CO2吸収コンクリートとは?活用するメリットや製品例を解説!
建設業界において脱炭素の実現が重要な課題となる中、CO2吸収コンクリートが注目を集めています。従来のコンクリートがCO2を排出するのに対し、CO2吸収コンクリートは製造過程でCO2を削減し、さらに構造物として使用中も継続的にCO2を吸収する画期的な特性を持っていることが特徴です。
本記事では、CO2吸収コンクリートの基本的な仕組みやメリットについて詳しく解説します。また低価格化や安全性対策といった普及に向けた課題も解説していますので、持続可能な建設技術や脱炭素社会の実現に関心をお持ちの方は参照してみてください。
目次
CO2吸収コンクリートとは

CO2吸収コンクリートは、従来のコンクリートとは異なり、CO2を積極的に取り込める建設材料です。CO2吸収コンクリートの技術は、セメント製造時に排出されるCO2を削減する取り組みから始まり、コンクリート材料自体にCO2を吸収させる機能を持たせることで、建設業界の脱炭素に大きく貢献します。
CO2吸収コンクリートの仕組みや特徴について解説します。
セメント製造時に排出されるCO2を削減
CO2吸収コンクリートは、セメント製造時に排出されるCO2を削減できる技術です。通常、コンクリートの主原料であるセメントは製造過程で大量のCO2を排出しますが、CO2吸収コンクリートではセメントの半分以上を特殊な材料に置き換えることで、製造段階でのCO2排出を大幅に削減します。
また、コンクリートが固まる過程で植物のように周囲のCO2を吸収する機能を持つことも注目すべきポイントです。この特性により、トータルのCO2排出量をゼロ以下に抑制することが可能となり、単にCO2排出を減らすだけでなく、作れば作るほど大気中のCO2を減少させる画期的な効果を生み出します。
コンクリート材料にCO2を吸収させる
CO2吸収コンクリート技術において、材料レベルでのCO2吸収アプローチも重要なポイントです。コンクリート材料にCO2を吸収させる技術では、建物解体後に発生する廃材を有効活用し、その中に含まれるセメント成分を分離してCO2を吸収させることで、新たな粗骨材や細骨材として再生します。
このプロセスにより、廃棄物として処理されるはずの解体材料が、再びコンクリートなどの建設資材として活用できる循環型システムが構築されます。セメント系廃材に前処理を施すことで、火力発電所から排出される CO2を効率的に廃材に固定化する技術も重要です。
構造物にCO2を吸収させる
CO2吸収コンクリート技術の中でも、完成した構造物自体にCO2を直接吸収させるアプローチは、脱炭素実現の新たな可能性を示しています。構造物にCO2を吸収させる技術では、建物解体後の廃材に含まれるセメント成分を分離し、建設後の構造物に直接CO2を吸わせる仕組みです。
この仕組みにより、構造物は使用期間中も継続的にCO2を固定化し続けられます。さらに、CO2固定後に生成される副産物に含まれる炭酸カルシウムや珪酸質の粒子は、その特性を活かしてコンクリートや地盤改良体といった新たな建設資材として有効利用されます。
CO2吸収コンクリートのメリット

CO2吸収コンクリートには、次に挙げるメリットがあります。
- カーボンニュートラルの実現に貢献
- 通常のコンクリートと同じ設備が利用できる
- 製造すればするほどCO2を減少
それぞれのメリットの内容を詳しく解説します。
カーボンニュートラルの実現に貢献
CO2吸収コンクリートのメリットは、日本が2050年までに目指すカーボンニュートラル実現への貢献にあります。CO2の排出を全体としてゼロにする国家目標の達成において、炭素を資源として有効利用するカーボンリサイクルの取り組みが重要な鍵を握っています。
CO2吸収コンクリートは、カーボンリサイクル製品の中でも既に実用化が進んでいる代表的な技術の一つです。従来のコンクリートがCO2を排出する材料であったのに対し、CO2吸収コンクリートは逆にCO2を削減・固定化する機能を持つため、脱炭素の推進力となり得ます。
CO2吸収コンクリート技術は環境負荷軽減にとどまらず、炭素を有用な資源として循環利用する新しい産業モデルの構築にもつながる技術です。
通常のコンクリートと同じ設備が利用できる
CO2吸収コンクリートのメリットの一つは、既存のインフラを活用した製造・施工が可能である点です。特殊な技術と聞くと専用設備が必要と思われがちですが、実際には通常のコンクリート製造設備をそのまま利用して生産できます。
そのため、新たな設備投資や製造ラインの大幅な変更を必要とせず、既存の生産体制を維持しながら環境配慮型製品への転換が図れます。さらに、CO2吸収コンクリートが普通のコンクリートと同等の強度を持ち、施工性が担保されている点もメリットの一つです。
特別な技術や工法を習得する必要がなく、従来の建設現場で一般的な工事として使用できるため、建設業界全体での導入がスムーズに進められます。
製造すればするほどCO2を減少
CO2吸収コンクリートの革新的なメリットは、製造すればするほどCO2を減少させられる点です。CO2吸収コンクリートは製造時のCO2排出量が実質ゼロ以下となり、生産量の増加が直接的に大気中のCO2削減につながります。
製造すればするほどCO2が減少する効果は、セメントの一部を廃棄物で代替する技術に加えて、炭酸化の新たな技術を組み合わせることで実現されています。炭酸化とは、セメントとCO2を化学反応させることでコンクリート内にCO2を永続的に取り込む手法です。
炭酸化により、製造時におけるCO2排出量よりも取り込むCO2の量が上回ることで、排出量を実質ゼロ以下に抑制できます。
CO2吸収コンクリートの製品例

CO2吸収コンクリートの製品例として、次の3つの例を紹介します。
- CO2-SUICOM
- T-eConcrete®
- ECMコンクリート®
それぞれの製品の具体的な内容を紹介しますので、導入の際に参照してみてください。
CO2-SUICOM
CO2吸収コンクリートの代表的な製品例として、鹿島建設が開発したCO2-SUICOMが挙げられます。CO2-SUICOMの製品は経済産業省が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において名前が取り上げられ、大きな注目を集めています。
CO2-SUICOMは国内唯一の実用化されたCO2吸収コンクリートです。コンクリートが固まる過程でCO2を吸い込み、内部に固定することでCO2排出量をゼロ以下にする環境配慮型コンクリートです。
技術的な特徴は、セメントの代替材料である特殊混和材γ-C2Sと高濃度のCO2を養生槽内で接触させる炭酸化養生プロセスにあります。このプロセスにより大量のCO2を強制的に吸収させられます。
T-eConcrete®
CO2吸収コンクリートのもう一つの製品例として、大成建設が開発したT-eConcrete®が注目されています。世界で初めて国連への報告対象となった画期的な成果を上げており、T-eConcrete/Carbon-RecycleによるCO2固定量が日本のCO2吸収量に正式に盛り込まれています。
T-eConcreteシリーズは、製造時にCO2を大量放出するセメントの使用量を削減することでCO2排出量を抑制する環境配慮コンクリートとして開発されました。さらに発展形として、工場などから排出されたCO2を資源として活用し、炭酸カルシウムを用いたカーボンリサイクル・コンクリート「T-eConcrete/Carbon-Recycle」の開発と社会実装が進められています。
出典:大成建設/環境配慮コンクリート「T-eConcrete®/Carbon-Recycle」による温室効果ガス吸収量(CO2固定量)を世界で初めて国連に報告
ECMコンクリート®
CO2吸収コンクリートの製品例として、ECMコンクリート®は環境性能と品質向上を同時に実現した技術です。セメントの60~70%を鉄鋼製造時の副産物である高炉スラグ粉末に置き換えることで、コンクリート由来のCO2排出量を6割削減することを可能にしています。
また、セメント成分の最適化により、ひび割れの原因となる乾燥収縮を低減し、酸や塩に対する劣化抵抗性を大幅に向上させています。高品質と高耐久性が両立され、特に地中に含まれる塩分や酸に対しても優れた耐久性を発揮することが特徴です。
さらに注目すべきは、CO2排出削減量を国が認証するJ-クレジット制度を活用してクレジット化し、経済的価値としても利用できる点です。環境への貢献が経済メリットにも直結する、持続可能なビジネスモデルの構築を可能にしています。
出典:竹中工務店/CO₂排出量を大幅に削減する環境配慮型コンクリート-ECMコンクリート®-
CO2吸収コンクリートの動向

CO2吸収コンクリートは環境配慮型建設材料として注目を集めていますが、本格的な普及に向けてはさまざまな課題への取り組みが進められています。現在の動向として、まず低価格化が重要なテーマとなっており、製造コストの削減によって従来のコンクリートとの価格競争力を高める努力が必要です。
同時に、新しい技術であるがゆえの安全性への対策や、コンクリート生成手法の見直しも積極的に進められており、技術の最適化が図られています。
このようなCO2吸収コンクリートの最新動向について解説します。
低価格化が進められる
CO2吸収コンクリートの普及における動向として、製造コストの高さへの対策が進められている点が挙げられます。現在商品化されているCO2吸収コンクリートの価格は、一般的なコンクリート製品の2~3倍と高額な設定となっており、建設プロジェクトでの採用を躊躇させる要因となりかねません。
通常のコンクリートとの価格差は、特殊な材料の使用や新しい製造プロセスによるコスト増加が主な原因です。一方で、CO2吸収コンクリートを建設市場に広く普及させ、脱炭素社会の実現に貢献するためには、製品価格の大幅な低減が不可欠です。
現在、各メーカーは製造プロセスの効率化、材料調達の最適化、量産効果の活用などを通じて、従来のコンクリートと競争できる価格帯まで引き下げる取り組みを積極的に進めており、技術革新と市場拡大の両面からコスト削減への道筋を模索しています。
安全性への対策
CO2吸収コンクリートの実用化において、安全性への対策は重要な課題の一つです。コンクリートはビルや道路などの大規模な構造物に使用されることが多く、人々の安全に直結する建設材料であるため、CO2吸収コンクリートも一般的なコンクリートと同様に、強度や耐久性といった基本的な安全性能を確実に満たさなければなりません。
新しい技術や材料を導入する際には、長期的な構造物の安全性に影響を与える可能性がないか、十分な検証が必要です。特にCO2を吸収・固定するプロセスが、コンクリート内部の化学組成や物理的特性にどのような変化をもたらすかについて、詳細な研究と実証実験が継続的に行われています。
建設業界では人命と財産を守る責任があるため、環境性能の向上と安全性の担保を両立させる技術開発と品質管理体制の構築が、CO2吸収コンクリートの本格普及に向けた重要な取り組みとなっています。
コンクリート生成手法の見直し
CO2吸収コンクリートの技術発展において、コンクリート生成手法の抜本的な見直しが重要な動向として注目されています。低価格化の実現に向けては、既存の製法を部分的に改良するだけでなく、CO2吸収コンクリートの製造プロセスを一から見直す根本的なアプローチも視野に入れられています。
一方、品質面では強度や耐久性の担保に関する課題が残されており、CO2吸収コンクリートにおける品質管理や評価の手法がまだ確立されていない状況です。そのため現在は、豊富な実験データや検証結果を蓄積することで、管理手法や評価基準の標準化を図る取り組みが進行中です。
まとめ

本記事では、CO2吸収コンクリートの基本的な仕組みやメリットについて解説しました。CO2吸収コンクリート技術は、セメント製造時のCO2削減、材料レベルでのCO2吸収、構造物への直接的なCO2固定のアプローチで、建設業界における脱炭素実現に大きく貢献します。
CO2-SUICOMやT-eConcrete®、ECMコンクリート®など実用化された製品も登場し、製造すればするほどCO2を削減できる画期的な特性を持っていることも注目すべきポイントです。
現在は低価格化や安全性対策、製造手法の見直しが進められており、建設業界全体での本格普及に向けた取り組みが加速しています。脱炭素社会の実現に向けた最新の建設技術に関心をお持ちの方は参照してみてください。

この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。








