活用方法を明確に定めることです。環境報告書への掲載を目指すのか、グリーン調達の基準策定に用いるのか、あるいは設計段階での工法比較に活用するのかによって、必要な精度や評価範囲が変わります。
発注者への提案資料として使用する場合は施工段階に重点を置き、社内の環境経営戦略に反映するなら資材調達から廃棄まで包括的に評価しなければなりません。また、算定結果を誰に提示し、どのような意思決定に用いるかを事前に整理しておくことで、評価に含めるべき工程や対象範囲が具体化されます。
初期設定があいまいなまま計算を進めると、後から追加調査が必要になったり、得られた結果が実務で活用できなかったりする事態を招きます。
データ収集
評価範囲が確定したら、次は各工程における具体的な数値データの収集に移ります。使用する資材の種類と数量、施工時の重機稼働状況、建物の使用段階におけるエネルギー消費量、解体時の廃棄物量など、ライフサイクル全体にわたる多様な情報を体系的に集める必要があります。
自社が直接管理する施工工程のデータは、工事部門や管理部門が保有する電力使用記録や燃料消費実績から入手できますが、建設業の特性上、自社だけでは完結しないケースが大半です。
鉄筋やセメントなど建材の製造段階における環境負荷は、資材メーカーから情報提供を受けなければなりません。また、輸送業者からは運搬距離や使用車両のデータを取り寄せることも求められます。
取引先との協力体制を構築し、サプライチェーン全体からデータを集約することが、正確なLCA実施のポイントです。
データ入力
収集したデータは、表計算ソフトやLCA専用ツールへ入力していきます。建設業は工事期間が長期にわたるため、月別や日別など時系列で使用量を記録しておくと、後から工程ごとの環境負荷の分析が容易です。
基礎工事と躯体工事で使用する重機や資材が異なるため、時期を明確にすることで各段階の改善ポイントが見えてきます。特に注意すべきは、データの単位統一です。
電力使用量がkWhとMWhで混在していたり、燃料消費量がリットルとキログラムで記録されていたりすると、計算時に誤った結果を導く原因となりかねません。入力前に全データの単位を確認し、必要に応じて換算しておくことで、後工程での計算ミスを防ぎ、正確な環境負荷評価が可能です。
原単位を掛け合わせる計算方法で算出
データ入力が完了したら、いよいよ実際の環境負荷を数値化する計算段階に入ります。建設業におけるLCAでは、資材製造から加工、現場への輸送、施工、使用、そして最終的な解体・廃棄に至るまで、各工程で収集した活動量データに対応する排出原単位を掛け合わせていきます。
例えば、コンクリート10トンの製造段階では「10トン×コンクリートの製造原単位」、現場までの輸送では「輸送距離×輸送手段の原単位」など、それぞれの活動に適した係数を用いて個別に算出します。
工程ごとに計算した結果を最後に合算することで、プロジェクト全体のLCAが明らかになります。計算結果は工程別に整理しておくことで、どの段階で環境負荷が大きいかを特定できるため、具体的な削減策の立案につなげられます。
LCAの計算方法を活用するメリット
LCAの計算方法を活用するメリットは次の通りです。
- さまざまな立場で計算方法を活用
- 企業のあらゆる活動で環境負荷低減に貢献
- 企業が抱える問題点抽出
LCAを計算する最大のメリットは、製品やサービスのライフサイクル全体を俯瞰することで、部分最適ではない環境負荷削減策を見出せる点にあります。企業のマーケティング戦略への活用から経済社会システムへの反映、さらには消費者の意思決定支援まで、多様な場面で環境配慮の根拠として機能します。
環境性能の高い建築物として市場での差別化を図る際、LCAデータは説得力のある裏付けです。また、資材調達から施工、使用、廃棄に至る各段階のデータを収集・分析することで、どの工程に改善余地があるかを客観的に把握できます。
個別の工事や建材ごとにLCA評価を行えば、サプライチェーン全体での環境負荷を体系的に低減する戦略が描けるため、企業の持続可能性向上に貢献します。
LCAの計算方法に関する建設業界事例
建設業界では環境負荷低減への取り組みが加速しており、大手を中心にLCAを実践的に活用する事例が増えています。単なる理論的な評価にとどまらず、実際の建設プロジェクトにおいてライフサイクル全体のCO2排出量を定量化し、設計段階からの工法選定や資材調達の最適化に活かす動きが広がっているのが現状です。
鹿島建設株式会社、清水建設株式会社の事例について紹介します。
鹿島建設株式会社
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出典:AIを活用し建物のライフサイクル全体のCO2排出量を正確に算定|2024.8.29|鹿島建設株式会社
清水建設株式会社
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出典:建設生産に伴うCO2排出量の自動算出プラットフォームを開発|2023.3.23|清水建設株式会社
まとめ

本記事ではLCAの基本概念から計算方法、そして建設業界における活用メリットまで解説しました。LCAは製品やサービスのライフサイクル全体を通じた環境負荷を定量的に評価する手法であり、「活動量×排出係数」の基本式で算出されます。
建設業では資材調達から施工、使用、解体に至る長期間の環境影響を把握する必要があるため、体系的なプロセスが重要です。また、概念を正しく理解するためにも、Scope3との違いや国際基準ISO14040・14044の理解も欠かせません。
LCA活用により、部分最適ではない真の環境負荷削減策を見出せるだけでなく、サプライチェーン全体での脱炭素推進やグリーン調達の根拠としても機能します。建設プロジェクトでの環境配慮や企業の持続可能性向上を目指す方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。








