建設現場における環境負荷低減の取り組みとして、重機や車両のライフサイクル全体を評価するLCAが注目を集めています。従来は稼働時の排出のみが評価対象でしたが、現在は製造から廃棄までを包括的に分析する手法へと進化しました。
本記事では、LCAの基本概念、GX建機認定制度の概要、主要メーカーの電動重機開発事例、LCA評価における課題と実践事例を解説します。建設業で脱炭素を推進し、環境配慮型の施工体制を構築したい方は参照してみてください。
目次
LCAとは

LCA(Life Cycle Assessment)は製品が製造されてから廃棄されるまでの全工程における環境負荷を数値化する評価手法です。ライフサイクルアセスメントとも呼ばれ、CO2排出量や資源消費量を客観的に把握できます。
建設業界では重機や車両の環境性能評価にも活用されており、特に環境配慮型のGX建機の開発において重要な指標です。ここでは、ライフサイクルアセスメントの基本概念、車や重機におけるLCAの実践例、GX建機について解説します。
ライフサイクルアセスメント(LCA)
ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスが環境に与える影響を総合的に評価する手法として、国際的に確立されています。資源の採取から製造、流通、使用、廃棄やリサイクルに至るまでの全工程で発生する環境負荷を定量的に測定することで、どの段階で最も環境への影響が大きいかを明確にできます。
国際標準化機構(ISO)が規格を定めており、日本国内でも多くの企業がCSR報告書に取り入れるなど、環境経営の重要な指標となっているのが現状です。重機メーカーにおいても、製品開発の段階からLCAを活用することで、燃費性能の向上や素材選定の最適化など、環境配慮型の建設機械を生み出すための具体的なデータが得られます。
車や重機におけるLCA
建設現場で使用される重機や車両は、稼働時に多くのCO2を発生させるため、環境負荷の低減が長年の課題となってきました。従来の環境規制では、走行時の排出のみを対象とした「Tank to Wheel(TtW)」の評価方法が主流でしたが、TtWでは製造や燃料生産における環境影響を見落としてしまうことが問題です。
近年注目されているのが、燃料の精製段階から走行までを含む「Well to Wheel(WtW)」の評価範囲です。さらにLCAでは、原材料の調達、製品製造、使用後の廃棄やリサイクルまでを包括的に評価することで、電動重機とディーゼル重機、あるいは電気自動車とガソリン車との真の環境性能比較が可能です。
車や重機におけるLCAは、世界各国で分析が進められており、重機選定における重要な判断材料となっています。
出典:一般財団法人環境優良車普及機構/WTW〈Well-to-wheel〉
GX建機とは
GX建機は、建設現場における脱炭素を推進するために国土交通省が令和5年10月に創設した認定制度です。正式には「GX建設機械認定制度」と呼ばれ、従来の化石燃料に依存した重機から、CO2排出量の少ない環境配慮型の建設機械への転換を促進することを目的としています。
認定を受けるためには、電力消費量を測定する業界基準「JCMAS」に基づいたデータ提出が必要となり、客観的な環境性能の証明が必要です。現在は電動式の建機が中心ですが、将来的には水素燃料電池や水素エンジン、バイオマス燃料など多様な動力源を活用した建機の登場も見込まれています。
GX建機の制度により、建設業界全体で抜本的な動力源の見直しが進み、施工現場レベルでの環境負荷低減が行われつつあります。GX建機の普及は、LCAの評価向上にもつながる持続可能な建設事業の実現に向けた重要な一歩です。
重機メーカーのLCA対応

重機メーカー各社は、環境規制の強化や脱炭素社会の実現に向けて、製品のライフサイクル全体における環境負荷の可視化と削減に積極的に取り組んでいます。LCAを活用することで、製造段階から廃棄に至るまでのCO2排出量を定量的に把握し、環境性能の高い建設機械の開発を進めています。
ここでは、重機メーカー各社の具体的な取り組みについて解説しますので、導入の際に参照してみてください。
コベルコ建機株式会社
コベルコ建機株式会社は、電動油圧ショベルの開発においてLCAの評価にもつながる先進的な取り組みを展開しています。同社が製造する有線式電動ショベル3機種は、国土交通省によるGX建設機械の認定を取得し、環境性能の高さが公式に認められました。
高出力の電動モーターを動力源とすることで、従来のディーゼルエンジン式と同等の作業能力を維持しながら、排ガスゼロの環境優位性を実現しています。特に金属解体機や金属マテリアルハンドリング機などの用途では、大容量油圧ポンプの採用により力強い作業性能を発揮します。
電動駆動方式は騒音レベルも低減できるため、建屋内や市街地での作業に最適です。排気ガスがこもりやすい屋内環境でも作業員の健康を守りながら施工を進められることから、解体現場やリサイクル施設での活用が期待されています。
出典:コベルコ建機/当社の電動油圧ショベル(有線式)3機種が国土交通省・GX建設機械の初回認定を取得
株式会社 小松製作所
株式会社小松製作所は、本田技研工業との共同開発により、電動マイクロショベル「PC01E-2」を2024年8月に国内市場へ投入しました。同機は2022年から展開してきた従来機「PC01E-1」の改良版であり、無排気・低騒音の環境性能に加え、燃料補給が不要でバッテリー交換のみで稼働できる利便性が現場から高い評価を得ています。
掘削性能も従来のエンジン式と遜色ない水準を維持しており、実用性と環境性能を両立させた重機です。新型機では顧客からの要望が多かった後部のスリム化を実現するため、バッテリーを2個から1個に集約し車体中央部に配置することで、狭小地での作業性を向上させました。
国土交通省のGX建設機械認定を取得しており、小松製作所としては8機種目の認定機です。本田技研との協業により培ったLCAの評価向上につながる電動化技術は、今後の建設機械の脱炭素を加速させる重要な成果といえます。
出典:KOMATSU/-カーボンニュートラル実現に向けた現場の電動化を加速- コマツとHondaが共同開発した電動マイクロショベル「PC01E-2」を新発売
株式会社 竹内製作所
株式会社竹内製作所は、小型建設機械分野において電動化の先駆者として注目される存在です。同社が開発した電動ショベルは、国土交通省が令和5年に創設した「GX建設機械認定制度」において、記念すべき第一号認定を取得しました。
この快挙は、建設機械業界におけるLCAも含めた脱炭素への本格的な転換点として大きな意義を持ちます。竹内製作所は、自動車業界で進む電動化の潮流が建設機械市場にも必ず訪れると早くから予測し、ゼロエミッション製品への需要増加を見据えて電池式ミニショベルの研究開発を進めてきました。
認定取得を契機として、土木工事現場における環境負荷低減に貢献する製品ラインナップをさらに拡充していく方針です。先行者としての強みを活かし、環境配慮型における建設機械の普及を通じて業界全体のLCAや持続可能性向上に寄与しています。
出典:TaKeUCHI/当社の電動ショベルが国土交通省のGX建設機械の初回認定を取得
山﨑マシーナリー株式会社
山﨑マシーナリー株式会社は、ボルボ建設機械との共同開発により、電動クローラ式油圧ショベル「EC230エレクトリック」を市場に投入しました。同機は国土交通省のGX建設機械認定を取得し、長野県駒ヶ根市の建設現場に実際に導入されるなど、LCA評価にも直結する実用段階での環境貢献を実現しています。
EC230エレクトリックは、従来のディーゼル機と同等のパワーとパフォーマンスを維持しながら、排ガスゼロ、低騒音、低振動の環境性能を達成しています。さらに操作性の向上も図られており、作業効率と環境配慮を高次元で両立させた機種です。
運用面では、現場に設置したキュービクル式高圧受電設備を活用し、夜間に400ボルトの急速充電を行うことで日中5時間の連続稼働が可能です。充電インフラと組み合わせた運用モデルは、電動重機の本格普及に向けた現実的なソリューションを提示しています。
出典:ニュースイッチ/夜間急速充電で日中5時間稼働、ヤマウラ「GX建機」導入
車や重機におけるLCAの課題
車両や重機のLCA評価は環境性能を測る重要な手法として注目されていますが、実用化に向けてはいくつかの課題が残されています。製品ライフサイクル全体のCO2排出量を正確に算出するには、統一的な評価基準や詳細なデータ蓄積が不可欠です。
また、精度の高い分析を行うためには膨大な製造データや使用実績の収集・整備が求められます。ここでは、手法が確立されていない現状と、分析データの整備が必要な背景について解説します。
手法が確立されていない
LCA手法は国際標準化機構のISO14040で基本的な枠組みが定められていますが、実務レベルでの運用方法は実施主体によって大きく異なっています。多くの企業や自治体が実施しているのは、対象製品のライフサイクルにおけるデータを収集し、環境負荷項目を一覧化する「インベントリ分析」の段階にとどまっています。
インベントリ分析では総負荷量の算出は可能ですが、結果が環境に与える具体的な影響まで評価する「アセスメント」の段階には達していません。数値は出せても、どの程度問題なのか、どこを改善すべきかなどの本質的な評価ができていないのが現状です。
重機業界においても、製品間の環境性能を公平に比較するためには、統一された影響評価手法の確立が不可欠です。LCAは発展途上の評価技術であり、今後は環境アセスメントを実現できる手法として成熟していくことが期待されています。
分析データの整備が必要
LCA評価の信頼性を高めるには、分析に使用するデータの整備が重要な課題です。評価結果は設定する仮定や前提条件によって大きく変動するため、どのような条件でデータを収集するかが結果の妥当性を左右します。
重機の場合、使用地域の電力構成や稼働時間、メンテナンス頻度など、さまざまな要因が環境負荷に影響を与えるため、標準的な使用条件の設定が困難です。さらに、収集したデータそのものの精度、測定誤差、個体差によっても分析結果にばらつきが生じる可能性があります。
正しい評価を行うためには製造工程から廃棄段階まで網羅的にデータを収集する必要がありますが、そのためには膨大な時間とコストが発生します。建設機械メーカー各社が独自にデータを蓄積している現状では、業界横断的な比較も困難です。
今後は業界全体で標準的なデータベースを構築し、効率的かつ正確なLCA評価を実現する体制づくりが求められています。
重機や移動車におけるLCAの事例
建設業界では、施工現場で使用する重機や移動車両の環境負荷を定量的に把握し、脱炭素を推進する動きが加速しています。LCAの手法を活用して建設機械が排出するCO2量をライフサイクル全体で評価し、環境配慮型の施工計画の立案や機材選定に役立てていくことが必要です。
ここでは、重機や移動車における各社の先進的な取り組み事例について紹介します。
株式会社大林組
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出典:可搬型バッテリーを活用したGX建設機械の運用実証実験を実施|2025.4.24|株式会社大林組
大成建設株式会社
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出典:GX建機に認定された25tフル電動ラフテレーンクレーンによる電動化施工を開始|2025.4.3|大成建設株式会社
東急建設株式会社
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出典:東急建設が建設現場への移動に電気自動車の活用を開始 三菱オートリースとエネチェンジが車両導入と充電器の提供をサポート|2024.3.28|東急建設株式会社
まとめ

本記事では、重機におけるLCAの概念と実践事例について解説しました。LCAは製品のライフサイクル全体で環境負荷を定量評価する手法であり、国際規格として確立されています。建設現場では従来のTtWからWtW、さらに製造から廃棄までを含む包括的な評価へと進化しており、GX建機認定制度の創設により環境配慮型重機の普及が加速しているのが現状です。
コベルコ建機、小松製作所、竹内製作所、山﨑マシーナリーなど各メーカーは電動ショベルの開発を推進し、排ガスゼロと高い作業性能の両立を実現しました。一方で評価手法の標準化やデータ整備という課題も残されています。建設業界で脱炭素を進め、持続可能な施工体制を構築したい方は紹介した事例なども参照してみてください。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。







