2025年4月の改正建築物省エネ法の施行により、原則すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられました。建設業界では設計・施工の各段階で対応が求められ、確認申請の手続きにも大きな変化が生じています。
本記事では、省エネ性能表示制度の概要や適合義務化に伴う実務の変化、資産価値への影響について解説します。また、2030年のZEH・ZEB水準義務化に向けたロードマップや建設業界の事例も紹介していますので、今後の省エネ対応を検討されている方は参照してみてください。
目次
建築物省エネ法の改正と「省エネ性能表示制度」の概要

2024年4月から、改正建築物省エネ法に基づく「省エネ性能表示制度」が本格的に始動しました。省エネ性能表示制度は、住宅や商業施設などの省エネ性能を消費者にわかりやすく伝えることを目的としています。
省エネ性能表示制度の基本的な仕組みをはじめ、対象となる建築物や表示が免除されるケース、さらにラベルの見方や記載事項について解説します。
省エネ性能表示制度が導入された背景
省エネ性能表示制度が導入された背景には、建築物のエネルギー消費量の大きさがあります。日本では、住宅・建築物分野が最終エネルギー消費の約3割を占めており、脱炭素社会の実現には建築物の省エネ化が不可欠とされています。
しかし従来は、住宅や建物を購入・賃貸する際に、省エネ性能を客観的に比較することが難しいという課題がありました。そこで政府は、省エネ性能をラベルで可視化することで市場の選択を通じた性能向上を促す仕組みとして、省エネ性能表示制度を導入しました。
省エネ性能表示制度とは
省エネ性能表示制度とは、建築物の省エネ性能を消費者が容易に把握・比較できるようにするための仕組みです。従来、住宅や建物を購入・賃借する際、従来は省エネ性能を客観的に比較することは容易ではありませんでした。
本制度では、販売や賃貸を行う事業者に対し、広告などの場面で省エネ性能ラベルを掲示するよう求めています。2024年4月以降、新築建築物については販売・賃貸時の広告などにおいて省エネ性能ラベルの表示が求められるようになりました。また、適切な表示を怠った場合や告示の基準に沿わない表示を行った場合には、国土交通大臣による勧告の対象です。
改善が見られないときは、事業者名の公表や命令など段階的な措置が講じられ、最終的には罰則が科される可能性もあります。
出典:国土交通省/「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」とは
対象となる建築物と表示が免除されるケース
省エネ性能表示制度の対象となるのは、原則として2024年4月1日以降に建築確認申請が行われた新築の建築物です。つまり、制度開始以降に計画・着工される建物が広く該当します。
加えて、制度開始以前に建築された物件であっても、制度開始後に販売や賃貸の広告を出す場合には表示の対象に含まれる点に注意が必要です。一方で、すべての建築物に表示義務があるわけではありません。
延べ面積が10平方メートル以下の小規模建築物や、文化財に指定されている建物、仮設建築物などは対象外です。また、中古物件として再び売買や賃貸が行われるケースについては、現時点では表示が任意とされており、義務化の対象には含まれていません。対象範囲と免除条件を正しく理解しておくことが、制度への適切な対応につながります。
消費者が一目でわかる「ラベル」の見方と記載事項
省エネ性能ラベルは、建築物の省エネ性能を消費者が直感的に理解できるよう設計されています。ラベルには国が定めた省エネ基準と比較してどの程度エネルギー消費を抑えられるかが星の数で表示されており、視覚的に性能の高さを判断できることが特徴です。
さらに、壁や窓など部位の断熱性能が1から7の数値で示されるため、建物の保温・遮熱能力を具体的に把握できます。加えて、設計内容をもとに算出された年間光熱費の目安も記載されており、入居後のランニングコストを事前にイメージしやすいことも特徴として挙げられます。
建設業界においても、ラベル表示は施主への説明材料として有効であり、性能の見える化が差別化のポイントです。ラベルの各項目を正しく読み解くことで、消費者は複数の物件を客観的に比較し、より合理的な選択ができます。
なお、このラベル表示は既存の建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)と共通する評価方法を基に設計されています。
2025年4月施行「省エネ基準適合義務化」による実務の変化
2025年4月の改正法施行により、省エネ基準への適合がほぼすべての新築建築物に義務づけられ、建設業界の実務に大きな変化が生じています。対象範囲に加え、建築士に求められる説明努力義務や建築主の責務、さらに4号特例の縮小がもたらす影響について解説します。
原則すべての新築建築物が対象
2025年4月の法改正により、省エネ基準への適合が原則としてすべての新築建築物に義務づけられました。住宅・非住宅を問わず、設計段階から省エネ性能を担保することが不可欠です。
従来、延べ面積300平方メートル未満の小規模な住宅などは、建築士による説明義務の対象にとどまっていましたが、改正後は適合義務の範囲に組み込まれ、対象が大幅に拡大しました。
実務面での変化は、建築確認の手続きにおいて省エネ基準の適合性が審査される点です。基準を満たしていなければ確認済証が交付されず、着工そのものが認められません。つまり、省エネ対応は任意の取り組みではなく、建物を建てるための前提条件です。設計者や施工者は、早い段階から省エネ性能を見据えた計画を進めることが求められます。
建築士に課される「説明努力義務」と建築主の責務
省エネ基準の適合義務化に伴い、建築士と建築主の双方に新たな責務が求められています。それぞれの責務は次の通りです。
| 役割 | 責務 |
| 建築主 | 省エネ性能の向上に努める義務
建物の企画段階から省エネを意識した判断が必要 |
| 建築士 | 設計時に省エネ性能に関する事項を建築主へ説明する努力義務 |
専門知識を持つ建築士が主導的に情報提供を行うことで、建築主の適切な意思決定を支援する仕組みです。省エネ基準を満たすための設計手法や、適合によって得られる居住空間の快適性向上、光熱費の削減などのメリットをわかりやすく伝えることが求められます。
建築主が効果を十分に理解することで、コスト面だけでなく長期的な価値を踏まえた判断が可能です。両者が協力して省エネ性能の担保に取り組む体制づくりが、制度を実効性あるものにするためにも必要です。
「4号特例」縮小の影響
4号特例の縮小は、建設業界の実務フローに直接的な影響を及ぼす重要な制度変更です。従来、木造住宅をはじめとする小規模建築物では、建築確認や検査の手続きが簡略化されていました。
一方で、2025年4月の施行により対象範囲が見直され、従来は省略できていた図書の提出や審査が新たに求められます。特に中小の工務店や設計事務所にとっては、業務負担の増加に備えた体制整備が急務です。
また、省エネ性能の適合審査は建築確認の手続きと一体的に行われるため、設計段階での対応が欠かせません。評価方法には計算によって性能を証明する方法のほか、標準的な仕様への適合を確認する仕様ルートなど複数の選択肢があり、建物の規模や用途に応じた使い分けが可能です。
省エネ性能の向上がもたらす資産価値とビジネスメリット

省エネ性能の向上は、環境負荷の低減だけでなく、建築物の資産価値やビジネス面にも影響を与えています。住宅ローン減税や補助金制度との関連性、省エネ性能の違いによる不動産価値の二極化、2030年のZEH・ZEB水準義務化に向けた今後のロードマップについて解説します。
住宅ローン減税や補助金制度への影響
省エネ性能の担保は、税制優遇や補助金の活用において欠かせない条件です。2024年以降、省エネ基準を満たしていない新築住宅は住宅ローン減税の対象から外れました。省エネ対応が単なる環境配慮ではなく、経済的な損得に直結する要素へと変化したことを意味しています。
さらに、住宅ローン減税の借入限度額は省エネ性能の水準に応じて段階的に設定されており、長期優良住宅やZEH水準など高い性能を備えるほど、より大きな減税効果を受けられる仕組みになっているのが現状です。
一方、省エネ性能を高めるには相応のコストが発生しますが、みらいエコ住宅2026事業をはじめとする補助金制度を活用することで、負担の軽減が可能です。省エネ性能への投資は減税と補助金の両面から回収が見込めるため、建築主にとって合理的な選択といえます。
不動産価値の二極化
省エネ性能の違いによって、不動産の資産価値に明確な差が生まれつつあります。省エネ性能の高い住宅は室内の快適性に優れ、光熱費も抑えられるため、購入希望者や入居者からの評価が高まり、市場での競争力が向上します。
反対に、省エネ性能が低い物件は、性能表示制度によって水準が誰の目にも明らかになるため、将来的に売却や賃貸が困難になるリスクを抱えているのが現状です。二極化の動きは、建設業界にとっても見過ごせません。
なぜなら、施工段階から高い省エネ性能を担保することが、建築物の長期的な市場価値を左右する重要な要素となっているためです。また、賃貸住宅においては省エネ性能ラベルを積極的に提示することで、入居率の改善や家賃水準の維持につなげる動きも広がっています。
省エネ性能はもはや付加価値ではなく、不動産の基本的な評価軸として定着しつつあるといえます。
2030年ZEH・ZEB水準の義務化に向けた今後のロードマップ
2030年に向けて、省エネ基準はさらなる引き上げが予定されており、建築物の省エネ性能に対する要求水準は今後も段階的に高まっていきます。最終的な目標として、新築建築物の省エネ性能を平均でZEH・ZEB水準に到達させることが掲げられています。
ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、現行の省エネ基準をさらに上回る高い性能が求められるものです。ZEH水準が義務化されれば、設計や施工のあり方にも大幅な見直しが必要です。
例えば、高性能な断熱材の採用や再生可能エネルギーの導入が標準的な対応になることが想定されます。将来の基準強化を見据え、早い段階からZEH水準に対応できる設計・施工体制を構築しておくことが重要です。直前になって慌てて対応するよりも、計画的に準備を進めることが事業リスクの軽減と競争力の担保につながります。
省エネ性能表示の義務化に関する建設業界事例
省エネ性能表示の義務化は、建設業界の実務に具体的な変化をもたらします。省エネに関する大手デベロッパーの先行的な取り組みについて紹介します。
鹿島建設株式会社
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出典:省エネと創エネの挟み撃ちで、エネルギー収支をゼロに近づける。|鹿島建設株式会社
大成建設株式会社
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出典:グループ保有3施設のグリーン・リニューアル®ZEB化工事が完了|2023.4.24|大成建設株式会社
株式会社長谷工コーポレーション
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出典:2050年カーボンニュートラルを目指した取り組み 長谷工不動産・総合地所をはじめとした自社開発マンション 2022年度以降全てZEH化|2022.4.15|株式会社長谷工コーポレーション
まとめ

本記事では、建築物省エネ法の改正に伴う省エネ性能表示制度の概要や、2025年4月施行の省エネ基準適合義務化による実務の変化、さらに省エネ性能の向上がもたらす資産価値やビジネスメリットについて解説しました。
省エネ性能の表示・適合義務は今後さらに強化される見通しであり、2030年にはZEH・ZEB水準の義務化も予定されています。建設業界においては、設計・施工の各段階で省エネ対応が不可欠となり、早期の体制整備が競争力の維持に直結します。
4号特例の縮小や確認申請時の適合審査など、実務フローにも大きな影響が及ぶため、制度の全体像を正しく把握しておくことが重要です。また、建築物の省エネ基準は今後さらに強化される可能性が高く、設計・施工の各段階で制度への理解を深めておくことも重要ですので、省エネ基準への対応を計画的に進めたい方は参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
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