建設業界において 脱炭素の流れが加速するなか、建材の環境負荷を客観的に示すEPD(環境製品宣言)への注目が高まっています。本記事では、EPDの基礎知識や取得による3つのメリット、算定から登録までの具体的な実務ステップを解説します。
また、Scope3対応における課題や大手ゼネコンの先進事例も紹介していますので、EPDの取得を検討されている建材メーカーの方は参照してみてください。
目次
建材におけるEPD(環境製品宣言)の基礎知識

建材業界において環境負荷を客観的に示す手段として、EPD(環境製品宣言)への関心が高まっています。EPDはLCAの考え方を基に算定され、日本国内ではエコリーフが主要なプログラムとして機能しています。
建材におけるEPDの基礎知識について解説します。
EPDとは?
EPDとは、製品やサービスが環境に与える影響を定量的に開示するための仕組みです。ISO 14025の国際規格をベースとしており、ライフサイクル全体における環境負荷を客観的なデータとして示す点が特徴です。
一般的な環境ラベルのように合格・不合格を判定するものではなく、あくまで数値データをありのまま公表することに重点を置いています。いわば製品の「環境面における成分表示」のような役割を果たす仕組みです。
建設業界では、建材ごとのCO2排出量や資源消費量を比較検討する際に有効な指標として活用が広がっています。また、第三者による検証を経た情報はプログラム運営者のWebサイト上で公開されるため、発注者や設計者など誰もが自由にアクセスし、製品選定の判断材料として活用できる透明性の高い制度です。
LCA(ライフサイクルアセスメント)と算定の仕組み
LCA(ライフサイクルアセスメント)は、EPDの算定を支える評価手法です。原材料の採取段階から製造、輸送、使用、さらには廃棄やリサイクルに至るまで、製品の一生涯にわたる環境負荷を定量的に把握することを目的としています。
各工程で消費されるエネルギー量や物質の排出量を収集・集計し、さまざまな環境影響カテゴリーへの寄与度を数値化します。体系的な分析により、どの段階で環境負荷が大きいかを明確に特定できる点が特徴です。
特に建材分野では、製品が完成するまでに蓄積されるCO2排出量、いわゆるエンボディドカーボンを正確に把握するための基盤として重要な役割を担っています。建築物全体の脱炭素を推進するうえで、LCAに基づく定量評価の重要性は今後さらに高まることが見込まれます。
出典:環境省/再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン
日本国内の主要プログラム「エコリーフ」の現状
日本国内におけるEPDの代表的な仕組みが「エコリーフ」プログラムです。現在は一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営を担っており、国際規格に準拠した環境情報の開示基盤として機能しています。
エコリーフラベルの公開には次の4ステップが必要です。
| 工程 | 主な内容 |
| 1.PCR制定 | 製品カテゴリールール(PCR)の確認。既存のルールがない場合は新設・改定の検討が必要。 |
| 2.検証準備 | LCA(ライフサイクルアセスメント)の実施。対象製品のデータ収集と算定報告書の作成。 |
| 3.第三者検証 | 独立した検証員による審査。算定プロセスがISO規格やプログラム規定に適合しているか確認。 |
| 4.登録・公開 | 運営機関(SuMPO等)への申請。登録完了後、公式サイトでの情報公開とロゴ使用の開始。 |
エコリーフの厳格なプロセスを経ることで、公開されるデータの信頼性と比較可能性が担保される仕組みです。建設産業は国内のCO2排出量において大きな割合を占めており、個々の建材がどの程度の環境負荷を持つかを可視化するニーズは年々高まっています。
建材メーカーがEPDを取得する3つのメリット
建材メーカーにとって、EPDの取得は環境対応にとどまらず事業戦略上の強みとなり得る要素です。グリーンビル認証における評価向上やグリーン調達基準への対応、さらには今後本格化するカーボン国境調整措置(CBAM)へのそなえなど、3つのメリットについて解説します。
グリーンビル認証での優位性
EPDを取得することで、建材メーカーはグリーンビルディング認証において明確な優位性を担保できます。LEEDやCASBEEなど主要な認証制度では、環境負荷データが第三者検証を経て公開されている製品が高く評価される傾向にあり、公共調達の場面でも選定時の有利な材料です。
LEED v4.1ではEPDの提出がMRクレジットの加点要素として位置づけられており、大規模プロジェクトへの参画をめざす際に製品の信頼性を訴求する有効な手段となっているのが現状です。さらに、設計者や発注者の視点からは、定量的な環境データをそなえた建材は比較検討が容易であるため、設計段階において優先的に仕様書へ組み込めます。
グリーン調達基準への適合
EPDの取得は、取引先が求めるグリーン調達基準を満たすうえで大きな力を発揮します。近年、大手ゼネコンを中心にサプライチェーン全体での環境負荷低減が重要課題となっており、建材メーカーに対して製品ごとの排出量データを開示するよう要請するケースが増えています。
EPDは開示の要求に応える信頼性の高い根拠資料として機能することが特徴です。また、官公庁が発注する工事においても、環境配慮型の製品として認められやすくなるため、入札時の評価向上や受注機会の拡大が期待できます。
加えて、多くの企業がサプライチェーン全体の排出量であるScope3の削減目標を掲げるなか、EPDに記載された数値は業界平均の推計値ではなく製品固有の一次データとして扱われるため、取引先の排出量算定においても高い精度で活用されます。
カーボン国境調整措置(CBAM)対応
カーボン国境調整措置(CBAM)への対応力を高められる点も、EPD取得の大きなメリットです。欧州を中心に、輸入製品に対して炭素排出量に応じた課金を行う制度の導入が進んでおり、建材の輸出にあたってEPDがその算定根拠資料として活用されるケースが欧州や北米で拡大しています。
規制環境のなかで、あらかじめISO規格に準拠したEPDを整備しておけば、国ごとに異なる要求への個別対応が不要となり、複数市場への展開を効率的に進められます。追加の認証取得にかかるコストや時間も短縮できるため、海外事業の収益性向上にもつながることがメリットです。
グローバルなサプライチェーンにおいては、国際的に認められた環境データを保有していること自体が取引先からの信頼獲得に直結するため、EPDはいわば海外市場における取引の通行証としての役割を果たします。
建材特有の「内包炭素」評価とEPD取得の実務

建材のEPD取得には、内包炭素の正確な算定をはじめとする実務的な対応が求められます。算定から第三者検証・登録に至る具体的なステップに加え、リサイクル材などの循環型建材における環境価値の証明方法、さらにITツールやBIM連携による算定業務の効率化について解説します。
算定から検証・登録までの具体的なステップ
EPD取得の実務は、次のプロセスに沿って進められます。
- 対象製品に該当する製品カテゴリールール(PCR)を確認
- 基準に基づいてLCAを実施
- 第三者機関による検証
- プログラム運営者への登録・公開
なかでも検証の段階では、算定に用いた手法やデータがISOの規格およびプログラムの規定に適合しているかどうかが厳密に審査されるため、事前の準備が重要です。
建設業界では多品種の建材を扱う企業も多く、製品ごとに膨大な工数を要することが課題です。取得にかかる期間やコストを短縮し、複数製品での同時取得をめざす必要があります。
循環型建材の証明
循環型建材としての環境価値を客観的に証明するうえで、EPDは有効な手段です。建材は鉄鋼やコンクリート、木材、断熱材など種類が多岐にわたり、それぞれ製造工程や環境負荷の特性が異なります。
各製品カテゴリーに応じたPCRに基づき、材料ごとの条件を踏まえた厳密な算定を行わなければなりません。EPDの特徴は、製造段階の環境負荷だけでなく、将来的な解体や廃棄の段階におけるリサイクルへの貢献度も定量的に示せる点です。
高炉スラグを活用したコンクリート製品や再生木材などは、ライフサイクル全体で見た場合に環境負荷が低いことをデータで裏付けられるため、サーキュラーエコノミーの理念に沿った製品であることを明確に訴求できます。
ITツールによる算定の効率化とBIM連携
EPD取得に伴う算定業務の負担を軽減するうえで、専用のITツールの活用がポイントです。近年では建設業界に特化したクラウド型のCO2算定サービスが登場しており、複雑な排出量の計算や結果の可視化を効率的に行える環境が整いつつあります。
ツールの最大の強みは、BIMとの連携機能です。設計モデルのデータと環境負荷の算定を紐づけることで、仕様変更や材料の切り替えが環境影響にどの程度作用するかをリアルタイムで把握でき、設計段階から環境配慮を組み込んだ意思決定が可能です。
さらに、ツールによっては算定結果をソフトウェア上からそのまま認証機関へ提出できる仕組みもそなわっており、書類作成やデータ変換など手作業が削減されることで、EPD取得までのリードタイムを短縮できます。
建材業界のEPD取得における課題
建材業界においてEPDの重要性が増す一方で、取得に向けてはいくつかの課題が存在します。費用や期間に関する負担の実態と、サプライチェーン全体の排出量であるScope3への対応やデータ提供に伴う実務的な課題について解説します。
取得にかかる費用と期間の目安
EPDの取得を検討する際に、直面するのが費用と期間の問題です。
取得や更新にはさまざまな費用を必要としますが、例として建設業における更新には次のプログラム加盟料が必要です。
| 規模 | 費用 | |
| 小規模企業 | 20人以下 | 200,000円/年 |
| 中小企業 | 21人~300人 または資本金の額または出資の総額が3億円以下 | 400,000円/年 |
| 大企業 (みなし大企業を含む) | 301人~ かつ資本金の額または出資の総額が3億円超 | 1,000,000円/年 |
| 団体 (工業会等) | – | 400,000円/年 |
期間面では、社内でのデータ収集から始まり、LCAの実施、第三者機関による検証の受検、そして最終的な登録完了までに通常3ヶ月から半年程度を要します。サプライヤーからのデータ取得に時間がかかるケースでは、さらに長期化する可能性もあるため、余裕を持ったスケジュール設定が求められます。
Scope3(サプライチェーン排出量)への対応とデータ提供
Scope3への対応が企業経営の重要課題となるなか、サプライチェーン上のデータ提供においてもEPDの役割が拡大しています。多くの企業がサプライチェーン全体の排出量把握に取り組んでいますが、精度を左右するのが各製品の排出量データの質です。
EPDは業界平均などの推計値ではなく、製品固有の一次データとして認められるため、取引先の排出量算定において高い信頼性を持つ情報源となり得ます。実際に、発注者やゼネコンから製品ごとのカーボンフットプリント開示を要請される場面は増加しており、EPDは公的かつ体系的な回答手段として機能します。
一方で、自社の製造工程だけでなく原材料の調達先からも正確なデータを収集する必要があるため、サプライヤー間の連携体制の構築が不可欠です。
建材におけるEPDに関する建設業界事例
建材の環境性能を定量的に評価し活用する動きは、建設業界で大手ゼネコンを中心に加速しています。各社が独自システムで現場を可視化するためには、建材メーカーから提供されるEPDが不可欠です。
低炭素コンクリートの開発や現場の環境負荷可視化システムの構築、さらにLEED認証の取得など、先進事例について紹介します。
株式会社大林組
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出典:製造工程でのカーボンネガティブを実現する「クリーンクリートN™」を開発|2022.4.15|株式会社大林組
大成建設株式会社
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出典:業界初 建設現場での環境負荷低減活動評価システムの運用開始|2020.12.14|大成建設株式会社
前田建設工業株式会社
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出典:ICIラボ エクスチェンジ棟がLEED V4 BD+C NCでプラチナ認証国内第一号取得|2019.3.19|前田建設工業株式会社
まとめ

本記事では、建材におけるEPD(環境製品宣言)の基礎知識から取得のメリット、実務上のステップや課題を解説しました。EPDは製品の環境負荷を客観的なデータで示す仕組みであり、グリーンビル認証での加点やグリーン調達基準への適合、海外市場への展開など、建材メーカーにとって多面的な価値をもたらします。
建設業界では脱炭素への要請が年々強まっており、ゼネコン各社がサプライチェーン全体での排出量把握や環境配慮型の資材調達を推進するなか、EPD対応の有無が取引先としての評価を左右する時代が到来しつつあります。
今後の競争力強化や受注機会の拡大に向けて、早期の取得準備を検討されている建材メーカーの方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
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